東方凡人記:29話
現時刻はおよそ5時頃。
ただいま吸血鬼妹様居住範囲、地下室の部屋の扉の前に立っております。
咲夜さんは「御武運を」とか言ってどっか消えた。
武運ってなんやねん。とドツキながら突っ込みをいれたかったが今となってはどうでもいい。
手荷物はボール1つ。どうしたものか……。
この扉を開けて、フランドールがまだ寝ていたらそれを言い訳に帰れて万々歳なんだけど……『たられば』はいけないよね。
ほら、案ずるより……何だったっけ? ふとし?
とりあえずこのままでは埒があかないのでややヤケクソ気味にテンションを上げる。
扉を少し開き、そしてその場から10歩程下がり軽くトン、トンと跳躍する。
そして地を蹴って助走開始。眼前の堅牢そうな扉を蹴飛ばして開ける。
ドガッ、ダァン!
扉は最初から少し開けていたので気持ちよく開く。
「ちわ~ッす、宅急便です!!」
この台詞に深い意味は全く無い……あれ?
はて、フランドールの部屋はここ…だよな? 思い切り蹴飛ばして開けたのはいいものの誰もいない。
はて……フランドールが外に出る事は無い筈だが。
首を傾げながら色々と思考し始めた時、少しだけ発生した物音に耳を傾ける。よく聞けばすぅ、すぅと規則的な音がするではないか。
なんぞ、と音が聞こえてくる場所まで歩み寄る。物音はこの部屋のベッド付近から聞こえている様だ。
薄暗い部屋の中、目を凝らす。むむむ……。あっ。
「寝てるじゃないか」
ボソりと一人小声で呟く。
ベッドで寝息をたてて寝ているのだ、フランドールが。
物音は彼女の寝息と寝返りの時に生じた音であろう。
掛け布団を下敷きにして寝てる辺り恐らく二度寝だろうな。
寝起きでボーっとしていると二度寝してしまうのはよくある事……!
さて、お兄さんは帰らせていただきますヨ。
くくくと内心ほくそ笑みながら部屋を後にしようと……した。
「だれかいるのぉ……?」
寝起き特有の締まらない声が響く。
(しまったッ!!)
俺が居る事を悟られない様に素早く彼女のベッドの下に滑り込む。
……
フランドールが誰かを捜している気配はない。
ふぅー、なんとか乗り切っ……
「遅いよ、退屈でまた寝そうだったじゃない」
ぎゃああああバレバレでしたァァァァァァ!!
「何してるの?」
「か、かくれんぼ」
それにしてもこの男、ノリノリである。
☆☆☆☆☆
前回みたいにされるがままにあのただっ広い部屋に連れ込まれる。
トラウマから若干足がすくんだりはしていない。決して。
「それじゃあ何して遊ぶの?」
「えーと……」
適当にボールを持ってきただけでどのようにして遊ぶか全く考えていなかった。
サッカー……は人数的に無理がありすぎる、野球も同じ理由で無理。そもそもこのボールで野球するのは無理があるしな、しかもバットもない。
となるとドッジボールしかないな! 一応二人だけでも出来るし!
「よし、このボールを使う遊びを教えよう。先ずはルールからだ」
「何するの?」
「ドッジボールだ」
凡人説明中。
…
……
「じゃあ俺からいくぞ!」
「こーい!」
両手を大きく広げてスタンバイするフランドール。うむ、元気あるいい返事だ。
さてルールを大まかに説明しよう。
基本的に普通のドッジボールとルールは同じだ。だが、二人しかいないのでちょっとしたルールを設けた。
『できるだけボールは避けずにキャッチする』である。
外野がいないので一々避けてたらグダグダになってしまうからな。後は当たったら1点で、飽きたら終了。その時に点数が多い方の勝ち。ひどく適当なルールだ。
それと飛行は当然禁止。ダン、と地面を蹴り、大股で助走する。
「ジャイロボールの貴公子(自称)と呼ばれたこの俺のボールを……!」
線引きされた場所ギリギリまで近付き、力いっぱいフランドールに投げる。
「受けられるかッッッ!」
ブンッ、バシッ。
「今までは避ける遊びをしてたけど受けるっていうのは中々新鮮だね」
……感想を述べながら軽々キャッチされてしまった。結構なスピード出てたんだけどなぁ。後退して飛んでくるボールに備える。
自慢じゃあないが俺はドッジボールで受けに関してはかなりの腕前を持っているのだ。
それにこのボールは柔らかいので空気の抵抗を良く受けるからかなり減速……
「それじゃいくよ、せー、のっ!」
しなかった。
ブオォン、と轟音を立てながら俺の顔のすぐ横を凄まじいスピードで通りすぎるボール。
