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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 夕食前に部屋に戻ってきた千弦は心なしか興奮している様子であった為、椿と蓮見は互いに顔を見合わせる。
 ソファに座っていた蓮見が立ち上がり、千弦に近寄っていった。

「どうかなさったんですか?」
「いえ、頭に血が上りすぎただけですわ。大丈夫です」

 手前まできた蓮見を手で制した千弦がため息交じりに言葉を吐き出した。

「随分とお帰りが遅かったですね。もしかして、立花さんと何かありましたか?」

 蓮見から問われた千弦の表情に変化はなかったが、彼女の纏う空気が変わったことは椿にも分かった。

「……小松さんからお話を伺いまして、あまりにも理不尽な仕打ちを受けていらっしゃったので我慢ができませんでしたの」

 千弦はフイッと顔を蓮見から逸らした。
 我慢ができなかった自分を恥じているのか、蓮見から無茶をするなと言われるのを嫌がったのかは分からないが、千弦は彼女と目を合わそうとしない。

「そうでしたか。それで、小松さんとお二人でどのようなお話をなさったのですか?」
「それは、小松さんから内密にとのことですので申し上げることはできません」
「私達が誰にも言わないと言っても?」

 小松の話が気になった椿が千弦と蓮見の会話に割って入る。
 だが、千弦は約束は約束だからと言って椿と蓮見に話の内容を教えてくれることはなかった。

「八組には美冬さんや結香さんがいらっしゃるので、彼女達に授業中のことはお任せすることにします。休み時間やお昼休みなどは私のところにいらっしゃいと申しておりますので大丈夫でしょう」
「では小松さんのことは千弦さんにお任せします」
「貴女はどうなさるの?」

 千弦から聞かれた椿はニヤリと不敵に笑う。

「私にしかできないことをするだけよ」

 何をなさるおつもりなの、という千弦の言葉を交わして、椿は自分の部屋へとそそくさと戻っていった。

 最終日ホテルの広間で行われた交流会では、小松は千弦のグループと一緒に行動している。
 椿が何度か小松をチラッと見ると、彼女がぎこちないながらも笑みを浮かべているのを見て、安心したのだった。

 前日、自分にしかできないことをするだけだと千弦に言ったが、それはつまり、椿が恭介の側に出来るだけ一緒にいることである。
 これまでは、恭介に他の生徒にも目を向けてもらいたかったので、椿はあまり恭介の近くには寄らないようにしていたのだ。
 だが、美緒の目が恭介に近寄る女子生徒に向いている以上、椿が恭介の近くに居て彼女の目を引きつける必要がある。
 体育祭以降、美緒は大人しくしていたと思われていたので、椿は彼女を刺激するような積極的な行動は控えていたが、小松の件が明るみに出た以上、構っていられない。

 恭介には千弦と別れた後に、これからしばらくは恭介と行動を共にすることを告げていたが、彼は椿を心配しているのか、あまりいい顔をしていなかった。
 だが、椿がそうする必要性があることをしつこく説明すると、最終的に恭介は渋々ながら頷いてくれたのである。
 そういう訳で、交流会という名の立食パーティーが行われている会場で、椿は恭介の隣に陣取っている状態なのだ。

「ちょっと! どうしてあんたが水嶋様の側にいるのよ!」
「私だけに許された当然の権利だからですが、何か問題でも?」

 椿の予想通り、美緒は小松に目も向けずに椿に突っかかってきている。

「問題しかないじゃない! 水嶋様から離れなさいよ!」
「立花さんはこう仰っておりますけど、恭介さんは私が側に居たら何か問題がありまして?」
「問題などない」
「ですって」

 得意気に笑った椿の顔を見て、美緒は悔しそうに彼女を睨んでいる。
 何かを言おうとした美緒を取り巻き達が囲み、必死に彼女を説得し始める。

「美緒様! ここは先生の目もありますから抑えて下さい!」
「水嶋様にそのようなお顔を見せてはいけませんよ。いつもの可愛らしい美緒様に戻って下さい」
「小松さんの件で先生から睨まれているのですから、あまり悪目立ちなさるのは……」

