東方凡人記:16話
さて、レミリアさんの妹がどんな子なのか確かめるために彼女がいる地下室とやらを探しているのだが、俺は忘れていた。
「館広いんだよな……」
そう。広すぎるのである。つーか敷地面積と内部の広さあってねーだろなんだよこの館。無駄に赤いし。紅魔館だから紅い? ……どうでもいいわい。
俺の泊めて貰っている部屋が2階だから……。とりあえず1階に下りよう。
トントンと階段を下りている時に辺りを見渡してみたのだが、なんだかメイド妖精さんずっと遊び倒してないか? 多分休憩時間だよな? うん、そうだよな?
でも、さっきから仕事をしている妖精を見かけない。何故。
「まさか咲夜さんが紅魔館の仕事全て一人でこなしてたりして」
まっさかー、んなわけないよな! と頭を掻きながら一人呟く。
「リュート様が手伝って頂けるとこちらも仕事が減って助かるのですが」
「うわっ!!!」
気がついたら目の前にフッと瞬間移動して現れた――いや、時を止めたのか――咲夜さんがいた。
「ビビるわぁ!」
某レスリングの外人ばりのエセ日本語で叫ぶ。
「申し訳ございません」
そういってクスクス笑う咲夜さん。くそ、最初からからかう気だったのか。
「ゴホン……まぁ何か簡単な仕事があれば手伝うよ。一応泊めてもらってる身だし」
「いえ、冗談で言ってみただけです」
「そうですかい、それはそうと仕事をしている妖精さんが一人(一匹?)もいないのは気のせいかな、俺の」
俺の見えない所できっと掃除やら何やらをこなしているに違いないけれど一応気になるので。
「気のせいではありません」
「失礼、俺の耳がおかしくなったようだ。もう一度言ってくれ」
「気のせいではありません」
重要な事なので2回言ってもらいました。
「はぁ? じゃあこの館の掃除やら洗濯やら料理やら誰がやってんのさ!」
「私ですわ」
妖精達がしっかり手伝ってくれればもっと仕事が楽になるのですが、と続ける。冗談は能力だけにしろよ。
「おいおい……流石にそんなジョークには引っかからないぜ。大体ね……」
ツー、と床の端を指でなぞる。そしてビシッと彼女に指先を突き出した。
「ほら、こんな床の隅っこまで綺麗にされてるしこんな広い館の掃除を一人でできるもんか」
フッと論破した俺は得意げな顔になった。騙されんよ、そんな嘘では。
「先ほど館の掃除は終えましたが、私一人で」
はいはいワロスワロス……と言いたかったが、明らかに嘘を吐いている顔ではないのである。俺は嘘を見抜く才能なんてないのだが何故か嘘はついていない、と自信をもって言えるほど確信したのだ。
「まさか、時を止めて」
「はい。そうですけど」
パシッと俺は掌で口元を覆って俺は不意に涙と鼻水が溢れ出そうになるのを堪えた。このメイドは毎日こんなハードな仕事をこなしていたのだ。
1日8時間以上働いてはいけないとかいうけどそういう次元ではないのだ。時を止めてこんな広い館を掃除し、そして洗濯や料理も一人で本当にこなしているに違いない。
一体どれほどの時間を必要とするのであろうか。そして肝心のメイド妖精達は誰も手伝ってはくれない。
咲夜さん、アンタはメイドやない……スーパーパーフェクトメイドやで……。
「あの……どうかしましたか?」
突然背を向けて体を震わせている俺に少々困惑して声をかける咲夜さん。
「失礼しましたッッ! タメ語ですいませんでしたッッ!」
「え、あの……」
「僕が手伝える事があったらなんでもしますから!!」
「いえ、貴方はお客様なのでそういった事をさせる訳には……」
ダメだ。これ以上彼女と話していると俺の涙腺が爆発してしまう。
「では邪魔してすいませんでしたッッ」
そう言うと彼女に一礼して走り出す。もう俺の涙腺は限界だった。
他人の事情で涙を流すなんて……俺も人の子だったというわけか。
「何コイツ気持ち悪い」とか言われかねん事を考えつつ、まず顔を洗う為にお手洗いを探して走り回っていた。
探していると妖精メイドを見つけたので「お手洗いは何処にあるこのおサボり野郎!!!」と、怒気を含めながら叫ぶとひっ! とか言いながら向こうの扉を指差した。なるほど、あっちか。
…
……
………
「ふぅ」
顔を洗い、ついでに用を足したら先程までに暴走した精神を落ち着かせる事ができた。
「今思えばタダの変質者じゃねえか……」
勝手に興奮して涙流しながら「お手洗いは何処だ!?」なんて叫ばれたら俺だってビビるわ。そして3秒後に通報する。まぁいい、終わったことは水に流そう。トイレなだけに。
さて落ち着いた所で地下室を探そうじゃないか。忘れていた訳ではない。どうやって探すか。妖精メイドを見かけたら尋ねてみるか……?
