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俺の妹はとても残念なおバカだが、良い子なので幸せになって欲しい。

作者:天川ひつじ
「お兄様、クロノ様に明日お会いするのです! どのようにすればお心を掴めるのか、教えてください!」
「・・・そうか」
必死で大きな目をキラキラさせて祈るように俺を見る、14歳の妹に教えてやった。
ふわふわしたドレスを着ている。自由な気質の我が家の令嬢だ。

「クロノ様は、ネコ好きだ。急いでフワフワのネコミミをつくり、頭の上にのせて会いなさい」
7歳も年上の兄の俺の言葉に、妹は驚いて
「本当ですか」
と確認してきたが、俺は大真面目に頷いた。

「分かりました、えっと、至急メアリに作ってもらいます!」
握りこぶしを作って決意をアピールする妹は大変愛らしい。
世間からも大人気のウチのお姫様は、素直過ぎておバカが傷である。美少女の見た目と思いがけない体力とものすごい根性は素晴らしいんだけどな。

俺は心配して言った。
「男が見てグっとくる感じになっているかチェックしてやるから、明日クロノ殿に会う前に来い」
妹はパァっと顔を明るくした。
「有難うございます! お兄様、大好き!」

パタン、と扉が閉まると、部屋つきの騎士イネグがもの言いたげな視線を寄越してきた。
黙っとけ。

翌日、きちんと俺に見せてきたエリンのモフモフのネコミミを確認して、
「良くできている。大丈夫だ、行って来い」
と送り出した。
なかなかに可愛い。あれを作ったメアリを後で褒めてやらねば。

数時間後。
エリンが泣きながら俺を罵りにやってきた。
「お兄様の嘘つきー!! 嫌われてしまったではありませんか! 不真面目だと!!」
「あれが分からん男は止めとけ」

「1週間、お兄様とは口聞いてあげませんっ!」
ウワァァァ、と令嬢らしくない泣きっぷりで自室に戻っていった。
縁談がまとまらなかったらしい。それは残念だな。

騎士たちが冷たい目で俺を見ている。
だが安心しろ。エリンはおバカなので、多分2日程度でまた現れるから。

***

「お兄様! 昨日の事反省してますか!?」
「いや、してない」

「なんでですか!」
「あれが分からん方が悪いという俺の信念に間違いはない」

「本当ですか?」
「本当だ。信じろ。見ろ、俺は勝ち組だ。超素敵な妻も貰って仕事も励んでいる」
いずれ我が家を継ぐ俺は優秀だ。ただの事実だ。

エリンは怒っていたのに俺の言葉にムゥ、と考えてから、
「そっか・・・」
と納得した。

「で。なんだ、次の縁談が来たんだろう」
「そうなんです! お兄様はさすが、どうして分かるんですか!」
普通分かるよ、妹よ。そろそろお前の相手をって皆が手配してるんだからさ。

「次はどうしたいんだ。断りたいのか、嫌われたいのか」
「どうしてそんな選択肢なのですっ! 違います、好かれたいのっ!」

「へー」
「明日は、ウィンダル様なんです。どうしよう、頭がすごく良い人だから心配で・・・どうしたら釣り合えるでしょうか。安心してもらえるでしょうか」

「あぁ。丁度良い」
俺は引き出しから、新品の本を取り出した。
「これをやろう」

「えっと、なんでしょう、えっと、地理? 私こんな難しいの読めません・・・」
泣きそうになるのを、ポンポンと頭に手を置いて落ち着かせてやる。
「大丈夫だ。読む必要はない。食えば良い」

「えっ・・・食べる? 食べたら覚えられるんですか!?」
「そうだ。ただし、全て食べないといけないからな。できるか?」

「はい!」
「ホットミルクが良いだろう。良く食べてよく寝なさい」

「ありがとうございますお兄様!」
エリンは喜びを満面に現し、頬を薔薇色に染めて本を胸に抱きかかえて退出した。
可愛いよなぁ、本当にあいつ。

パタン。
と同時に、部屋つきの騎士イネグが進み出てきた。
「クルド様。嘘を教えるなどいけないことです」
「大丈夫、あいつ強いから」
「しかし」
「大丈夫」

翌日。エリンはお腹を壊して予定を全てキャンセルした。

3日後に滅茶苦茶怒られた。
「食べても覚えられませんでした」
「お前、出しちゃったからだ」
「クルド様!」
兄妹の会話にイネグが口を挟んできた。幼いころからの付き合いなので稀にある。
俺は肩をすくめて妹に尋ねた。
「で、ウィンダル殿はどうだった」

