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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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「水嶋!期末テストの結果はどうだった!?」

カフェテリアへと移動中に恭介のクラスの前を通りがかった椿は、大きな声を上げながら教室のドアを勢いよく開けた篠崎の姿を見掛けて足を止める。
まぁ、何かしら?という体を装いながら、椿は教室の中に視線を向けた。

「……また来たのか。飽きない男だな」
「俺は諦めない男なんだよ。それに今回も俺は2位だったが、もしかしたら万が一でも調子が悪くて水嶋が3位になっていると言う可能性もあるじゃないか」
「前向きだな」

言いながら恭介は、結果の書かれた紙を篠崎へ向かって差し出す。
目を輝かせながら紙を受け取った篠崎は、書かれている結果を見た途端に無表情になり、すぐに紙を恭介に返却する。

「3学期の中間テストで勝負だ!」

という言葉を残し、篠崎は教室から出て行ってしまう。
篠崎の後ろ姿を目で追っていた椿は、今回も恭介が1位だったのか、と察して、すぐにカフェテリアへと移動する。

これまでと同様に今回の期末テストでも、上位陣の順位が変わることはなかったようである。
椿はと言えば、順位がひとつ上がり、12位という結果であった。

ということをカフェテリアで昼食を食べながら椿は杏奈と話している。

「杏奈さんは10位でしたかしら?」
「えぇ。どうしても数学が苦手でね」
「苦手な割に10位とかなめてますわね」
「他の教科に比べれば、と言う意味だからね。それにしても、篠崎君も頑張ってるわね」

先ほどのやり取りを見ていたのか、それとも誰かから聞いたのか、杏奈がその話題を口にする。

「普通、あそこまで負け越したら嫌になるものじゃありません?」
「それでも挑み続けるのは、男としてのプライドってやつなんじゃない?」
「女には分からない感情ですわね。けれど、篠崎君のおかげで恭介さんの印象は良くなっておりますので、彼には頑張っていただきたいものです」

親しみやす過ぎるのも問題ではあるが、多少なりとも怖い人では無いという印象を持ってもらえるのは良いことである。
いつまでも椿がフォローする訳にもいかないのだ。

「そう言えば、冬休みに家族旅行に行くんだってね」
「えぇ。菫が水族館へ参りたいと申すものですから、でしたら有名な沖縄へ、ということですわ。菫と樹は、旅行が初めてですから、毎日興奮しておりますのよ?可愛らしいこと」
「お土産は赤ちゃんサイズのぬいぐるみで良いからね」
「"可愛いらしい"に同意して下さいな。それとお土産のリクエストは受け付けておりませんわ」

朝比奈家では菫の受験が終わり、そのご褒美を兼ねてこの冬休みに旅行へ行くことが決まっていた。
菫も樹も遠出する旅行自体が初めてのため、旅行が決まってから毎日興奮している状態なのである。
2人の可愛らしさを杏奈に訴え、同意してもらおうとしたのだが、杏奈はそれよりもお土産の方を重視したようだ。


そして12月の恒例行事である水嶋家主催のパーティーに今年も椿は参加した。
水嶋のパーティーは昨年と違い、これまで通り主要な取引先しか招待されていなかった。昨年は伯父が社長に就任して1年目の記念だからと広く招待されていただけなのだろう。
だが、今年も千弦や佐伯は招待されていた。少しの時間だけだが、恭介や杏奈と5人で話せたので、退屈なパーティーが少し楽しいものになったのである。
椿と恭介は、昔から良く顔を見ていた人達に中等部の学園生活のことなどを聞かれながら、挨拶をして回った。
だが、今回のメインは、来年から鳳峰の初等部に入学する菫である。
両親に連れられた菫が、色々な人に挨拶しに回っている姿を椿は何度か目にしていた。
名前と同じスミレ色のドレスに身を包んだ彼女は、緊張した面持ちで挨拶をしている。

「鳳峰に合格できて良かったな」
「えぇ、本当に。再来年は樹さんの受験がありますから、また忙しくなりそうですわ」

恭介から話しかけられ、目線は菫に向けたまま答えた椿は、来年こそは、のんびりとした一年を過ごしたいものだと切に願っている。
ただ、あの美緒が大人しくしてくれるかといえば疑わしいところではある。

こうして、水嶋のパーティーが終わり、冬休みに入ってすぐに椿達家族は旅行へと出発した。
椿も沖縄へ行くのは初めてであったため、正直ワクワクしている。
昨年の誘拐騒ぎの件もあり、これまで、遠出したことがない菫と樹。
いきなり海外に行くよりは、最初に国内旅行で慣らした方が良いという両親の判断もあっての沖縄だ。

