東方凡人記:15話
スタスタスタ。
カツカツカツ。
「……」
あれ? なんでこんなに気まずいの?
咲夜さんにお嬢様の居る場所へ案内してもらい、挨拶して宿泊許可をもらいに行っているのだが。
なんだかこの人にどんな話題振っていいかわかんねえよ。咲夜さんは喋らないし……。
ゴンッ。
「いだっ」
「何してるのよ」
いかん、考えすぎてドアが眼前に迫っているのにも気付かなかった。最近よく頭ぶつけるな。いつか陥没するぞ、頭。
「ボーっとしてたらぶつけた」
「どうでもいいけどそこの部屋よ、お嬢様がいるのは」
うそん!?
「い、今のはノックだ。昔の紳士は頭突きでノックをしていたらしい」
「何処の野蛮人よ」
俺とした事がとんだ失態を犯してしまったようだな。……でも、後はドアを開けて挨拶して許可貰うだけだ。
緊張してきた。運動会の徒競走で自分の順番が回ってきた時くらいに緊張する。自分で言っておいてなんだが度合がわからない。
コンコン。ノックノック。
俺は優雅に手の甲をドアへむけ、コンコンと叩いた。よし、これは完璧なノック。するとドアの向こう側から声が聞こえてきた。
「入れ」
うわ、偉そう。いや、偉いのか?
「失礼します」
一言失礼して両手でドアを開けると音をたてない様に開け、そしてゆっくりとしめた。……うーん、面接みたい。
すると目の前にはひじ掛けにヒジを置き、手をアゴの下に置いて、足を組んでいかにも高級そうな椅子に座っている蝙蝠の羽を生やした少女がいた。
見た目は幼い――。だが、同時に気品、そして仕草からは幼さを感じさせない大人びた空気を醸し出していた。この堂々たる風貌、どこか惹かれそうでもある――これが、カリスマとでも言うのだろうか。
「お前が紅魔館に泊まりたいと言っている人里の変わり者?」
「変わり者……? 僕の事ですか」
失敬な。幻想郷の連中と比べるまでもなく俺は至極真っ当だ。
「私が吸血鬼と言う事は知っていない訳じゃあないわよね」
「ええ、勿論」
「だとしたら何故紅魔館に泊まりたいのかしら」
「もう暗くて人里への道中妖怪が出そうで危険だから……というのが理由です」
うん、危ないよこの時間の外は。夜の森で襲ってきたルーミア、チルノ、名も知らない夜雀の事を連想した。
「悪魔が住まう館は危険っていう思考回路はないのかしら」
「うぐっ」
そういえばそうだ。ある意味飛んで火に入る夏の虫ってやつじゃないのさ。
「えっと、自己紹介がまだでしたね。僕はリュートと申します」
とりあえず自己紹介で場の微妙な空気を誤魔化す。
「この館……紅魔館の領主、『永遠に紅い幼き月』レミリア・スカーレットよ」
……何そのちょっとかっこいいフレーズ。
「して、リュートと言ったわね」
「はい」
「泊まっても構わないわ」
「やっぱダメかぁ……ってマジすか?」
断られると思っていたが意外に口から出たのは許可の言葉。
「嫌ならいいけれど」
「嫌じゃないですお嬢様!」
こんなにあっさり承諾してくれるとは少し意外。意地悪されてもっとごちゃごちゃに話が縺れるかと思った。見た目で人(妖怪)は判断しちゃいけませんね!
俺はこれから泊まる紅魔館のもてなしに想いを馳せた。お風呂は大きいかな。食事は和? 中? やっぱり洋?