 美緒は取り巻き達の必死に説得されたことで、この場に留まって椿と言い合いをしたらマズイことになると悟ったのか、こちらを睨みながら立ち去って行った。
 こうして、椿は交流会中ずっと恭介から離れること無く過ごし、美緒の目を引きつけることに成功し、自然学校は終了となる。 


 波乱があった自然学校が終わり、二年生達も文化祭の準備に取りかかり始める。
 椿のクラスは、迷路をすることに決まり、技術が得意な生徒達が中心となってどのような迷路にするのかを相談している。
 生徒達の設計図を元に本格的なものを業者が作る予定らしい。

 文化祭で椿は初日の午前中の受付担当になっている為、同じく午前中の受付担当となっている鳴海と共に椅子に座って客の対応となる。
 相談している生徒達を眺めていると、椿の脳裏にある案が浮かんだのだが、自分が話し掛けたら相手が怖がってしまうと思い、隣に座っていた鳴海に聞いてみる。 

「このような迷路はいかがかしら? とか口を出したら怖がられます?」
「間違いなく怖がられますね。ちなみにどんな迷路ですか?」

 鳴海にあっさりと肯定され、だよねーと椿は思いながら彼女に自分の案を話す。

「忍者屋敷のようにどんでん返し扉を作ってみてはいかがかしらと思いまして」
「いいですね、それ。後で他の人に言ってみます」
「ありがとうございます」

 素直に鳴海に向かって感謝の言葉を述べると、彼女は口をポカンと開けて椿をジッと見つめてくる。

「何か私の顔についておりますか?」
「あ、いえ」

 慌てて首を横に振って否定するが、椿は感謝の言葉も述べないような性格の人間だと思われるようにしているので、鳴海が驚くのも無理はない。

「……最近、水嶋様と行動を共にしているようですが、立花さん対策ですか?」

 気まずくなったのか話を逸らす為、別の話題を鳴海に振られた。
 鳴海に言われた通り、椿は昼休みや放課後などの時間を恭介とほぼ毎日過ごしている。
 千弦からの報告によると、椿が恭介の側に居ると美緒がこちらにかかりきりになるので、小松への被害が格段に減っているらしい。
 この報告に椿は心の底から安堵していた。

「まぁ、イトコですので。側に居たとしても問題はございませんでしょう? 元から幼馴染みのような関係でもありますので仲はよろしいのよ」
「それは存じてますけど、これまであまり側にいらっしゃるのを拝見したことがないので不思議だったんです」
「他の方と交流を持って視野を広めるのも必要でしょう? それに私が四六時中側に居ると皆さんが遠慮してしまって恭介さんに近寄れませんから自重しておりましたの。ですが、今はそのようなことを申している場合ではありませんから」

 あくまでも、小松のために行動しているのだと椿は鳴海に訴えた。

「その目論み通り、立花さんは小松さんに全く構わなくなりましたからね」
「私達の問題に無関係の方を巻き込むわけにはまいりませんもの」
「それで大人しくなる人じゃありませんよ。あの人は」

 鳴海からの忠告に、椿は曖昧な笑みを返すだけに留める。
 実際、今は美緒の目は椿に向いているのだ。
 もしかしたら、近いうちに美緒の不満が爆発して文句を言いに来るかもしれないが、椿は彼女に口で負ける気は微塵もない。


 その後も文化祭の準備は進み、本番を間近に控えたある日のこと。
 放課後、椿は図書委員の当番を終えて玄関へと向かっている最中に廊下を走って横切る千弦の姿を見掛けた。
 千弦が廊下を走るなど珍しいと思い、何かあったのかと気になった椿は彼女の後を追いかける。
 足の速さでいえば椿の方が早いので、難なく千弦に追いつき、彼女の腕を掴んで足を止めた。
 腕を掴まれたことで千弦は振り返ったが、彼女の目に涙が浮かんでいることに椿は気が付く。

