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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 美緒との対決後、椿は蓮見から人気の無い場所に呼び出され、開口一番こう言われた。

「お見事でした」

 と

 一言だけであったが、椿が美緒を退けて千弦を学年の女子グループのトップに押し上げる働きをしたことを蓮見は喜んでいるように見受けられる。
 椿は美緒に情報を与えた、かもしれない人物の件も蓮見に伝えた方が良いと思い、彼女が見た取り巻きの様子を話し始める。

「立花さんと話している時にそれとなく取り巻きの子達の顔を見てみたけど、全員顔を青くさせているだけで、特に目立った反応は無かったのよね」
「やはり、こちらの考え過ぎなのでしょうか? ですが、それだと筋が通らない所があるんですよね」
「そうなのよね」

 二人してウンウン唸っていたが、全く答えは出ない。

「とにかく、この話は持ち越しませんか? まだ立花さんに情報を与えた人物が居るとは確定したわけでもありません。ですが、あちらが朝比奈様に出てこられることを恐れているならば、今回のことで千弦様に手出ししたら朝比奈様が出てくることになると相手に伝わっておりますし、こちらに被害が来る可能性も低いかと」
「……そうね。しばらくは様子を見た方がいいかもしれない。藪をつついて蛇を出しても困るし。あ、そうだ。千弦さんにも言っとく?」
「千弦様には私の方から可能性の話として説明致します。それでは失礼します」

 蓮見と別れ、椿はしばらく杏奈を探し回った後に彼女と合流し、先ほどあったことの説明をした。
 杏奈は神妙な顔をしながら話を聞いていたが、椿が最終兵器を投下したことを聞き、ホッとした表情を見せている。

「椿が表に出たことで、次に立花さんが椿に何かしようとしたら取り巻きの生徒が必死になって彼女を止める状況になったのは良かったと思うわ」
「新たな不安が出てきたけどね」

 椿と杏奈は互いに苦笑している。
 こうして、その後は何事もなく文化祭が終了した。


 文化祭の騒動が終わりしばらくして、騒動の内容が噂として広まりきった辺りで美緒のグループは抜けようとしている生徒と美緒から離れられない生徒が揉めて大変なことになっているという話が椿の耳に入る。
 グループ内の揉め事、それも多人数の揉め事でただの足の引っ張り合いにまで椿は口を出すつもりはない。
 多数対一であれば話は別だが、多数対多数ならば椿が出しゃばっても意味は無い。
 自分の取り巻きの始末くらいは美緒にだって出来るだろう。

 そんな時、椿は千弦から声を掛けられた。

「今週の土曜日ですが、お時間ありますかしら?」
「特に用事はございませんが」
「でしたら、家に遊びに来ませんか? 前に椿さんのご自宅に伺いましたけど、私の家にお呼びしないのも不公平かと思いまして」
「行く! 行くよ!」
「ちょ! 椿さん、廊下ですわよ!」

 素で返事をした椿の口を慌てて千弦が手で覆った。
 千弦はキョロキョロと周囲を見渡し、自分達に注目が集まっていないことを確認すると椿の口から手を離す。

「全くもう。あの方の件が落ち着いたと思って気が緩んでおりますわね」
「あはは。申し訳ございません。それで何時頃に伺えばよろしいのかしら?」
「……十四時頃でお願い致します。あまり長い時間は無理ですが」
「招待していただけただけで十分ですわ。それでは土曜日に」

 ニコニコと笑顔で答えた椿は、早く土曜日にならないかなと思いながら、残りの日数を過ごしたのである。

 こうして迎えた土曜日。
 薄いピンク色のボウタイブラウスに黒のタックスカートを着た椿は、パンプスを履いて志信の運転する車に乗り込んだ。
 途中で銀座に寄ってもらい、モンブランタルトを購入して千弦の家へと向かう。

 藤堂家に到着し、車から降りた椿は立派な門構えを見て、少しだけ気後れした。
 白壁の塀はかなり遠くまで続いていることから、敷地面積も半端ないということが窺える。
 門をくぐり、玄関まで石畳の道を歩きながら向かう。
 上品な石灯籠を横目で眺めていると使用人が玄関の扉を開けて待っていたことに椿は気付く。
 慌てて椿が玄関に入ると、正面に千弦が母親と一緒に立っていた。
 椿はすぐに会釈をして二人に挨拶をする。

「本日はお招きいただきありがとうございます」
「とんでもない。椿さんがいらっしゃるのを楽しみにしておりましたのよ? 今日はゆっくりしていって下さいね。それでは私はこれで」