「菫ちゃん。お母様やお父様の側から離れてはいけないのよ?それと護衛からも離れないこと。いいわね」
「分かってます。きゅうに走り出したりしません」
「そんなに言わなくても、菫ちゃんは良い子だから大丈夫だよ。ね?」
「はい!」

元気いっぱいに返事をした菫だが、勝手にいなくなった前科があるので母親の表情は心なしか暗い。
旅行自体は了承してくれたが、国内を譲らなかったところを見るとまだ心配なのだろう。
今回は両親が揃っているし、護衛達も菫や樹をよく注意して見ていると思うので、前回のように見失うことはないはずである。
だが、そういう油断が禁物なのだと気付き、椿は自分も目を離さないようにしようと気を引き締める。

沖縄に到着後、車でホテルまで移動中、海を見たいとの菫の言葉を聞いた一行は、観光客の少ない場所に車を停めて、少しだけ浜辺を散歩する事にした。
菫と樹は波打ち際の手前あたりで寄せては返す波を面白そうに眺めている。

「椿ちゃんも行かないの?」

父親は、ずっと自分の隣にいて大人しくしている椿を気にしている様子であった。

「こういうものは遠目から見ているだけでも楽しいですから。そう言えば、向こうにアスレチックがあるみたいですけれど」
「怪我したら危ないからダメだよ」

やってみたいなーと言おうとしたが、速攻で断られてしまった。

「椿ちゃんは好奇心旺盛すぎるよ。あ、もしかして、習い事の帰りとか寄り道してたりする?」
「まさか、習い事や買い物するとき以外は大人しく家に帰宅してますよ」

"今は"と心の中で付け加える。

「志信君、本当に?」
「えぇ。習い事の他にお店に寄ることはありますが、そういった場所には立ち寄りません」

同行していた護衛の一人である志信がしれっとした顔で口にしているが、椿同様、心の中で"今は"と付け加えているのだろう。
椿も志信も嘘は言っていない。実際、今は公園に立ち寄ることもしていないのだ。
もうそろそろ志信に声をかけてみようかなと思っていた椿は、まだ口に出してなくて良かったと安堵する。
と、そこへ菫と樹が急ぎ足でやって来た。

「姉さま、いっしょにしゃしんをとりましょう!」

菫と樹の会話の中で、沖縄の海をバックに写真を撮ることになったらしく、椿を誘いにきたのだそうだ。
椿には弟妹の申し出を断る理由はない。

「構わないわよ」
「わたくしのとなりじゃなきゃダメですからね!」
「あ、ぼくもとなりがいい!」

と、押し切られ、椿は菫と樹の間に腰を下ろして三人で写真を撮る。
写真を撮った後、軽く砂遊びをして沖縄の海を堪能した家族はホテルへと向かった。

--------------------

翌日、旅行のメインでもある水族館へと向かう。
菫も樹も、前日は興奮して中々寝付けなかったのだと母親から聞かされ、椿は思わず口元を緩めていた。

「菫も樹もとても楽しみにしているのね」
「旅行に行くまでずっとイルカさん、イルカさんって言っておりましたものね」
「色々とグッズもあるみたいだし、喜んでくれるといいね。でも、イルカは施設外の場所だから水族館の後になるけどね」

両親との会話の通り、水族館に入った後の菫と樹の興奮ぶりは物凄いものがあった。
だが、薄暗い室内に自然と菫も樹も落ち着きを取り戻したのか、途端に大人しくなる。

「ほら、菫ちゃんも樹も、水族館に入ったら僕達と手を繋ぐって約束したよね?」

落ち着きを取り戻した後で、父親の言葉を聞いた菫と樹は、すぐに両親としっかり手を繋ぐ。

「じゃ、行こうか。椿ちゃん、はぐれないでね」
「さすがにお父様は目立ちますので、見失うことはありませんよ」
「そう? 志信君、ちゃんと見ていてね」
「畏まりました」

そんなにウロチョロすると思われているとは心外である。
だが、仮にはぐれたところで、側に志信や他の護衛が居るのであれば迷子になることはないだろうと椿は思っていた。

父親と志信との会話の後、両親と手を繋いだ菫と樹の後ろから椿は付いていく形となる。
色々な水槽を見て回ったが、水族館内の一番大きな水槽に来ると、菫と樹は視線を奪われていた。
菫は水槽内の生き物を物珍しそうにジッと見つめている。

