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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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体育祭が終わり、期末テストが近づいてきた休日のある日、椿はテスト期間中にも関わらず、水嶋家へと出掛けていた。

目的はただ1つ。恭介の勉強方法を見て学ぶ為だ。
学年主席の勉強方法を間近で見られる権利を持っていた事を椿は思い出したのだ。
今こそ、いとこ権限を使うときである。意気揚々と椿は水嶋家へと乗り込んだのだ。

「頼もう!」

水嶋家の玄関ホールで椿は大声で恭介を呼んだ。
椿の大声を聞き、恭介が呆れた表情を浮かべながら2階から下りてきた。

「お前、もう少しまともな挨拶をだな」

即座に椿は背筋をピンと伸ばし、控えめに微笑みを浮かべながら言い直そうと口を開く。

「ごきげんよう、恭介さん。本日はお招きいただき至極光栄に存じます」
「だから振り幅がでかすぎるんだよ。あと招いてない。アポ取って来たのはお前だ!」

まともな挨拶に変更したのに文句を言われ、椿は口を尖らせて不満を表現する。

「不細工が余計に不細工になるから、口を尖らせるのは止めろ」
「いいよ、そのケンカ、言い値で買おうじゃないか」

顔面偏差値にそれなりの自信がある椿は、恭介の聞き捨てならない言葉に反応する。
椿からの挑戦を受けても、恭介は顔色ひとつ変えない。

「チェス」
「やっぱ、返品」

椿は手で×を作り、首を横に振った。
チェスで恭介に勝てる気がしないからだ。尤も、その他の事で恭介に勝てるか、と聞かれれば、答えは否なのである。
唯一、椿が自信を持って恭介に勝てるかもしれないと思っているのは、大食い対決くらいなのだが、さすがにそれを実行して勝ったとしても全く、これっぽっちも嬉しくない。
勝利は得られるが、代わりに何か大事なものを捨てるような気がしてならない。

「……何をしに来たんだ、お前は」
「やだなー勉強だよ勉強。誰だよチェスしようなんて言った奴は」

あははと椿が笑い声を上げると、恭介は片手を頭に置き「落ち着け、こいつはこう言う奴だ」と小声でブツブツと呟いていた。

「で、勉強はどこでするの?リビング?サンルーム?」

恭介の様子を全く気にする素振りも見せない椿は、本来の目的ある勉強会をどこでするのか訊ねた。

「……サンルームだ。瀬川」

恭介の呼びかけに、側に控えていた瀬川が一歩前に出る。

「はい。どうぞこちらへ。椿様、荷物をお持ちします」

椿から鞄を受け取った瀬川の案内で椿と恭介は、サンルームへと向かう。
椿がこうして水嶋家に訪れるのは、春休み以来の事だ。
屋敷内の装飾品などは夏仕様に変更されており、相変わらずお金の使い方が豪快だ、と椿は装飾品を横目で見ながら歩いていく。

サンルームに到着し、瀬川は持っていた鞄を椿の席の隣の椅子に置く。
椅子に座った椿は、鞄の中から筆記用具と教科書と参考書を取り出し、テーブルの上に広げた。

「さぁ、恭介。貴方の勉強方法をジックリ聞かせてもらおうじゃないの」

椿は、テーブルに組んだ腕を置いて、少しだけ身を乗り出す。

「別に特別な勉強方法なんてしていない。教科書を読んで、参考書を見ながら教科書の問題と問題集を解いていくだけだ」
「……これだからチート野郎は……」

椿が小声で零した言葉が聞こえたのか、恭介は聞いたことの無い言葉を聞いて「ちーとやろう?」と口にし、首を傾げている。
椿は恭介の勉強方法と自分の勉強方法が似ている事に納得しておらず、きっとどこか違うところがあるはずだと思い、質問を投げかける。

「恭介、1日の勉強時間はどの程度?」
「長くても2時間だな」
「意外ね」
「そもそも、平日はその日習った事の復習と次の日の予習しかしていないからな。休日に1週間分まとめて、おさらいしてる。その時に分からなかった事を家庭教師に聞いたりはしてるが」

話を聞いた椿は、これもう脳の仕組みが根本的に違うからどう頑張っても無理じゃね?と感じていた。
何の参考にもならない恭介の勉強方法を聞いた後に、椿達はようやく勉強会を始める。