 母親が立ち去ったのを確認した後で、椿は小さくため息を吐いた。

「キリッとした方ですわね。こちらまで緊張します」
「そうですか?」

 意外そうな顔をしている千弦を見て、椿は生まれてから毎日接しているのだから緊張も何もないだろうなと思った。

「変なことを申し上げましたね」
「いえ。それよりも玄関で立ち話もなんですし、私の部屋に参りましょう」

 千弦に案内され、椿は彼女の部屋に足を踏み入れる。
 椿は勝手に千弦のことを大和撫子だとか和の心を尊んでいるとか思っていたので、床が畳ではなく、フローリングだったことが意外であった。

「千弦さんてベッドで寝てるんだ」
「小さい頃からベッドに憧れがありまして。ですので、中等部に上がる前にお願いして改装してもらいましたのよ」
「なるほどね」
「さ、ソファにお掛けになって?」

 千弦に勧められ、椿は近くのソファに腰を下ろした。
 少しすると、お茶とお菓子を持った人が千弦の部屋へとやってくるが、その人物を見て椿は全ての動作を止める。
 椿の見間違いで無ければ、今テーブルにお茶とお菓子を置いているのは蓮見綾子本人である。
 お茶とお菓子をテーブルに置いて、ジッと見つめてくる椿を無視した蓮見は静かに部屋から出て行った。

「ちょ、ちょっと! ちょっと待ったー!!」
「椿さん? いきなりどうなさったの?」
「どうなさったの? じゃないよ! 何で千弦さんの家に蓮見さんが居るの? 給仕してるの?」

 矢継ぎ早に椿が問い掛けるが、千弦は困り顔で首を傾げている。
 椿の声が聞こえていたのか、蓮見がドアからひょっこりと顔を覗かせた。

「あ、やっぱり蓮見さんだ!」
「千弦様」
「綾子さん、中へお入りになって」

 千弦からの許可が出た蓮見が部屋へと入ってきてフローリングに正座をする。

「ソファに座ればいいんじゃないの?」
「ソファなどおこがましいことです。私など土の上で十分なのですから。フローリングに座るだけでも申し訳ないというのに……」
「学校とプライベートでへりくだり度が違いすぎない!?」
「私はいつもこのような態度ですが?」

 当たり前のような顔をしているが、学校での蓮見はこんな態度は取らない。

「……それで、休日も千弦さんと一緒にいるわけ?」
「主の側にいるのは従者の務めですから」
「綾子さんてば……私はお友達だと思っているのだから」
「千弦様、そのお言葉だけで十分です」

 困り顔の千弦だが、蓮見は自分の意見を変える気はないらしい。

「……綾子さんのことはひとまず横に置いておきましょう。椿さん、綾子さんからお話は伺っておりますわ」
「え? その話をするために家に呼んだの?」
「当たり前でしょう!」

 他に何があると言うのだという千弦の態度に、純粋に好意で家に呼ばれたと思っていた椿は普通に落ち込んだ。
 落ち込んでいる椿を見て、しまったと思ったのか千弦がフォローをしてくるがもう遅い。

「別に拗ねてないし」
「口を尖らせて仰ってるのに、説得力がございませんわ!」
「私、杏奈や恭介以外で初めて友達の家に遊びに来たのに」
「それはご自分の自己責任でしょう! ですので友人を作ったら? と申し上げましたのに!」

 椿の言うことに律儀にツッコミを返す千弦を見ていた椿は、これ以上駄々をこねても意味は無いかなと思い、本題に入ろうと口を開く。

「……それで、蓮見さんから聞いた結果、千弦さんはどう思った?」
「ご友人の話が出たから逸らしましたわね。……まぁ、よろしいですわ。話を伺って、確かに可能性としてはあり得るとは思いました。椿さんの耳に立花さんの情報が入りにくいのはお互いの事情を考えれば分かりますが、それでも情報が入ってくるのが遅すぎますもの。それに椿さんは彼女が何かをした現場をほとんどご覧になっていらっしゃらないでしょう?」

 千弦の言葉に椿はゆっくりと頷いた。

「私が立花さんが何かをした現場をほとんど見てなかったのは、私がどこにいるのかを取り巻きの人達が連絡し合って彼女と会わないようにしてたからだと思うんだけど、それにしては統率がとれすぎていると思うのよ」
「伝達のラインがしっかりとしていると仰りたいのね」
「そう。そもそも、誰かがこうしようと言わない限り、大人しくて引っ込み思案な取り巻きの生徒が動く訳ないでしょ。絶対に言い出しっぺが居るはずよ」

 問題は、その言い出しっぺと美緒に情報を与えた人物が同じかどうか。
 さらに、美緒に情報を与えた人物が実在しているかどうかである。
 証拠が何もない状況では、かもしれないという可能性の話でしかない。
 疑わしい点は取り巻きの行動の矛盾と、美緒が一人では思い付くはずがない情報を彼女が口にしたことのみだ。

