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今夜のように晴れた晩、ブレイズはいそいそと出掛けていってしまう。
その行動は、まるでパティスを避けているように思えた。
「何処に行くの?」
問いかけるパティスに、ブレイズは少し困ったような笑みを浮かべて
「ちょっと、な?」
そう返すのが常になっていた。
そのたびにパティスがどんなに不安になるかなんてお構いなしのその態度に、苛立ちと戸惑いが増していく。
燭台の薄明かりに照らされた寂しい廊下を、愛犬ナスターを引き連れてホトホトと歩いていると、思い出したくないのに数時間前ブレイズを送り出した時のやりとりが蘇ってきた。
「ブレイズの鈍感……」
悲しくて思わずそう呟くと、背後を歩いていたナスターが指に鼻先を押し付けてきた。
「……?」
その気配に足元を見遣ると、心配そうに顔を覗きこむ愛犬の視線とぶつかった。
「ナスター……」
そういえばブレイズ、出かける際に使い魔であるナスターを伴ったことがない。
それは一人屋敷に取り残されるパティスのことをおもんばかってのことなのか、それとももっと別の意味があるのか、パティスには分からない。
分からないけれど、今こうして自分の様子を伺っているナスターからは不安そうな表情が見てとれた。
「心配かけてごめんね」
思わずしゃがみ込むと、ナスターの頭を撫でてやる。その所作に、嬉しそうに目を細めるナスター。
「……そっか」
そこでパティスは気付いた。
ナスターが一緒ならば屋敷の中にこもっている必要はないのだということに。
ブレイズばかりが出かけているのは何だかズルイ。
自分も、太陽の高い昼間は屋敷の外に出て一人で色々散策しているくせに、そこのところは棚上げしてそんな風に思う。
「お散歩行こっか?」
少しふらふらするけれど、大したことはない。屋敷の中で穴を塞ぐ作業をするより、その方が気持ちが上向く気がした。
「窓を塞ぐのなんて、何も今じゃなくても出来るんだし」
ブレイズ抜きで、闇の底のような夜の森を抜けるつもりは毛頭ない。
でも、ちょっと先の開けた野原に出るのくらい、ナスターと一緒なら大丈夫かな?
満月の夜、だだっ広いあそこは月光を独り占めできる絶好のポイントなのだ。
そう思ったパティスは、今来た道を引き返して、自室に戻った。
壁に掛けられた、首輪と同色の真っ赤なリードを取ると、慣れた手つきでナスターに装着する。
愛犬の栗毛色の身体には、深紅の首輪とリードがよく映えた。
この色が、ブレイズの瞳の色――ピジョンブラッド――を意識した色だなんて、口が裂けても言うもんか。
ふとそんな風に強情なことを考えてから、おかしくて思わず笑ってしまう。
そんなパティスを、ナスターがきょとんとした目で見上げてきた。
「私が……思ったことをちゃんと口に出して伝えないからいけないのかも知れないね」
ナスターになら平気で言えてしまう本音が、どうしてブレイズ相手だと言えないんだろう。
「ブレイズが帰ってきたら寂しいって伝えよう。ちゃんと私を見て?って言ってみよう。もっともっと一緒に居たいって素直に口にしてみる……」
もしかしたら笑われたり、呆れられたりしてしまうかも知れないけれど。
ナスターの真っ直ぐな瞳をじっと見つめて、パティスは独り言のようにそう呟いた。
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