挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

82/179

82

 春休みが終わり、ついに椿は最高学年である三年生へと進級する。
 クラス分けで椿は鳴海と再び同じクラスになり、更に今回は篠崎も一緒という結果であった。
 友人である鳴海と今年も同じクラスになることができて、椿は思わず小さくガッツポーズをしてしまう。
 特に今年は十月に修学旅行があるので、ホテルで誰と同じ部屋になるかで悩むことはなさそうだ。
 ちなみに、恭介や杏奈、千弦、佐伯であるが、彼らは全員が別々のクラスになっていた。


 そして、四月中旬になり、椿は朝比奈本家へお願いしていた花見に来ていた。

 祖父母の好意で椿の友人を是非招待しなさいと言ってくれたこともあり、千弦や佐伯、恭介が本家に来ている。
 もちろん、同じ朝比奈家の孫である杏奈もだ。
 椿は鳴海にも声を掛けたのだが、彼女は用事があるとのことで申し訳なさそうに断られてしまっていた。

 一応、本家には椿の家族も来ているのだが、友人と一緒の方が楽しいだろうからと、庭を散策している椿達から離れた場所でお茶を飲んだりしている。

「見事ですわね」
「私、桜って花びらが五枚なのしか見たことなかったから、八重咲きの桜は初めてかも」
「品種によりけりだな。桜と聞いて真っ先に思い浮かべるのは染井吉野だろうし」
「あれは一重咲きですものね」

 庭に植えられている桜の木を見上げながら、椿達は思い思いに話し合っている。

「ですが、あちらの藤棚も見事ですこと」

 千弦が視線を向けた先には綺麗に手入れされている藤棚があった。
 それほど大きいものではないが、下にテーブルと椅子もあって、椿はあの下で本を読んだりお茶を飲んだりしてゆったりとした時間を過ごしてみたい、と思ってしまう。

「昔はあそこの下で野点をしたこともありました」

 背後から話かけられ、椿達が振り返ると朝比奈の祖母が優しげな笑みを浮かべながら立っていた。

「野点ですか? お茶がさらに美味しく頂けそうですね」
「素晴らしい景色なのでしょうね。羨ましいです」
「えぇ。それは素晴らしいものでした。家族の都合がつかなかったりで、今はやっていませんが。それから、お花を見るのも結構ですけれど、そろそろゆっくりとお茶とお菓子を頂いたらいかが? 準備が出来ましたと呼びに来たのですよ」

 わざわざ祖母が呼びに来たことに椿達は恐縮する

「皆さんのお口に合うか分かりませんが、シェフが張り切っておりましたので」
「朝比奈様の使用人は有名ですから、私も一度椿さんのご自宅でティラミスを頂いたことがありますが、本当に美味しくてお店のものかと思ったほどです」
「まぁ、ありがとうございます」

 祖母と会話をしながら、椿達は庭にあるガーデンテーブルへとやってきた。
 ガーデンテーブルの上には所狭しとお菓子や軽食が並べられ、それを囲むように椿達は椅子に座って話し始める。

「藤堂さん、生徒会は忙しい?」
「今は体育祭のことで色々と。その後に生徒総会がございますけれど、提出された書類に不備がないかとか金額等の確認が一番大変なだけですから特に問題もないかと。会長を初めとする皆さんがとても優秀な方ばかりなので、私も助かっておりますのよ」
「あと交流会もあるじゃない? 学校の顔って大変よね」
「それが仕事ですもの」

 杏奈が口にした交流会とは、他校の生徒会との意見交換会というものだ。
 他校といっても、鳳峰学園と同じく良家の子女が多く通う私立校である。

「篠崎君は真面目で落ち着いてるから無茶もしないだろうし、藤堂さんも冷静沈着な方だから、二人で上手く生徒会を回してるって評判よね」
「あれでしょ? 『藤堂』って呼ばれただけで、『こちらです会長』って言って目的のものを手渡したりするんでしょ? 阿吽の呼吸でしょ?」
「勝手に想像なさらないで頂戴。大体その前の話題で篠崎君が求めている資料が分かったのでお渡ししただけですわ」
「え!? 本当にやってたの!? すごい有能な秘書じゃないか!」