は、速すぎやしませんかフランドールさん……。あのかわいらしい体躯からこんなスピードのボールが繰り出されているとは到底考えられない。
ドガァン!と背後の壁にぶつかり、跳ね返って来たボールを拾う。
「避けちゃダメじゃない、受けなきゃ」
「できるかっ!!」
比較的あのボールは軟らかいんだが、あのスピードで直撃したら20メートルは吹き飛ぶ自信がある。
……ここまで破壊力があるのは完全に想定外だ。ボール自体に何らかの念でも篭っているのか。
だか始まってしまったからには仕方がない。とりあえず眼前の少女(という名の怪物)にボールを当てる事に専念しよう。
とは言えヤツには並大抵のボールじゃ余裕で受けとめられてしまう。
ならば。
再び助走からの投球。今度は捻りを加えつつボールを投げる。
すると余裕しゃくしゃくでボールを受けようとするフランドールであったが……。
手元でスライダー気味に変化。バシッとフランドールの手を弾いてボールがてん、てんと落ちる。
大成功だ。
この様な軽いボールは捻りを加えながら投げると簡単に変化球が誰でも投げられるのだ。
「はっはっはこれで1点先取だ、さしものフランドールも俺の魔球の前には討ち取られるのみよ!」
「むぅ~……」
ぷくーと頬を膨らませるフランドール。フランドールがふくらんどる……とかくだらん事を考えた刹那。
「あべしっっ」
ボールが顔面を直撃。
20メートルとはいかずとも浮遊する俺の体。そのままどうと地面に倒れ伏す。
「これで同点だね!」
このガキがぁ~……!!
鼻血を垂らしながら立ち上がり、俺はまだ述べていなかったルールを叫びながら走り出す。
「いいや、顔面セーフだ!!」
裕に決められたラインを思い切りオーバーする。
「ち、近いよ!」
「ハンデだっつの!ふん!!」
接近状態からの投球はやはりヒットするわけで。
「これで俺が2点リードだっ……」
「狡いよ、そこの線越えたらルール違反だって言ってたじゃない」
「時には決められたルールを無視しなければならない時があってだな」
人、それを屁理屈と言う!
「じゃあいいよ、私だって……」
「え?」
そう呟くとボールを抱えたまま何やら集中するフランドール。
一体何が始まるのやらと警戒するつかの間。
「フォーオブアカインド……!」
そう呟くと彼女の体が4つに分裂……いや、分身した。
フランドールは4つ子だったんだね!とか思ったけどそれはありえない訳で。
恐らく漫画的に考えると本体は4つの内のどれかだと思うが外見はどれも同じなので全く見分けがつきません。
「ちょっ何その分身殺法ってうわっっ!」
分身した彼女の一人から投擲されたボールをすかさず回避、だが。
「たわばっ」
今度はズンっと背中に直撃。
そう。背後にいるフランドールが投げたボールを再度キャッチして投げたのだ。
そして俺に当たって転がったボールを拾い、パス回しをするフランドールA,B,C,D。
こ……今度は何処にボールが飛んでくるんだ。
俺は後何回当たればいいんだ……っ!
「俺のそばに近寄るなァァァァァ!!」
☆☆☆☆☆
「ごめんもう無理勘弁して下さい」
「えー」
あれから何分経ったであろうか。
ずっと相手のターンでボールを投げられ続け俺はボロ雑巾と言っても差異がない状態になっていた。
ええと、俺が2点でフランドールが200点くらいだろう……硬球なら死んでいたに違いない。
そもそも弾幕ごっことかハードな遊びをしてる連中は飛んでくる一つの球を捌くなんて赤子の手を捻るより楽チンってやつだろう。勝てる訳がない。
……格ゲーなら負けないぞ。
「もう終わり?」
「勘弁してくれフランドール、これ以上やったら……へいべ!」
本日二度目の顔面セーフ。現実は無情である、ときりもみで宙を舞いながら俺は悟った。
痛む鼻を抑えながら立ち上がる。
「何しやがる!」
「フランって呼んでって言ったじゃない」
「あぁん?」
そういえばフランドールに以前そう言われたのをすっかり忘れていた。
愛称呼びしなかっただけで顔面にボール投げるのは酷い。それでも貴様は人間か! ……吸血鬼でした。
「わ、悪い。フラン」
今飛んで来たのはボールだが機嫌を悪くされて次は弾幕が飛んできたって事になったらシャレにもならんので謝っておく。
「いいよ。今回は許してあげる」
……次は無いって事で宜しいんでしょうか。あれだけボンボンとボール当てられてキレたいのは俺の方なんだけどな!
