東方凡人記:22話
スルル、シュッ。ガシャッジャキ。
かちかちかちかちかち。
スコッスルル、シュッガシャッジャキ。
かちかちかちかちかち。
―――嗚呼、暇だ。する事が無い。
さっきから何をしているかと言うと、
小屋片付けの時に見つけたピストルのマガジンを挿入しては引き金を引いてみて、抜いてはまたマガジンを挿入しては引き金を引いてみていた。
勿論空のマガジンなので弾は出ない。つまり手遊びである。この暇人め。
傍から見ると危険人物にしか見えません。まあ、外でやっててもエアガンにしか見えないだろうけどさ。更に幻想郷でこんなオートマチックピストルなんて知ってる人はいないだろうし。
今日は何処も手伝いは要らないみたいだしなあ。暇だ。お金稼げないじゃないか。
握っている物を見てふと思いついた。このピストルに霊力を込めて撃ってみればどうなるのだろうか。
寝転がっていた体を起こして小屋の外に出る。室内でやって本当に弾が出たらいけないしね……。
札に霊力を込める時のようにピストルに力を込める。
そして構えて引き金をゆっくりと引く。
――カチリ。
「……」
かちかちかちかちかち。
「寝よう」
不貞寝する事にした。寝よう、と考えたら一気に眠くなってきたし丁度良い。
春の暖かな陽気にあてられたのかもしれないな。
ふあーっとあくびをしながら小屋の戸に手をかけると心なしか『キィィィィン』という音が聞こえて来た。
……飛行機? 俺は振り返って確認してみると高速で黒い物体が近づいてきていた。
魔理沙がまた何処かに突貫でもしているのだろうか。
箒に乗って突進しルーミアに直撃した時の事を思い出してにやけていると、更に黒い粒が大きくなってこちらに近づいてきていた。
あれは魔理沙……じゃないな。何せ箒に乗っていないのですぐに判る。
するとあれは何なんだろう。まあ、俺には関係ないか。
しばらくボケーとその黒い物体を見ていたのだが、更に更に粒が大きくなって気づいた。
あれ、俺の方に向かってきてね?
「うわああっ」
未だハイスピードで直進してきている謎の飛行物体を見てこのままでは直撃して危険だと思った俺は即座に頭を抱えてしゃがみこんだ。
すると3秒後にズオオッと電車が通過した時のように風が通り過ぎ、何だよ今の飛行物体は……と思いながら膝についた砂を払って立ち上がった。
「ったく、UFOかっての」
「こんにちは! 清く正しい射命丸です!」
――あん?清原と直義の正露丸?
自分でも何を言っているのか分からなかった。少し混乱していたのである。
目の前には目の前には鴉の羽を生やした少女がいた。確か鴉天狗、というヤツだ。
さっきの黒い物体はコイツだったらしい。言うならば羽が黒い。
天狗は妖怪では珍しく人間の様に社会を築いていて、ええと……忘れた。
カメラとかそういった近代的な物を持っていて新聞とかを発行しているんだってね。
「で、鴉天狗の清原さんが何の用ですか」
「清原って誰ですか!?」
「さっき貴女が清原って言ってたじゃないですか」
俺はふと野球界の番長の事を思い浮かべていた。
「清く、正しい、射命丸文です!」
なんだ聞き間違えか。何故か名前の方も付け足してくれていた。
「で、清く正しい射命丸文さんが僕に何の用ですか」
寝ようとしていたのに。俺は不機嫌な様子を隠そうともせずぶっきら棒に言った。
「貴方は外来人のリュートさんでしたよね?」
すると全く気にしていないのかの様にスマイル(多分営業用)を振りまきながら答えていた。畜生め。
「まあそうですけど」
俺って意外と有名人なのか。有名になっても得な事は何一つ無い気がするが。
「貴方の取材をさせて下さい!」
「取材ぃ?」
はい! とその手にはペンと手帖が握られていた。どうして俺を取材するというのだ。
「はい、実は私は新聞を発行してまして……どうぞ」
とごそごそと文々。新聞というタイトルの新聞を取り出し、俺に渡してきた。
「あやあや。新聞……」
「ぶんぶんまる新聞です」
即座に修正された。彼女の名前から想定してあやと読むと思っていたのだが違ったらしい。そっちの方が可愛いじゃん。どうでもいいけど。
手に取った新聞の見出しに『謎の収入!? 博麗の巫女の食卓に変化!』と書かれていたが俺は見なかった事にした。まさか俺の5円で……?
