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東方凡人記:28話
「あそこで覗き見してる奴は誰?」

小声で早口ながらも図書館内は軽く声を発しても響くし、静かなのではっきりと聞こえる。
身を隠していた本棚からすごすごと歩き出す。ちょっと気まずいです。

「紅魔館に招待した客人ですが、図書館を見たいとの事ですので」
「どもっす。リュートと言います」

咲夜さんに続いて軽く挨拶。が、パチュリーさんとやらは既に本に目を落としていた。おい、ガン無視か。

「あ、あのう」

俺の繊細なガラスのハートはもうひび割れしまくりである。

「騒いだり読書の邪魔をしなければ別に何をしても構わないわ」

だそうです。こちらの姿をちらりとも見ずに読書しながら返事をしていた。もう本と結婚しちゃえよ。

「はい。お疲れさまっす……」

はっきり言うと結構苦手なタイプだった。

「ではリュート様、時間になったらお呼び致しますので」
「了解しました」

と言うとやはりふッと消えてしまう彼女である。いい加減普通に退出しろよ。
早く適当な本でも探して時間を潰さんと早歩きでこの場を離れる。

しっかし大図書館と呼ばれるだけあって周りは本、本、本。
とりあえず棚にある分厚い本を軽く掴み、スススと引き抜いて手にとって見た。

表紙からして何書いているか解らん。
とりあえず1ページ捲る。

ぺらり。

ぺらり。もう1ページ。
ぺらり、ぺらぺらぱらぱらぱらぱら。ポン。

どこもかしこも読める文字がないので、自棄になってペラペラ全部捲ってみるが意味は無い。
何このミミズがのたくってる様な文字。日本語にしてよね。

スス、ストン。本を元の場所に戻す。

……いかん、物凄い暇だ。暇を潰しにきたハズなのだが暇を持て余してどうする。

何か原文を翻訳された本くらいありそうな気もするんだけど。
むむむ、と頭を捻る。適当に表紙を見て回って日本語の物があれば手にとってみるか。

そうと決まればさあ探すぞと少しお宝発掘気分で挑む。
何か目的があれば一時は暇じゃなくなるんだけどね。

隣の本棚を見ようと右なりに進むと。

「あいてっ」
「わわわっ」

どさどさどさ。

ぼすん、と何かにぶつかり尻餅をついてしまった。最近俺は何かに良くぶつかる気がする。

っと、先程の小さい声と物音はなんだ。床には本が散らばっており……どさどさ、という物音の主はこれか。
と、目の前を見ると蝙蝠みたいな羽を生やして俺にぶつかってバランスを崩したのか俺と同様に尻餅を付いている赤髪の少女がそこにはいた。

「あ あ、悪魔だーーッ!!」

突然妖怪に急接近した事でパニック状態に陥っていた。

「え、えっと、小悪魔ですけど…」

きょとんとした表情で告げる彼女であったが、悪魔である事には変わりがないと思う。
しかし俺は依然として混乱状態から立ち直っていなかった。

「アリだー!!」
「蟻じゃないですけど……落ち着いて下さい」

目の前の小悪魔(仮)が立ち上がり、未だに尻餅をついている俺に手を差し伸べてくれているのだが。

「逃げるんだ……勝てる筈がない……!」

妖怪を相手してあまり良い記憶がないので俺は更にパニクって四つん這いになって逃げていた。


☆☆☆☆☆


「へぇ、パチュリーさんの使い魔なんだ」
「ええ。そしてこの図書館で司書をやらせて頂いているのですよ」

パニックから解放された俺は小悪魔さんと雑談していた。

彼女の名前は『小悪魔』なんだってね。驚いた。名前がないのか、名前が小悪魔なのかは分からないが。
悪魔らしいが幻想郷では常識人の部類に入っているのではないか、と俺は思う。

「『こあ』と呼んでもらっても構いません」

そう呼ぶのは俺のキャラでは無いような気がするのでやめておく。

「そういえば図書館の司書って言ってたけどここの本の管理は小悪魔さんが?」
「そうですよ。パチュリー様に指名された魔導書等を探して持って行ったりもしてます」
「げ、こんな本だらけなのに細かい場所なんて分かんの?」
「当然です。『知識と日陰の少女』、『動かない大図書館』のパチュリー・ノーレッジ様の使い魔ですから」

普通に凄いな、これほどの図書館なのに。
つーか毎回そのカッコイイフレーズは何処から来るんだよ。俺にもくれ。

そして俺が最後に思ったのは、

「図書館って動くの?」

ほら、『動かない大図書館』とか言ってたけど移動大図書館なんて知らないよ俺。
台車を利用した小さい移動図書館ならまだしも。

「えっ」
「えっ」

「「……」」


元々静かな図書館内で更に静寂が襲ってきた。痛い程の沈黙がどれだけ過ぎたであろうか。
30秒か、いや、10分にも感じる。

「な、何かお探しの本とかありますか?」

はぐらかされた。別にいいんだけどさ。

「じゃあ何か俺でも簡単に読めそうな日本語の本とか無いかな、適当にさ」
「分かりました、待ってて下さいね」

と言うとささっと行動していた。うむ、いい娘だ。きっと良いお嫁さんになれるに違いない。
お前は何様だよと言いたくなる事を考えながら近くにある椅子に腰を落とした。
ボーとする事やや数分間。小悪魔さんは本をいくつか抱えながら戻ってきた。