……でも咲夜さんが近づくなって言っていたし妖精メイドもそれくらい把握しているだろう。変に聞いたら誤解されそうだよなぁ。
オッスオラ客。地下室に案内してくれ! とかホザいてたら怪しまれるに違いない。
だったら……あ、そうだ。そこまで考えた時に頭の上で豆電球が光ったような気がした。
タイミングも良く丁度妖精メイドも見つけた。
「ちょっと、ゴメン。下の階にいける階段はないかな?」
地下室っていう単語を出すからいけないんだ。妖精は頭が弱いとか誰かが言っていた気がするし多分大丈夫だろう。
するとあっちとでも言いたげな感じに指をさしたのでよしきた! と言わんばかりにガッツポーズをとり、軽く礼をして走り出す。すると妖精メイドが指し示した道が合っていたみたいで恐らく地下室に通じるであろう階段を発見した。
「ここが きょうふへの いりぐちというわけか」
気がつくと某死神と親友の真の勇者のセリフを口にしてしまっていた。元気すぎて遊んではいけない妹とは何なのであろうか。
姉であるレミリアさんから連想してみる。妹と似ているのであろうか?
いや。戸○呂(弟)ならぬ酢華阿烈戸(妹)みたいな感じで恐ろしくゴツいのであろうか。
俺の怒りがァァァァ100%中のォォォォとか言ってる姿を想像した。……そうなると元気すぎて危ないというのは納得できる。やはり引き返したほうが良いのだろうか。
だが俺がそう思考していても足は勝手に動いてしまうのだ。
「ここが地下か」
階段を下りた後、最初に思ったのは真っ暗だということだ。何か懐中電灯みたいな物は……そうだ!
札から炎を出せたように光を出すことはできるんじゃあないか。懐から札を一枚取り出すと、この前炎を出した時のような感じでイメージしてみた。
「光、光と」
すると懐中電灯程光ってはいないがポウ、と札が光を放った。頼りない光源だが十分だ。
よし、これで探せるぞ……と考えた矢先目の前にやたらと分厚そうな扉が目の前にあった。
まさか扉の先にレミリアさんの妹がいるのだろうか。中を覗けるドアスコープ的な穴はないのか……? と札を扉に近づけ探してみる。
無い。次はその扉に手を触れてみた。ヒヤリ、冷たい感触がした。そしてそのまま扉に耳を当て、中の様子を窺おうとしたが。
「誰かいるの?」
なっ!?
女の子の声が聞こえてきたので急いで柱の影に隠れる。物音なんて全くたててなかったハズだが何故分かったのだろうか。吸血鬼の勘、というやつか?
すると『ガギッ!』といった変な効果音が聞こえて来たので耳を澄ましているとギィィィィと古臭い扉が開くような音が次いで聞こえて来る。
そこまでのん気に思考していたが5秒後には体の芯までが冷えるような感覚が襲ってきた。
スタ、スタ、スタ。
俺はまさかあんな分厚い扉を開けてくる想像なんてしていなかったが、どうやらその最悪な方へ事が転がったらしい。
こちらに気づくなという俺の願いも空しく足音は更に大きくなっていく。
「どうしてそこで一人でかくれんぼしてるの?」
ギクッと体を跳ね上げ、恐る恐る姿を見てみる。するとお決まりの如く自分より背丈が小さい少女が自分の目に映るのであった。
戸愚呂(弟)とかそんな感じにゴツくもなく、むしろ華奢である。
ただ背中の羽はレミリアさんの様な蝙蝠の羽ではなく枯れ枝に様々な色の水晶を吊るした様な変わった物だった。……こんな羽でも空を飛べるのか?
