東方凡人記:30話
「目の前の人間を殺せ」
静かに告げられた言葉だが鈍器で殴られるより重い衝撃が頭の中を駆け巡る。
(目の前の人間って誰だ?)
俺しかいない。
(殺す……ってなんだ?)
勿論相手の生命活動を停止させる事だろう。状況を再確認した瞬間額から汗が溢れる。
マズい。非常にマズい。どうする。俺はまだ死にたくない。
倒す? 妖精相手ですら苦戦する俺が時を操るメイドさんを? 無理。
だが待ってほしい。確か幻想郷の住人を殺してはいけないというルールがあるはず。
殺す、というのは弾幕ごっこのルールにおいて倒すという意味か。
頭をフル回転させ、即座に以上の事を考える。
まだ数秒しか経っていないのにここまで思考できたのは日頃の考え癖のお陰か。が、今はそんな事を考えている暇はない。
先程の考えが合っていればただ弾幕ごっこでボコられればいいだけだが……。ヒューっと胸に詰まった冷たい空気を吐き出しながら咲夜さんの反応を窺う。
「仰せの通りに」
そう彼女は自らの主に返すと何処からかナイフを手にとりこちらを睨みつける。普段とは違う瞳の色で。紅い瞳で。
――殺される。
明確たる殺気を感じた瞬間俺は弾けるように行動を開始。
札を握り、イメージするは爆音と閃光。
「おっらぁッ!!」
属性を込めた札を投擲。すかさず耳を塞ぎ、目を閉じる。
ドカンという爆発音と瞼越しでも分かる強烈な光を感じた後すぐに目を開く。
(レミリアさんと咲夜さんはっ!?)
すかさず状況確認。閃光で目が眩んでしゃがみ込む二人が俺の目に入る。
驚く程の大成功。館内は薄暗いので効果は抜群なようだ。
音と光を合成させて放つ事で相手を一時的に行動不能にさせる。
以前、花の妖怪、風見幽香にも使用した技だ。彼女には効かなかった技だったが『効きそうにはなってた』とは言っていたので試してみて正解だった。
今考えるとこの時に2つの属性を合わせる技を使っていたんだな。そのノウハウを全く活かせてなかったんだけど。
これは絶好のチャンス。
どうする。相手は一時的にだが目を潰されている上に爆音による耳鳴りで物音を聴くのは困難であろう。
逃げるか、攻撃するか。
前者が安牌だろう。後者は更なるチャンスを生む可能性は大いにある。
ならば。
「ぬおおおおおッッ!!」
咆哮。
自らを抑揚させ、札の威力を上げる為叫ぶ。
懐から札を取り出しぐしゃりと力強く握り、霊力を込め続けるイメージ。
霊力を限界まで注ぐ、注ぐ。札からは火花が飛び散り始める。
次は溜め込んだ霊力を一気に開放する。
「マスタースパークッ!!」
パクり乙。と言われても仕方がないかもしれないが自分が1番想像しやすく、自分が出来る1番火力のある技を放っただけだ。
魔理沙のマスタースパークを見て衝撃を受け、尚且つ幽香さんのマスタースパーク(手加減であるが)を直で受けて恐ろしさも知っている。
ゴオオオオオオと札から放出され続ける極太レーザー。
やがて放出されていたレーザーが細くなっていき、遂には札ごと燃え尽きて消えてしまう。
そしてそのまま後退してドアを蹴り飛ばして逃げ出す。
つまり逃げるか攻撃するかではなく、
「ぶっ放してから逃げるんだよォォォォ」
性格の悪さが出た瞬間だった。
☆☆☆☆☆
「ぜぇっはあ、ぶはぁ、もう無理、はぁっ」
スパークぶっぱガン逃げをしたまではいいものの、紅魔館の内部構造を全く覚えていないので適当に右へ左へ逃げ回ったので何処にいるのかも解らないという本末転倒な状態に。
これじゃあ先程と全く変わらない状況だ。さっきのぶっ放しで咲夜さんが倒れていれば時を操られる心配は無く慎重に行動出来る……。
逆に倒れていないと視力が回復すれば直ぐさま時を止めて追撃に来るに違いない。
というか確定している。そうなれば正にゲームオーバー。
だが……。廊下にある置物の影に隠れて様子を見る。
俺の行動可能時間は咲夜さんの目が眩んでいるor意識が無い時間分だ。もう既に視力は回復してる筈……とすると。
(さっきのマスタースパークで行動不能になったのか?!)
