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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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86-2

本日、12月12日に「お前みたいなヒロインがいてたまるか!」1巻の電子書籍が発売されます。
電子書籍の方もどうぞよろしくお願い致します。
 二階に向かった椿は、さほど人が居ない部屋を見渡すと、壁際のソファに座って飲み物を飲んでいる着物姿の鳴海を発見する。
 誰とも話をせずに一人で居た鳴海に向かって、椿はずんずんと歩いて行く。

「ごきげんよう鳴海さん。お食事はもうお済みですの?」
「ごきげんよう朝比奈様。今、飲み物をもらって落ち着いたところです。それに知り合いが居ないので、朝比奈様がいらしてくれてホッとしました」
「気が利かなくてごめんなさいね。招待客は顔見知りが多いので、鳴海さんの知り合いがいらっしゃらないかもという考えが頭から抜け落ちておりました」
「あ、いえ。気になさらないで下さい。こうして話し掛けに来てくれたのですから」

 控えめに微笑む鳴海を見て、寿司なんて食べてる場合じゃなかったなと椿は後悔する。

「それならよろしいのですが。それにしても乱菊の着物がよく似合っておりますこと。鳴海さんは姿勢が綺麗ですから、和装が似合いますわね」
「あ、ありがとうございます。朝比奈様もお綺麗ですよ! 柄はお名前と同じ椿、でしょうか?」
「ありがとう。確かに柄は椿なのだけれど、名前と同じなんて少しばかり自己主張が激しすぎるかしらと思っておりましたから、そう仰っていただけて安心しました」
「そんなことないですよ! とても似合ってます。あと、去年のホテルのパーティーでも思ってましたけど、朝比奈様はまとめ髪にすると雰囲気が変わりますね。なんというか、可愛らしい感じになるというか」

 鳴海に可愛らしいと言われ、椿は彼女を凝視してしまう。
 ジッと見つめてくる椿を見て、鳴海は何か悪いことを言ったのだろうかと不安になったのか目をあちこちに動かしている。

「あ、ごめんなさいね。身内とお世辞以外で可愛らしいと仰っていただけるのは初めてなもので」
「え!? 初めて!?」
「え、えぇ。ほら、私はあまり人と交流を持ちませんから、本心からの言葉を伺う機会がありませんでしたのよ。ですので、鳴海さん。ありがとうございます」
「あ、いえ。とんでもないです」

 鳴海は手を顔の前に持ってきて高速で横に振っている。

「ところで、一階に寿司職人が来られておりますのよ。もう召し上がったかしら?」
「いえ、まだです。朝比奈様のお祖父様やお祖母様にご挨拶した後は人の少ない二階に引っ込んでいたので」
「でしたら、私と参りましょうか。ところで鳴海さんは杏奈さんとお話ししたことはございます? 何度か、私が鳴海さんとお話ししているときに近くにいらっしゃったことはあると思うのですが」
「二人でお話ししたことはありませんね。お互いに名前を存じている状態なだけだと思います」

 それならば、と椿は鳴海の手を取り、エスコートする形で一階へと案内する。
 一階はそれなりに人が居たが、比較的簡単に杏奈を見つけることができた。

「あら、椿さん。どうしたの?」
「ごきげんよう、杏奈さん。前にお話ししているのをご覧になっておいでだったでしょうけれど、紹介がまだだったと思いまして、お連れしましたのよ。こちらが私の、ゆ、友人の鳴海清香さんよ」
「鳴海清香です! 朝比奈様とは親しくさせていただいてます」
「八雲杏奈よ。今まで同じクラスになったことないから、面識が無くて当たり前よね。ところで、椿さんはちょっとアレなところがあるけれど、基本は無害だから仲良くしてあげてね」

 椿が杏奈にタックルをかましたい衝動に駆られていると、鳴海が元気よく「はい!」と返事をしてしまったので、彼女は衝動を抑える。
 だが、杏奈を睨むのは止めない。

「あ、朝比奈様。あそこにあるのがさっき仰ってたお寿司ですか?」
「えぇ、そうよ。ぜひ召し上がって頂戴」

 椿は杏奈に別れを告げて鳴海を連れて寿司のスペースへと向かう。
 緊張で多くは食べられないとのことだったので、鳴海は一皿だけもらっていた。
 椿は近くのテーブルでローストビーフやピンチョスを盛った皿を持って鳴海と合流し、椅子に座る。

 しばらくそこで鳴海と歓談していると、船内放送でそろそろ花火が始まると知らされる。

「屋上デッキに席がありますから、参りましょうか」
「私、海の上から花火を見るのは初めてなので、楽しみなんです」

 などと会話をしながら、椿と鳴海は屋上デッキへと向かい、空いている席に腰を下ろした。
 一階でも二階でも花火は見えるので、屋上デッキに居るのは主に未成年の子供が多い。
 菫や樹はどこだろうかと周囲を見渡すと、恭介と手を繋いでいる二人の姿を見つけることができた。
 恭介が一緒に居るのであれば大丈夫かと思い、椿は鳴海との会話を続ける。

