「悪りぃ、待たせた」
「ううん、あたしも……いま来たとこ」
翌朝、船着場で待ってると、時間ピッタリにイマドが来た。
時間が早いから、まだ人は少ない。吐く息が白い中、任務らしい先輩が2人居るだけだ。
――シーモアたち、大丈夫だろうか?
助けた子供たちの話から、シーモアたちが向かったのは、昔いたベルデナードのスラムで間違いないのが分かった。しかもよく聞いてみると、これから大規模な「祭り」――つまりは抗争があるという。
とんでもない話だだった。
あたしも実際に見たわけじゃないけど、シュマーには世界各地のスラムから、一族へ加わった人も多い。そんな彼らから伝え聞いた話だと、それこそ殺るか殺られるかだっていう。
それを承知で、シーモアたちはスラムへ向かったらしかった。だとすれば、早くしないと2度と会えないかもしれない。
気が気じゃなかった。
あたしが育った戦場では、人が死ぬのは当たり前のことだった。ついさっきまで一緒に話をしていたはずの人が、一瞬にして骸となる。そういう世界だった。
だから……いつも怖かった。今日は誰がいなくなるのかと。
やっとそう思わなくなったのは、学院へ来てからだ。
もちろん父さんや母さんには、その危険がいまもあるけれど、少なくとも友達や先輩にはそういうことはない。
――それなのに。
これ以上誰かがいなくなるのは、絶対に嫌だ。
「さっさと行こうぜ。乗り遅れるわけにゃいかないからな」
「そうだね」
学院の方にはさすがに本当のことは言えなくて、あたしはアヴァンの親戚宅――実際にそこにあるのはシュマーの施設――へ、イマドはアヴァンの伯父さんの家へ行くと告げてあった。
少し気が咎めるけど、「ベルデナードのスラムへ行って、抗争に加わります」なんて言ったら、絶対に出かける許可はもらえない。
もっとも一度学院の外へ出てしまえばあとはノーチェックだし、中には「私用」と言って強引に許可をもらう先輩――タシュア先輩かも――もいるというから、ルーズといえばルーズだ。
ともかく学院側には内緒にしたまま、どうにかあたしたちは外へ出る許可がもらえた。
ただこれは、ムアカ先生のおかげもかなりある。
いつどこでどう話を訊いて気付いたのか分からないけれど、先生にはあっという間に、あたしたちのしようとしていることを見抜かれてしまった。
なのに先生、そのまま黙って自分の名前で、許可を出してくれたのだ。
「あの2人を、無事連れて帰ってきなさい。いいわね」
不思議な表情でそう言った先生が何を考えていたのかは、あたしには分からなかった。
小気味いい動力音をさせている、連絡船に乗り込む。
「とりあえずケンディクまで行って、そっから船乗り換えてワサールか。向こうは何時の船だ?」
「えっと……?」
あたしが考え込むと、イマドが呆れたような顔をした。
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