東方凡人記:19話
チュン、チュン。窓から朝日が差し込み、小鳥の囀りが聞こえてくる。
なんて清々しい朝だ。寝起きにもかかわらずかなりすっきりした頭でそう考え、大きくあくびをして起きた。
あー、それにしても。
「痛ぇ」
昨日咲夜さんにストレートされた鼻がまだ痛い。
確かにあんなゾンビっぽい状態で不用意に近づいた俺もいけなかったかもしれないが何も殴らなくても……。
……過ぎた事を考えても仕方がないか。シーツを蹴飛ばし、ベッドから跳ね起きる。
「生きてる、よな」
そう自分に問い掛けるのも無理はないだろう。あんな恐ろしい目にあって生きているのが奇跡なんじゃないか……?
考えながら弾幕が直撃し、大怪我したであろう後頭部を擦り、もさもさとした感触が。
包帯が巻かれているみたいだ。あの後に治療して尚且つ寝かせてくれたのだろう。結局彼女の仕事を増やしてしまった。いや、悪いことをした。とは言えナイスストレートのお詫びと考えればちょうど良いのかもしれない。
とりあえず思い切り伸びをして立ち上がる。ふむ、いやに体がスースーしますな。
「……ん?」
ワッツ!? 服がねぇ!?
そう、気がついたらパンツ一丁でした。
まさか、なぜ、どうして?! とあたふたしながら辺りを見ると小さいテーブルの上にキレイに畳まれた白いシャツ、黒い学生服のようなズボンがあり、更にその上にはメモが置いてあった。
因みに服の懐に入れていた札、財布等も横にあった。くしゃりとそのメモを手にとって読むと。
『何があったか知りませんが血塗れの服は洗濯しておきますので代わりの服を用意しましたのでどうぞ。 咲夜』
あ、咲夜さんがわざわざ服を脱がせて洗濯してくれたのか。面目ない。
「………」
3秒後に俺は羞恥心からベッドに飛び込み、枕に顔を埋めて足をバタつかせた。
これではお婿にいけない! 責任とって下さいよ! なんて事を考えていたが直後に空腹と言う名のボディブローを受けてすぐに停止した……腹減ったなぁ。
☆☆☆☆☆
置いてあった服に着替え、寝癖等身嗜みを整えた後にとりあえず朝食を頂戴しようと部屋を出た。
やっぱり俺には洋服が似合っている、多分。
はてさて、よく働く咲夜さんの事だ、今も熱心に仕事してあるであろう。ええと、食堂は一階かな? と階段を下り、少しその辺をうろついていると。
「……あら」
「ん?」
目を見開き口をポカンと開けた(直ぐさま普段の表情に戻ったが)レミリアさんがいた。何故俺の顔を見て驚いているんだ? そうか、頭の包帯だな。それより吸血鬼なのに朝起きてるのかよ。
と色々と考えたが態々言うのは憚られたので言葉を飲み込んで挨拶した。
「おはようございます」
「ええ、おはよう」
ニヤリと笑いながら返事をする紅魔館の当主。
何故笑うんだ? ……俺にこの服似合ってないのかな。ダサいの? 似合ってないの?