 適当に言ったことがまさかの大正解で椿はとても驚いた。

「篠崎は意外と顔に出るから分かりやすいんだろう。それにあいつの目を見れば何を見てるのかも分かるだろうしな。そう難しいことじゃない」
「そうなんです。篠崎君は目的のものを注視する癖がございますので」
「あそこまで分かりやすい奴はそう居ないな」

 割と分かりやすい部類に入るお前がそれを言うか、と椿は恭介を凝視する。
 椿の視線に気付いた恭介は、その視線の意味を察したのか彼女と目を合わそうとせずに逸らせたままだ。
 本当に分かりやすい男である。

「そ、そういえば、今年は十一月に修学旅行があるよね。カナダだって、楽しみだよね」

 助け船のつもりだったのか佐伯が慌てて話題を振ってくる。

「そうですわね。確かホッケーの試合観戦とクラシックコンサートに別れるのでしょう? どちらになるかは先生方がくじを引いてお決めになると伺っておりますわ」
「私は動きのあるホッケー観戦がいいなぁ」
「私はクラシックコンサートのほうが好みですわ。十一月のスケジュールはどうなっているのでしょうね?」

 さすがにそこまでは椿も調べていないので分からない。
 携帯を持っていないので調べることも出来ず悩んでいると、朝比奈本家の使用人が近づいてきて椿の耳元にコソッと囁いた。

「……交響楽団の定期公演らしいわ」
「あら、それは楽しみですわ」

 使用人は、椿や杏奈が今年修学旅行に行くので下準備を兼ねて色々と調べていたから知っていたのだろう。相変わらず仕事熱心な人達である。

「ですが一番の目玉はオーロラ観測ですわね」
「それの為に修学旅行がカナダなんだもの。時期的に見られるといいね」
「去年は三日とも見られたそうですわ。それと半日だけですが自由行動もあるので皆さんと色々と見て回れるのが楽しみです」
「SP付きで短時間っていう制約はあるけどね」

 基本的に学校側の送迎バスでの移動になるので自由行動といえども全てが自由という訳でも無い。
 班ごとの行動になるが、全ての班に学校側が用意したSPが付く決まりになっている。

「修学旅行と言っても、まだ半年も先のことでしょ。今から計画立ててどうするのよ」

 杏奈の冷ややかな声に椿と千弦は現実に引き戻される。
 先の話というのであれば、間近の話をしようではないかと思い、椿は来週の遠足の話題を出した。

「そういえば今年の遠足って博物館でしょ? 今エジプト展やってるのよね」
「古代の装飾品が展示されるのでしょう。? 楽しみですわね」
「ミイラはないのか」
「普通に博物館に常設展示されてるわよ。佐伯君と篠崎君を連れて見に行けば」
「僕は遠慮するよ」

 割と全力で、と佐伯は首を横に振って拒否するところを見ると、彼はそういったものが苦手のようである。

「じゃあ、篠崎に声を掛けてみるか」
「篠崎君はミイラとかああいったものでも真面目に考察しそうな気がするわ」

 椿の言葉に篠崎と付き合いの深い千弦が大きく頷いた。
 やはり彼は真面目だが、どこかズレたところがあるのだなと再確認する。
 椿達が体育祭や遠足の話で盛り上がっていると、朝比奈の祖母がゆっくりとテーブルに近づいてきた。
 椿達は立ち上がり、朝比奈の祖母に向かって会釈をする。

「あまりに楽しそうだったものですから、また出てきてしまいました」
「騒がしくして申し訳ございません」
「いいえ。しばらく夫婦二人だけでしたから、子供の声が久しぶりに聞けて嬉しかったですよ。カオルやエミリの子供の頃を思い出しますね」
「父や恵美里叔母様もよくお庭で遊んでらっしゃったのですか?」