「あんなに大きなお魚さんが海にいるんですね。……でもちょっとこわいです」

確かに子供から見たら大きな生き物に恐怖を感じてしまう気持ちも分かる。
樹など、涙目になりながら母親にしがみついている状態だ。

「じゃ、そろそろイルカショーの時間だから移動しようか」

気分が沈み始めた菫と樹を気遣ったのか、父親が明るい口調で口にする。

「そうですね。椿ちゃんは志信君に付いてもらってもう少しゆっくりしていく?」
「いえ、私も向かいます」

折角の家族旅行なのに菫や樹から離れてなるものかと思い、椿は付いていくことを決めた。
すぐに、全員でイルカショーをする場所へと向かい、空いている席に腰を下ろす。
予定時刻になり、イルカショーが始まったが、最初の高いジャンプに観客から「おぉー」という歓声が飛ぶ。
投げた輪っかやボールを器用に取って持っていく姿は、素直にすごいと椿は思う。
菫や樹も目を輝かせてショーを見ていた。
ちょっとした笑いもあったイルカショーが終わり、椿達は他の施設を見て回ったりして時間を過ごし、ホテルへと戻る。

「イルカさんすごかったですね!」

菫は、水族館で購入したイルカのぬいぐるみを抱きしめていた。
すっかりイルカ好きになった菫は、水族館のショップでイルカグッズをいくつか購入していた。
ちなみに椿も、お土産としていくつかキーホルダーやぬいぐるみなどを購入している。

「そう言えば椿ちゃん。3学期は演劇鑑賞があるのでしょう?」

中等部では、3学期に敷地内のホールで全員参加の演劇鑑賞会がある。
外部から呼んでやってもらう手筈になっているのだ。

「えぇ、今回はオペラでフィガロの結婚だという話ですね。去年は歌舞伎だったそうです」
「まぁ、フィガロの結婚。華やかでいいわね。モーツァルトと言えば魔笛も素晴らしかったわ。基本的にハッピーエンドだから楽しいのよね」
「ハッピーエンドじゃないとなんだか消化不良になりますから」
「えぇ、本当に。観た後に気分が沈み込んでしまうもの」

だからラストが悲劇で終わるオペラはあまり観ないのよ、と母親は続ける。
感受性の強い母親らしい、と椿は思わず笑ってしまった。

「お母さま、わたくしもオペラをみてみたいです」

先ほどから、華やかだの楽しいだの言っていたので、菫も興味を引かれたらしい。
だが、オペラは基本的に子供向けに作られていないので、菫には難しくてつまらないかもしれない。

「菫にはまだ早いんじゃないかしら?」
「あら?椿ちゃんだって同じくらいの年にオペラを観てたでしょう?」
「それは、そうですが」

痛いところを突かれて、椿は言葉に詰まる。

「先ほども口にした魔笛であれば、菫ちゃんでも楽しめそうね」
「ほんとうですか!?」
「えぇ。けれど、初等部に入学してからでないと劇場に入ることができないのが残念ね」

今はまだ観に行くことが出来ないと知り、菫はガックリと肩を落としている。

「だったら、来年の六月くらいに姉さまとオペラを観に参りましょうか」
「よろしいのですか!?」
「お母様、構いませんよね」

誘拐騒ぎで心配性に拍車がかかっている母親が了承してくれるかどうか心配になり、伺いを立てる。
けれど、椿の心配を他所に母親の表情は至ってにこやかである。

「勿論よ。それと、お母様も仲間に入れてもらえるかしら?」

簡単に承諾してくれたことに椿は胸をなで下ろした。



その後の旅行は、琉球ガラスを見に行ったり、船に乗ったりして充実した日々を過ごして椿達は東京へと戻ってきた。

年が明けて新年を迎え、水嶋家へ挨拶に行った椿は、恭介に沖縄旅行の土産を手渡した。

「マンタのキーホルダーにシーサーのイラスト付きTシャツ……。お前の土産はセンスが壊滅的だな」
「返せ」
「だが、僕の手に渡った以上は僕の物だ」

キーホルダーとTシャツは、しっかりと恭介の手に握られている。

「それから椿。来月のバレンタインだけど、レオが来るからチョコの準備してやれよ」

聞いた途端に椿は嫌そうな顔をする。

「えー面倒。チョコの湯煎とかすごい面倒」
「誰も作れとは言ってないだろ。店で買えよ。あと、作るのはお前の家の料理人だからな。お前は最後にデコレーションをするだけだから面倒も何もないからな」
「デコレーション用の材料を手に持つ労力が面倒」
「それが自分用の場合は率先してやるくせに」