自分には洋服が似合っていると思った手前だから少し自信が無くなる。待て。服を逆に着ているかもしれない。服を摘んで前後逆ではないかと確認する。
……大丈夫だ。しかしこの行動は中々怪しいらしく、訝しげな顔で見られていた。
「何をしているのかしら」
「いえ、何も」
ビシッと姿勢を整え向き直る。半ば呆れている様子だ。ふっ、その表情はもう見慣れたぜ。
『グゥゥゥゥゥ』
「……」
おいアホっ腹少し黙れ。いつもこいつは要らん時に鳴りやがる。
「これから朝食なんだけれども、良ければ一緒にどう?」
朝飯だったら大歓迎です。
「レミリアさんさえ良ければ」
決まりね、と言うとスタスタ歩きだした。自分もそれに倣って蝙蝠の羽の生えた小さな少女に着いていく。
ぱたぱたと嬉しそうに羽が動いているのだが。……犬の尻尾じゃあるまいし、気のせいか。
そこまで考えた時ドアが目の前に現れ、額に直撃し更に勢いで倒れて後頭部を打ちつけて俺は悶絶した、が紳士はそんな事で怯まないので直ぐに立ち上がり余裕を見せると――
「咲夜、朝食を。ついでにこのバカにも」
華麗にスルーされ且つ文字通りバカにされた。
非難の声をあげようとしたが目の前に咲夜さんがいて着替えの件を思い出して軽く凹みながら既に席に着いているレミリアさんの向かい側の席に着いた。
丁寧に用意されたフォークや皿、そしてティーカップ。(行った事は数回しかないが)高級レストランに行った時を思い出し、更に腹が減ってくる。ただそこにある食器を見るだけで既に満足していた。いや、食べないと満足できないけど。
「お嬢様、リュート様。飲み物の方は紅茶かコーヒーどちらに致しますか」
今更であるが、~様と言われるのはなんだかむず痒い。俺はそんなに偉くない。
「そうね……じゃあコーヒーにして頂戴」
「じゃあ俺もコーヒーでお願いします」
コーヒーかぁ、久しぶりだなあ。人里では緑茶ばっか飲んでたし。里でコーヒーが流通していない訳ではないんだけど、緑茶の方があそこでは雰囲気にあっているというか。
「かしこまりました」
一言だけ言うと咲夜さんはパッと消えてしまった。時間を停止させたのか。一々能力使わなくても。
後は朝食が出来るのを待つだけなのだが。待ち時間に何の気無しにフォークを皿に当ててチンチンと音を出して遊ぼうとしたがレミリアさんがいるし止めた。
あぁ、腹減った……何の気なしに向かい側にいるレミリアさんをちらりと見る。見た目は子供なのにどこか落ち着いていて、ひとつひとつの動作から無駄に優雅である。
俺よりずっと大人に見えてくるよ、実際かなり年上なんだろうけどさ。ボーっと肘をつきながら見ていると不意に目が合った。
おっと、肘をつくのはマナーが悪い。直ぐにピシりと背筋を伸ばし膝の上に手を置き、「どや!!」と言わんばかりの顔で向かい側にいる彼女を見据える。
「さっきからジロジロ見て、私の顔に何か付いてる?」
「そっちか」
マナー云々の事で何か言われるかと思った。
「何がよ」
「なんでもないです」
意味が解らないといった顔で溜息をつく。気にしたら負けさ。
「しかし……」
ん?
「お前はどうやって『死』という運命を回避したのかしら?」
「はい?」
まーたとんちんかんな事を言い出したぞ。これだから幻想郷の連中は……。
「何よその顔は」
「いえ、別に」
俺のまーた始まったよという表情を見てレミリアさんは眉を顰めた。
「まあ、いいわ。私が運命を操れるというのは知っているわよね?」
「そりゃ前日に聞きましたしそんな能力だと忘れもしませんよ」
そこまでチートだとな。くそっ能力自慢かッくそっ!