 朝比奈の祖母は昔のことを思い出したのか、楽しそうに笑い声をあげた。

「えぇ。走り回ってはあれやこれやと動くエミリにカオルがよく振り回されていました。ふふっ、今もあまり変わりませんね」
「お母さん、昔からあぁなんだ」
「アンナ、貴女がエミリと違って大人しい子で本当によかったです。少なくとも桜の枝を折るような子に育たなくてホッとしました」
「折ったんだ……」

 己の母親のしでかしたことを聞いて、珍しく杏奈が落ち込んでいる。
 落ち込んだ杏奈を励まそうと、朝比奈の祖母は持ってきていた小袋からあるものを取り出す。

「アンナ、これを見たことはありますか?」
「……市販のお菓子、ですね」
「あら? 見たことがあったのですね。折角驚かせようと思ったのに残念です。実はこのお菓子、シュウとお散歩のついでにコンビニに寄って買ってきたんですよ?」

 アクティブすぎる朝比奈の祖父母に杏奈も椿も驚いた。

「いえ、驚きました。お祖母様でもこういうお菓子を口になさるのですね」
「たまーにです。昔、カオルやエミリも食べてましたからね。全く、親に内緒で買ったところで使用人の口から親の耳に入るというのに、最後の最後で詰めが甘いのですから」

 思わず椿と杏奈は互いに顔を見合わせる。
 恭介や千弦、佐伯も目を泳がせたりして狼狽えていた。

「あ、これは秘密にしておかなければならないんでしたっけ? まぁ、いいですね。言ってしまったことは仕方ありません」

 全く悪びれない様子の朝比奈の祖母を見て、椿は脱力してしまう。
 まさか、父親も市販のお菓子を口にしたことがあるとは思ってもいなかった。

「ところで、タカオミさんのお父様は製菓会社の社長でしたね。私、あの会社のクッキーが大好きなんですけれど、次はどのような味が発売されるか知ってますか?」
「お、お祖母様。さすがに他社の発売前の情報を明かせるわけがありませんよ」
「それはそうですが、残念です。ツバキだって気になるでしょう? そうそう、貴女はどのお菓子がお好きなのですか?」
「どぅえ!」

 まさか、そのような問いをされるとは思っていない椿は咄嗟に変な声を上げてしまう。
 そんな椿の反応が気に入ったのか朝比奈の祖母はコロコロと笑い声を上げている。

「あ、貴女でもそのような声を上げるのですね。あーおかしい。それで、ツバキはどれがお好きなのですか?」

 椿は口を閉ざして視線をさ迷わせる。
 これはバレている。確実にバレている。だが、最初に父親や恵美里のことを話している時点で怒ろうという気はないのは分かっているが、どうしたものかと椿は押し黙ってしまう。
 黙ったままの椿を見て早々に諦めたのか、朝比奈の祖母は杏奈へと標的を変えた。

「アンナはどのお菓子が好きですか?」
「……私はチョコですね。最近出た紅茶の茶葉が入ったやつが好きです」
「あぁ、あれですか。あれも美味しいですね」
「椿、あんた動揺しすぎ」

 あっさりと朝比奈の祖母の問いに答えた杏奈が呆れた目で椿を見ていた。
 当の椿は情けない姿を晒したことがショックで机に突っ伏してしまう。

「だってー」

 机に突っ伏したまま、椿は情けない声を上げた。

「情けない声を出すな。ナターリエさんは注意するつもりで話題にした訳じゃないだろ?」
「その通りです。色々と話は聞いていますよ。ツバキは情報源がどこか知っているでしょう?」

 祖母の問いに椿はすぐに志信の顔を思い浮かべる。
 椿が市販のお菓子を食べていると知っているのは今のところ彼だけだからだ。

「カスミが報告書を上げてきたのですよ」
「え!? 佳純さん!?」
「あら? 他に知っている人がいたのですか?」

 会話の最初から墓穴を掘りまくりの椿は口を閉ざして視線を泳がせることしか出来ない。

「まぁ、いいです。カスミがツバキの部屋に何かの食べカスが落ちていることに気付いて、ツバキと仲良くしているタカオミさんの親御さんの会社が製菓会社ということと、食べカスを口にして、味で気が付いたみたいですよ。うっかりしてましたね」