問題とにらめっこしている為、サンルーム内はシャーペンを動かす音と、ページをめくる音しか聞こえない。
大半の問題を解き終えた椿は、集中力が切れたのかペンを置いてその場で軽いストレッチをする。
はぁとため息を吐いた後、椿は真正面に座って問題を解いている恭介に目を向ける。

問題を解いている為、伏し目になっている恭介の姿を見て、こいつ本当に絵になるよなぁと関係のないことを考えていた。
ジッと見られている事に気付いた恭介が、問題を解く手を止めずに椿に対して口を開く。

「もう飽きたのか」
「糖分が足りない」

暗におやつにしようと提案している椿の言葉を聞き、恭介は問題を解く手を止めて、側に控えていた使用人を呼ぶ。

「お茶の用意を」
「畏まりました」

使用人はサンルームから退出し、しばらくしてからワゴンカートを押して戻ってきた。

「あ、今日はフルーツタルトなんだ」
「マンゴーとベリーのタルトでございます」

タルトが椿の前に置かれ、フォークを持ったまま椿は『もう食べて良い?食べて良い?』とタルトと恭介を何度も繰り返して見ていた。

急かされ渋々「いただきます」と言う恭介の言葉を合図にして、椿もタルトを一口大に切り分け、口に運ぶ。

「甘さと酸っぱさが絶妙のバランスですな」

ニコニコと幸せそうに頬張る椿を見て、恭介の口元がわずかに緩む。
食べる事に夢中な椿は、恭介の変化には気付かない。
そして、短時間でタルトを平らげた椿は、フォークを置いて恭介に問いかける。

「これはどこのお店の?」
「銀座の店……だったかな。前に椿の家に行った時に、手土産で持っていっただろう?」
「あぁ、はちみつレモンタルトね。覚えてるわ。へぇ、あそこのなんだ。今度買いに行こうっと」
「相変わらず、食べ物に関しては凄まじい記憶力を発揮するんだな」

呆れたような物言いの恭介を、椿は軽く睨み付ける。
恭介は、わざとらしく咳払いをして話題を変えようと口を開く。

「まぁ、タルトの事は良い。ところで椿」
「何?」
「お前、夏休みの予定はもう決まってるか?」
「いえ、まだだけど。それがどうかした?」

恭介から夏休みの予定を訊ねられた事で、椿はどこかお誘いでもしてくれるのかと思い、彼の言葉の続きを待つ。

「それは良かった。じゃあ、イギリスに行かないか?郊外なんだが、コッツウォルズは知ってるか?」
「え、えぇ。自然豊かな所ね。蜂蜜色の石造りの家とか有名ね」

いつになく積極的な恭介に椿は、思わず狼狽える。

「そうだ。ヒドコート・マナーガーデンの見学やシェイクスピアの出身地でもあるストラトフォード・アポン・エイヴォンを見て回っても良い。椿、自然は良いぞ」

やけに積極的な恭介の様子を見て、椿はおかしいと感じ始めていた。
どこかへ行こうと誘われることはこれまで何度もあった。だが、ここまで強引に頷かせようと動く恭介を見たことがない。
裏に何かある。そう椿の勘が告げている。

「……やけに、イギリス、それもコッツウォルズにこだわるのね」
「そんな事はない」

目を泳がせながら言っている台詞に説得力は無い。
これはますます、何か仕組んでいると疑わざるを得ない。

「何を企んでいるのかしらね」
「疑り深いな。何も企んでいない」

ハッキリと違うと言った恭介の目を椿はジッと見つめる。
恭介は何かを企んでいる様子を見せているが、中々口を割ろうとしない。
椿は、コッツウォルズ、コッツウォルズと何度も頭の中で反芻していた。

そして、ふと思い出す。
そう言えば、レオンからの手紙にそのような単語が書かれていなかっただろうか、と。

電話がかかってくるようになり、一時期よりも頻度は減っていたが、未だにレオンからの手紙は届いている。
一応、礼儀として手紙の中身に目を通してはいるのだが、内容は全く分かっていないので、流して見ているだけである。
ただ、最近の手紙の中で頻繁にコッツウォルズと言う単語が出てきていたような気がしたのだ。
woldsと言う単語をworldと見間違えた事があったので、あれ?と椿は思い気付いた訳なのだが。