エリンは涙をぶわっと浮かべた。泣いても可愛い顔をしている。
「本を食べたって言ったら、『信じられない』って本気で引かれましたー!!」
「そうか。お前の努力を分からない男なんていらないだろう。それが分かって良かったじゃないか」

「えっ・・・」
エリンが俺の言葉に驚いて顔を上げる。
「え、そう、私ものすごく頑張って食べたんです! お腹いたくなったのも大変でした!」
「なのに本気で引くなんて、器の小さい男だ。お前に相応しくないだろう」

「え、そ、そうか、そうなんですね・・・」
エリンは納得して頷きながら帰っていった。

***

それからエリンには、次々と縁談前の様子見の顔見世が行われた。お年頃で美人の上に愛嬌もあるので人気がある。
そしてエリンは、ことごとく俺のアドバイスを受けては実行し、その度に相手にドン引きされてどんどん『変り者』の烙印を押されていった。

「お兄様! アドバイスしてもらったのに酷くなります!」
「そっか。で次は誰だ?」
どうしてエリンは、俺にアドバイスを貰い続けるのか俺も不思議で仕方ない。
まぁ長年の信用と実績か。

「次はユーフィリア様と、その後はジンウィ様と・・・」
「はぁ!?」
俺は思わず声を上げた。エリンが言い出したのは女癖が良くない者たちだ。
「いくらなんでも、絶対止めろ」

「でも、でもそうしたら私のお相手が誰もいなくなります!」
エリンが言う。
俺は素で答えた。
「馬鹿だな、いるだろう。良いか、俺の言う通りにしろ。いますぐ両親の前で、『やだー! 令嬢なんてやめちゃうー! 結婚やだー!』と叫んで来い」
「お兄様は私をどうしたいんですか!」
「幸せにしたい」

俺の言葉に、ムゥ、とエリンは少しふくれっ面のような顔をした。

「幸せになりたくないなら、無理にとは言わないが」
「え、幸せになりたい、なりたいです! 本当ですね、信じますからね、お兄様!」

エリンは意を決して退出して行った。

パタン。
俺は真顔で騎士イネグに言った。
「本気で大丈夫かと心配になる」

***

滂沱の涙を流してエリンが再度やってきた。
「うぐ、うぐ、うぐ」
と泣きながら、多分俺に文句を言いに来たらしい。
行動力は認めるが、年頃の娘なのだから、こう、落ち着いて自分を整えてから来るとか考えても良いと思うんだが。

「お、お父様と、お母様が、泣いて、お怒りに、なりまし、た」
「そうか」

「私が悪い子だって、言われて、」
えぐえぐえぐ、と泣いている。
あまりに酷い泣き顔なので騎士イネグがそわそわしている。ハンカチを出してやりたいらしい。
出せば良いのに。まぁできないのは分かってる。

「もう良いお相手もいないって、言われて、」
ふぐふぐふぐ、と泣いている。
騎士イネグが痛ましそうな顔をしている。

「いるだろ、この部屋に」
と指摘してやった。
「エリン、顔を上げて見回してみろ。良い男がいるんじゃないか」

エリンは素直でおバカなので、こんな状況でも俺の言葉を真に受けて部屋を見回す。
そして視線は俺に戻る。
おい。ちゃんと見ろ。

俺は丁寧に言ってやった。
「お前のおかしなネコミミ姿にも目を細め、本を食べるような努力を知って心を痛め、食べ物を指で握りつぶしても微笑み、靴を遠くに飛ばし上げても脚力を褒めてくれる。お前が努力家であることと、おバカすぎる素直さを心底知っている良い男がいるだろう」