 椿と祖母以外の全員が彼女に向かって冷めた目を向けていた。

「ちょっ! ちょっと待って! 食べカスで気付かれるとか思わないでしょうよ。これは不可抗力ってやつじゃないの?」
「朝比奈家の使用人を甘く見た結果ね」
「ちなみにエミリからもお菓子の包装が隠してあった、ということも耳にしてますよ?」
「学習机、一番下の引き出しの下は絶対にバレない自信があったのに……!」

 まさか自分もバレていたとは思わなかったのか、杏奈も机に突っ伏した。
 机に突っ伏している椿と杏奈を見て、祖母は更に笑みを深くする。

「二人ともまだまだですね」
「……お祖母様」

 椿はむっくりと顔を上げて祖母と視線を合わせる。
 祖母は椿の視線を受けても特に表情を変えることはなかった。

「もしかして、怒られるとか思っていますか? 毒を口にしているわけでもありませんし、毎日ならともかく、数ヶ月に一度くらいなら目を瞑りますよ。大体、カオルやエミリが口にしていたのを許容していたのに、貴女はダメだなどと言う訳ないでしょう?」
「あ、あの!」

 佐伯が身を乗り出して祖母に話し掛けた。

「何ですか?」
「朝比奈さんは何も悪くないんです。僕が父から貰ったお菓子の消費を手伝ってくれていただけなんです」
「あら、そうですか。一人で外出できないツバキがどうやってお菓子を手に入れていたのか不思議だったんですけど、そういう事情だったんですね」

 なるほど、と祖母は何度も頷いている。

「あの、お祖母様。もしかして、今日話題にしたのって、入手方法を知るためですか?」
「そうですよ? カオルやエミリは家をコッソリ抜け出したりして買ってましたが、ツバキはそうではないでしょう? アンナが買ってきたのかと思いましたが、そんな様子もなかったと聞いてましたから、不思議だったんです。これで謎が解けました」
「まさか、花見の件も」
「えぇ。カオルから話を聞いた時にちょうどいいと思ったんです。ツバキの友人なら事情を知っているのでは、と思いまして」

 最初からそのつもりだったのかと椿と杏奈は顔を見合わせる。

「それと、このことは私達の胸の内にしまっておきます。タカオミさんやチヅルさんのご両親には言いません。わざわざ揉め事の種をまくようなマネはしたくありませんから」

 どうやら祖母は本当に事実確認をしたかっただけのようであった。

「……ありがとうございます」
「感謝されることでもありません。それから、実はすでにカオルとユリコには言っちゃってるんです」

 口元に手を当てていたずらっ子のような口調の祖母の言葉に椿は驚いた。

「え? でも、お二人からは何も」
「えぇ、私が話しますから待っていて下さいと言ったのです」

 椿は恐る恐る視線を両親のいる方向へと向けると、複雑そうな顔をした母親と目が合ってしまう。
 反対に父親はどこか気まずそうにしている。
 これは家に帰ったら叱られるだろうな、と椿は覚悟した。

「ユリコはどうか分かりませんが、カオルは前科がありますからね。そう強くも言えないでしょう」
「黙っていたことはきちんと謝罪します」
「そうですね。筋は通さなければいけませんから。では、私はこれで失礼します。お茶と会話を楽しいんで下さいね」

 お菓子の出所を知って満足したのか、祖母はゆっくりと立ち上がり去って行った。
 残された面々はやっちまったなーという顔をして互いに顔を見合わせている。

 結局、バレてしまったものは仕方がないとの話になり、解散となった。
 自宅に帰り、椿は両親から黙っていたことを注意をされたが、市販のお菓子を食べていたことに関しては厳しくは言われずに済んだのである。

 後日、サロン棟の個室で市販されているお菓子が皿に盛られてテーブルに出されているのを椿達は目にする。

「……これは?」
「大奥様からの差し入れでございます」

 その後もたまに市販のお菓子が出されることがあり、市販のお菓子を食べたかった椿達は話し合い、佐伯からコッソリとお菓子を貰うことはもう止めようということになった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