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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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11月に入り、菫は鳳峰学園初等部の受験を終えた。
受験当日は、緊張していたのか浮かない顔をしていたが、両親に励まされて徐々に笑顔を見せ始め、椿に「行ってまいります」と挨拶し、受験会場へと向かっていったのである。
椿は自宅で菫達を見送り、受験を終えて帰ってくるまでの間、樹の相手をしながらもせわしなく屋敷内をうろついては使用人に注意される、を繰り返していた。
そして、帰宅した菫達に一目散に近寄って行くと、菫を質問攻めにする。

「菫、受験はどうだった?面接では聞かれたことに答えられた?筆記も問題なかった?難しい問題は出た?」
「椿ちゃん、菫ちゃんが固まってるでしょう?質問するなら1つずつ聞かないと」
「そうでしたね。ごめんなさい」

心配のあまり我を忘れていたことを指摘され、椿は素直に謝罪の言葉を口にした。
そして、気を取り直して菫に質問を投げかける。

「それで、菫。受験はどうだった?」
「とっーてもきんちょうしましたけど、ちゃんと答えられました!」
「菫ちゃん、ハキハキと答えられていたものね」

母親は菫の言葉を肯定し、受験が問題なく終わったことを椿に教えてくれた。

「それを聞いて安心しました」
「本当に菫ちゃんは堂々としていて、素晴らしかったわ。頑張ったわね」

母親は菫の頭を撫でながら、今日の頑張りを褒めたたえている。

「だって、合格しないと倖一さまにお会いできないんですもの」

だから頑張りました!と菫は胸を張っている。
寝ても覚めても倖一のことを話題にして勉強に集中できない菫に、両親が『鳳峰学園の初等部に合格するまで倖一には会わない』という条件を出したのである。
条件を出したときに菫は猛反発したが、全く勉強に集中できていないことを自覚していたのか、最終的にはその条件をのむ結果となる。
それ以降、菫はちゃんと集中して勉強するようになった。
恋の力は偉大である。

「きちんと倖一君のお宅に事前に伺っても良いか、許可を取らなければいけないのよ?」
「もちろんです!やくそくもなしにうかがったりしません!」

菫は両手を握り、力強くそう宣言している。
積極的に倖一家族と関わりを持って良いのかな、と椿は思ったが、両親が何も言わない以上は出しゃばるような真似はできない。
まだまだ子供である椿に、両親は自分達の考えを伝えることはない。
倉橋の家を嫌っているのは察しているが、倖一家族のことをどう思っているのかも分からず、何とも言えない気持ちになりながら、その光景を見つめていた。

そして、数日後。
菫は無事に鳳峰学園の初等部に合格した。

母親から手渡された紙を何度も見ては「姉さま、ちゃんとごうかくって書いてありますか?」と確認をしている。

「ちゃんと合格だと書いてあるわ。おめでとう菫」
「ほんとうに?ほんとうにごうかくですか?」

念押ししてくる菫に椿は何度もそうだと頷きながら答えた。


「と、いうことが昨日あってだな。どうだ家の妹可愛いだろう?」
「はいはい。菫は可愛い可愛い」

ところ変わって、サロン棟のいつもの部屋で、椿は杏奈に菫のあれやこれやを自慢していた。
本日は、椿と杏奈以外の人は用事があるらしく来ていない。
だからなのか、椿は存分に杏奈に向かって妹自慢をしているのである。
つまるところ、聞いてくれる人が杏奈しかいないということだ。

杏奈は先ほどから繰り返される椿の妹自慢に飽きているのか、返事がおざなりである。
けれど、椿は杏奈のおざなりな態度を気にも留めずに、初等部に入学後の菫の妄想をどんどん膨らませていく。

「……ハッ!初等部に菫をたぶらかす馬鹿がいたらどうしよう……!」
「いたらどうするのよ」
「泣かす」
「大人げない!」

間髪入れずに泣かすと口にした椿に杏奈は即座にツッコミをいれる。
付き合いが長いので、ツッコミも至ってスムーズだ。

「大人げなくて結構よ。それでなくても、菫は素直で純情で清楚で慎ましくて大人しくて可愛い子なのよ?馬鹿なガキの餌食になっちゃうじゃない」
「心配しなくても、鳳峰の初等部にいる男子は大人しい子が多いじゃない」
「甘いわよ杏奈」

椿は杏奈に向かって勢いよく人差し指を向ける。

「修学旅行のときを忘れたの?開くと閉じるをふざけて押すような男子も存在してたじゃない!」
「ちょっと、人を指ささないでよ。あと、私はその現場見てないから知らないわよ」
「おまけに、ちょっとしたことですぐに調子に乗るんだから……!忌々しい!ふざけて相手を押してよろけた子とぶつかって転ぶ菫の姿が目に浮かぶわ!」
「私はあんたの妄想力のほうが怖いわ」

