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Heaven or Hell
作:花嵐 飛鳥



第二十三話[隊長]





気付いたときには両親はいなかった。


気付いたときに傍にいてくれたのは二人の女性と男性。


血は繋がっていなかった。


そんな事は知っていた。


だけど


それでも二人は


俺を深く愛してくれていた。




+++++




神界の大木の上にある一つの大きな宮殿。

その一室に一人の女性がいた。

女性は真紅の絨毯の上に正座を崩して座り込んでいた。

女性の顔が俯くと、桃色の長い髪が頬の横を流れた。

女性のアクアマリンのような澄んだ水色の瞳は憂いに満ちている。




「どうして戦いなど………」




女性の名はジュノー。

結婚を司る女神だ。

彼女は平和主義で、天界に悪魔が侵入し、神界にも侵入したという一報を聞いたとき、彼女は泣き崩れた。




「沢山の天使や、神、悪魔の命が失われてしまう」




そんなの、最後に残るのは悲しみだけじゃないですか……




「!」



そんな事を考えていると俯いていたジュノーの顔が突然上に上がった。

ジュノーは目を見開いている。



「誰かが……!」



何者かが、許可なく自分の領域に侵入した。

此処から気配を察するに恐らく悪魔。

それもその辺の悪魔じゃない。

上級よりをも、上回る力を持っている。



ジュノーはそれに気付くと、お願いをするかのように、胸の前で手を合わせた。

途端、ジュノーから淡い桃色の光が放たれ、ジュノーのいる部屋が淡い桃色の半球に覆われる。



ジュノーは何処の神よりも強い結界を創生できるのだ。

だが相手は強い、暫くすれば力がなくなり、結界は壊れてしまうだろう。

そうなる前に……




「どうか……どうか皆をお救いください……!大神……!」




ジュノーは悲しみに満ちた瞳で、何もない白い壁を見つめた。




+++++



天界の西の野原。

そこでエリックという悪魔と戦うことになったバルトはひとりポツリと立っていた。

その少し離れたところで、エリックは全身血だらけで倒れていた。




「お前………一体何者だ……!?」



エリックの目が驚愕に満ちている。



「まだ、息があったか」



バルトはエリックを見下ろした。

バルトの周りからうねうねと黒いものが立ち上る。



バルトは影使いなのだ。

影を操り、相手を操ったり、影で相手を刺したり、影から分身や武器を作り出したりと多種多様なことができる。

今、バルトの周りでうねうねと動いている黒い物体も、バルトの影から生じているのだ。



バルトは殺気を放ちながら、エリックを見下す。



「何者か、か……俺は特殊ランクの戦闘部隊隊長だ」

「特殊……ランクの……!?あの……"影使いバルト"か……!?」



エリックは荒い息を吐きながら、必死に言葉を紡ぐ。



そんな通称だと俺の攻撃が何か丸分かりじゃないか……



バルトはそんな事を思いながら、影で剣を生成する。



「はは……そりゃ俺でも勝てねぇな……」



"影使いバルト"の戦いの数々は魔界でも恐れられるほどだ。



「お前は運が悪かったな。俺と当たらなければ、まだ少しは生きられただろう」



バルトあ呟くように言う。



「さようなら」



影で出来た漆黒の剣が、エリックの体を突き刺した。

エリックの体はさらさらと灰になり、風に飛ばされた。



+++++


カルトは額に汗を滲ませながら、木の太い枝の上に立っていた。

近くの木の枝にはレミュエルの姿もある。



「隊長さんさぁ、剣、使わないの?」



レミュエルはカルトの腰にある剣を指差した。



「腰にあるくらいなんだから、剣使いなんじゃないの?」

「いや」



カルトはニヤリと笑う。




「俺の戦闘方法は剣じゃねぇ」



カルトは剣を鞘ごと地面に落とした。



「俺は、剣は性にあわねぇんだよ」

「は?でも最初会った時、下級悪魔と剣で戦ってたじゃないか」

「あれはトレーニングだ」

「え?」



レミュエルは首を傾げた。



「あの剣はその辺の剣よりもかなり重たくてな。俺はトレーニングのためにあれを重しにしてるんだ」



ドォンッと轟音をたて、剣は地面に落ちた。