後で読ませて貰います。そう言って俺の住居である小屋の中に新聞を放り込んだ。
「それで何故僕を取材したいと?」
「人里に変わった外来人が住み着いたと聞きまして」
「またか……」
またその情報か。その情報源は何処のどいつなんだ。
「早速お聞きしますが最近服をボロボロにして頭に包帯を巻いてよろよろと満身創痍で帰ってきたそうですが何があったんですか?」
早速答えたくない事を聞かれた。因みにもう傷は治ったので包帯は取れている、ちと怪我の治りが早い気がするが。
「山から崖に向けて紐なしバンジーをした所急に弾幕が飛んできて服がボロボロになって持参していた包帯を頭に巻きながら帰ってきたんです」
俺は起こってもいない事を次々と述べた。すると「ふむふむ」と言って手帖にペンを走らせる射命丸さん。
「ってそんな事ある訳ないじゃないですか!」
手帖の書いていたページをちぎってグシャグシャに丸めていた。おお、ナイスノリツッコミ。
「……次の質問に移ります」
納得いかないといった表情を俺に向けながらも諦めたみたいだ。答えたくない質問はさっきの様なゴリ押しでいいのかもしれない。
「どうぞどうぞ」
「貴方は紅魔館に行ったそうですが目的は?」
ペンの淵をコツコツと手帖の角に当てながら聞いてきた。
「無いです」
「……」
そんな眼で見られても。実際目的あって行った訳じゃないしね。
「本当ですって、ただ迷い込んで到着しただけです」
「ならどうして紅魔館で一泊したんですか?」
「夜は危ないので泊めてくれました」
本当は俺が泊めてくれと頼んだのだが。
「紅魔館の方が危ないのでは……」と呟いていたが急に眼を輝かせてこう言った。
「貴方は吸血鬼にも劣らない実力を持っているんですね!」
んな訳あるかよ。
「妖精すら未だに倒したことないですけど」
「……」
俺に話題性があると思って取材するのは間違っている。あくまで俺は凡人だ。
「残念ですけど俺は凡人なんで、期待に応えられる様な話は無いですよ」
まいったねと大げさに肩を竦める俺。
「私は……」
む?
「私は諦めませんよ!」
急に力強く言われた。
「な、何を……」
「私の勘が告げるんです、貴方はネタの塊だと!」
ビシッと指と俺の方へ指してくる射命丸さん。
ネタの塊て。何故か少し傷ついた。
「私は貴方の事を……」
絶対記事にして見せます! と告げるとビュオォ! という突風とともに飛び去って行ってしまった。
何なんだ一体……。また面倒臭いイベントを発生させてしまったのか。あ、頭が痛くなってきた……。
とりあえず俺は頭を抱えながら小屋に入り置いてある新聞をコノヤロウと蹴飛ばして退けると横になった。
寝よう。昼寝しよう。今日は特に労働もしていないのに疲れた。
が、人間ってのは不思議なもので、寝ようと思えば思う程色んな事を考えてしまい必然的に自分の睡眠を妨げてしまうのである。
羊を数えよう。俺は突拍子も無く考えた。
羊が1匹、羊が2匹。羊が3匹、羊が4匹。羊が5匹、羊が6匹。
…
……
………
羊が3597匹、羊が3598匹、羊が3599匹、羊が3600匹。
すると数えていた羊達が一斉に俺の方をギョロっとした眼で見てきた。
俺は驚いて後ろに下がると羊3600匹は突然俺目掛けて突進してきた。
「うわああ!!」
……変な夢を見た。
小屋の中にあるちゃぶ台に手を伸ばし、時計をつかんで引き寄せ時間を見る。
時刻は4時。因みに羊を数え始めたのが3時くらい。
羊1匹1秒とすると俺は丁度1時間寝たのか。いや、数えてる最中に寝てしまったからせいぜい40分くらい…?