だとすればかなり良い状況に転換した。ベターだ。レミリアさんもぶっ倒せていたらベストだが相手は吸血鬼。そう甘くはないだろう。
咲夜さんは能力こそかなり秀でているが種族は俺と同じ人間だ。重い一撃を無防備な体で受ければ流石に倒れるだろう。真っ向勝負では能力無しでも勝てる気はしないが。
さてと。考えが纏まった所で脱出を算段するか。紅魔館の1階の出入口は……危険だろう。誰かが見張っている可能性は非常に高い。
1階の窓……も同様。元々この館は窓が少ない。妖精メイドを見張りにつけられたと仮定するとこれも危険だ。
俺は空が飛べないから奴らは1階から逃げ出すと思うだろう。
もし1階で見つからなかったら消去法で2階、3階……としらみつぶしに捜索する筈。
だったらいち早く上の階の窓から怪我覚悟で飛び下りるしかない。そこら辺は札を使ってダメージを軽減すればなんとかなりそうだ。
善は急げとばかりに階段発見。これは俺に逃げてくれと天からのお告げに違いない。
俺は意気揚々と階段を2段とばしで駆け登った。
…
……
………
ビンゴだ。2階の窓にはまだ見張りがいない。
ふぅ、一時はどうなることやら。後は人里まで逃げてしまえば慧音さんもいるしそう簡単には手出しできないだろう。少なくとも俺が外に帰る数日間は。
もう脱出確定したかのような事を考えながら窓に手を伸ばす。
後はこれを開けてここから逃げ出せば。と窓の取っ手を掴み開け放とうとするが。
がっ。
「ん?」
いやにかたいな。
「ふんっっ!」
がっ。
い……1センチも開かないだと…? ならいいぜ。俺にも考えはある。
ヒュッと少し内股気味に構え右拳を腰辺りまで溜める。
「っっっぜい!」
そして渾身の正拳を放つ。
「~~~っ゛!!」
予想外の硬さに言葉にならない悲鳴をあげる俺。窓どころかガラスすら割れる気配すら見せない。
その前に自分の拳が砕けそうだ。
きょ……強化ガラス!? 馬鹿な、幻想郷でこんなもんが流通してんのか?!
しかし強化ガラスというより壁を殴った感触にそっくりだったのが気にかかる。幻想郷のガラスは異常に硬いとか?
そんな事は全く重要じゃない。問題なのは俺の作戦が完全に破綻した事だ。
窓が使用不可となると……外へ出れる場所は1階の出入口と屋上のみか。1階出入口は前述の理由で危険。
裏口なんて物もあるかもしれないが此処の構造はよく知らないし、たとえ見つけたとしてもやはり見張りくらいは付いてるだろう。
屋上は……はしごでもない限り無理そう。2~3階までなら少し丈夫になった身体と気合いと札で乗り切れるかもしれんが屋上からアイキャンフライしたら潰れたトマトか落下の際の怪我で行動不能になって乙るのは必然だろう。
……あれ?八方塞がりじゃね?