「運命を操れるとしたら当然運命を見る事もできるのよ」
「……へえ」
そーなのかー。俺はどうでもよさげに呟いた。
「昨日あの時にお前が死ぬ運命を見たのだけれど」
「な、なんだってー!!」
が、流石にこのセリフには反応せざるを得なかった。確かに昨日は死亡フラグ乱立させてたけれど。
「死因は何か解るわよね?」
「わ、解りません」
「惚けているのがバレバレよ、フランと遊んでたでしょう昨日。違う?」
全部知っているみたいだ。まてよ、すると……。
「じゃあ貴女がそうなるように僕の運命を弄ったんですか」
そうするととんでもない話だ。
「いいえ、私は運命を見ただけ。お前が死ぬという運命を」
「だったら僕はもう死んでいると?」
それこそとんでもない。凡人からゾンビに転生なんてシャレになってない。身も心もフレッシュな若者になんて事を。
「生きているわ。何故かね」
何故かって……それは人は何故生きているか、という哲学的な話に展開するのでしょうか。……無いな。
「だったら警告して助けてくれてもいいじゃないですか」
「口で言ってもどうせ行っただろうに。それになんでも運命を操るのは面白くないわ」
……おっしゃる通りで。
「で、どうやってフランから逃げたの?」
「どうって言われましても」
言葉責めめで泣かせました! フヒヒ! なんて言えないし。
レミリアさんは妹思いっぽいからそんな事言ったら何されるか判らん。えーと、ちょっとフィルターをかけてと……。
「がむしゃらに説得したら助かりました」
「嘘ね」
うぐっ。
「まあいいわ、フランには良い刺激になったでしょうし」
刺激て。俺にはむしろ衝撃波がとんできたんですけど。
というか、そもそもフランドールの事が嫌いじゃないなら彼女と一緒に遊べばいいのに。
「レミリアさんはフランドールと遊んだりしな……いえ、なんでもないです」
『アイツは私を地下に閉じ込めた』とフランドールの言葉を思い出して、しまったと軽率な言葉を口走ってしまった自分を蹴り飛ばしたくなった。
「それが姉妹の本当の在り方であるかもしれないけれど」
レミリアさんは少し悲しそうな顔をしていて、ああどうして俺はこう阿呆な発言ばかりするのだろうかと思った。
「でも、いつかは」
「気休めなんていらない、調子に乗るな」
調子には乗ってないのけど。
「……すいません」
気がつくと湯気がほくほくとたっているコーヒー、スープ。そしてパンにサラダが置いてあった。朝ごはんのフルコースだ。
またまた時を止めて咲夜さんが置いたのだ。空気を読んだのであろうか。
「でも礼は言っておくわ」
俺から視線を外しつつ呟く様に言うのである。
なんだ。ツンデレか。はい、違いますね。
「それじゃあ頂きましょう」
「はい。いただきます」
コーヒーの香りが鼻をくすぐる。
レミリアさんと俺がほぼ同時にカップを手にとる。ふとまた目が合い何故かニヤ、と笑う彼女。
フ、これがカリスマ溢れた食事か。いいだろう。俺もニヤリと笑い返し同時にカップに口をつける
「「にがあい……」」
そして涙目になり同時に砂糖とミルクに手を伸ばした二人がいた。
☆☆☆☆☆
朝食をとり終えた俺は食後のデザートにありついていた。
デザートはプリンで、「はは、こんな女子供が食うようなデザートで俺が……」と思っていたのだが口に入れた直後にうんまぁぁぁぁい! と叫んでしまった。他意はない。
全く、朝からこんな豪勢な……けしからん。うまいからいいけど。
しかし……。にこにこ笑いながら本当に嬉しそうに食べているレミリアさんを見て「誰だお前は!?」と言いたくなった。
先程のコーヒーの流れといいもしかすると彼女も意外と幼いのか? でも、本当にこのプリンうまいな。お掃除お料理お洗濯パーフェクトゥでメイドな咲夜さんに死角はあるのだろうか。
「うー☆」
「!?」
バッとプリンを食う手を止めてレミリアさんを見る。
「どうした?」
デザートを食べ終えて優雅にナフキンで口を拭いていた。
「いえ、なんでもないです」
こんなカリスマ溢れる方がそんな可愛い声を上げる筈がない。俺はそう信じることにした。残りのプリンをスプーンをかつかつと早く動かせて口にかきこんだ。
