東方凡人記:17話
「大体貴方は――」
ぐちぐちぐちぐち。
「そう、勉学を疎かに――」
ぐちぐちぐーちぐち。えぇと、何分経ったっけ?
「聞いているのですか!!」
「聞いています!」
手に持った板の様な物を俺に突きつける目の前の緑髪の少女。……危ない危ない。ふぅ、と心の中で溜息を大きく吐く。
「小町! 貴女は……」
「んぁ? ……聞いてました聞いてました!」
小町、と呼ばれた女性は先程まで夢見心地……シエスタ中だったらしく、それを悟られない様にするため必死に弁解しているが……なんというかバレバレです。
こまっちゃん、ドンマイ。俺はそう呟いた。すると緑髪の少女が板に何かを書き始めていた。
失礼。展開が読めないだろうに。実は俺も説教のせいで色々と頭が混乱している。えぇと、ゆっくり思い出してみるとするか……。
…
……
………
…………
「うん……?」
何時の間に寝ていたんだ俺は。先ず立ち上がり思い切りバンザイするような形で伸びをする。
「くぅぅぅーーー……ブハァー! 良く寝たァ!!!!」
……。
「じゃねえよ!! 何処だよここ!!」
起きたら違う所にいるのは幻想郷では良くある事らしい。ここは……どうやら川らしい。つーかどう見ても川です。
はて、どうしたものか。とりあえず妖怪に襲われちゃ元も子もないな。とりあえず札に霊力を……。
「ってねえよ! 俺の札が!」
なぜ?! どうして! 落としたのか!? 何処に!?
待て、何かあるぞ! 懐を弄って探していると……。巾着袋が出てきた。なんだよこれ。
開いてみると中にはチャラチャラお金が入っていた。はてな。俺はがま口財布に金を入れていたハズだが。
しかも博麗神社にその場のノリ(というか金銭感覚が狂っていた)で5円も入れてしまい今月厳しかったのだが――うは、これで何とかなるぞ。
「いや、札がなきゃダメだろJK(常識的に考えて)!!!」
付近に落としてしまったのかもしれない。ていうか何で俺はこんな所で寝ていたんだ?
「うむむ……む?」
少し首を傾げて考えていたらすぐ近くにツインテールで赤毛の女性が豪快にも昼寝していた。気持ちよく昼寝している彼女には悪いが訊いてみよう。
「すいません、起きて下さい」
「んぁ……?」
……無防備すぎないかおい。
「あ、新しく来なすった幽霊かい、すまなかったね」
「あぁん?」
「ん、珍しいねえ。幽霊が喋ってるじゃないか!」
なんだ、また頭のネジが緩んでいる妖怪(?)か。こりゃ話を聞いてもらえそうにないぞ。
「……ってどこ行ってるのさ!」
また厄介なのに絡まれた。俺は早く家に帰りたい。
「人里に帰ろうかと。気がついたらこんな所にいたもんですから。ここは何処ですか?」
「三途の川だよ。あたいは小野塚小町って言うんだ。アンタは?」
「こりゃ丁寧にどうも。リュートっていいます」
なんだ、意外と話せる人(妖怪?)じゃないか。外基地扱いしてごめんなさい。
「ってハァ!!??」
静かだった辺り一面に俺の声が響き渡る。
「お前三途の川っていいかげにゃことしゃべらゃってんりゃねえぞ!!」
「まず落ち着いてゆっくり話すことから始めようか」
盛大に舌が絡まった。
「失礼。小町さん……でしたよね、三途の川って言いました? 俺の聞き間違えだと良いのですが」
「聞き間違えじゃないさ。ま、リュートみたいに死んだ事に気がついてない幽霊は結構いるし、どう説明していいやら……」
と、ボリボリ頭を掻く彼女。おい待てコラ。
「死んだって――」
俺が何時死んだって言うんだ。と言葉を紡ごうとしたが頭の中に俺がここに来る前の光景がフラッシュバックされた。
ええと、確か紅魔館でフランドールと弾幕ごっこをして――っ! 全ての事を思い出した俺は一瞬顔が青ざめたが何故かすぐに落ち着くことが出来た。
「思い出したって顔だね」
「ええ」
「じゃ、渡し舟で案内してやるから寄越しな、渡し賃」
「へ?」
「渡し賃だよ、持ってるだろ?」
ほらほら、と手を出して何かを要求する彼女。こいつ……!
