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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 春休みが終わり、椿は二年生となった。

 始業式のこの日、クラス分けが学校に張り出されることになっているのだが、椿は今年は誰と同じクラスになるのか不安でもある。
 親族である杏奈とも恭介とも同じクラスになることは無理だろうし、千弦とも学年内のパワーバランスを考えれば難しいかもしれない。
 かと言って佐伯と同じクラスになれたとしても、毎日一緒にいるわけにもいかない。
 せめて顔見知りと同じクラスになれれば良いなぁという希望を椿は持っていた。

 いつもよりも少し早く起きた椿は、誰も居ないダイニングで朝食を済ませた後、リビングでボーッとしていた。
 いつもであれば、志信が送迎してくれるのだが、今年からは志信の姉の佳純が朝の送迎を担当することになっている。
 登校時間までは、まだ余裕があるので、椿はリビングで時間を潰していたわけだ。
 クッションを膝に抱き、ボーッとしていると、リビングの扉が開いて鳳峰学園の初等部の制服に身を包んだ菫が入ってきた。
 クッションを真横に置いた椿が菫に向かって笑顔で話し掛ける。

「おはよう菫」
「おはようございます。姉さま、どうですか?」

 菫は手を広げて椿に誇らしげに見せてくる。

「入学式のときも制服姿を見せてくれたから、感想は知っているでしょう?」
「何度だってうかがいたいのです!」

 拗ねた顔をしている菫に、椿は苦笑しながら「とても良く似合っているわ」と声を掛ける。

「私がいた頃とデザインは変わっていないけれど、髪の色が違うだけで印象が随分と変わるのね。菫はいつも淡い色の服を着ているから、紺とかの濃い色だと清楚さがより際立つのね」
「……姉さまのおっしゃることはむずかしくてよく分かりません」
「いつも以上に綺麗で可愛い、って言ってるのよ」

 立ち上がった椿は、まだ拗ねている菫の頭を撫でる。
 椿の言った意味は良く分かっていなかったが、褒められたことは理解できたのか菫は嬉しそうに笑みを浮かべている。
 椿が菫と話していると、リビングに佳純が入ってきて、車の準備ができたことを知らせてきた。
 荷物を持った佳純の後を追いかけて、椿と菫は玄関ホールへと移動する。

「では、行って参ります」

 菫や、玄関ホールに居た両親に挨拶をして、椿は車に乗り家を出た。
 車中で佳純との会話はほとんどなく、ほぼ無言の状態のまま車は中等部へと到着する。

「いってらっしゃいませ」
「いってきます」

 佳純に挨拶をした椿は車を降りて、校門に向かって歩き出した
 今年は何組になるだろうかと椿が考えながら歩いていると、後ろから軽く肩を叩かれたので、足を止めて振り向くと、ニッと笑っている杏奈が立っていたのである。

「ごきげんよう椿さん」
「ごきげんよう。杏奈さん。後ろから歩いていらしたのかしら?」
「椿さんの車の後ろにちょうど止まったのよ」

 なるほど、それですぐに声をかけてきたということか、と椿は納得する。
 そう言えば、杏奈と会うのは終業式以来である。彼女は春休み中はずっと家族でスイスに行っていたので、実に久しぶりに椿と顔を合わることになる。

「春休み中はスイスに滞在していたのでしょう?」
「父親が急にスイスに行きたいって言い出したからね」
「どちらに行かれたの?」
「どこにも行かなかったわ。ずっとアルプスの山々を眺めていただけよ」

 思わず椿は「は?」と聞き返すが、杏奈からは同じ言葉しか返ってこない。

「普通はそういう感想よね。滞在中はずっと町で山見てたのよ。母親は父親にベッタリだし」
「何ですの、その苦行」
「両親の横でずっと一心不乱にメレンゲ食べてたわ」

 遠い目をして語る杏奈に、椿は「お疲れ様でした」と言うことしかできない。
 わざわざスイスまで行って山を眺めて帰ってくるとは、と椿は杏奈に同情する。
 そのまま二人は話をしながら校門をくぐるが、玄関には行かない。
 今日はクラス分けが掲示板に貼られているので、先にそれを見なければならないからだ。