浮かれる俺を目前にして更に言葉を足すレミリア・スカーレット嬢。
「――ただ、ひとつ条件があるわ」
条件……だと……? そうか、単純だ。
俺は人間、彼女は吸血鬼。この二つの符号が意味する物はすぐに解る。
「や、優しくしてね」
「気持ちが悪い」
斬って捨てられた。気持ち悪いって言うな、俺の一大決心を返せ。
「血じゃないんですか」
「お前がB型なら吸ってあげてもいいわよ?」
にやり、と一際尖った犬歯をチラつかせる。
どうやらB型が好みらしい。何型かによって味が変わるのか……? 関係ないけどO型の人は蚊に1番刺されやすいらしい。
「A型ですが几帳面ではないです」
「何の話よ……で、条件だけれど」
……ごくり。その条件とは一体なんだろう、と俺は唾を飲んだ。
「妹の遊び相手をして頂戴」
「へ? 妹さん?」
「お嬢様、流石にそれは……」
と、咲夜さんが急に間に割って入った。居たのか。全然気づかなかった。
「冗談よ、咲夜」
冗談なのか。どんな妹さんなのか俺は知らないけど、
「別に僕は遊び相手程度なら構いませんよ? ……もしかして酷いくらいに病弱な妹さんであるとか?」
ベッドの上で大人しくしており、コホコホと咳き込む見知らぬ妹さんをイメージした。うは、テラ王道パターン。そしてそこから始まるラヴストーリィ……あ、でもこの人の妹じゃ幼いか。
「むしろ真逆ね」
「え?」
真逆とは一体。
「ま、今言った事は忘れて頂戴。宿泊を許可してあげるわ、咲夜、部屋に案内してあげなさい」
「かしこまりました、お嬢様」
とりあえず許可を得たので細かい事は気にしないでおこう。
「流石お嬢様、カリスマ全開!」
俺は調子に乗って囃し立てた。見た目は子供、頭脳は大人……いや少し違うな。
「当然よ」
ふふん、と胸を張っていばるレミリアさん。そこは謙虚にいって欲しかった。
「では、失礼しました」
頭を下げて部屋から出る。先ほど言っていたレミリアさんの妹の事が気になる。
病弱……といったらむしろ真逆と彼女は言った。元気すぎて会ってはいけない……? ますます分からん。元気=会ってはいけないなんて式も習った覚えはない。
「うむむむ」
ゴッ。
「ぐおおお……」
先導していた咲夜さんが開けてくれたドアにまたもや額をぶつけていた。
またかよと言わんばかりな視線となんだコイツという冷めた視線が混ざり合って回避不能な弾幕が俺のハートを直撃どころかオーバーキル寸前である。
俺はキリッとした表情で立ち直り、一言。
「昔の紳士はメイドさんが開けてくれたドアに額をぶつけるのが礼儀だったそうだ」
無視された。覚えてろ。
☆☆☆☆☆
咲夜さんにお客様専用であろう一室に案内された。何だかここら辺の景色は見た覚えがある、と思い咲夜さんに訊いて見る。
「この部屋ってさっき俺が寝てた部屋か」
「そうですわ」
……何その口調。という視線を投げかけて見ると、
「一時的とは言え貴方は紅魔館の客人、粗相のないようにしないといけません」
「あー……なるほど、ていうか言いたい事がよく解りましたね」
「紅魔館の従者として当然の事です」
紅魔館パねえ。ていうか俺もつられて敬語になっちまう。敬語の方が宜しいのだろうか。
おっと、そんな事より妹さんの事でも聞いてみるか。
「そういえばさっきレミリアさんの妹さんがどうのこうのって言ってたけど、妹さんってどんな子なの?」
あんな中途半端なままじゃ気になるだろJK。(常識的に考えて)
「なんと言いますか……」
説明し辛そうにしている咲夜さん。そんなに難しい注文だったのか?
「開けてはいけない箱のような物です……かね」
「パンドラの箱?」
ええ。と軽くうなずく咲夜さん。パンドラの箱というと、確か神話からきていて(神話の内容は詳しく知らないが)
『開けてはいけないもの』、『禍いをもたらすために触れてはいけないもの』だとか言われている。
「して、妹さんは何処にいるの?」
「妹様は地下室にいます。……くれぐれも近づかないように。それでは私は職務に戻ります、何か用があれば申し付けて下さい」
と言うとふッと消えてしまった。時を止める能力か……羨ましい、妬ましい、嫉むわ。
俺だって何か能力が開花すればなぁ……『テンションの高低で霊力が変動される程度の能力』ではない事を祈る。ただの特性だよね? ね?
ごほん、話が逸れてしまった。パンドラの箱……開けてはいけないと思っていても開けてしまうのが人間の好奇心。
確か神話の方でも好奇心に負けて箱を開けてエラい事になったそうだ。俺こと鈴木流斗は好奇心は人一倍強いと自分でも自覚している。
こんな話を聞いて行動せずにいられない。要は箱を開けなければいいのだ。地下室とやらを軽く見学すればいいだけなのだ。
「そうと決まれば目指せ、地下室だ」
善は急げというべきか、せっせともう俺の足は地下室を目指していた。何処にあるか分からんが階段を探せばいいさ――。だが、俺は1番重要な事を忘れていた。『箱を開けなければいい』と言ったが、クリスマスの朝に起きてサンタさんからのプレゼントが横に綺麗に包装されて置いてあり、近くのメモに「絶対に開けるな」と書いてあっても開封せずにいられるであろうか?
……俺には、無理だ。
ケータイでポチポチするよりパソコンの方がものすごい楽な事に気がついた・・・いや、パソコンで執筆する機会は全然ないのだけれども。
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