それはそれ、これはこれである。
椿の考えが顔に出ていたのか、恭介は白い目を向けていた。

「……とにかく、夏休みのときの罪滅ぼしだと思って渡してやれよ」
「それを言われると弱いわ」
「いいな。渡せよ?」
「……分かったよ」

気が進まなかったが、有名な店のチョコでも買ってレオンに渡して無難に終わらせようと決めた。

「ところで椿、篠崎のことなんだが」
「冬休みの間に何かあったの?」
「……何度か家に来た」
「は?」

予想外の言葉に椿は思わず聞き返した。

「相も変わらず『勝負しろ』ってうるさかったから、家に上げてチェスしたりビリヤードしたりしてた」
「……篠崎君、遊びに来たの?」
「勝負しに来たんだろ?」

 遊びに来るわけないじゃないか。お前は馬鹿なのか?と恭介に畳み掛けられる。

「それで、勝負だけして帰ったの?」
「いや、瀬川がお茶の用意をしてくれてな。どこの問題集と参考書が役に立つかとか話して帰っていった」
「……何しに来たのよ」
「勝負だろ?」

恭介の説明に椿は納得がいかない。
どこからどうみても、仲の良い友人が遊びに来たようなものである。
瀬川もそう思ったからこそ、お茶の準備をしたのだろう。

「お祖父様がいる家で随分とチャレンジャーね」
「来たときは、お祖父様がフランスに行ってて不在だったから会ってない」
「運が良いわね」

いくら篠崎と言えども、あの祖父と対峙しながら恭介に勝負だーなんて言い出すのは無理だろう。
最悪、礼儀がなってないと祖父から言われ、家から叩き出されて終わりそうだ。

「とにかく、冬休みは篠崎のおかげで有意義な時間を過ごせた。友人への道に一歩近づいたはずだ」

得意気に話している恭介を見て、もう、お前らさっさと友達になっちまえよ、と椿は投げやりになる。
端から見れば、友好を深めているようにしか見えない。
だが、恭介と篠崎は至って真剣に勝負をしているようである。
まだ話し足りない恭介から、その後も冬休みの思い出話に付き合わされた後、ヘトヘトになりながらも祖父と伯父に挨拶をして椿は帰宅した。

翌日、朝比奈本家で行われる新年会に顔を出した椿は、菫の入学祝いで盛り上がる面々を尻目に、昨日の愚痴を杏奈にこぼしていた。

「あいつら仲良しさんか!」
「サーターアンダギー、美味しいわね。本家の料理人が作ったんだって。椿達が沖縄旅行に行ったって聞いて、お祖母様が食べたいって言い出したとか」
「篠崎君も篠崎君よ!家まで行くとか。自宅で修行でもしてれば良かったのに!」
「お土産のジンベイザメのぬいぐるみだけど、でかすぎて場所とりそう。手のひらサイズのやつ無かったの?」
「ねぇ杏奈。私の話、聞く気ある?」

 全く相槌を打ってくれない杏奈に、椿は我慢できずにツッコミをいれる。

「聞いてるわよ。ただ、別に興味がないだけ」
「バッサリと切り捨てないでよ!」
「何だかんだで、その内仲良くなるわよ。男同士ってそんなもんでしょ」
「そうだけどさー。本人達が気付いてないだけで、十分仲良しなんだもん。もどかしいったらないわ。それにツッコミをいれたくてウズウズするのよね」

特に、篠崎の肩を掴んで揺さぶって、もうお前ら友達だから!それ友達だから!と言いたくて仕方ないのだ。

「そーんなことよりも、レオのことでしょ?」

やはり杏奈のところまで話が行っているのかと思い、椿は頭を抱える。
けれど、椿はすぐに真顔になって口を開く。

「カカオ豆を丸ごとってやっぱダメだと思う?」
「レオのことだから、料理人に頼んで、椿から貰ったカカオ豆からチョコを作らせるに決まってるでしょう?大人しくお店で買ったチョコを与えておけばいいじゃない」

確かにレオンなら料理人に頼んで豆から作りかねない思い、椿はうなだれる。

「やっすいチョコでも与えれば?3倍どころか100倍くらいで返ってくるわよ」
「いや、それはさすがになけなしの良心が痛む」

それは完璧に貢がせてると言えないだろうか、と椿は思ってしまう。
やはり、きちんとした店でチョコを買ったほうがいいのかもしれない。
椿は、頭の中で都内のチョコレート店の検索を始めた。
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