 ほどなくして花火大会が始まり、大きな音が響き渡り夜空に大輪の花が咲き始める。
 鳴海と二人ですごいわね、と話していた椿であったが、誰も座っていなかった彼女の隣の椅子に誰かがやってきて腰を下ろしたのに気付いた。

「日本の花火は余韻があっていいな」

 花火の打ち上げが小休止していたため、その人物の言葉が椿の耳によく聞こえた。
 だが、すぐに次々と花火が打ち上がり始め、屋上デッキの人達は花火に夢中になってしまう。
 パーティーに来てると言っていたし、恭介が菫達と一緒に居た時点で来るだろうとは思っていたが、このタイミングでくるのか。
 皆が花火に夢中になっているタイミングだ。レオンが椿に話し掛けたとしても、あまり目立たない。

「挨拶回りで忙しかったのかしら。グロスクロイツ家の嫡男は大変ですわね」
「椿が俺の見たことない奴と一緒に居たから遠慮していただけだ。……知らないんだろ?」

 レオンが横目でチラリと花火に夢中になっている鳴海に視線を向ける。

「えぇ。御存じありませんので、ある意味では助かりましたわ」
「なら話し掛けないで正解だったな。……あと、着物がよく似合っている。髪を上げていると雰囲気が変わっていいな。いつもの髪型も絹のような黒髪が背中まで広がってるのが綺麗だと思っていたが、どちらが似合っているか甲乙つけがたい」
「レオン様」

 周囲に人が居る場面で口説いてくるなという意味を込めて椿はレオンを横目で睨みつける。
 確かに褒められて悪い気はしない。椿としても困ってはいるが、レオンのことは嫌いではないのだ。お世辞ではない褒め言葉を言われて嬉しくない人間は居ない。
 だが、TPOを考えて欲しいと椿は思う。
 いくら身内しか居ないといっても、レオンと椿の仲が怪しいだとかの情報を喋らないという保証はない。

「悪かった。俺が女好きで誰彼構わず口説きまくっているような人間だったら深読みされずに済んだんだろうが。生憎とそんな不誠実なマネは出来ないし、心に決めた奴以外にそんな言葉を吐くなんてご免だから無理だな」

 夜空を見上げて花火を見ているレオンはキッパリと言い切る。
 椿もそんなレオンの性格をよく分かっていたので、彼がイタリアの男性のような態度や口調になったら中の人が変わったのかと本気で疑うレベルである。
 いっそレオンのことを嫌いになれたら、もっと手ひどく扱うこともできたのだが、彼の誠実さや一途さを知った以上は中々に難しい。
 嫌いではないからこそ、椿はレオンに別の幸せを見つけて欲しいとも思うのだ。

「また余計なことを考えているんだろう? 残念ながら、俺の気持ちは今もこれからも変わらない」
「……そうですか」

 レオンに心の内を読まれ、椿は気まずくなってしまう。
 彼に悟られないようにと椿は花火に集中する。
 それすらもレオンは読んでいるのか、柔らかく微笑んだ後で椿と同じく花火を見始めた。

 花火が終わり、椿と鳴海は屋上デッキから一階へと向かう。
 途中で、椅子に座ったままのレオンを見ると、こちらを見ずに手を振っていた。
 彼なりの配慮ということだ。

「……椿さんのお隣にいらした方ってどなたですか?」

 階段を下りている最中に鳴海に聞かれ、椿は思わず階段を踏み外しそうになる。

「大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。少し足が滑っただけですので。それで、ええと、隣にいらした方のことでしたかしら? あの方はレオン・グロスクロイツ様と仰って、朝比奈の祖母の弟さんのお孫さんに当たる方ですわ。つまり、私や杏奈さんとははとこにあたる関係ですわね」
「そうだったのですね。存じ上げなくて挨拶もせずに失礼なことをしてしまったかもしれません」

 あの場でのレオンとの会話が鳴海に聞かれていなかったことを知り、椿はホッとした。

「レオン様はそのような細かいことを気になさる方ではございませんわ。次にお会いした時にご挨拶なさればよろしいだけです。今は……もう乗り場に着いてしまいますから無理ですけれど、年に何度か来日されておりますし、機会はございますわ」
「あ、そうですね。またお目にかかることがありましたら是非」

 明らかに社交辞令と分かる言葉である。
 まだまだ鳴海と話したり無い椿であったが、両親に呼ばれてしまい仕方なく彼女と別れる。
 クルーザーから下りた後で、鳴海が無事に彼女の両親と合流しているのを見て安心した椿は、家族と共に帰宅したのだった。 
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