 一年生は入学式の時に貼り出されているが、二年と三年のクラス分けは学年毎に二カ所の掲示板に分けられて貼り出されている。
 そのため、二年のクラス分けが貼られている掲示板の前は早い時間ということもあり、そこまで混んではいなかった。
 難なく一番前まで来られた椿は、一組から順番に用紙を見ていくが、中々自分の名前を見つけることができない。そして、順番に見ていき、五組に視線を移して、ようやく椿は自分の名前を見つけることができた。
 上から順番に同じクラスの生徒の名前を見ていく。何人か去年同じクラスだった生徒がいたが、女子の中に顔見知りの生徒の名前を見つけられない。
 今年は、千弦のグループの女子生徒とも同じクラスになれなかったという訳か、と椿は落胆する。
 だが、男子の方に佐伯の名前を見つけ、一人でも友人と同じクラスになれたという事に椿は安心した。
 佐伯と四六時中ずっと一緒にいるわけにはいかないが、少なくとも大事な連絡事項を教えてくれる人がいるというのは心強い。

「ありましたわ。私は五組です。佐伯君と同じクラスですわ」
「あ、私は六組ね。しかも藤堂さんと同じクラスだわ」
「では、体育の授業は一緒ですわね」

 千弦や杏奈とクラスが隣同士ということで、椿はホッとする。
 これで休み時間は理由をつけて隣のクラスに入り浸れるというものだ。

「水嶋様は一組か」

 杏奈の呟きを聞いた椿は、すぐさま美緒の名前を探し始める。
 ほどなくして、最後の八組で椿は美緒の名前を見つけることができた。
 一組と八組とは、学校側の配慮なのか、偶然か。
 どちらにせよ、クラスが離れようと美緒が恭介の側に行くことは変わらなさそうだ。

 前までは椿が口を出したところで、美緒は『恭介様は迷惑だと言ってない』と言い訳をされて聞く耳も持たずに逃げられて終わったことだろう。
 けれど、恭介がハッキリと拒絶した今であれば、美緒が何か大きなことをしでかした場合は遠慮無く椿が出ていけるのだ。
 恭介は迷惑だと言っていないという言い訳を彼女はもう使えない。真っ向から椿と向き合う道しか残されていないのである。

 椿は、美緒と恭介がくっつくのは彼女の性格のこともあり、避けたいと思っている。
 あの二人がくっつけば、美緒の母親と彼女の実家の秋月家がしゃしゃり出てくることは間違いないからだ。
 また、その場合は母親同士がぶつかって、椿の母親が泣かされる羽目になるのは目に見えている。
 そして美緒が性格を改めない限りは、恭介が彼女を選ぶことはありえないと椿は思っている。
 加えて、恭介は美緒に対して嫌悪感を持っている状態だ。
 恭介が嫌がっているという理由もあり、椿はいとこを手助けするためにも美緒とぶつかる必要がある。 
 今のところ美緒は大人しくしているようなので、椿とぶつかるとしてももう少し先になりそうだと思いながら、彼女は五組の教室へと向かった。


 その後、始業式が終わり新入生歓迎会も終わった生徒達はそれぞれの教室へと戻っていく。
 教室へと戻り、委員会と係を決める時間となる。
 椿は今年も、無事に図書委員になることができた。
 その際、男子のほうで一悶着あり、半ば強引に佐伯が男子の図書委員へとなってしまった。
 クラスメイト達は恭介の友人であり、椿とも普通に会話ができる佐伯に図書委員を押しつけたかったのだろう。
 椿としては、ありがたいことではあるが、佐伯にやりたい委員会や係があったら申し訳ないな、と罪悪感を覚えてしまう。
 当の佐伯は困惑しているものの、嫌がってはいないように椿の目には映った。
 けれど、どう思っているのかは分からないので、この後のサロン棟の個室で佐伯と話をしておいた方が良いかもしれないと思い、委員会が決まった椿は興味なさそうなふりをしながら窓の外を眺め始める。

 時間内に委員会と係を決める話し合いも無事に終わり、下校時間となる。
 椿が鞄を持って立ち上がると、教室の扉付近に恭介が来ているのが見えた。
 恭介の方から来るなんて珍しいと思ったが、すぐに佐伯を呼びに来たのだと理解する。

「貴臣、サロン棟まで行くぞ。あぁ、椿。お前も一緒に来ていいぞ」
「あら、よろしいのですか?」
「どうせ、同じ場所に行くんだから変わらないだろう」

 生徒達の注目を浴びる中、椿は恭介と佐伯と連れ立って歩きながら、サロン棟の個室へと向かう。
 個室には、まだ話し合いが長引いているのか杏奈と千弦は来ておらず、しばらくしてから椿達が談笑中にようやく二人は姿を現したのである。