頭を抱えてその場にうずくまる。まじでどうしよう。名案思いつけ! 俺! と頭の中で叫び続けるとふと、階段を登る複数の慌ただしい足音が聞こえてくる。
ヤバい。予想した通りに妖精メイドを使って俺という鼠捜しを始めやがった。
その場にいたら見つかる事はコーラを飲んだらゲップが出る以上に確定しているので近くの部屋に飛び込み、音がしないようゆっくりとドアを閉める。
この際施錠しようと考えたが鍵が閉まっていると『私はここに隠れています』と主張しているような物なのでやめておく。
部屋を見渡す。
ベッド、クローゼットに小さい机、そして窓がひとつ。どうやら飛び込んだ部屋は個室みたいだ。
多分この部屋の窓も開かないんだろうなぁ。と考えながら窓の近くまで歩み寄る。
するとふと、隙間風を感じた。
まさかと窓を急いで見ると少し開いているではないか。
しめたとばかりに開いている場所に手をひっかけ勢いよく開けようとしたが……。
がっ、がっ。
やはり開かない。
「少し開いてるってのになんでだよっ」
力なくうなだれる。
信じたくはないが館に何か不思議な力が掛かっているに違いない。
この様子だと出入口も堅く閉ざされている事であろう。
くそッと呟きながら窓を打つ。鈍い音すら返ってこず感じるのは拳の痛みのみ。
何処か、何処かに突破口は。と必死にそこら中を見る。
目に入るは机の上に置かれたペン。
次に少し開いた窓を見る。
(閃いた!)
閃いた、というよりは神頼みに近いレベルだったのだが。
札を取り出しペンを手に取りすらすらと何かを書き始める。
「ええと、『私ことリュートは紅魔館で殺されそうになっており脱出も出来ない状態に陥っています、至急どなたか助けに来て下さい』……こんなモンでいいか」
むしろ『紙』頼みだ。
つらつらと書き綴りよく飛んでいくように、見つかりやすいように『風』と『光』をイメージして霊力を込め、少し開いた窓から投げ放った。
発光しながら風に乗った紙飛行機さながらに飛んでいく札に祈った。
(頼む! 誰でもいいからこの札を見つけてくれ。)
藁にも縋る思いとは正にこういう事なのだろうか。
夜闇を切り裂くように飛んで行く札が視界から消えた時、のん気にそう考えた。
☆☆☆☆☆
同刻、霧の湖にて。
湖の上に氷を作り、そこでだらし無く(本当にだらし無く)寝ている妖精が一人。
そこに向けて発光しながら飛来する札がひとつ。
「んがっ!?」
見事顔面に直撃。霊力が篭っていたらしく少々のダメージを受けたのか鼻っ柱を押さえる妖精。
「いったぁ~……こーはくの巫女の仕業ね!!」
未だ少し光を放つ札を恨めしそうに睨みながらそう結論づけた。
以前起こった紅い霧が蔓延した異変の時も春が幻想郷から無くなった異変の時も紅白の巫女にちょっかいを出してこんな札を大量に当てられて破れ去った記憶は小さい頭にも未だ残っている。
自業自得だが。
「じょーとーじゃない!」
が、ちょっとした違和感を感じる。あの巫女がこんなちょろっとした札を、それも一つだけを不意打ちに放つだろうか。
現にその対象は影も姿も見当たらない訳だし。
あれ? とかわいらしく首を傾げた際、札に何かが書かれているのに気付き、内容を見て大きく目を見開いた。
「これは――!」
「わたしことリュートはこうまかんで……やされそうになっておりぬげだつ……? もでくない……じょうくまに……ほむら……? っています、いたりきゅう……どなたかすけけにくてください」
書いた当人がそこに居たら「日本語でおk」と言いながら頭を痛めているに違いない。
「……」
「こんないみふめーな手紙書いたバカは誰よ」
バリバリ、と縦に綺麗に破りくだらない事で起こされたとばかりに寝なおした。
……願いは一応叶ったが 拾ったのがチルノじゃあ全く意味はなかった。
結局結構何話か引っ張る事になりそうです。
P.S.流石にチルノでもこんな漢字の読みはしないと思う。
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