「どうしたの!?」

 千弦が泣くなどただ事ではない事態に、椿は思わず令嬢に擬態することも忘れて素で話し掛けてしまう。

「……な、なんでもございませんわ」

 力なく答える千弦の声を聞いて尚更、椿は何かがあったことを察した。

「なんでもないならどうして泣いてるのよ」
「泣いてなどおりません……。貴女の見間違いですわ」
「でも」
「申し訳ございませんが、家の用事がありますので」

 千弦は椿の手を振り払ってその場から立ち去ってしまう。
 プライドの高い千弦のことだから明日、椿が改まって聞いたところで答えてくれるはずもないことは予想ができる。
 けれど、千弦が泣いていたということは何かがあったのだ。
 個人的な事情、つまり好きな人に告白をして振られたとかであれば聞かないのがマナーであるが、それは考えにくい。
 千弦のことだから、好きな人ができれば態度にすぐあらわれそうだし、彼女の友人が何かと協力しようと動くはずだが、それもないということは、違うのだろう。
 一体何があったというのだろうか、と心配になりながらも、本人が不在ではどうしようもないと椿も帰宅することにした。

 そして、椿が千弦が泣いた姿を見た数日の内に学校内の雰囲気はガラリと変わってしまう。
 これまで何度も美緒に対して注意していた千弦が、不思議なことに彼女に全く構わなくなったのである。
 構わなくなった、というか避けているような状態である。

 その情報を椿に知らせてきたのは杏奈であった。彼女は、首を傾げながら「何があったのかしら?」と言っていたが、椿はすぐにあの日の千弦の姿を思い出す。
 生徒達の間でも千弦が美緒を避けていると噂として流れ始め、いつの間にか美緒が千弦に勝って学年のトップになったのだと言われるようになっていた。
 誰からも何も言われなくなった美緒は我が物顔で校内を歩いており、カフェテリアでも好き放題している。
 このことから、あの日千弦は美緒に何かを言われたのだろうと椿は察したが、何を言われたのか分からない以上彼女は打つ手がない。
 加えて、あの日から千弦がサロン棟に来なくなってしまったのだ。
 椿がサロン棟に来ない理由を千弦に訊ねると「弓道部の部長になりましたので、色々と忙しくて顔を出せないのです」と彼女は口にしていた。
 実際、これまでも千弦は部活動が休みのときくらいしかサロン棟には来ていなかったので、部長になったことで忙しくなり顔を出せなくなるのも納得出来る。

 椿は、さらに詳しく事情を聞こうとしたのだが、部活があるとのことで千弦に逃げられてしまった。
 以降、椿が休み時間や昼休みに千弦のクラスに行っても、放課後に千弦を捕まえようとしても、本人が居なかったり、彼女の友人達に阻まれたりして会うことが出来なくなってしまったのである。

 どうしたものかと悩んでいた椿であったが、千弦の右腕とも言われる蓮見であれば何か知っているかもしれないと思い、早速話を聞きに行こうとしたが、逆に彼女から空き教室へと呼び出されてしまう。
 ちょうど蓮見に話を聞こうと思っていたところだったので、渡りに船とばかりに椿は呼び出しに応じることにした。

 放課後になり、椿は指定された空き教室まで行き、扉を開けると蓮見が椅子に座って待っている姿が目に飛び込んできた。

「お待たせ致しました」
「私も今来たところですので大丈夫です。少々、話が長くなりますので椅子にお掛け下さい。あと鍵も掛けて下さい」

 椿は素直に教室の扉に鍵を掛けると、近くの椅子に腰を下ろした。
 どことなく蓮見の雰囲気が怖いことに椿は若干の恐怖を感じる。

「……朝比奈様。初等部の修学旅行で私が申し上げたことを覚えていらっしゃいますか?」
「修学旅行……。あぁ、千弦さんを学年のトップにすることでしたかしら?」
「そちらではございません! 『千弦様が不利益を被る事が合った場合、手段は選びません』と、私は申し上げましたよね?」

