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遠い日の笑顔

作者:ピノ

夢を見る。

白い部屋
壁も天井も机も椅子も本棚も食器も全てが白い部屋。
そこで、僕は、ベッドにこしをかけて座っている。
なんで僕はここにいるのか分からない。
でも僕はここにいてはいけない気がした。
ベッドから立ち上がり、ドアを開け、部屋から出ようとする。
ドアを開けると風が僕の体を通り抜けていく。
目の前には地平線まで広がる花畑が広がっていた。
廊下もなく、玄関もなくいきなり外に出るなんて、そう思いながらも花畑に足を埋める。

花が素足に触れる感触が伝わる。
まるで柔らかい絨毯のうえを歩いているようで、少しムズムズする。
上を見上げると雲ひとつない青空。

風は強くもなく、弱くもなく、流れ続ける。
ふと耳に、風が吹く音とは違う何かが聞こえた。
歌だ。
風はただ僕の横を通りすぎていくけど、その歌は僕の耳から体の中に入って全身を震わせる。
僕は花畑を歩き、その歌声の先を探した。
どのくらい歩いただろう。
検討はつかない。
だけど、少し疲れた。
そんなときに、見つけた。
花畑の中歌う少女を
真っ黒な黒髪を腰まで伸ばし、まだ少女の面影を残した子だ。
真っ白のワンピースを着て、気持ちよく歌っている。
僕はその子はどこかで見たことがある。
記憶を探るが思い出せない。
思い出そうとすると心が軋む。
重く泥のようなものが胸に張り付く。
だけど彼女のことを思い出さないといけない。
そんな気がした。
だから僕は彼女のことを知ろうと声をかけた
いや、正確にはかけようとした。
声が出ないのだ。
必死に声を出そうとする。
だけど、出ない。
口さえも開かず、石のように固まる。
やがて歌が終わる。
また周りは風の音だけになる。
彼女は、口を開く。
音はない。
だけど、分かる。
読唇術とかそんなモンじゃなくて、心にその声が響くのだ
「ありがとう」
っと

その瞬間、目から涙が出た。
なにが悲しいのか、何が嬉しいのか分からない。
ただただ、感情が、あふれて僕という器からこぼれだし、止まらなくなる。
彼女の笑顔は少し困ったようものにかわり、彼女は僕に近づく。
彼女の手は、僕の頬に触れ、僕の涙をすくう。
そして、彼女の顔が近づき、唇が重なる。
やわらかく、暖かいその唇に触れたとたん、僕の感情はあふれるのをやめ、静かに器の中をゆれるようになる。
彼女は、それをわかったように顔を離す。
そして、僕の視界は、だんだん白くなっていく。
ああ。
僕は消えるのか。
そう悟った時。
石のように硬かった口から音が漏れた
「ありがとう、三月」
白くなっていく視界のなか彼女は、笑っていたような気がする。

目を覚ますと真っ白い天井が、見えた。

「突然倒れたのですよ?」
病室で、会社の後輩が言った。
彼の話曰く、僕は、会社の飲み会から帰る途中いきなり倒れたらしい。
そんなに飲んでなかったし、だいいち僕はお酒に強い。
それは周りもそう思っていたらしく、驚いて救急車をよび今に至るらしい。
「疲れていたじゃないですか?ここ最近忙しかったですし…」
僕は大事をとって2、3日入院をすることになった。
会社もしばらく休養しろとすこし早い長期休暇をくれた。
ベッドの上で、窓の外を見ながらあの夢のことを思い出す。
彼女は…
三月は、学生時代付き合っていた女性だった。
明るく、いつも笑っているような子だった。
そんな彼女の隣にいるのは楽しかったし、彼女も僕といると楽しいといってくれた。
だけど、いつのころか、彼女の笑顔は不自然なものになった。
彼女の父親が不倫をして、両親の仲が不仲になったかららしい。
毎日続く、両親の罵り合い。
そんなことが毎日続いていたらしく彼女も相当弱っていたらしい。
だけど、彼女は僕と会ったときはそんなことを表にも出さずいつも笑顔だった。
ただ、その笑顔は、不自然で笑っているのに、その笑顔は仮面をかぶっているようだった。
そんな彼女を見るのがとても辛くて、ある日、彼女が僕の家に彼女が来た時にそのことを思いきって言ってみた。
すると、彼女は、こわばった顔を一瞬したあと、僕に抱きつき大声で泣いた。
そして、しばらくして家族のことを話してくれた。
そのあと、彼女は、ありがとうといって、笑顔を見せてくれた。
その笑顔は、前の笑顔にいくぶんか戻った笑顔だった。
彼女は死んだ。
偶然に偶然が重なった事故だった。
棺桶の中の彼女は笑っていた。
だけど、僕は疑問に思ってしまった。
彼女の笑顔は本物だったのかと。
僕は、彼女を幸せにできていなかったじゃないかと。
そんな考えを振り払いたくて僕は毎日を必死に生きた。
仕事をして、休日は、会社仲間をつれていろいろなところに行って。
だけど、そのたびに棺桶の彼女の笑顔を思い出す。
そうやって生きてきて、今日まで来た。
そんな僕を彼女はやっぱり心配だったのだろう。
僕は、そんなことを思った。
ふと、開いていた窓から、花びらが一枚降りてきた。
花びらはひらひらと舞いながら、布団の上に落ちた。
僕はその花びらを拾い上げ、太陽にすかした。
彼女の笑顔が見えた気がして、僕も笑った。
こんにちは
今回の作品は、新作ではなく過去にミクシィーに載せたものに修正を加えて投稿したものです。

悲しいこともあるけれど、あなたとあえて良かったんだよ。そんな作品です。
よろしくお願いします。ではでは……

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