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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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84-1

12月12日頃に各電子書籍サイト様にて、お前みたいなヒロインがいてたまるか!1巻が配信となります。
電子書籍サイト様によっては配信日が遅れる可能性もございますが、どうぞよろしくお願い致します。
 名取との一件後から椿と杏奈は何度か久慈川と昼食を共にしていた。
 食事中は椿と杏奈が主に喋り、たまに久慈川が会話に入ってくるという感じである。
 また、その食事中であるが、久慈川は椿よりも杏奈と話す回数が多い。
 これは杏奈と久慈川が同じ美術部ということも関係している。
 部活内で久慈川が話せる相手が杏奈しか居ないという理由からだ。
 だから、昼食時も美術部関連の話を二人はよくしているので、椿はすっかり美術部の情報に詳しくなっていた。
 といっても、部員の名前は知っていても顔は知らない状態なので、情報として知っている程度ではある。


 こうして久慈川と昼食をとるようになり、季節は春から梅雨の時期へと移り変わる。
 中等部では六月に入ったこの日、グラウンドで体育祭が行われていた。

 黄組の椿は団長である恭介の話を聞き流しながら、今日の自分が出る競技のことを考えていた。
 椿が今年出場する競技は借り物競走とフォークダンスである。
 三年の競技である大縄跳びにも椿は手を上げたのだが、クラス委員や体育委員にやんわりと拒否されてしまったので、今年は二つだけであった。
 二つとも午後の競技なので、椿は午前中暇を持て余していた。
 かといって、他のチームのところへ遊びに行くわけにもいかず、大人しく応援席で競技を見ているしかない。

 ボーッとグラウンドを見ていた椿の隣に、黄組の人達への話が終わった恭介がやってきた。
 さらに恭介の隣には副団長の篠崎が座っている。
 和やかに話している二人であったが、団長と副団長がすんなり決まったかといえばそうではない。そんな訳がない。
 決める時に、かなり揉めたのである。
 やるんだったらトップが良いと言い張る恭介と団長がやりたい篠崎。
 話し合いは平行線のまま、結局ジャンケンで決めることになり、勝った恭介が団長となったという経緯がある。

「やっぱり、お前が隣に居ると他の女子が近寄ってこないから楽だな」
「人を虫除けに使うの止めてくれます?」
「団長の僕はやることが沢山あるんだよ。女子にまとわりつかれたら動けないだろ」
「ほとんど競技に出て、応援席に居ないくせに」

 恭介の隣に婚約者(と思われている)の椿が陣取っているのだから他の女子生徒が寄ってこられる訳がない。

「恭介さん、最初の競技は障害物競走でしたかしら?」
「あぁ、篠崎とどちらのタイムが速いか勝負している」
「そうやって何でも勝負になさるの止めたらいかが?」
「楽しいからいいんだよ」

 恭介の隣に座っている篠崎も、椿との会話が聞こえていたのか、ウンウンと頷いている。
 男達のアホな勝負事に椿は呆れた視線を向けた。
 だが、恭介も篠崎も全く気にしていないようで、次に出場する障害物競走の後に出場する棒倒しと学年色別リレーの話で盛り上がっている。

 楽しそうで何よりだよ、と椿はグラウンドへと目を向ける。
 グラウンドでは、一年生の徒競走が始まっており、ちょうど久慈川がスタートしたところであった。
 あまりやる気を感じられない走りを見せて、最下位で彼はゴールする。
 特に誰と話すことなく、久慈川は列に並んでちょこんと体育座りしていた。

 一年生女子の徒競走も終わり、退場する際、名取が久慈川の元まで行き何かを話している姿が目に入る。
 大方、やる気を見せなかった久慈川に注意でもしているのだろう。

「あの子、久慈川君でしたっけ? 最近、朝比奈様とよく一緒にいらっしゃいますよね」

 隣に座っていた鳴海が、椿の視線の先にいるのが久慈川だと気付き、話し掛けてきた。

「週に一度、昼食を一緒にとっておりますの。久慈川君とは水嶋家のパーティーでお会いしたことがございまして、顔見知りでしたのよ。それに彼、美術部でしょう? 杏奈さんが馴染めない彼のことを心配しておいででしたので、一緒に昼食を頂くことを提案しましたの」
「そうだったんですね。……そういえばこの間、下級生が朝比奈様に頭を下げておいででしたね。色々と噂が出回っておりましたが、大丈夫でしたか?」
「あれは、久慈川君の幼馴染みの女の子が私と一緒に居るのを心配なさって色々とあったんです。それが誤解だと分かって謝罪をされただけですわ。お昼時のカフェテリアでしたから、人が多かったこともあって、臆測が臆測を呼んで収拾がつかなくなったのでしょうね」