 声を荒らげる蓮見に驚き、椿は「あ、はい」と情けない声を上げた。
 蓮見はよほど腹に据えかねているのか、かなり興奮している。

「……蓮見さんが怒っているのは、最近の千弦さんの様子と関係があるのでしょう?」
「えぇ。……先日、千弦様が立花さんに呼び出されたのです。私も付いて行こうと思ったのですが、一人で大丈夫だと断られてしまいまして」

 そこから語られた蓮見の説明によると、美緒は祖父が経営している病院が政治家御用達の病院であることを挙げ、千弦の父親の政敵である政治家と協力してマスコミを味方につけて汚職や違法献金、女性問題などをでっち上げて千弦の父親を罠に嵌めてやると言ったらしい。
 烏丸の件という前例がある以上、美緒の祖父が本当に実行に移すかもしれないと思い、父親に迷惑をかけてしまうかもしれないことを恐れた千弦は何もできなくなってしまったのだという。

 話を聞いた椿は、そんな馬鹿な話があるものかと思ったと同時に、何か違和感を覚えた。
 だが、今はそんなことを気にしている場合では無い。
 いくら立花総合病院が政治家御用達の病院であったとしても、千弦の父親を罠に嵌めるなど成功率が低すぎる。

「いくら何でも、千弦さんは慎重すぎやしませんか? 立花さんのお祖父様にそこまでの権力があるようには思えませんし、千弦さんのお父上に忠告されるとか対策すればなんとかなるのでは?」

 千弦の父親はかなり有能な人物だと聞いている。
 事前に危険性があるということを耳に入れておけば対策を講じることも可能なのではないだろうかと椿は思ったのだが、蓮見は力なく首を振るだけであった。

「千弦様のお父上である、藤堂議員は歯に衣着せぬ言動をされる方ですから、党内にも敵が多いのです。それに問題は、やろうと思えばできてしまうことです。脅迫された秘書が藤堂議員を裏切らないとも言えません。次の選挙に勝てないだけならいいですが、これまでクリーンなイメージでやってきた藤堂議員にとっては大ダメージになりますし、スキャンダルの内容によっては再起不能になる可能性もあります。そうならなくとも、ことある毎にその問題が付いて回ることになります」
「それでも」
「有権者の判断基準となるのはテレビと新聞です。そこで悪いように報道されてしまえば、たとえ藤堂議員が白であっても黒になるんです」

 それでも、証拠もなくでっち上げることなど不可能ではないのか? と椿は言おうとしたが、蓮見に被せ気味に発言されてしまう。
 人の評判が良いようにも悪いようにも影響すると分かっている千弦だからこそ、美緒に何も言えなくなってしまったという訳か、と椿はようやく理由を知ることが出来た。

「証拠が無いなら作ればいいだけの話ですからね。政治家にとってスキャンダルは命取りです。さて、朝比奈様。このように千弦様が不利益を被る事態になってしまわれましたが、どのような対策をとっていただけるのでしょうか?」

 口元に笑みを浮かべているものの目は少しも笑っていない蓮見を見て、椿は冷や汗を流す。
 普段、表情の変化のない人間が笑うだけでここまで怖くなるのかと椿は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

「朝比奈様」
「なんとかします」

 椿は早口で口にする。

「具体的には?」
「……なんとかします」

 具体策など追い詰められた今の状況では全く考えられないが、とにかくなんとかしますと言っておかないと蓮見から何をされるか分からない。
 椿はなんとかするつもりである。ただ、少しばかり考える時間が欲しい。

「なんとかします、では分かりません」
「一ヶ月以内でなんとかします。とりあえず考える時間を下さい」
「……一ヶ月以内ですからね。それ以上は待ちません」
「はい」

 なんとか首の皮一枚繋がった状態になり、椿は一安心する。
 精神的に落ち着いたことで、心に余裕が生まれた椿は、先程聞いた美緒の行動に違和感があったことを思い出した。
 落ち着いて考えていると、その違和感の正体に椿は気が付き、蓮見に質問を投げかける。