「ご馳走様でした、とても美味しかったです」
そういって何時の間にか戻ってきていた咲夜さんに頭を下げる。
「お気に召したのなら光栄です」
……俺はどこのお偉方だよ。咲夜さんのお客様扱いには未だ慣れない。
でもメイド喫茶とかのメイドとは違ってモノホンのメイドさんなんだよなあ。しかもこんなに美人さんだし。ここがもしそういう店なら何十万もとられるんだろうか。巷の喫茶店ではオムライスに変な念力を注入しただけで数千円とられるし。
ズズズと砂糖とミルクであまったるくなったコーヒーをすすりながら考える。もしかすると今結構貴重な体験をしているかもしれない。
幻想郷に来た時点で今更か、と呟きながらコーヒーカップをカチャ、と置く。
頭の中でしょうもない事を次々と考えているとレミリアさんが立ち上がって伸びをしていた。
「食後の運動でもしようかしら」
「外でランニングでもするんですか」
恐らく、太陽がギラギラ輝いているであろう。
「それは遠まわしに死ねと?」
ギロ、と軽く睨んで来る眼前のロリ吸血鬼。
「滅相もない」
外人がするような大げさな仕草で返答する。やっぱり吸血鬼は太陽がダメなのか。まあ、大体解ってたけど。
「最近運動不足なのよ」
「太ったんですか……冗談、冗談!!」
女性に対しての禁忌を言い放つとレミリアさんが拳を握ったのですかさず謝罪。
んなこと言われても相槌を打つくらいしかできない。運動不足なら夜にランニングでもしたら? いろいろとスッキリしますよ。
「それで提案があるのだけれど」
「はい?」
「私と弾幕ご「絶対嫌だ」
続く言葉はすぐに解ったので遮る。俺の死亡フラグを増やすんじゃねえ。
「大丈夫。フランから逃げれたのなら死なないわ。手加減もするし」
ふざけんな。初っ端の弾幕で俺は死にかけたんだよ。しかも実力で戦闘を回避できた訳じゃないし。
俺は咲夜さんにペットショップにいるチワワのような潤んだ眼でひたすらに助けて的な視線を送ったのだが
「へえ、妹様から……。だから昨日はあんな怪我を……」
何だか勝手に納得され、しかもこいつは意外とできる的な視線を逆に送り返されてしまった。
ええい!!! 俺は今まで後手に回ってきたからいつも痛い目に遭ってきたんだ。
つまり先手をとると? ……恐らくこうなる!
俺の必殺技→相手は先手をとられて焦る→直撃→俺TUEEEEEE おわり。……いける!
でもなぁ。俺の必殺技は直撃してもなんだか効き目ないのである。そこが問題だ。
フランドールに俺のハイテンションな霊撃を喰らわせても余裕の表情だ、結構防御力が違いますよ状態だ。
むむむ。
となると弱点を突くしかない。基本弱点というのは正中線に集まっている。
鼻、鼻の下……人中だったかな、顎、喉、水月(鳩尾)、最後に金的。相手が男ならある一点を集中的に狙うのに……まぁ、それはいいとして。
狙うなら正中線を集中して精密に霊弾を当てれば。ポケットに詰め込んだ札に手を伸ばした時に気付く。
(吸血鬼に正中線とか関係なくね?)
ごもっともである。なら、吸血鬼は日光が苦手。外に逃げる……は無理。
どうすればいいんだ……。そうか、土下座すればいいんじゃねとか考えた時、昨日の出来事を思い出し閃く。
『外にでようとしても雨を降らされるし――』
……そうだ。フランドールは外に出ようとしたら『雨』を降らされたと言っていた。
水が弱点? でも、ただの水ではいけないだろう。ならば、雨をイメージして撃ち込めばいいのではないか?
試してみる価値は大いにある。炎、光と放てたなら水だって可能なはずだ。ポケットに突っ込んだ札を握りしめ、力を込める。
考える時間は終わりだ。
今出来た対吸血鬼スペルカード! 喰らえッ! ババッと札を取り出し構える。
予想通り俺から仕掛けるとは思っていなかったらしく鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている。
「散水――」
「散水……? しまった、流れ水か!」
流れ水って何……? だがもう遅い!