 こちらが強制して頭を下げさせた訳ではないのだと椿は鳴海に言い訳をする。
 他の人にはいくら誤解されても構わないが、彼女にだけは誤解されたくなかった。
 椿の話を聞いた鳴海は顔をしかめながら口を開く。

「多分、何か失礼なことをされたので謝罪を受けたのだろうと思ってましたが、何も知らないのに勝手に悪い方に取って噂を流すのはどうだろうとは思います。私、そういうのが一番嫌いです」

 椿は最初から鳴海に疑われていなかったと知り、嬉しくなる。
 他人のことなどどうでもいい。友人である鳴海が信じてくれているのならばそれでいい。

「……私は、態度や口調から悪いようにとられておりますが、別にそれはそれで構わないと思っておりますの」
「なんでですか?」
「その他大勢からなんと思われようとどうでもいいということです。それよりも、鳴海さんに信じていただいてたということが私は嬉しいのです。ありがとうございます」

 椿はニッコリと微笑み、鳴海に礼を言うと、彼女は顔を赤くさせて顔を逸らしてしまう。

「わ、私は朝比奈様と接してきて、朝比奈様が非常識な行いをしない方だと存じておりましたから。だから、尚更悪いように噂する他の人に腹を立てているだけです。……あ、ほら二人三脚が始まりますよ! 応援しなくちゃいけませんね!」

 これ以上は、深く突っ込んで聞かれたくないのか、やや早口で鳴海がまくし立て、次の競技の話をして話題を変えた。
 もう次の競技が始まったのかと思い、椿はグラウンドに視線を向ける。

「あら、本当ですわね。黄組には頑張っていただかないといけませんわね」
「大丈夫ですよ! 水嶋様の顔に泥を塗るようなマネをする生徒は居ませんから!」
「気負いすぎて怪我をなさらなければよろしいのですが」

 黄組は恭介が団長ということもあり、異様な結束力を見せている。
 なんとか恭介の力になりたいと同じチームである生徒達の気合いが半端ないのだ。
 無理をして怪我をしたり、失敗して他の生徒から責められるような結果になったら嫌だな、と椿は心配している。
 尤も、恭介の隣に居る椿の存在が他の生徒に一番プレッシャーをかけているのは承知の上である。
 恭介の顔に泥を塗れば、隣に居る婚約者(と思われている)の椿が出てきて、どんな罰を与えられるのか分からないと他の生徒達は戦々恐々としているのだ。
 このプレッシャーをなんとかしたいと椿は思っているのだが、他の生徒達は彼女と目を合わそうとしないし、話し掛けられるのをこれでもかと避けている。
 いっそ、独り言で「たかが体育祭の結果ごときどうでもいいですわ」と言おうかとも思ったが、恭介と篠崎の耳に入った場合、たかがとは何だ、と厄介なことになるので却下した。
 誰かに聞かれれば答えようもあるのだが、椿を怖がっている生徒達が寄ってくる訳がない。
 だから、椿はこうして怪我が無いようにと祈ることしかできない訳である。
 彼女が鳴海と話している間に最後の組が終わり二人三脚は終了し、黄組は集計の結果、三位となった。
 保健室へと向かう生徒達を見ると、やはりこけずにゴールするのは難しいらしい。

「皆さん途中までは足並みが揃っていらっしゃったのですが」
「慣れてくるとタイミングがズレ出すんですよね。去年の私もそうでした」
「あら、二人三脚に出場してましたの?」
「そうなんですよ。怪我は擦り傷だけだったので、大したことはなかったんですが、午後いちでアレがあったので、散々な一日でした」
「アレ? ……あぁ。アレですか」

 去年の体育祭で午後一番であった出来事とは、つまり鳴海が美緒に呼び出されてチクチク嫌みを言われていたことである。

「災難でしたわね」
「はい。でも朝比奈様と知り合う切っ掛けになったので結果オーライです。……でも、あの時は八つ当たりで生意気なことを申し上げまして」
「気にしておりませんわ」

 柔らかな笑みを浮かべる椿の言葉に鳴海もホッとして笑顔を見せる。
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