「あの、蓮見さん。立花さんが汚職や違法献金、女性問題とかをでっち上げると言ったのよね?」
「えぇ」
「立花さん本人の口から言ったのよね?」
「ですから、そう申しております」

 だとしたらおかしくないだろうか。
 美緒が普段からテレビのニュースを見たり新聞を読んだりするとは考えにくい。
 これまでの幼稚な行いから考えても、あの美緒がそこまで知恵が回るとは思えない。
 それこそ、誰かが美緒に教えなければ考えつかないのではないだろうか、そう考えたところで椿は、もしかしたらという考えが過ぎる。

 もしかしたら美緒に情報を与えた人物が居たのではないだろうか、と考えたところで蓮見から声を掛けられた。

「朝比奈様? 黙り込んで、どうなさいました?」
「あぁ、いや。なんでも……」

 なんでもないと答えようとした椿であったが、一人で考えるよりは蓮見の意見も聞いた方が客観的に考えられると思い、彼女にいくつか聞いてみることにした。

「あのさ……蓮見さんから見た立花さんはニュースとか新聞とか見るタイプだと思う?」
「全く思いませんね。低俗なものを好みそうだとは思いますが」
「じゃあ、立花さんが汚職や違法献金、女性問題を内容を含めて知っていたと思う?」
「……思いませんね」

 蓮見も椿と同じように美緒に情報を与えた人物が居る可能性に気付いた様子であった。

「……可能性があるとするなら烏丸さんですが」
「立花さんが素直に耳を貸すとも思えないけどね。自分の友人を取り巻きとして送り込んでいたら可能かもしれないけど」
「ですが、立花さんの取り巻きの中に烏丸さんと親交のある方はいらっしゃいませんよ? 入学してからずっと側に居るのは白桜女学院時代からの取り巻きの方ですから」

 蓮見の話を聞く限り烏丸である可能性は低いが、白桜女学院時代から自分の友人を美緒の取り巻きとして送り込んでいたとしたら可能かも知れないが、さすがにそれは美緒を警戒しすぎている。
 最初の内は美緒の事を確実に下に見ていたと思われる烏丸がわざわざそんなことをするかと聞かれると疑問である。

「だとするなら、立花さんの側に居る取り巻き達? でもどの子も大人しくて自己主張をしないような性格をしてるよね」
「もしかしたら、話の流れで立花さんが情報を得た可能性もありますね」

 確かに世間話の延長でならあるかもしれないが、中学生が政治の話などするだろうかと椿は感じ、政治家の娘と秘書の娘が所属しているグループに居る張本人の蓮見に訊ねる。

「世間話ね……。じゃあ、蓮見さん達は千弦さんと政治の話とかする?」
「しませんね。どこのお店のお菓子が美味しいとか新しい洋服の話だとか、部活や委員会の話が大半です。……自分で言っておいて何ですけど、わざと話題にしない限りは出ませんね」
「普通はそうだろうね。大体、取り巻きの子達は親が医者の子が大半だし、政治家やそれに関連する職に就いている親も居ないから尚更話題に上りにくいよ。それに千弦さんと私は仲が良いのよ? 千弦さんに手を出したら私が出てくるかもしれないのにわざわざ言う理由が分からない」

 特に取り巻きの生徒達は椿が出てきて自分達まで攻撃されるのを恐れているのだから、尚更おかしい。

「…目的が千弦様を大人しくさせることではなく、立花さんの失脚だとするならどうでしょうか? それなら確実に立花さんに勝てる朝比奈様を引きずり出そうとしますよね」
「でもそれってリスクが高すぎるでしょ。自分達まで巻き添えを食らうかもしれないし、追い詰められた立花さんにも巻き込まれる可能性もあるじゃない。今まで私のことを恐れて避けていたのにおかしいと思わない?」
「朝比奈様が鳴海さんと一緒にいる時間が増えた結果、そんなに怖い人ではないと思うようになったのなら納得ですが、交流会でも今も彼女達は必死になって立花さんを止めていますから。それは考えにくいですね」

