-序-
満月の夜。
白一色の世界の中で、彼女は消え入りそうに儚げに見えた。
いつも通りの気まぐれな散歩の途中、たまたま見上げた窓辺に彼女の姿を見付けて足を停めてしまったのも、今思えば運命だったのだろう。
彼女を眼にした瞬間から何故か気になってしまい、いつもなら決して取らないような行動を起こしてしまった。それだって、きっと必然だったのだ。
足音を忍ばせて彼女が見えた窓から室内へと侵入した俺に、数回不思議そうに瞬きをすると、彼女は至極おっとりとした問いかけをした。
「貴方、だぁれ?」
普通なら突然現れた窓からの闖入者に、悲鳴のひとつもあげないだなんて考えられない。ましてや相手は男だ。
けれども彼女にはそんなことよりも俺が誰であるのか、のほうが大切だったらしい。
「俺は……」
予想に反した誰何の声にふと言いよどんだけれど、彼女に嘘をつくのはいけないことのように思えた。
「ブレイズ……」
逡巡した後、少し躊躇いがちにそう返すと、「いい名前ね」と微笑みかけられた。
「……お前は?」
その笑顔につられるように思わず聞いてしまってから、自分でも驚く。
「私は……シルバミ」
白磁のように――そう、生きている人間にしては余りにも白すぎる肌をした彼女は、淡い笑みを浮かべて自己紹介をした。
「お前こそ、いい名前だな」
「有難う」
言えば、また花のような笑みが返る。
いつもの自分とは明らかに違ってしまっている言動の数々に、内心軽い舌打ちをしながら、俺は彼女の横たわるベッドに歩み寄った。
そうしたところでシルバミが怯えた様子を見せないことに酷く安堵したし、心のどこかで彼女ならばそういう怯えを見せずに俺を受け入れてくれるのではないかという期待もしていた。
ベッドサイドで彼女を見下ろす俺に、少女のように可憐な笑みを浮かべると、シルバミは横になったままそっと手を差し伸べてきた。
「……?」
その行動の意図するところがつかめず、思わずきょとんと見つめ返すと、
「お友達の握手」
こともなげにそう補足する。
「私ね、ずっとここにいて……お友達、いないから」
だからなって欲しいのだとその目は語っていた。笑顔で告げられているけれど、その言葉の中にひしひしと感じられる「寂しい」という思い。
それは、長い時を一人で生きてきた俺にも十分理解できる感情だったから。
だから、彼女の手を握り返してしまったんだろう。
「よろしくな」
それが、俺とシルバミの出逢いだった――。 |