全く噛み合わない会話を繰り広げている椿と杏奈。
やがて、椿は全てを言い終えて満足したのか、荒くなった息を整えてから紅茶を飲んで心を落ち着かせる。
カップをソーサーに置いた後で、椿は真顔になり口を開く。

「やっぱり初等部を買収しようかしら」
「何がどうしてそうなったのよ」

あまりの突拍子の無い言葉に杏奈は呆れ返ってしまう。

「……やはり意地でも女子校に入れるべきだったのか」
「そうね。巻き込まれる私のためにも、ぜひそうするべきだったわね」
「だが、女子校に行って男に免疫のない子になるのも怖い!ダメンズ捕まえそうで怖い!」
「……すでに特定の相手がいるから大丈夫でしょ」

やや投げやりに言った杏奈であったが、すぐに口にした内容が地雷を踏み抜いたことに気付いたようで、慌てて口に手を当て、ゆっくりと椿に視線を合わせた。
杏奈の予想通り、椿の顔は般若になっている。

「認めない」
「いや、ちょっと」
「認めない。私は奴が菫の相手だなんて認めない。認めないんだからー!」

らーらーらー、とセルフエコーをした椿はそのまま机に突っ伏してしまう。

「セルフエコーとか余裕ね!さてはあんた、思ってるよりも倖一君のこと嫌いじゃないでしょ?」

杏奈に問われ、椿は顔だけを上げてその問いに答えようとする。

「だって、普通に考えても見なさいよ。誘拐されそうになった子を助けたのよ?まぁ、多少口が悪いところはあるけど、女の子や困っている人には優しいし、成績優秀で運動神経も悪くないって話だし?素行に問題も無いし、学校じゃリーダー的存在らしいし?」
「少女マンガのヒーローかって話よね」
「全くよ!問題があるのは、奴があのクズの血縁者ってことだけなのよ!欠点が致命的過ぎて同情する!」

椿は、それさえ無ければ、それさえ無ければとブツブツ口にしている。

「でも、成績優秀だとか運動神経が良いとか、よく知ってるわね」
「そりゃあ、情報を流してくれる子が身近にいるんだもの。嫌でも耳に入るわよ」
「あぁ、菫本人ね」

杏奈の脳裏には、嬉しそうに倖一のことを話す菫の姿が思い浮かんだことだろう。
非常に微笑ましい光景だが、言われる椿にとっては堪ったものではない。

「菫によると、幼稚園の頃から剣道を習ってるみたい。腕前までは知らないけど、そろそろ試合に出ないかって言われてるみたいだから、悪くはないんじゃない?」
「本当に何でも話してるのね」
「何度も話すから、もう先を読めるようになっちゃったわ」

菫も菫で真面目に話を聞いてくれる相手が椿しかいないので、話しているという面もあるのだろう。
父親はあからさまにやだーと言って拒否しているし、母親もあまり好意的でないことを菫は察しているのかもしれない。
それで、椿に聞き役が回ってくるというわけである。

「反対したいけど、反対できる要素が血筋しかないから、それを口にするのは反則だし、自分の中の大事なものを捨てる気がしてできない。だけど、奴を知れば知るほど非の打ち所がなさ過ぎて悔しい」
「それさえ無ければ、良い相手だものね。まぁ、どう育つのかは分からないけど、就職には困らなさそうだし」
「そうよ。分かってるのよ。だけど、可愛い妹の愛情を独り占めしているのかと思うと我慢できないのよ!」

再び机に突っ伏した椿を見ながら、杏奈は冷め始めた紅茶を飲み干した後で、この話を続けるのが面倒になったのか、唐突に別の話をし始める。

「そういえば、最近水嶋様にまとわりつく生徒がいるって知ってる?」

杏奈の言葉を聞いた椿は、体を起こして「どういうこと?」と口にした。

「え?立花さんではなくて?」
「立花さんは最近大人しいじゃない。大人しいというか、空回りというか」

確かに、その通りであると椿は最近の美緒の行動を思い出す。
あれから大人しくなったとはいえ、これまで通り美緒は恭介の隣に陣取り、話しかけている姿を椿はよく見かけていた。

「水嶋様!クリスマスの予定は空いてる?一緒に出掛けない?」
「忙しいから無理だし、忙しくなくても行かない。しつこく言うようなら関わりを絶つ」
「それは嫌!でもクリスマスに一緒に過ごしてくれないとイベントが……、でも関わりを絶たれると困るし……」

恭介の言葉に頭を悩ませていた美緒であったが、助け船は意外なところからやってきた。

「立花、色つきリップは校則違反だぞー。生徒指導室に来なさい」
「っな!なんで私が!」
「10秒以内に来ないと罰として先生と一緒に朝の挨拶運動に…」
「行けばいいんでしょ!」