二度寝しようとも考えたが悪夢(?)を見た後は心臓が冷えたような感覚で嫌に目が覚めてしまう。
これからは羊を数えるのはやめよう。あぁ、外に出ようっと。
「とは言っても外に出てもする事ないんだけどね」
お茶屋に行って長時間冷たいお茶だけで入り浸ろうか。
お茶屋に向かおうとした時に、上空に白と黒のモノクロカラーな服を来て箒に跨った魔法使いがいた。
別にこんなややこしい言い方しなくてもいいんだけど、うん。つまり魔理沙だ。
俺は「おーい」と両手を振って呼び止める。
するとこちらに気づいたのか一旦止まり、辺りを見回して俺の姿を確認した後にこちらの方に降りてきた。
「よう、魔理沙」
「何だリュートか。誰かと思ったぜ」
相変わらずのだぜだぜ口調の魔理沙。こいつは結構話し易くて安心するよ。
「それで私に何か用でもあるのか?」
「あぁ、悪い。特に用は無いけどただ呼び止めただけだ」
「なんだそりゃ」
仕方ないだろう。暇だったんだから。
「魔理沙は何処に行こうとしていたんだ?」
「白玉楼で宴会があるから今から行こうと思っていたんだ」
「宴会……だと……!?」
暇人なら飛びついても良いキーワードなんじゃないか。
前回とは違って今では妖怪に少なからずとも耐性もあるしゆっくり楽しくお酒も呑めそうだ。
「行きたそうな顔だな」
「安西先生、宴会がしたいです……」
「誰だよ」
気にするな。
「それでその白玉楼とやらは遠いのか?」
「私は別に遠く感じないが飛べない奴にとっては辛いだろうな」
そうか、飛べないと辛いかあ……俺はそう思いつつ魔理沙に念を込めて視線を送った。
ジー。
ジーー。
ジーーー。
「……乗っていくか?」
「アザーッス!」
やれやれだぜと呟くと魔理沙は少し前の方に座った。これは後ろの方へ座ってもいいという合図なのだろうか……ぶら下がり式はもう勘弁したい。
「あ、ちょっと待ってくれ」
俺はふと思い出した。
素早く小屋に戻ると酒瓶を抱えて戻ってきた。
「酒じゃないか」
「うむ。酒屋のおっちゃんがくれた。秘蔵の酒らしい」
おっちゃんは大切に飲めと言っていたが宴会の席でこそ酒は飲むべきだよな。
「へー……後で私にもくれよ」
「勿論」
そう言って俺は魔理沙の後ろに座り、がっしりと箒を掴んだ。
「じゃあ飛ぶぜ、掴まってろよ」
すると地を踏んでいた感触が無くなる。そして浮遊感。これだけは慣れない。前にも言ったかもしれないが股間がヒュィッ! っとなって不快なのだ。
男なら経験した事はあるだろう。ジェットコースターに乗った時とか。
あれこれ考えているとある程度上昇したらしく、一定の高さを保って進んでいた。
しかし空から風景を見るのは気分良いな! 風も心地よい!
「それにしても空を飛べるってのは羨ましいね」
今度どうにか能力を応用して飛ぶ練習をしてみようか。
「外界の奴等は飛べないのか?」
「そりゃ、箒なんかで空を飛んだら一大ニュースさ。それこそ新聞に一面を飾るくらいに」
「ふーん。不便だな」
「その分交通面は発達してるけどな……電車や飛行機に車。まあ人間が飛べたらそんな物要らなかったんだろうけど」
自動車からの排気ガス排出による地球温暖化問題を考えてみた。が、どうでもよくなった。
「そういや、白玉楼ってどんな所?」
思えば今から向かう場所の事を何も知らない。
「冥界だ」
「なん……だと……?」
冥界と言うと恐ろしい魔王やお化けを連想する。
「幻想郷だし居たとしてもどうせ幼女とかそこら辺だろ……」
が、俺の頭はもう捻くれていた。
「何か言ったか?」
「何でもない」
☆☆☆☆☆
特にあれから俺がバランスを崩して魔理沙に抱きついてしまうといったイベントもなく(願望である。が、そうなったら叩き落とされるフラグ)、俺は白玉楼とやらの地面を踏みしめていた。
整った庭、そこ等中咲き誇っている桜。桜がとても美しい。
あぁ、花見がメインの宴会か。俺は自分でポン、と掌を握りこぶしで叩き一人で納得していた。
「早く着過ぎたな、まだ始まって無い」
一人ごちる魔理沙である。
「宴会と言ったら夜がメインみたいなモンだしな」
「ま、先に寛いでおこうぜ」
ずいずいと進んでいく。おーい、ちょっと待って。置いていかないで、心細いから。
スタスタと進んでいく彼女を小走りで追いかけると少し先に2本の刀を帯刀している少女が忙しく宴会の準備をしていた。