「最近暗がりで一人かくれんぼするのが流行なんだ」
落ち着いた俺は何時もの様に有りもしないバレバレな嘘を言う。
「へぇ……そうなんだ。楽しい?」
真面目に返答されても。
「ごめん。冗談、楽しいはずがない」
「じゃあどうしてそこで隠れてたの?」
くそぅ……痛い所突いて来やがるこの幼女め。
『君を一目見るためさっ』なんてサムズアップしながら恥ずかしい事を言ってみる……なんて考えて見たがやめた。
「ちょっと君のお姉さんに頼んでこの館に泊めて貰ってるんだが……地下に続く階段があったから気になって。それで誰か来たと思って怒られたら嫌だから隠れてたのさ」
俺が今考えついた中のベストアンサーだ。
「ふーん、お姉様が」
どうやら上手く誤魔化せたみたいだ。
「僕はリュート。君は?」
そう言って握手を求める為、手を差し出す。
「フランドール・スカーレット」
それだけ呟くと普通に握手をしてくれた。わ、すげえ手ぇ冷たい。冷え症か?
馬鹿力で手を握り潰されるとかそんな事もなく、普通に握手を終えた。普通の娘じゃないか。確かに病弱でなく元気そうな子だが……。
もしかして妹想いで俺がフランドールに変な事をすると思ってあんな事を言ったのであろう。大丈夫、俺は正しい意味で子供には割と優しいから。
「ね…… ……」
いやでも最初は遊んでもらおうかしら的な事を言っていたような?
「ねぇ…… リ……!」
はて。それだと矛盾するよな。
「ねぇ! リュートったら!」
耳元で叫ばれ我に返る。キーンとした耳を手で押さえながら返答する。
「あ、悪い。ちょっと考え事をしていた」
一度何か考えると考え終わるまで人の話が一切頭に入らないのは俺の短所であり長所だ。相手からするとスルーされ続けて鬱陶しいに違いない。
「私と遊ぼうよ」
「遊ぶ?」
「うん、毎日この部屋で一人だから暇なの」
そりゃわんぱくお嬢様には辛かろうて。レミリアさんも何を考えてこんな幼女を地下室に閉じ込めているのだか。
「とは言っても僕が女の子の遊びについて行けるかどうか」
「大丈夫、男の子でも出来る遊びだから」
はて……? 男でも出来る遊び? んなもんドッジボールでもサッカーでも身体のハンデはともあれたくさんあるけど……。
「こっち来て!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
遊び相手が出来たのが嬉しいのか笑顔で俺の手を引っ張って走り出す。そして着いた先は……やたらと広い部屋でした。
何もない部屋だ。運動するにはもってこいの部屋であるがなんと殺風景な部屋であろうか。
運動は面倒臭いぜ。でも、少しくらいなら付き合ってやってもいいだろう。
「で、どうすればいいんだ?」
とフランドールに近づこうとすると「そこくらいで待ってて」と手で制止された。
「……?」
一体どんな遊びだろうか。一定距離離れた後にフランドールが空を飛び、「じゃあ始めるよ!」と叫んだ。
「いや、『始めるよ!』とか言われても」
俺は空を飛びながら何かをする遊びを知らない。と思っていたが次の瞬間俺は納得した。
彼女の体の中心から360度全方向に弾を次々に撃ち出した。
「あー。なるほど、『ごっこ』遊びね。うん。『弾幕ごっこ』ね……って無理ーーーっ!!!」
俺の遊んでやるという良心を返せよ! と思いながら弾幕の隙間に入り込み避ける。
こちらの方に近づくにつれ、弾の隙間も広がっていくので避けるのは簡単であった。
とは言え俺を襲っているのは『弾』ではなく『弾幕』。1発避けただけでいい気になっていたのだが第2、第3波が撃ち出されていくのを見て真っ青になった。
「うおおおおおおお!!」
サイドステップを繰り返し本当にギリギリで弾幕を避け続ける。
ひとまず避け切った後次の弾幕を警戒し身構えていると、弾が止んでいた。フランドールは霊弾を撃つ構えをといて俺に疑問を投げかけた。
「どうして飛ばないの?」
「飛べるかっ!!」
「でも霊夢や魔理沙は飛んでたよ」
「あのハイスペック共と一緒にするな、俺は只の人間だから飛べるハズもない」
話から察するに霊夢や魔理沙と弾幕ごっこをした経験があるらしい。あの2人、もしかすると俺が思っていたより相当強いのかもしれない。
「ふーん……」
ふぅ、ようやく俺が弾幕ごっこなんて到底できないと理解してくれたようだ。あのまま続けていたらどうなることやらだぜ。
「ま、いっか」
「よくねえよ!!!」
俺の悲痛な叫びも何も無い部屋で虚しく響いただけでまたさっきと同じような弾幕がバシュン、バシュンと撃ち出されていた。
このまま避け続けるだけでは埒が明かないので俺は懐に手をやった。この状況を打破するには一撃で決めるしかない。
ならば、俺の必殺技『ハイテンションかめはめ波』(今命名)を使うしかない。
よし、一撃で仕留めてやんよ! 無理矢理自分に気合を入れ、テンションを上げる。もうやけくそになってるしか見えないだろう。
ただしこれが避けられてしまっては本末転倒だ。必殺必中しないといけない。
フランドールはそこら辺をちょろちょろと少しずつ移動しながら撃ち出しているので、こちらに近づいてきた時に俺から接近して撃ち込めば……当たる、筈。
避けつつ札に力を込める。テンションを上げているのに何故か落ち着いて避けれている自分がいる。
矛盾しているが落ち着いているのにテンションが上がっているのだ。
ばっばっと避けながらフランドールが近付くのをひたすら待つ。撃った後の事は今考えなくていい、今はぶつける事に全てを集中しろ。……来た! 今が好機!!