「騙されんぞ賊め!! 貴様はツインテールというカツラを被ったモヒカン野郎だ!!」
「はぁ?」
「どうせ船とか言っといてそれはバギーで『ヒャッハー!』とか言って度々里を襲っているんだろう!! そしてその村の水を……」
「アタイを野盗か何かと勘違いしていないか」
大体バギーってなんだい、と続ける。そうか、ここは世紀末でもなんでもないか……。やっぱりフランドールの弾幕で死んだのか。
確かにあの血の量は半端なかったし、納得は出来る。
「すみません。いつもの癖で暴走していました。幾ら出せばいいんですか」
「そりゃ、全部さ」
「俺の生活費ッ……」
俺っ……完全に破滅っ……泥沼っ……!
人を殺せそうな程にアゴが尖がりそうな思考である。
「どちらにしろ死んだら生活費とか関係ないと思うんだがねぇ」
「それもそうだ」
じゃらっと金の入った巾着袋を渡す。
「お、意外とそこそこ入ってるじゃないか」
「人によって量とか違うんですか?」
「生前に積んだ善行とかで量が比例するんだ、徳が高い人物程量が多い」
へぇー。……意外って何?
「じゃあ逆に悪い事ばっかりしてたら量は減ると」
「少ないと川の距離が長くなる」
ふーん。よく解らん。で、さっきから気にかかるんだけど。
「船渡しって何すか?」
「閻魔様の所まで運んでやるのさ」
閻魔……だと……?
「ここって悪人だけが来る所じゃない……っすよね?」
俺は生前悪行を詰んだ覚えは無い。閻魔様にどやされるなんて勘弁だ。
「違う違う。なんか閻魔ってのでおっかないのを想像してるんだろうがそんなに気張らなくても大丈夫さ」
本当かよ……。ヒゲ生やしてガハハハ言ってるだろ絶対。そして更に気にかかる事が。さっきから抱えてるぐんにゃり湾曲してる長柄のそれは何なのだろうか。
「それは何ですか」
「あぁ、鎌だよ、鎌」
「何故そんな物騒な物を」
「そりゃ、アタイは死神だから」
なんと!!
「さ゛んねん! わたし の ほ゛うけん は ここ て゛ おわってしまった!」
「……どうしたのさ」
「言ってみたかっただけです」
死んだら死神さんが出て来ると言うのはあながち嘘ではなかったようです。これで俺も『しんのゆうしゃ(故)』ですね。
ふふふ、こんな美人さんな死神なら歓迎だぜ。着物っぽい服から豊満な……その……胸が見えましてね……ふふ。下品にもその……。
「どうして急に前傾姿勢になっているのさ」
「清く正しい青少年の葛藤を表す姿勢です」
いかん。俺は紳士だ。訳が分からないと言ったように肩を竦めた小町さん。そのまま理解しないでいてくれ。
「まぁ、死んだのにそこまで余裕あるなら簡単に成仏できるだろうね」
「そうすか」
「無関心だねぇ」
「……いや、あんまり死んだ気がしないんですよ」
確かに死んだというのは直ぐ理解できた。だが、
「心なしか体温ある気がするんですが」
そりゃなんかオカシイ。幽霊って物凄く冷たいそうだけれど。
「死んで肉体から離れたら身体が精神に依存するからね」
「成る程、思い込みで体温があるんスか」
「あー……多分そんな感じだね」
テキトーに返事をする小町さん。ふむ、肉体で思い出したが札とか金は全部『あっち』にあるのか…。
「それじゃあ、もういいかい?」
それまで地べたに座って話していたのだが小町さん(……こまっちゃんでいいや。)はすっくと立ち上がった。
「オーケー、こまっちゃん」
「こ、こまっちゃん……?」
「いいあだ名だろう!」
死んだせいか何か吹っ切れている俺であった。
「……なんでもいいけどさ」
何故か面倒くさそうな顔をしている。
「とにかく乗りな! あたいの三途のタイタニック号に!」
「沈むのかよ!?」
でまぁ、そんなこんなで船に乗ったのだが。
「リュートの死因ってなんだい?」
「今日いきなり死んだ奴に聞くかソレ……。別にいいけど」
「はは、悪いね」
で、かくかくしかじかと紅魔館でフランドールと弾幕ごっこ(一方的な処刑)をした事を語ったのだが。