エリンがもう一度見回して、また俺に戻ってきた。
お前、さては馬鹿だな。
「分かった、忘れているなら思い出させてやる。幼少時にこの俺よりも懐いて肩車を毎日させて、『私、お嫁さんになるー!』と約束させた良い男がいるだろうが」
「きゃああああ!!」
エリンが真っ赤になって叫んだ。頬に両手を当てる様は美少女なんだけどなぁ。
「お兄様! 昔の初恋です! 止めてください!」

「選ばれた相手じゃなくて、お前が好きに選んで良いって言われたら選ぶ相手がいるだろうが、と俺は知っているしそれを今言っているだけなんだが」
と言って、俺とエリンは、そろって話題の人物である騎士イネグに目を遣った。

真っ赤になって硬直している。だろうな。身分があるもんな。
「どうだ」
と俺はイネグの方にいってみた。
エリンが、祈るように手を組み合わせてイネグを見つめた。
やっぱりお前、イネグを今も好きだな。知ってるけど。
素直で馬鹿だから結婚となると考えから外れてたようだ。

俺はさらに促した。
「俺としては、こんなおバカで可愛い妹は、身内同然の良い男に嫁がせるのが一番なんだが」
そうでないとすこぶる心配だ。俺の数々の頭おかしいアドバイスをやってしまうのだから。
人柄に加え、本当にエリンを大切にしてくれる人物でないと困る。

兄妹で注目し続けているので、騎士イネグがギチギチっと身体を動かして、答えた。
「私が、畏れ多くも、そのような」
「見ろ、エリンが涙目に」
俺が指摘すると騎士イネグが見事に焦った。

「イネグにすでに恋人とか好きな人がいるなら話は別だが」
「イネグに恋人はおりません」
騎士ウィンが発言した。
でかした。俺は頷いた。

「ウィンお前は何を勝手に」
とイネグがウィンを非難しようとしたが、
「なら、好きな人はどうだろう」
と俺が周りに尋ねた。
皆がイネグに注目した。というか皆知ってるんだよな。昔からだからもんな。

未だに必死で祈るようにイネグを見つめているエリンの様子に、観念したようにイネグが言った。
「身分違いの恋を、エリン様に」
「イネグっ!」
エリンがパァっと顔を輝かせた。

「お兄様、お兄様! イネグが私の事を好きだって、聞きましたか! 聞いてください、イネグが好きだって言ってくれました!」
「聞いた。興奮するな」
下手すると延々とこの状態になる。
こんな状態で告白させてしまったのを申し訳なく思う隙を与えないエリンはさすがだ。

「しかし。クルド様、私の身分では、エリン様は高嶺すぎる花、手が届きません」
「大丈夫だ、今のエリンは十分に評判を落としている」
「えぇっ!? どういう事ですかっ、お兄様っ!!」
エリンが驚愕の眼差しで俺を見て非難してきたが、俺が与えた数々の指令と結果を思い出せ、妹よ。

俺は真顔で皆に言った。
「本気で貰い手を心配するレベルだ。大丈夫、ここまで来たら俺が両親を説得できる」
主にエリンのおバカ具合について真面目に相談するわけだが。

エリンが目を輝かせて、俺に祈るようなポーズをとっている。
俺は笑った。
「じゃ、俺が説得にいっていいわけだな?」
「お兄様、大好きっ! お願いします!」
エリンが喜び、イネグがまだ動けないでいる。
イネグはまぁいい、知ってるし。先に動いてしまおう。

***

幸せであたりを花満開にしそうな勢いの妹と、照れながらやはり嬉しそうな騎士イネグの結婚式が行われたのは、この2年後。

この頃には美少女だけど残念おバカっぷりがさらに周囲に広まっていたので、令嬢と護衛騎士との結婚だが、皆が暖かく見守っていた。平和だな。
「お似合いだね」
と言われるのが、二人は一番嬉しそうだ。ちなみにイネグの方が我が家に入る。

「お前にイネグは勿体ないと思うぞ」
とエリンに祝いの言葉をかけたら、
「お兄様の意地悪!」
と嬉しそうに笑うので安心した。

END

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