教師に呼ばれ、ドスドスと足音が響きそうなほどの勢いで美緒は生徒指導室へと向かって行った。

恭介の言葉を聞いている分だけ進歩したのだろうが、一度ぶち切れた彼は面倒だとか嫌だとか思っていないのか気になって、椿は2人きりになったときに思い切って聞いてみた。

「恭介、大丈夫?」
「何がだ?」

何に対しての大丈夫なのか、本当に気付いていないようで恭介は首を傾げている。

「いや、だから。立花さん」
「あぁ、別にどうってことはない。あいつは僕に嫌われることよりも、なぜか接触を断たれることを恐れているからな。しつこくされても無視するか、接触を断つことを臭わせれば大人しくなるから問題は無い。それに、陰でコソコソ動かれるよりも目の届く範囲に置いたほうが安全だろう」

確かに恭介の言葉にも一理あるのだが、無理に我慢してまでしなくても良いのではないだろうか。

「お前も文句を言いたいだろうが、しばらくは堪えろよ」
「どういうことよ」
「あいつはお前のことを敵視しすぎてる。大きな問題も起こしていない状態で、いつもみたいに文句を言って、怪我でもさせられたらどうする。僕が言えば大人しくなるんだから、大丈夫だ」

恭介なりに椿のことを心配しているのだろう。
けれど、椿が恭介を美緒から守りたいと思っている以上、この先、彼女と対決しなければならない日が絶対に来る。

「裏を返せば、大きな問題を起こしたときは文句を言って良いってことよね?」
「お前は、なんでそう好戦的なんだ」
「だって、言えるの私か千弦さんくらいしかいないじゃない。さすがに、そこまで恭介に任せるのはよくないでしょ?」

全てを恭介に押しつけて、大人しくなんてできるはずがない。
大体、椿の目的は母親と恭介を幸せにすることである。
そのためなら泥を椿はいくらでもかぶるつもりだ。

結局、その後は椿が恭介に本当に大丈夫なのか、ストレスを溜め込んでいないかを何度も聞き、最終的に彼からしつこいと怒られたことで終了となった。

また美緒のことであるが、今も普通に恭介にまとわりついているということは、彼から嫌われるはずがないと思い込んでいるように見える。
ここがゲームではなく現実であると思い知ったというよりは、今がゲーム初期の頃だから好感度がゼロの状態で当たり前、という考えに至った可能性が高い。
証拠に、美緒は2学期後半のイベントを回収しようとムキになっている。
大体、出会いからして違っているので、今更イベントをこなそうとしても無理がある。
だが、美緒は取り返せると思っているのだろう。

このことから、美緒は彼から嫌われるよりも、好感度を上げたいのに接触を断たれる方を恐れている。
好感度を上げたい以外は、恭介の言う通りである。
美緒の唯一の弱点らしい弱点と言えばそこだ。
幸い美緒は、恭介が椿に洗脳されていると思っているので、あることないこと吹きこんでお前の好感度を下げるぞ、と脅せばなんとかなりそうな気がする。


「椿、聞いてる?」

急に黙り込んでしまった椿に対して、杏奈は顔を覗き込んで問いかけた。

「あ、ごめんごめん。聞いてるよ。それで、立花さんじゃなかったら、誰?烏丸さんが復活でもした?」
「違うわよ。それに、女子生徒じゃなくて男子生徒よ」
「……奴の魅了の力は性別さえも超えるのか」
「違うからね。そっち方面じゃないからね」

即座に否定の言葉を口にする杏奈を見て、椿は、じゃあ何で男子生徒が?と疑問に思う。

「まとわりついてるんだけど、どちらかというと突っかかってる、って言ったほうがいいかもね」
「そいつ勇者ね」
「私もそう思う。でも、水嶋様は全く相手にしてないんだけどね」
「あいつ、スルー能力高いからな」

椿の言葉に、杏奈も「確かに」と答える。
それにしても、恭介本人に突っかかっていくとは勇気がある生徒だ。
よほど、恭介に対して鬱憤が溜まっているのだろうか、と思っていた椿に、杏奈から詳しい説明が入る。

「何でも、これまでの中間、期末テストで水嶋様に負けっぱなしみたい。それで勝手に水嶋様をライバル視してるみたいね」
「ふーん」
「何?興味ないの?」

あまり食いついてこない椿を不思議に思ったのか、杏奈が問いかけてくる。

「興味がない訳じゃ無いけど、男子生徒でしょ?私には恭介の負ける姿が想像できないし、詳しく聞いたところで手助けできるものでもないじゃない。最悪、私が口を出したら、女に庇われる水嶋様っていうレッテルが貼られることになるわよ。大体、男同士のいざこざに女が口出しするものでもないし」
「なるほどね」

椿に聞く気が無い以上、話題を続けるのは無意味だと判断したのか、杏奈は早々にこの話題を終わらせる。
だがこのとき、椿はもっと詳しく杏奈に男子生徒の話を聞いておくべきであった。

そう後悔したのは、この会話をした数日後のことである。
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