「俺をめった打ちにする遊びは楽しかったでしょうか、お嬢さん」
その代わり仕返しにと皮肉たっぷりの言葉を述べた。
「うん、楽しかったよ。またやろうね」
が、無邪気な笑顔と皮肉一切無しの言葉で返されてしまった。何故か物凄い敗北感を覚える。
……もう絶対やらねえよ畜生めッ!!だがそんな機会はもうないけどな! だって3日後には帰るし!!
「じゃ、俺は咲夜さんに遊び終わったので帰りますって言ってくるわ」
もう今日はさっさと帰ってゆっくりしたい。その事しか頭に無かったわけで。
「次はいつ来てくれるの?」
「HAHAHA、だからもう来れないって」
「え?」
「しまったッ!!!」
つい気が緩んで口を滑らせてしまった。何とか誤魔化さないと……。
「どうしてもう来れないの?」
「いや……つまり今のは、その」
……咄嗟の言い訳を1つも思いつかない程焦ってしまう。墓穴堀まくりんぐ。
落ち着け、落ち着け俺。こういう時は相手の顔色を窺って言葉を選ぶんだ。
そしてそっとフランドールの表情を窺うと俯いて顔に影がかかっていた。
やばい。本格的にMK5(マジでキレる5秒前)に近いんじゃないのどうしよう。
待て、選択肢を間違えなければBADENDにはならないから大丈夫ってゲームじゃねえよ!!!
本格的に頭がイカれてきた高校生ならここにいるのだが。
「……やっぱり、リュートは私の事が嫌いなの?」
「へっ?」
もしかしてアレか、現在進行形で勘違いされてるのか。嫌いだから会わない様にする口実を作ってると思われてるのか。
「落ち着こう、うん。嫌いだったら約束なんてすっぽかすだろ。な? な?」
幼女相手に必死の弁解を見せる高校生。傍から見たらシュールだが本人は超必死だ。だって本当に死がかかっているんだからな。
「だったらどうしてもう会えないの?」
「あー……えーと、その、外に帰るんだ」
下手にはぐらかそうとしても逆効果だし事情を伝える。
事情を伝えたとて俺にデメリットがある訳じゃあないんだけど、何となく嫌なんだよなぁ。
「外?」
「外って言っても幻想郷の外だ。俺って実は外来人ってやつでさ、色々あって外に帰る事にしたんだ」
妖怪になりそうだのどうのこうのの説明は面倒なので省く。
「そうなの……」
「その、すまん」
「……」
何この気まずい空気誰か助けて。
「あー! そうだ。俺以外の遊び相手を見つければ万事解決だろう。例えばここの妖精メイドとか」
空気に耐え切れず無理矢理話題を作り出す。
「無理だよ、私は恐れられてるもの」
「正直恐いってのは俺も同……ゲフンゲフン」
危ねぇ、更に口を滑らせる所だった。やっぱり能力が能力だし恐がられるのは当然か。
俺も内心いつ癇癪起こされるかヒヤヒヤしてるし、こう言っては悪いが妖精メイドが関わりたくないと思うのは当然だろう。そもそもそんな事情があるから遊び相手がいないのだ。
だったら……
「レミリアさんが居るじゃないか」
同じ吸血鬼で、彼女の姉。遊び相手として好条件だと思うんだが。
「……」
え、何か地雷踏んだ?