「遅かったのね」
「委員会が中々決まりませんでしたの」
「お疲れ様。千弦さんは今年も風紀委員?」
「えぇ。風紀委員は性に合ってますから」

 確かに、曲がったことが嫌いな千弦の性格に合っている委員会だ、と椿はうんうんと頷いた。

「で、杏奈は?」
「私は今年も保健委員よ。そう言う椿は?」
「私も図書委員。今年はなんと佐伯君と一緒」
「佐伯君、ご愁傷様」

 杏奈は本当に可哀想なものをみる目で佐伯を見ている。
 見られた佐伯は苦笑しているが、「そんなことないよ」と口にした。

「朝比奈さんって、仕事はちゃんとする人だしね」
「"は"? 今、佐伯君"は"って言ったよね?」
「それに人目につくところで、はじけることもないと思うし」
「ねぇ、佐伯君。ちょっと私の目を見ながら、さっきのセリフをもう一度口にしてもらえるかしら?」

 頑ななまでに椿と視線を合わせようとしない佐伯。
 その佐伯を瞬きひとつせずに目をカッと見開いて椿は見ていた。
 見かねた千弦が佐伯に助け船を出す。

「椿さん。フランボワーズのマカロン、召し上がります?」
「食べる」

 首をグルンと反転させて、椿は千弦からマカロンを受け取った。

「いつか、どら焼きくらいの大きさのマカロンを食べるのが私の夢なんだ」

 真剣な声で呟いたが、周囲の椿を見る視線は冷たい。
 その空気に耐えられず、椿は別の話題をわざとらしく振る。

「……で、でも、佐伯君が同じクラスで良かったよ」
「僕も、朝比奈さんが同じクラスで良かったと思ってるよ」
「佐伯君、お世辞でもあいつは本気でとるから控えめにしたほうがいいわよ」
「ご自分の首を絞める必要はございませんわ」

 おい、そこの六組コンビ。

「日頃の行いのせいだろ」

 一人我関せずと紅茶を飲んでいた恭介からのツッコミに、椿は「うるさいよ!」と彼に八つ当たりをする。

「貴臣、こいつは意外と空気は読む。だからお前に迷惑をかけることは無いし、フォローも必要ない。案外、一人でどうにでもできるからな」
「それは僕も思ってたよ。大丈夫」
「どうでもいいですけど、重要な連絡事項くらいは教えてくださいね」

 直前に聞かされて内心で慌てふためくのはもうごめんである。
 椿のその願いを聞いた佐伯は、控えめに頷いてくれた。

「連絡事項で思い出したけど、今月の遠足って動物園なのよね。明日説明があるってここに来る前に友達が言ってたっけ」
「そう言えば、今年は自然学校がありますから。それで、遠足は動物園に参りますのね」

 そうなのだ。今年は夏休み明けに自然学校があるのだ。そのため、遠足は都内の動物園に行くことになっている。
 自然学校とは名ばかりで、那須高原にある鳳峰学園が所有するホテルに宿泊し、生徒達は登山する組と施設見学をする組に別れて行われる行事である。
 ほとんどの生徒は施設見学コースを希望するので、登山に慣れている初等部からの生徒は強制的に登山コースに送り込まれると噂で聞いていた。

 また、最終日には打ち上げを兼ねた交流会という名のパーティーが行われるが、生徒は制服ではなく、正装が義務づけられている。
 そのため、別のホテルに生徒達の家の使用人を宿泊させ、交流会の前に使用人を来させて準備をしなければならないと聞き、交流会では確実にそれぞれの家の自慢合戦が始まるに違いないと考え、椿はとても面倒臭く感じていた。
 朝比奈家の使用人であれば、年若い佳純が椿に同伴することになるだろう。
 交流会では、なるべく目立たないように端っこにいようと決め、椿は二個目のマカロンに手を伸ばした。 

「お泊まりなんて、修学旅行以来ですもの。楽しみですわ」
「多分、登山で相当疲れていると思うけどね。二泊三日だったっけ?」
「えぇ。二日目に登山の予定ですわね。また皆さんの足を引っ張るかと思うと憂鬱ですが」

 また今回も足の遅い自分に友人達を付き合わせてしまう、と千弦は今から心配しているようだ。

「心配しなくても、蓮見さんや周防さんは、喜んで千弦さんに付いて行くわよ。なんなら私も付いて行くけど? どうせ私と一緒に行く人、誰も居ないだろうし」
「椿さんもご一緒するとなると、貴女の猫が落ちやしないかと緊張してしまいますので遠慮致します。貴女も、私や八雲さんだけじゃなくて他にも親しい方を作ったらいかが?」

