第二十二話[開始]
リュラと暗赤紫色の青年は天界の東の上空に移動した。
「お前、名前は?」
「中級の戦闘部隊隊長、リュラ=メイムだよ」
「メイム……」
青年はリュラの名前を聞いて一瞬目を見開くと、ニヤリと笑った。
「あの事件の生き残りか……」
その言葉にリュラの目は一瞬沈んだ。
「知ってるんですか?」
「結構有名だぜ?天界でもっとも優秀な家柄と言われたクリスティー家の一人が天界から逃げた事から始まった事件だろ?」
「逃げた、ねぇ……」
リュラはにっこりと笑う。
「貴方のお名前は?」
「ジン=クライドだ」
そういうとジンは首元に付いたペンダントを外し、ポケットに入れた。
『さぁ、始めようぜ?』
「!!?」
ジンの声がまるで周りを壁が覆ったかのように反響する。
「く……っ」
リュラは右手で頭を抱え、膝を崩した。
『俺の声はなァ!脳を刺激し、最終的には神経を犯したり、脳を壊したり、色々できるんだよ』
「神経系への……攻撃か……」
リュラは苛立たしそうにジンを見上げた。
『早々に倒れんなよ?まだまだ始まったばっかだぜェ?』
ジンはニヤリと笑った。
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リュラたちの所から離れた場所、天界の北にある森にカルトたちはいた。
「はじめまして、天使サン!俺の名前はレミュエル=オーウェルだよ」
少年のように明るい性格をした青年は三つ編みを揺らしながらにっこりと笑った。
「俺はカルト=ウィーンだ」
カルトは警戒するように言った。
「へぇ〜君がカルト=ウィーンなんだァ」
レミュエルは興味深そうに見る。
「有名だよ?上級の戦闘部隊隊長 カルト=ウィーン。"緋色の閃光"でしょ?」
「ふぅん……有名なんだ、俺」
「あ、でもあの事件の生き残りの方が有名かな?俺そっちの人と戦ってみたかったんだけど」
イラ……
カルトのこめかみの血管が浮き出た。
カルトはレミュエルの指す、あの事件を知っているのだ。
何でどいつもこいつもリュラを……!!
カルトはリュラをライバル視している。
昔から。
しかしリュラはそんなこと気にしていない。
「そいつなら、さっきあの場に居ただろ。青髪の奴」
「え〜!あの人なのぉ!?ジンに取られちゃったじゃん……」
頬を膨らませ、不満そうな顔をした。
「まぁいいや!"緋色の閃光"さんと戦えるんだし……さっさと倒してジンの所行かなきゃ」
「!」
シュンッとレミュエルの姿が掻き消える。
周りの木々がザザザッと音を立てる。
カルトは静かに目を閉じた。
暫くしてカッと目を開く。
「後ろだ!!」
カルトは右に体を捻る。
突き出した右腕に鈍い衝撃を感じる。
「よく防げたね」
カルトは右腕でレミュエルの蹴りを受け止めていた。
レミュエルはニッコリと笑う。
「でも、まだだよ」
レミュエルはそう言うと、右足をカルトの右腕に押し付けたまま、地に着いていた左足は地を蹴った。
宙に浮いた体を捻らせ、レミュエルの左足がカルトの鳩尾に直撃した。
「ガハ……ッ」
蹴り飛ばされたカルトはそのまま後ろにあった木を二本突き抜け、三本目の木にめり込むようにして止まった。
「どんな蹴りしてやがる……!」
息を切らしながらカルトは地面に降り立つ。
「どんどん行くよ?だって俺、あの事件の人と戦いたいもん」
カルトは眉間に皺を寄せて、レミュエルを睨んだ。
+++++
バルトは静かに目を閉じ、天界の西にある野原の真ん中に立っていた。
「自己紹介はいるか……?」
「……どっちでもいい」
バルトは目を開くと、上空に立っている青年に目をやった。
「まぁ、どうせどちらかは死ぬんだしね。一応言っておくよ、俺の名前はエリック=ギッシングだ」
エリックは静かに笑う。
群青色の長い髪がさらさらと風に靡く。
「じゃあ、さっさと終わらせよう。俺は、天界を壊したいんだ」
エリックがそういうと、背後にぼんやりと人の顔がいくつも浮かび上がった。
「…………」
「俺は人間界で成仏していない霊の内の、怨霊を吸収して力を増幅させるんだ」
エリックは掌をバルトに向けた。
「魔道術"K" 闇炎」
エリックの掌から巨大な漆黒の炎が放たれた。
バルトは地を蹴り、炎を避けた。
炎が野原の上で燃え盛る。
バルトはそれを無言で見つめ、エリックの方を向いた。
魔道術。
天使が使う天道術と相反するもの。
天道術と同じようにJ、Q、K、Aのランク分けがある。
下級悪魔はJまで、中級悪魔はQまで、上級悪魔はKまで使える。
そしてAが使える悪魔は"十二宮"と呼ばれる十二人の悪魔たちと魔界の王族のみだ。
「君、本当に無口だね。友達いるの?」
「…………別にどうでもいいだろ」
「そうだけどさ、そこまで無口無表情な天使って滅多に見ないし」
「こういう性格なんだ」
バルトの表情は少しも変わらないし、あまり喋らない。
昔からそうなのだ。
だが、バルトでも少しくらい、笑ったり悲しんだりする表情が微かに出るときがある。
でもそれを見たことがある天使も滅多にいない。
「……もう終わりか?」
バルトは静かに言った。
「だったら、次はこちらから行かせてもらう」
早くこいつらを片付けて、合流し、神界に向かわなければ。
「嫌な予感がする……」
バルトはボソリと呟いた。
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