自分の考えていた絶好のチャンスが来たこともあり、さらに霊力を札――スペルカード――に込めて走り出す。俺が避け続けていたのに急に前に出たので少し驚いているフランドール。
――喰らえッ!!
「亀符『ハイテンションかめはめ波』ッ!!」
ズゴオオオオオオオオッと音を出しながら俺の想像していた通りの太いレーザーが発射される。
そしてそのまま俺のかめはめ波はフランドールを飲み込み、そのままそのエネルギーは後方の壁に激突。爆発した。マスタースパークには遠いがそれでもかなりの威力が出ているハズだ。
「やったかッ!?」
もくもくと出てくる煙で対象が見えない。そこで俺はひとつ思い出した事がある。
必殺技を撃つ→煙がもくもく→「やったか!?」→煙がなくなる→やってない。……まぁ漫画の話さ。
あの威力であの小さな体に直撃したんだ、妖怪だから死にはしないだろうが気絶くらいは――ッ!!
煙がひいたと同時に少しだけ服に傷がつきながら満面の笑み――狂気染みたようにも見えた――を浮かべたフランドールがいかにもガードしたと言わんばかりに腕を交差させていた。
「なん……だと……?」
漫画でありがちなセリフが考えなくても勝手に口に出る。
「魔理沙のマスタースパークに似てるけど威力が低いかな」
どうやらフランドールは彼女のマスタースパークを受けた事があるらしい。という事は耐えた事があるのか、アレを。……最初から俺に勝ち目は無かったのか。
「じゃあ、今度はこっちの番」
「ちッ!」
フランドールはカードを1枚取り出し、宣言。幻想郷に来て初めて俺に向けられたスペルカードである。
「禁忌『クランベリートラップ』」
すぐにフランドールから華麗なバックステッポ……もといバックステップで離れる。どう飛んでくるのかと自分の考えを巡らせていたが――
「ん?」
六望星の魔法陣の様な物が部屋の周りを回り始めた。なんなんだコレは、と少しの間ぼうっと眺めていたが、すると魔法陣が部屋の端を移動しながら弾を撃ち出していた。
陣が1つだけならば俺も避けられただろうが、陣が2つ、3つ、4つと増え、勿論1つの陣だけから弾が発射されるのではなく全ての陣から紫や青の光弾が発射されていた。
自分の想像していた以上の事が起こると人間は数秒固まるらしいがその身を持って実感した。そして、我に返った時。
手遅れだった。既に避ける隙間の無い紫と青の弾幕が俺に向かって次々と直進してきている。
「しまッ――」
突然、自分の視界が目の前で写真のフラッシュライトを焚かれたかの様に光った。
なんだ? 今の光は一体。いや、それよりもどうして目の前に壁があるんだ。急に自分の目の前に壁が現れたのだ。この壁が俺を弾幕から守ってくれたのか。
いやに紅い壁だ。どうやって俺の前に出現したのだろうか? 俺は手をついて立ち上がろうとすると――。立ち上がる? 俺は立っているじゃないか。
自分自身に問いかける。そこまで考えて自分がようやく倒れているのに気がついた。
「う……そ……だ」
力が入らない。目の前の壁、いや、床がとても紅いのは自分の血で染め上げてしまったからであった。
視界がぼやける。チルノに気絶させられた時はこんな感じでは無かった。四肢に力を込める。力が入らない。本当に俺についているのは自分の手足か?と問い詰めたくなる程だった。
必死の思いで体を仰向けにして、最期に見たものは――
つまらなさそうにして俺を見下ろすフランドールの顔であった。
いい最終回だった。…はい、ごめんなさい。まだ続きます。
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