「スプリンクラー!!」
ジョボジョボボタボタボタ。
「「「……」」」
場にいた三人の空気が凍った。おかしい。何かがおかしい。
俺のイメージでは名前の通りスプリンクラーみたいに相手に降り注ぐ感じだったんだけどさ。水が出たのはいいんだ。紛れも無い成功だ。
だけど勢いよく前に噴出されずまとまって真下にボチャボチャ落ちるって何? ……もしかして、水を噴出させるにはそれこそ風の属性と混ぜてやらないとこうなってしまうのだろうか。
「今のカットで……」
「く、くっく……」
あぁもうロリ吸血鬼カリスマ保とうと笑い堪えんな。おい、咲夜さんアンタまで顔赤いぞ。
「少々、失礼します」
無駄に真顔でやや硬い歩き方(かつ早足)で退室していく咲夜さん。レミリアさんに至っては既に腹を抱えて大笑いしている。
咲夜さんが出たドアの方から「くっくっく……」と聞こえるのは空耳だと信じたい。どうして俺は真剣になればなるほど笑いがとれるのだろう。
その問いに答える者は当然誰もいない。
…
……
………
場面は変わって自室。一日だけ泊めて貰う約束だったので紅魔館を出て人里に帰るのだ。
その為荷物を纏めて(と言っても服を着替えて先程まで借りていた服を返却する程度だが)帰る準備をしていた。所謂チェックアウトだ。
因みにレミリアさんとは弾幕ごっこせずに済んだ。元々からかう為に言ってみただけらしくやる気がなかったらしい。その後戻ってきた咲夜さんの顔は気のせいか清々しいものであった……いつか頭から水ぶっかけるぞ、この野郎。
さて、もう準備は出来たのだがその前に寄る所があるのだ。
そう。暴君妹様の地下室だ。一応彼女にちゃんと謝っておかねば。でもまた弾幕撃ち込まれてもなあ……やっぱりやめようかな。
だが俺の足はいつも考えと逆方向に動くらしくフランドールの部屋の前に着いていた。男は度胸だ。俺は根性無しだ。しかし無駄に分厚いドアだけど彼女の能力だと全く効果ないんだよな。
でもどうやってこのドア開けようか……。鉄の分厚いドアに鎖に錠前。ドア越しに声をかけてみよう。
「おーい、フランドール。聞こえてるか?」
……
返事はない。
「たいした用事ではないんだけど、昨日はごめん。俺はもう帰るから。それだけだ」
簡単にそれだけ言うと踵を返して帰ろうとすると。
『ガギッバキン』
また例の音(恐らくドアを破壊する音)がし、ギョッとして振り返るとやっぱり俺よりずっと背の小さい少女がいた。あーあーまたドアぶっこわして。ここが賃貸なら出て行く時にお金いっぱいとられちゃうよ? まったく。
「……帰るの?」
「あ、ああ。もとより一泊二日のつもりだったからな」
若干緊張しつつも言葉を返す。
「どうしてここに来たの?」
「ああ、謝っておこうと思って」
「謝る?」
「うん。ちゃんと遊んでやれなくて悪かった」
そう言い、頭を下げる。そして数秒した後、顔を上げると。ぷくーっと膨れっ面のフランドールが。頬を突付きたい衝動に駆られたが堪える。
「だめ」
「なっ!?」
俺の全身全霊の謝罪を!?