二刀流か、かっけえ。俺はそう思った。着眼点が少し違う気もするが。
「よう、妖夢。一足先にお邪魔させてもらうぜ」
「妖々夢?」
「『よう、妖夢』だよ。異変じゃないんだから」
……異変って? それはさておき、今もせかせかと宴会の準備をしている彼女の名前は妖夢というらしい。
「貴女ですか。準備の邪魔さえしなければ好きにして下さい」
言われる前に既にずっかずっかと上がり込んでいく魔理沙。あの大胆さは俺にも少し分けて欲しい。
少し遠慮がちにお邪魔しますと小声で言い、一礼して上がる。
「この方は知り合いですか?」
妖夢さんは俺の方を一目見ると魔理沙に尋ねた。
「ああ。知り合いだ」
「魔理沙の親戚のリュートです。宜しくお願いします」
そう告げて軽く一礼した。
「何早速大嘘吐いてるんだ」
箒で殴られた。親戚じゃなくて兄の方が良かったのかな。
「クスクス……」
どうやら少しウケたみたいだ。少しボケてみて正解かもしれない。
するとすぐはっとした顔になって俺に軽く頭を下げて自己紹介してくれた。
「魂魄妖夢と言います。こちらこそ宜しくお願いします」
彼女は真面目系なタイプの人であるみたいだ。幻想郷では珍しいタイプであるかもしれない。
だってほら、魔理沙の様にガンガンいこうぜ的なヤツが多いし。
「何か今失礼な事を考えなかったか?」
そして勘もするどい。
……ん? フワーと妖夢さんの辺りを浮いている人魂みたいなのがいることに気がついた。なんぞ、これ。
元々好奇心旺盛な俺はそれに手を伸ばし……触れてみた。
「キャァッ!」
「うわっ!?」
すると急に妖夢さんが小さい悲鳴を上げたので俺は素早く手を引っ込めた。
「え、ええと……何だかすいません」
良く状況が理解できなかったがとりあえず謝った。
「これは私の半身ですので……。次からは気をつけて下さい」
阪神? どこぞの球団の事……?
「タイガースですか?」
「タ、タイガース……? いえ、半身です」
気がつくと魔理沙がケラケラと笑っており、あんだよテメェと一睨みすると可笑しそうに説明した。
「ソイツは半身半霊なんだ」
「半身半霊?すると……」
意味を理解すると少し青ざめた。つまり、あれか。女の子の身体に不用意に触れたというのか。どうせだったら半霊じゃなく半身の方に触れておけば……という考えはすぐに黙殺した。
「すいませんでしたァ!!」
俺は深く土下座した。海よりも深く土下座した。谷よりも深く土下座した。
「い、いえ、私は気にしてませんから。では準備してきますので」
するとそそくさと彼女は準備に戻った。
「災難だったな」
未だにカラカラと笑っている。ムカつく。
俺はバッと彼女から帽子を奪い取りかぶってみる。
「魔法使い」
「何バカみたいな事やってんだ、返せ」
すぐに奪い返されてしまった。少しかぶってみたかったんだよ、その帽子。
「あやややや、少し早く着いてしまったみたいですね。まだ始まっていませんよ」
「だからもう少しゆっくりしましょうって言ったじゃないですか」
変なやりとりをしている内にどうやら他の妖怪が来たらしい。
「誰か来たみたいだな」
「こんな早くにご苦労さんだぜ」
俺達にも当て嵌まるんだがな。
「お先にお邪魔させて貰いますか」
するとずっかずっかと入ってくる誰かさん2人組み。
どんな妖怪がやってくるのかと俺はその方向へ首を回すと――
「あ、魔理沙さんもいたんですか」
「ブン屋か」
「そちらの方は……あっ!」
今日見て間もない鴉天狗がそこにはいた。……こっち見るな手帖を出すなあっちへ行け。
傍らには犬耳っ娘を引き連れていた。今思い出したが前の宴会の時にセクハラされてなかったかこの娘。この鴉に。
ズンズンZUNと俺の方へスマイル(営業用)で近づいてくる鴉天狗を見て俺は悟った。
……この宴会も純粋に楽しむ事は無理そうだ。
俺の更新速度は恐らくここ辺りでピークを迎えたはず…。関係ないですが射命丸はまだ出す予定では無かったのですが先に書いておいた文章を見直してみて色々と今以上にグッダグダになっていたので全部消して書き直しました。故の登場であります。時間が勿体ねえ。
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