 また、無理難題を仰る、と椿は笑顔のまま固まった。

「千弦さん。同学年の生徒から怖がられて遠巻きにされている状況で友達ができるとでも?」
「佐伯君のように、椿さんの内面を見て下さる方はいらっしゃるのでは?」
「どうだろうね」

 イエスともノーとも言えない微妙な返しをしてしまう。
 千弦には悪いが、椿はこれ以上親しくする人を増やす予定は無い。
 もしかしたら、篠崎と交流することによって、普通に会話をするまでになるかもしれないが、あくまでも恭介の友人というスタンスが崩れることはないだろう。
 椿は特に派閥を作りたいわけでもないので、今のままで十分なのである。

「その内、気が向いたら友達を作る努力をするわ」

 作る気もない友達の件は、これで終わりと椿は話を切り上げる。
 友達作りに興味がなさそうな椿の返事に千弦は不満そうな表情を見せるが、彼女の意を汲んだのか、それ以上ああしろこうしろとは言わなかった。
 こうして友達作りの話題は終わり、椿達は体育祭や遠足の話で盛り上がった後、帰宅時間となったところでお開きとなり、解散となった。

 朝比奈家の送迎車に乗り込んだ椿は、背もたれに体を預けてため息を吐く。

「いかがなさいました?」

 視線を前に向けたままの志信が、椿を心配したのか訊ねてくる。

「特になにも。強いて挙げるのならば、今年一年が平穏無事に終わればいいなと思ってるだけよ」
「左様ですか。何か、不安などあれば、すぐに申しつけて下さい。即座に対処致しますので」
「ありがとう。じゃあ、コンビニ寄ってくれる?」
「それは致しかねます」

 椿は志信から顔を背けて小さく舌打ちをした。
 舌打ちが聞こえていたのか、すぐに志信から注意を受けるが、椿は反省の意味を込めずに「はーい」と返事を返した。
 これまでも、何度か社会科見学だと言って志信にコンビニに行こうと誘っているのだが、毎回断られている。
 商品を買わなくてもいいから、コンビニの中に入って商品を見たいだけなのに、志信は頷いてはくれなかった。

 今回も志信との駆け引きに負けて帰宅した椿がリビングに行くと、母親が待ち構えており、椿を手招きしてソファへと誘導してくる。

「椿ちゃん、お友達とは同じクラスになれたの?」
「女の子はダメでしたけど、男の子の方では佐伯君と同じクラスになれました」
「まぁ、佐伯君と? 良かったわね」

 ニコニコと微笑んでいる母親に向かって、椿も微笑みを返す。
 まさか、母親も椿の友達が恭介を含めて学校内に四人しかいないとは思うまい。

「それで、恭介君と杏奈ちゃんは?」
「えっと、恭介は一組ですね。杏奈は六組です。あ、杏奈は千弦さんと同じクラスなんですよ」
「同じクラスになれなかったのは残念だけれど、隣のクラスなら休み時間にお話しやすいわね」
「そうですね。それだけが救いです」

 クラス分けを見ているときに、篠崎のクラスも気になった椿は、視線を動かして彼の名前を探していた。そして、二組で彼の名前を見つけたのである。
 篠崎は、恭介と友達になった後も、勝負することを諦めていない様子を見せている。
 これは、体育の授業の時はニクラス合同なので大変そうである、と椿は恭介に向かって頑張れよーと密かにエールを送った。

「そう言えば、菫はもう帰ってきているのでしょう? 初日はどうだったのかしら?」
「もうお友達ができたみたいで、帰宅してからずっと、その子のお話ばかりしているの」
「それは良かったです。菫は私と違って社交的な子だから安心しました」
「あら、椿ちゃんだって割と社交的な方ではなくて?」

 母親の言葉に、椿は思わず言葉に詰まってしまう。
 知らずに墓穴を掘ってしまっていたことに気付いた椿は冷や汗を流した。

「お友達と同じクラスになれなかったということは、新しい交友関係を広げるチャンスでもあるのよ? 椿ちゃんの口から、新しいお友達の名前を聞くのが楽しみね」

 無邪気に笑う母親にトドメを刺され、椿は力なく笑いリビングを後にした。
今回の話から小説の体裁を整えてます。
これまでの話は、時間があるときに修正していこうと思ってます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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