「だって私の事を弱いって言ったんだもん」
「それはその場のノリだって、悪かったって」
「だめ」
「フランドールさんマジパねぇっす最強っすね」
「だめ」
「俺超弱い」
「だめ」
「……」
「だめ」
何も言ってねえよ。何だこの言葉の応酬は。
「フランドール、じゃあどうしたら許してくれるのさ」
「また遊んでくれる?」
「なん……だと……?」
1番無理な願いが来ました。自分が安全な遊びならなんでもやってやるけど……。
「だめ?」
「ぐはっ」
何その上目遣い。やめろおい。
「分かった、それで許してくれるなら」
「やった! それじゃ……」
「ストォーップ!!」
バッと掌を突き出すポーズと共に先に大声でけん制する。
「今日は無理だ」
「どうして?」
だからその上目遣いを止めろと言っている。
「もう帰るしな、それに俺は弾幕ごっこはできないから別の遊びを考える時間をくれ」
「弾幕ごっこと別の遊び……?」
うむ、と頷く。別の遊び、という単語に反応したのか羽がぱたぱたと動きだした。……やっぱり感情と連動しているのか?
「何時になるか判らんけどまたここに来た時に遊んでやるから、な?」
「……本当?」
「本当と書いてマジ」
「嘘だったら……」
手を前に出してぎゅっと握りこぶしを作るフランドール。……はい、嘘にならないようにします。
「そ、それじゃあなフランドール」
「うん、じゃあね」
ぶはぁー。あー、怖かったー、あー嘔吐しそう。溜めていた息を吐き出して地下室から出ようとすると。
「あ!」
「!?」
突然フランドールが何か思いついたかの様な声を出した。今度は一体なんだ。
「これからはフランドールじゃなくてフランって呼んでね」
フ……フラン? レミリアさんのように呼べと?
数秒間自分の中で微妙な葛藤がありつつも。
「分かった、じゃあな……フラン」
何故か恥ずかしい。まぁ、フランドールより短くて呼びやすいけれども。
「えへへ、じゃあねリュート!」
というとバターンと音をたててドアを閉めて部屋に走って帰っていった。
元気すぎるのも問題だな。確かに。頭をガリガリと掻いてさっさとその場を去った。
☆☆☆☆☆
一通り挨拶を終えた俺は館の外にいた。
「それじゃあありがとうございました咲夜さん」
「ええ、気をつけてね」
おろ、敬語じゃない。
「また招待するような事があればお客様扱いするわよ」
「今の喋り方のが自然ですよ?」
「あら、そう」
ハハハ、と軽く笑いながら門まで歩く。そうだ、美鈴さんにも挨拶しないとな、そう考えて門まで小走りで近付くと。
「もう食べられませんよ咲夜さんえへへ」
……シエスタしてる門番が居た。
俺はとりあえず咲夜さんからペンを借りて額に肉と書くと、彼女はグッジョブと言わんばかりに親指を立てた。
「お嬢様も楽しんでいたみたいだしまた歓迎するわ」
「その時はお願いします」
次招待する時は美味しいゴハンだけ食べて帰りたいものだが。とにかく、さっさと帰ろう。
さらば紅魔館! と俺は里に向かうべく森へ走り出した。
−−−−−−−−−−−−−−
おまけ
「ふあー……」
よく寝ました。
そう考えながらあくびをして意識を覚醒させる。目の前には恐るべきメイド長がいるのに。
「寝、寝てませんよ!」
まずい。昨日の件もあってお仕置きも激化するハズです。ど、どうしよう……。
「クスクス、そうね」
あれ? どうやら珍しく咲夜さんは機嫌が良いみたいです。
「そ、そういえばリュートさんは?」
「帰ったわ、中々面白い子だったわね」
そう言うと私をみてクスリと微笑む咲夜さん。リュートさんは咲夜さんに気に入られたのでしょうか?
でも私の額の方へ視線が集中しているのは何故でしょう。
「それじゃ、次からは寝ないようにね」
「は、はい!」
するとぱっと消える彼女。時を止めてまた仕事に戻ったのでしょう。
さて、私も頑張らないと!
そしてその日に黒白の魔法使いが本目当てに飛び込んだのだが美鈴はそれを見事に撃退した。その時の美鈴は動きもさることながら、相手を困惑させる新たな技を使ったという。
黒白の魔法使いはこう述べたという。
「額に肉は反則だぜ……」
この出来事は後に宴会で語り継がれた。
……主にネタとして。
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