「適当に見繕ってきましたよ」
「ありがとう、暇つぶしがてら読ませて貰うよ」

これで時間はつぶせるだろう。

「では私は本の整理に戻ります。この間白黒の襲撃にあって本が荒らされて……」
「はは……大変だな」

白黒とは誰かとは聞かない事にした。見当はつきまくってるが。
小悪魔さんはせっせと仕事に戻っていったのでさて、と目の前に積まれてある本のタイトルを見ると。

『簡単! 猿でもわかる魔法の使い方』
『初心者魔法入門』
『七曜の魔法について』

小悪魔さんは俺を魔法使いにしたいのか? 安心しな、30歳にはもう立派な魔法使いさ……自虐ネタって本当に虚しくなるね。

とりあえず気になった一番厨2心をくすぐった『七曜の魔法について』とのタイトルを手にとり読んでみた。



……

………

読み終える事なく本を閉じる。はっきり言うと意味を理解出来たのは序盤のほんの少し。が、自身の能力を応用する参考になる事が書かれていた。

七曜にはそれぞれ込められた意味がある。
学生は月曜日が嫌いで日曜日が大好きとかそんなんじゃない。

生命と目覚めの『木』
変化と動きの『火』
基礎と不動の『土』
実りと豊かさの『金』
静寂と浄化の『水』
能動と攻撃の『日』
受動と防御の『月』

と、それぞれ異なった属性を持っている。
俺の『霊力を属性に変換できる力』と魔法。実は似ているのかもしれない。

正直、不動だとか浄化とかは全然理解していないのだが、気になった点は別にある。
これらの属性魔法は組み合わせて弱点を無くしたり、攻撃面を特化したりする事ができるそうなのだ。

組み合わせる。

簡単に思いつきそうだったのに盲点だった。俺の札を使った攻撃もこれで少しはマシになるかもしれない……。
ま、後少しで帰るんだから今覚えても仕方ないね。現代、というか外界で恐らくこの能力は使えないだろうしな。
外界で霊力を媒介する札なんてそうそうないだろう。
帰るまでの少ない期間の自衛手段にすればいいか。『戦わない』が最善なんだけどね。

しかし組み合わせる、か。氷と炎を寸分無く混ぜて某漫画の如くメドローアとかできるんだろうか。

「そもそもどうやって混ぜればいいんだ?」

これが分からないと本末転倒である。

「ま、いっか」

俺のお得意スキル発動。問題を先延ばしにする。全くダメ男な性格だ。自分で思っていて情けない。

「とりあえずこの本を元の場所に……」

元の場所なんて分からないが。
小悪魔さんに渡せばいいが図書館内の何処に居るかが問題だ。が、パチュリーさんの所には立ち寄る筈であろう。
うむ、パチュリーさんの近くに置いておけば小悪魔さんが見つけて整理するだろ。俺頭いい。


……


やっと見つけた。ビビンバに入っているもやしの様なヒョロっ娘が。
聞かれたら問答無用で殴られる(では済まないと思う)ので口には決して出さない。

とりあえず未だに本を読んでいる彼女の近くのテーブル(既に読まれたであろう本が山積みになっている)に小悪魔さんに見繕って貰った本達をどさりと置く。

……しかし何冊読んでんだよ。

こんなに本なんて読んだら頭がバーンだっての。
どうやら平成の芥川龍之助発言は既に俺の頭から吹き飛んでいるらしい。

何はともあれ。パチュリーさんから少し離れた席に座り、机に腕枕で突っ伏して図書館での恒例事業、『昼寝』を嗜もうとしていたのだが。

「リュートと言ったわね。この本、貴方が読んだのかしら」

予想外に紫もや……パチュリーさんから先程俺が読んでいた本を手に持って俺に話し掛けてきていた。
突発的な事だったので少し動揺しつつ「そうですけど」と返事をする。序文辺りしか読んでないけどね。

「魔法使いにでもなる気なの?」
「いえ、全く」
「なら何故?」
「魔法って俺の能力に何か近しい物を感じるなあと思いまして」
「能力?」

能力と聞いた瞬間眼の色が変わった。何かヤバいスイッチ入った気がする。
俺への評価がどうでもいいヤツ→研究対象へと進化したと思う。

全く嬉しくもない。

「詳しく聞かせてもらえるかしら」

ほら。絶対魔法の研究対象だよ、俺。

「霊力を別の……「お迎えにあがりました」

ナイスタイミング咲夜さん。説明するの面倒臭いし何よりマッドサイエンティスト的な事をされそうで不安だった。

「じゃあ俺時間ないんで」

遊ぶ用に持ってきたボールをボウンボウンとつきながら図書館を出る。

「ちょっとッ待ちなさいッ!」

そんなに俺は逃したくない珍獣なのか。

「パチュリー様、申し訳ありません。早くしないと妹様が癇癪を起こしてしまうかもしれませんので」

こら、そこ。物騒な事言うな。すると研究対象を逃したくないのかパチュリーさんが咲夜さんを睨んで言った。

「どうして妹様が関係するのよ」
「実は……」

正にかくかくしかじか四角いナントカみたいに説明する咲夜さんであるが。おーい。時間圧してるんじゃないのか。

「そ、そうでした。では早く参りましょう」

それでよし。

「まあ今の所はいいわ。また今度来なさい」

また今度等、存在しないし時間があっても俺は行かんぞ。
さて、これから暴君妹の遊び相手を勤めなきゃいけんのだが……。不安になってきた。


……案ずるより産むが太しって言葉があるだろ。大丈夫だ俺。


※優しです
風邪ひいたり4日間超忙しいかったりで更新若干滞ってました。
未だ咳が治らない。
インフルエンザではないのが救いなんだけどなあ。

救いはないんですかぁ!?


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