そういえば以前お姉様大嫌い的な発言をしてたっけ。でもあの時は感情が昂って次々と言葉が出てきたって感じだったと思うんだけどなぁ……訊いて見るか。
「レミリアさんの事が嫌いなのか?」
するとフランドールは俯いたまま首を左右に振るジェスチャーで返してきた。
「だったら大丈夫じゃないか」
「大丈夫じゃない」
「……どうして?」
「お姉様は私の事を嫌ってるから、恐れているから」
「それは絶対に無い」
「……え?」
その発言に少し面喰らったのか顔を上げるフランドール。
以前『レミリアさんはフランドールと遊んだりしないのか』と言った(正確には言いかけた)が、あの時の哀しそうな表情は未だ思い出す事ができる。
かなりプライドの高そうな(実際すこぶる高い)彼女が簡単に人前でそんな表情を見せる事は絶対に無いだろう。
それ程にフランドールの事を気にかけている筈だ。
「アンタら姉妹は勘違いしているんだよ」
「勘違い?」
「そう勘違いだ。俺が一肌脱いでやるよ」
「な、何をする気なの?」
フランドールの制止を振り切り、地下室から出る。
そしてずっかずっかと早歩きでレミリアさんの部屋へと向かった。
全くもって勿体無い。両者が気にかけているのなら俺がかるーく仲裁役を買ってやればすぐにこんな問題なんて解決するだろう。やはり姉妹は仲良く在るべきだ。
ガチャッとドアを開ける。
「威厳溢れるポーズはやっぱり……こうかしら?」
やはりレミリアさんは自身の部屋に居たようだ。姿見の前で何かポーズをとっていた様な気がしたが恐らく気のせいだろう。
「ちょ、ちょっと。部屋に入る時くらいはノックくらいしなさいよ」
「おっとこれは失礼」
紳士な俺がそんなミスをするとは、とんだ失態だぜ。
「それで何か用でもあるのかしら?」
「フランドールと遊んでやってくれませんか」
一気に場の空気が重くなった気がした。実際、レミリアさんの顔つきが変わっていたし。
「駄目よ」
「フランドールは貴女の事を嫌ってなんかいません。むしろ気にかけていましたよ」
その言葉に一瞬大きく目を見開き、羽がバサりと動いた。うむ。これは手ごたえ抜群だ。
「それでも駄目よ」
が、すぐに元の表情に戻った。
「ホワッツ!?」
予想外な展開に思わずエセ外国人みたいな声をあげてしまう俺。
「どうしてですか!」
「私はフランを495年も閉じ込めていたのよ?今更どの面下げて会えばいいのよ、私にそんな資格はないわ」
「姉妹に資格とか必要なのでしょうか」
「しつこい、他人が身内の事に一々口を出すな」
部屋の空気がさらに重くなる。目の前の羽を生やした少女からは見た目からは信じられない威圧感が噴き出ていた。
つつつ、と冷たい雫が俺の頬に垂れる。冷や汗だ。いつ汗なんてかいていたのか。
ここでもう踏みとどまった方がいい。と思っていたがここで引いたらいけない。と普段は全くないに等しい俺の自尊心が何故か今に限って後退を許してくれなかった。
「フランドールをこれ以上不幸にする気ですか」
「……何?」
「彼女の居る地下室に行って話をする、それだけでも凄く喜びますよ」
「……」
「それにフランドールの心の安定にも繋がるかもしれませんし、もしかしたらあの危険な能力の制御だって出来る様になるかもしれないじゃないですか」
495年の幽閉にピリオドを打つ。そんな可能性も出てくるかもしれない。
そういった意味も込めて言い放った。
「もういい、その話は終わり。早く出て行って頂戴」
「逃げるんですか」
「逃げるだって?誰から?」
「フランドールからに決まっているでしょう、495年の幽閉の年月を更に重ねる気ですか!!」
気がつけばさっきまで冷えていた頬が今度は熱をもっている。
何を言っても動かないレミリアさんにイライラして血が上っていたのだろう。
対するレミリアさんは静かに目を瞑り、何かを考えていたのか数秒後目をゆっくりと開き深く溜息を吐いた。
その仕草から漸く観念したのか。と一瞬解釈したがそう見るには少し様子が違う。
さて、この時点で俺の行動が浅はかだったと誰もが気付いただろう。
先ず相手の詳しい事情も知らずに、心境を理解しようとせず自分の考えを押し付けんとした事。
まして495年のかなり長い間に作られた綻びはそう簡単には直らない。
そして次点。この様な状況で強気な発言が出来る者は実力的に相手と対等、或いは相手より上の立場に立っている者に限られる。
俺が幻想郷で対等な立場に立てる相手が何人居るだろうか。居たとしてもせいぜい人里に住む俺と同じ凡人の方々であろう。少なくとも今異議を申し立てた相手には絶対に当て嵌まらない。
「咲夜」
「お呼びでしょうか」
するとレミリアさんの隣にメイドさんが何処からか1秒もせずに出現する……もう慣れてきたので驚きはしない。
それよりもこの眼前のロリ吸血鬼。一体咲夜さんを呼び出してどうするつもりなのか。
彼女は色々と考えを巡らす俺を傍目に咲夜さんに告げた。
「目の前の人間を殺せ」
更新にかなり手間取ってしまいました。
待っていた方も、そうでない方もごめんなさい。
最近忙しく、更にモチベーションも相俟ってかなり遅筆になっておりました。
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