東方凡人記:26話
タイムリミット一週間の宣言が出されてから既に4日経過。
その4日間何をしていたかと言うと、はっきり言うと何もしていない。
働き口を見つけ仕事を手伝いその日の手当てを貰って家帰って飯食って寝る。
まるで何も無かったかの様に過ごしていた。
里の人達や世話になった人達に最後の挨拶くらいはしておくべきだろうけど……。
それを行動にしてしまうとより一層帰らないといけない実感が沸くと言うか。
「だァァァァァ!!!」
この軟弱モノめ! 自分をブン殴ってやりたい! 俺は拳を握り締め自分を殴ろうとした――が、痛いのはイヤなのでやめた。
ごちゃごちゃ考えていても何の意味も無い。
話は一転するが、最近自分の身体が妖怪に近付いているのがなんとなく判ってきた。
札に霊力を込めたら普段の倍以上の霊力を注入できてしまったし、転んで膝を軽く擦りむいた時はすぐに血が止まり気がついたら傷痕が無いという現状だ。
それに普段持てなかった重い物を軽々持ててしまったり……やっぱりおかしいよな。
ふと、足元にある少し大きい石に目を見遣る。今なら砕けるんじゃね?
男なら石砕きとかは夢見た事があるだろ? えっ、無い? お前才能ないわ。
何の才能が無いんだよと自分自身にツッコミを入れながらゆっくりと深呼吸をして深く腰を落として拳を構える。
「邪ッ!! ちぇェりやァァァァ!!」
ドガッ!!
「……」
割れない。ていうか
「いッッてぇぇぇぇ!!」
右手の拳骨が割れる様に痛い。自らの骨を割らんとしてどうする。
痛む右手を抑えながら転げ回っていると、
「何をしているんだ……」
慧音さんがそこにはいた。
「安西先生」
と言うと有無を言わさず肩を掴まれた。
がしっと。え、これってもしかしなくても……
「慧音、だっ!!」
「ぎゃんっっ」
ガツーンと快音残してレフト前。(意味不明)
彼女は頭に鋼鉄でも仕込んでるんじゃないか問いたくなるくらいに石頭だ。
というか軽くふざけただけなのに酷すぎやしませんか。
「人の名前を間違えるのは失礼だぞ」
げふぅ。いや、ジョークって解るでしょう普通。それに貴女は。
「……半獣じゃないですか」
俺のささやかな反抗でぎりりと肩を掴む力が更に強くなる。
ま、まさかもう一発ですか!?
すぅ……と頭を振りかぶる彼女。どこまでタメる気なんだよ!? 本気で陥没するだろっ!
これ以上喰らったら本気で痛くて泣きそうなので回避を試みる……相手の慣性の力を利用するんだ!
まず肩に置かれた手を振り払い、ぶんっと振られた慧音さんの頭を手でいなす。
「ッ!?」
鳩が豆食べてら!(色々と違う)びっくりしてるぜ!
そして腰の回転を利用して後に力を全て逸らす!
「っておっとととと」
やはり特に訓練している訳でもないのに急に武術紛いの事をするのは無理がある訳で、バランスを崩して倒れこんでしまった。
「あいたたたた……」
カッコわりー。思い切り派手に転んでしまった。
とりあえず地に手をついて立ち上が……ろうとするが。
ふにゅり。
あれ、何この右手の柔らかい感触。右手の方へ視線を動かすと。
「……」
「……」
俺はある意味今までで一番顔が蒼白になった。
何故か慧音さんを押し倒す姿勢になっており、右手の位置が、
その……ゴホン、おいしい状況なのは間違いないのですが。
「言い残す事はあるか?」
すまし顔だが殺意のオーラを醸し出している彼女を見たら誰でも真っ青になるだろう。
「ご馳走様でしオヴぇッッ」
……不可抗力だ。決して俺は悪くない。押し倒された体制で繰り出されたとは思えない渾身のストレートを右の頬に受け、軽く吹き飛ぶ。
どさっ。
「げふっ」
そして母なる大地は浮いた俺の背中を満遍なく受け止める訳で。
「……全く、女性に対する接し方がまるでなっていないぞ」
「女性が思い切り頭突くのもどうかと」
「何か言ったか?」
「いいえ」
くそ、少し不利になったらこれだ。
とは言え、仮にも、その……胸に手を置いてしまったのだからもう少しそういうリアクションが欲しかった。
頬を真っ赤に染めてきゃあ! とかないの?