「仮にそうだとしますと、ではどなたが……という話になりますわよね」
「難しいわね。烏丸さんのグループ以外は皆大人しくて自己主張しないタイプの人達ばかりだもの」
「烏丸さんがそうだという可能性は?」
「私もそう考えたんだけど、立花さんが素直に烏丸さんの話に耳を貸すかどうかって考えたら無いかなって」
「では、烏丸さん側の生徒が立花さんのグループに最初から紛れ込んでいた可能性は?」

 やはりその可能性も千弦は思い浮かんだらしい。

「それは蓮見さんとも話したんだけど、烏丸さんは自分に絶対の自信を持ってるタイプでしょ? 小細工を使うタイプじゃないし、立花さんのグループに入った後に送り込んだとしても、烏丸さん側の生徒を立花さんが信用するかどうかって聞かれたら微妙じゃ無い?」
「それもそうですわね。最初の内は立花さんを上手くあしらってたことを考えたら可能性は低いかもしれません」
「とすると、立花さんのグループの中心人物達かって話になるんだけど、全員が大人しくて引っ込み思案で自分の意見を主張するタイプじゃないから分からないのよ」

 見当もつかない椿は頭を抱えるしかない。

「……椿さんのように演じてらっしゃるとか」

 ポツリと呟いた千弦の言葉に椿は顎に手を当てて考えてみる。

「それが事実だとしたら、相当演技力が高いわね」
「さりげなくご自分を褒めるのは止めて下さいませ。それに、可能性の話ですわ。確定しておりませんもの」
「かもしれないという話だからね」
「警戒するに越したことはないかと思いますが、彼女達の行動に矛盾があってもひとつだけ一貫している部分がございますわね」

 千弦の言葉に椿は力強く頷いた。

「私を避けている、という部分ね」
「そうですわ。立花さんが椿さんと揉めると都合が悪いと思っているということです。それは裏を返せば、椿さんを恐れているということに他なりません。ですので今後、立花さんが椿さんに危害を加える可能性は低いかと思います。それを考えれば、ひとまずは安心といったところでしょうか」
「他で問題が起こってるみたいだけどね」

 椿は美緒のグループが内輪もめをしている件を引き合いに出した。

「あれは、立花さんの自業自得の部分もあるでしょう? あれにまで口を出す気はありませんわ。それこそ、立花さんに情報を与えた方がなんとかなさるのでは?」
「鳳峰学園の品位がーとは言わないのね」
「学園の一グループ内だけで収まるのでしたらよろしいのでは? ひどくなるようでしたら先生が出てこられるでしょうし」

 言いながら千弦は冷めた紅茶を一口飲んだ後でジロリと椿を睨んでくる。

「それにしても、椿さん。貴女よくも私を手のひらの上で転がしてくれましたわね」
「な、何のことかしら?」

 千弦から視線を逸らした椿は白々しく答える。

「何のことかしら? じゃありませんわ。あの場に綾子さんを使って呼び出して、人を上手く利用なさったじゃありませんか」
「あれは、必要なことだったんだよー」
「でしたら、事前に何をなさるか教えていただきたかったですわね!」

 どうやら、千弦は美緒と言い合いをしていたあの場で何も知らずに入ってきた挙げ句、椿の術中に嵌まったのがよほど悔しかったらしい。
 そもそも、事前に言っていたら絶対に千弦からは止められていたはずである。

「言ったら言ったで止めるくせに」
「当たり前ですわ! 友人が泥を被るのを良しとできるはずがございません!」

 力強く言ってのけた千弦の『友人』という言葉に椿は嬉しい気持ちになるが、あの場では必要なことであったのだ。

「……私は毒をもって毒を制しただけだよ」

 意味を理解した千弦がジトッとした目で椿を見てくる。

「それでも同じレベルに落ちる必要はございませんでした」
「必要だったからやっただけだよ。結果としては効果抜群だったじゃない。これで本当に大人しくなるんだったら安いものだよ」
「自ら望んで泥を被ろうとする貴女の考えが理解出来ませんわ」

 信じられないといった風に千弦は首を横に振っている。
 だが、椿は本当は他人の評価などどうでもいいのだ。
 あの場では恭介から美緒を引き離したかったのも事実。小松を助けたかったのも事実。
 しかし、大部分は千弦を助けたかった、千弦を学年の女子グループのトップにしたかったからというのが理由である。

「女王バチは二匹も必要ないでしょう?」
「……貴女、人のことばかり考えていたら、いつか幸運を逃しますわよ」
「今が幸せだから問題ないよ」

 椿の返答に、千弦は大きなため息を吐いた。
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