「勇気があるというかバカというか」
バカです、サーセン。
「正直、見た目で相手を嘗めてたな、あれほど幼女には気をつけろと自分に言い聞かせていたのに」
関係ないが『貴様は中国武術を嘗めたッッ!』と言う台詞がすぐ浮かんだが煙のように散っていった。
「川を見てるとさながら道頓堀に飛び込む阪神ファンのように飛び込みたい衝動に駆られるね」
「意味が解らないが飛び込むと沈んだまま浮かんでこないよ」
「……まじで?」
まじで。と返すこまっちゃん。危ない、死んだせいでテンションがおかしくなっていた。
後少しでホップステップジャンプ……かーるいす! する所だった。
どうやらこの死神は死亡フラグを回避してくれるらしい。もう死んでいるが。
……でも死んだのに浮かんでこないって落ちたらどうなるんだろう。想像したら物凄く怖い。
「着いたよ」
「お、到着ですかい」
やべ、閻魔サマと後少しで御対面ですか……緊張してきた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫さ」
「だ、大丈夫さ。ビークール。俺はいつも紳士だ」
俺は最強、俺は最強。自分自身に言い聞かせて暗示をかける。
「さ、ここだ」
「もう着いたの!?」
どうやら自己暗示をかけるのに集中しすぎたらしい。もう着いてしまった。心の準備すら出来てねぇよ!
「もう、って言われてもねぇ……映姫様、変わった幽霊を連れてきましたよー!」
バン! と勢いよく扉を開けるこまっちゃん。ちょ、おま、それなりの入り方ってモンが……!
「入りなさい」
澄み渡る、凜とした声が聞こえてきた。仕方なくすごすごと縮こまりながら入る。ちらり、と声のする方向を見た。
俺は『ハァー……』と溜息を一つついた。
……だって、閻魔サマがこれまた美少女なんだからサ。いかついオッサンをイメージしてたわ。
幻想郷は美少女率高し、良い事だ。でも、美少女に限って――
「人の顔を見るなり溜息をつくなんて失礼ですね」
「こ、これは失礼しました」
――たいてい面倒臭いのだ。
後ろを見るとアチャー的な顔をして額に手を当てているこまっちゃんがいた。そして退出していった。おい、逃げるな。
いかん、流石に初対面の人に溜息は失礼だった。しかも相手は閻魔様である。
「ふむ。喋れる幽霊ですか、珍しい」
なんだか知らんがセーフらしい。別の方向に気が向いてくれて良かった。つーか幽霊が話せるのは珍しいのか?
「あ、どうも……リュートと申します」
無難に自己紹介をする。
「幻想郷の閻魔を担当している四季・映姫・ヤマザナドゥです」
「し、シキ・エーキ・シャバダバ……」
「ヤマザナドゥです」
やべっ名前を聞き間違るとは何たる失態。俺は悪くない、悪いのはその長い名前だ。顔をバシッと叩き謎の気合いを入れる。
ええと、シキ・エーキ……。
「山田さん」
すると後ろの扉から「クックック……アッハッハッハッ」とくぐもった声が聞こえてきた。こまっちゃん。覗いてたのね。
「小町!!」
と、閻魔様……エーキさんが一喝する。するとガタンッと物音がした。
「貴女も入っておきなさい」
ギィ……と心細い音を出しながらやっちまった的な顔をしながら入って来るこまっちゃん。
……ドンマイ。
「そこで正座しなさい」
どこの昭和的教師だ。
「貴方もです」
ってうぇぇぇ!? 俺もかよ! ……って言葉は封殺して二人並んで正座する。逆らったら酷い目に逢いそうだし。
「貴方達二人共……いい度胸してますねぇ」
特に貴女は! と言いながら手に持った板の様な物でバシッとこまっちゃんの頭を叩く。
「きゃんっ!」
予想外な可愛い悲鳴が聞けました。……じゃなくて。大変です。閻魔様はサディズムです。このままでは俺も別の道に目覚めて――
とか考えながら閻魔様の方へ向き直ると何か小さな鏡をこちらに向けていた。……なんぞ、あれは。
すると向けていた鏡を再度手に取り、鏡をまじまじと見る閻魔様。身嗜みは大丈夫と思いますよ?