飛んでくるのはすまし顔でストレートって俺はどれだけギャルゲー補正がないんだよ。さっさと業者は俺に誰かがデレるパッチを送ってくれ。
「いつつつ……」
とにかく服についた砂を払いつつ立ち上がり、
「えと、故意では無いとはいえ先程のはすいませんでした」
謝っておかないと後が怖いので頭を下げた。
「いや……こちらこそすまない。溜まった仕事を昨日の晩からずっと消化していて気が立っていたのだ」
昨夜は満月だったからな、と続ける慧音さん。
確か彼女は満月時にはワーハクタクとかいうのに変身するらしい。その時には知力も上がるので利用しているとか。
ただ仕事を一気に消化しているのでやっぱりストレスが溜まるんだってさ。
手が早かったのは多分そのせいだ……頭が早い、か?
「最初にしょうもない事を言った俺が悪いっすよ、それに慧音さんから頭突きを喰らう最後の機会ですしね」
ハハ、と冗談交じりに笑う。
「最後の機会?」
しまったッッ!
「あの、ほら、今日から心機一転! 心を入れ替えて誠実に過ごそうと!」
手を左右にシパシパ動かして必死にジェスチャーを交えてごまかす。
「……何か隠していないか?」
訝しげな顔でじっと俺の眼を見る慧音さん。
「そそその様な事があろうはずもございません」
「そうか、それでは私はまだ仕事があるのでこれで失礼する」
ふう、危ない。というか帰ることがバレる要素なんて全くないんだけどな。
……そもそも俺はなんでこんなに必死になっているんだろうか。
というかまだ仕事終わってなかったんですね。お疲れさんです。しゃす。
「頑張って下さい」
「ああ」
労りの言葉をかけると微笑んで立ち去って行った。
ああ、この女神を拝めるのもこれで最後なのかね。外界に帰ってしまえば美人さんや美少女を拝む機会なんて滅多にないだろう。
先程の右手の感触を必死に思い出す。ぬぅぅん、燃え上がれ俺の小宇宙よ! と握り拳を作った。
「リュート様」
「ワアアアア!!」
急に声をかけられたのでビックリ仰天して跳ね上がる。
「邪な事考えてる時に声をかけやがって!!」
「それは口に出して言う台詞ではないかと」
「って、咲夜さん」
相変わらずのメイドメイドしい恰好の彼女が突然背後に現れていた。また時止めか。
「なんで接待モードなんですか」
「貴方を招待したいそうです」
「俺を? なんで? 誰が?」
トリプル疑問文。全く、こっちは幻想郷に居られるのは後3日だというのに。
別に何をしようとか目的なんて立ててないけどな!
「妹様が貴方を呼んでほしいと仰っていたそうです」
「どうしてこうなった」
そういや遊ぶ約束とかしちゃってたよねあばばばばば。正直こう言っちゃ悪いがフランドールには会いたくない。
また彼女がはっちゃけてしまえば俺が挽き肉になるか、中途半端に死ねば今度こそ妖怪になってしまう可能性もある。
「分かりました、今から準備します。少し待ってて下さい」
しかしそれを口に出せないのは俺の欠点なんだが。
いそいそと小屋に入り、身支度をすませる。
「……あ」
そうだ、新しい遊びを教えてやろうとか偉そうな事を言ってたんだ。
人生ゲームとか……ねぇよ。何かないかとそこら辺を捜索する。
「これでいいか」
比較的やわらかいボールが転がっているのを見つけたので手に取る。大きさは俺の顔より少し大きい程度だ。
これなら思い切り投げられても痛いかもしれんが大打撃にはならんだろう。ドッジボールでもサッカーでも適当にやればいいさ。
面倒事にならなきゃいいんだが、ね。たいていそう祈った時に限って何かに巻き込まれるのが俺なのだが。
「はふぅー」
気の抜けた溜息を一つ吐いて外で待っている瀟洒なメイドの元に気落ちしつつ向かった。
……そういえば瀟洒ってどういう意味だ?
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