地面はひび割れている。



「下級悪魔と戦うときに使ったのは腕の筋力を高めるためだ」



カルトは笑いながら言う。



「俺の本当の戦い方は体術だ」

「!」



レミュエルは目を見開いた。

目の前にカルトの姿はなく、後ろから声が聞こえたからだ。

即座に後ろを見ようとする。

が、その前にカルトの回し蹴りがレミュエルの顔面に直撃した。

レミュエルの体は吹っ飛ばされ、木を何本も突き抜け、岩に激突した。



「あの重しにしてる剣はかなり重いからな。アレを外すと俺のスピードはかなり速い」



目で追ってこれた奴もリュラとバルトぐらいだ。

だから悔しいがカルトはリュラの戦闘能力の高さを認めている。



「目で追えない程早く、頑張ってもこの髪の赤色しか分からない。だから俺は"緋色の閃光"なんて呼ばれてるんだろうな」



カルトはそういうとレミュエルが叩きつけられた岩の場所まで一瞬で移動する。



「終わりだ」



カルトは跳躍し、レミュエルに踵落としを食らわせた。

それにより岩も砕け、レミュエルはさらに岩の板敷きになる。

カルトは元の場所に戻り、剣を腰に付けると、その場を後にした。

岩の隙間から、灰となってしまったレミュエルが飛ばされていった。




+++++



リュラは頭を抱え込んでいた。

目の前にはジンがリュラを見下ろすように仁王立ちしている。




『クリスティー家の奴だっていうから、どんだけ強い奴かと思ってたけど、所詮は中級の隊長か』

「く……っ」

『中級の奴が、この上級の悪魔の俺に叶うわけねぇよな!』

「うぁ……っ」



リュラはギュっと髪を握るように頭を抱え込む。



頭に、奴の声が響く。

痛い

頭が痛い

意識が……朦朧としてくる……





《お兄ちゃん……》





リュラはハッと目を見開いた。




声が聞こえた気がした。

消えそうなくらい、か細い声が。

だがこの声を聞き間違えることはない。

この声は……




「見守って……くれているんですか……?」




リュラは消えそうな声でそう言うと、薄く笑った。

そしてヨロヨロと立ち上がる。



『今更、何をしても遅いぜ!』

「………っ」



リュラは苦痛で顔を歪ませながら、ジンを見た。



『何てったって、武器を持ってる様子がないしな!お前一体いつも何で戦ってるんだよ』



そう、リュラは手ぶら。

だがリュラは手ぶらでいいのだ。



「僕の武器は、常に傍にあるよ」

『何……?』



リュラは薄く笑うと口を開いた。



胡蝶コチョウユメ



リュラの目が赤色の光を放つ。

そして光が消えたと思えば、リュラの周りには白い蝶がいた。

数え切れないほどの数だ。

蝶は淡く、白い光を放っている。



蝶乱舞チョウランブ




リュラがそう言うと、蝶たちはジンに襲い掛かった。




『わぁぁぁぁああっ!!』




蝶たちの羽がジンを切り刻んでいく。

血に染まったジンはそのまま下に落下した。

リュラもそれを追う様に降りていくと着地した。



「う゛……っ」



リュラはジンの叫び声を聞いたせいで眉間に皺を寄せる。

頭にガンガンと痛みが走る。



『お、のれ……』

「さっさと終わりにしよう……少し休みたいから」



この状態で、バルトとカルトと共に神界についていけば、絶対に足手まといになる……



争蝶ソウチョウ 剣」



するとリュラの右手に蝶たちが集まっていき、剣の形になっていく。




「貴方のその声は、結構厄介でした」




リュラはそう告げると、ジンを切り裂いた。

血飛沫をあげ、倒れたジンの体は灰になり、消えた。




「ふぅ……」



リュラは一息つくと、近くの建物にもたれかかるようにして座り込んだ。




「全く、ボロボロになりやがって、コッコ!」



そこへ、コッコさんが現れた。



「まだ戦いは始まったばかりだぞ!コッコ!」

「うるさいですよ。ちょっと相手が厄介だったんです」



リュラは苦笑気味にコッコを見る。



「少し、休憩させてください……」

「おう……」



コッコはリュラを静かに見ていた。















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