「本名鈴木流斗、外来人ですか」
「なっ――」
何故分かった!? 外来人はともかく鈴木という苗字は誰にも話してはいない。
「あの鏡の力さ」
「鏡?」
こそこそとこまっちゃんが耳打ちをしてきた。吐息が耳にかかってこそばゆい。
「あの鏡に今までの行動が全て映されるのさ」
なんというプライバシーの侵害。全国の邪気眼使いよ、真っ当になったとしても結局はお前らの黒歴史は掘り返されるぞ。
「鈴木流斗、貴方は――」
☆☆☆☆☆
そして冒頭文に繋がると言う訳だ。思い出したぜ。
『バシィン!!!』
ドガン! と地面に突っ伏してダウンするこまっちゃん。ちょ、さっきと威力が全然違う。どうやらあの棒に何かを書き込む事で火力があがるらしい。
こまっちゃん、生きてるか? つつつ、と横を見て彼女の安否を確かめる。……ピク、ピクと痙攣している。無茶しやがって……。
「さ、続けますよ」
俺は未だに痙攣しているこまっちゃんを横目に引き攣った笑顔で「イエス、マム」と返事した。
…
……
………
…………
「――それが、貴方が最期に積める善行です」
「……有難うございました」
長かった話もようやくフィナーレを迎えた。……長かった。いや、永かった。気がつけばこまっちゃんも復活していた。すげぇタフだ。
因みに説教の内容は勉強を真面目に→親を大事に→名前は間違えるな、そして名前はきちんと名乗れ→でも子供の命を救ったのはどんな目的であれ評価しよう。
と言ったモノであった。要訳すると俺は輪廻の輪に加われるそうだ。うーん、輪廻転生、ねぇ。自分が自分でなくなる様で正直、怖い。でも、地獄行きでなくて良かったのだろう。そこは嬉しい。
「良かったじゃないか」
俺の心の中を読むな。
「あぁ、ありがとう」
……だけど。
「両親や世話になった人達に最期の挨拶が出来ないなんてなんだか嫌だな……」
母さん、父さん。今頃何してるだろうか。向こうでは俺はトラックに轢かれてすでに死んだ事にされているのであろうか。もう死んでるけど。
それに一番世話になった慧音さん。魔理沙や霊夢に、襲われたがチルノやルーミア。そして紅魔館のメンツ。大した接点は無かったがなんだか寂しい。
「……仕方ないさ、死人に口無しと言うだろう?」
「思っきし喋ってるけどな」
やめだ、やめ。何だかセンチな気分になってくる。
「もうお喋りはそこまでです。それでは冥界に送りますよ」
映姫さん(名前覚えた)が話の流れを止める。め、冥界? もしかしてそれこそ大きな金棒持った怖いオッサンとかいるんじゃないか。
いやぁ、でも地獄行きじゃない訳だから天国的な感じでキレイなねーちゃんとか待ってたりしてぇ。ぐえっへっへえ。
冥界良いとこ一度はおいで、酒は美味いしねーちゃんはキレ……ってうお!?
「あ、足が!」
さらさらと砂が散っていくかのように足から自分の身体が崩れていく。嫌だナニコレ怖い。
「なっ!?」
と素っ頓狂な声をあげたのは予想外にも映姫さん。どうしたんですか、と言う前に俺の身体はさらさらと風に飛ばされるように散ってしまった。
ふう。いい最終回……いえ、なんでもないです。しかし東方で霖之助さん以外に男の妖怪っているのだろうか。……一応妖忌おじいちゃんがいるか。
まぁ、この2人以外描写が無いだけで居るんでしょうけど。
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