 美緒を止めていた、という言葉を聞き、疑問に思った椿は、蓮見に千弦と美緒が話していた時の状況を詳しく聞いてみることにした。

「あのさ、千弦さんが立花さんから言われた時に取り巻きの子達は側に居た?」
「えぇ、二、三名ほどいらっしゃったと聞いています」
「立花さんが千弦さんに言った時に彼女達は立花さんを止めてた?」
「……申し訳ございません。そこまでは千弦様から伺っておりません。そもそも千弦様も動揺していらっしゃったので、覚えていないかと」

 言われたことに衝撃を受けてしまい千弦が細かいところを覚えていないのも無理はないと思い、椿はそれ以上聞くのを諦めて考え込む。

「何か引っかかるものが?」

 蓮見の問いに、第三者の意見も聞きたい椿は自分の疑問を彼女にぶつけてみる。

「いえ、千弦さんに手を出したら私が出てくる可能性があるのに、なぜ彼女達は立花さんが口にしようとするのを止めなかったのかと思って」
「止めきれなかったのでは?」
「これまで、千弦さんに対しても私に対しても、立花さんが一線を越えようとした時は止めてたでしょ? それこそ必死に。つまり、彼女達は私が出てくることを恐れているということだし、今回だけ止めなかった、もしくは止めきれなかったのはおかしくない?」

 椿の言葉に蓮見は納得する部分があったのか黙り込んだ。

「大体、千弦さんに話を出す前の時点か途中で立花さんを止めていなければおかしいのよ。千弦さんを攻撃したら、詳しい内容が私の耳に入る可能性があると分かっているはずだもの」
「では、やはり立花さんの失脚を狙っているのでは?」
「だったら、自分達が巻き込まれない為に立花さん一人に罪を押しつける必要があるでしょ? 自分達は知らなかったから仕方ないんだという言い訳が出来なくなるじゃない。だから、あの場で取り巻きの人達が側に居ること自体がおかしいのよ」
「そういえば、初めて立花さんの方から千弦様を呼び出したんですよね。逆の場合であれば、突然のことなので付いて行くしかないかもしれませんが、今回の場合は事前に立花さんから話を聞いていた可能性もありますし、付いて行かないという選択肢があったはずです」

 千弦を攻撃した場合も美緒を失脚させたい場合も、取り巻き達の行動には矛盾があるのだ。
 椿が考え込んでいる間に、蓮見は何かを思い付いたのかゆっくりと話し始める。

「……仮定の話ですが、千弦様が被害に遭ったとしても、朝比奈様が出てこないと思っている場合はどうでしょう? 考えてみれば水嶋様の側に立花さんが居た時は、朝比奈様は特に何も行動されていませんでしたよね。遠目から眺めているだけでしたし。婚約者である水嶋様にちょっかいをかけても何も仰らなかったから、千弦様に攻撃を加えても出てくることはないと思っているのではないでしょうか?」
「だとするならば、立花さんの失脚は狙っていないということ?」
「仮定の話です。水嶋様に近寄る為に千弦様が邪魔だと思って、そう仕組んだと考えたら筋は通ってますよね」
「まぁ、違和感はないわね。と言っても、最初から全部が仮定の話だから、ここで色々とあーだこーだ言っても意味はないのだけど」

 美緒に情報を与えた人物かいるかもしれないという、仮定の話でしかないのだ。
 今は、千弦の問題を解決する方が先である。

「それもそうですね。ですが一応、私の方でも立花さんの近辺を探っておきます。それと、期限は一ヶ月ですから。お忘れなきよう」
「……はい」

 淡々と話している蓮見に力なく答えた椿は、用件が済んでさっさと部屋から出て行った彼女の後ろ姿を見送ると、天井を見上げ途方に暮れた。
+注意+
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