手紙の件で裏にレオンが居ると椿は確信する。

「レオンね」
「……」
「手紙にその単語が書かれていたもの。道理で積極的な訳よね。全く、何て言う約束してくれちゃったのよ」

椿は恭介の無言を肯定と受け取っていた。
だが、同時に椿は恭介が何の見返りもなくレオンに協力するはずがないと言う事も理解している。
大方何か勝負でもして恭介が負けたとかではないかとあたりをつけていた。

「で、何の勝負をしたのよ?」
「……ポーカーだ。ハートのロイヤルフラッシュが揃ったから勝ったと思ったんだ」
「ちょっと、まさか」
「そのまさかだ。スペードのロイヤルフラッシュを出してくるなんて普通は思わないだろ」

同時に恭介がガクッと肩を落とした。
何という確率だろうか、と椿も遠い目をしてしまう。
同時に、スペードのロイヤルフラッシュをテーブルに出したレオンのドヤ顔が簡単に脳裏に浮かぶ。

「それで、レオから『何を差し出すのか』って言われてだな。実はそれまでに何度か負けてて、差し出す物が何も残ってなかったんだ」

恭介からそう聞かされ、椿はハッと気付いて勢いよく彼に視線を合わせる。

「……売ったな。お前、いとこ売ったな…!」
「仕方ないだろ!手持ちがお前しか無かったんだから!」
「自信満々に言う事じゃないでしょ!本当に何て事してくれたのよ!この馬鹿!」
「一応、悪いとは思ってる!だからこうして打診したんだろうが!」

決定事項を打診されても選択肢が存在しないだろうが!

ここで椿が行かないと言っても、レオンがまた来日する結果になるだけだ。
本当に面倒な事をしてくれたと思い、椿は深いため息を吐いた。

「椿、コッツウォルズは良い所だ。自然が豊かで、多分ご飯も美味しいはずだ」
「……でもイギリスでしょ?」
「ちゃんとした所なら美味しい物は食べられるから。それにタルト、食べただろ?」
「あれ、おやつじゃなかったの!?やだっ、そう言う事なら出す!」

口に指を突っ込もうとする椿を恭介は必死に止める。

「やめろ!ここで吐くな!サンルームでの綺麗な思い出が汚される!」
「思い出を上書きしてやるよ!」
「そんな汚い思い出の上書きはごめんだ!」

お互いに大声を出して、息を切らしている椿と恭介は、急に冷静になったのか「座るか」「そうね」と会話を交わし椅子に座った。

「取りあえず、恭介は賭け事をこの先、一切やらない方がいいわ。身ぐるみはがされるわよ」
「既にはがされた後だけどな。それに、負けたのはレオにだけだ」
「一番、賭け事の相手として最悪な奴を選ばないでよ!むしろレオンとだけは賭けをするな!主に私の為に!」

拳で机をドンッと叩いた椿を見て、恭介は「……善処する」とだけ呟いた。

どのみち椿が行くか、レオンか来るかしか選択肢が無いのであればどうしようもないと、椿は腹をくくった。

「……で、出発はいつ?」

テーブルに頬杖をついた椿が恭介に訊ねると、途端に彼は上機嫌になる。

「行く気になったか!出発は7月28日だ。滞在は1週間。マナーハウスを貸し切っているから他の観光客は居ない」
「既にそこまで決まってたのね」

随分と用意周到だな、と椿は感心するしかない。

「レオが数日で決めてきたんだ。それと、他の家族はどうする?」
「家に帰ってから聞いてみるわ。でも菫の受験があるから難しいかもしれないわね」

朝比奈の他の家族が行けないかもしれないと知り、恭介は残念そうな表情を浮かべる。
ここで遊びに行って、菫の気が緩んでしまっては困るのだ。
もしかしたら、父親だけが同行するかもしれないが、レオンと父親の相性は良くないのでどうなるか不安でもある。

「家の家族が無理だとしても、伯父様は来るのでしょう?」
「その予定だ」

ならば、父親以外の朝比奈の家族が行けなくても問題はないか、と椿は考えた。
そして、イギリスと言う事はあの事も忘れてはならない。
そう!アフタヌーンティーの本場であると言う事だ。
スケジュールが今の時点でいっぱいになっているかもしれないが、一応希望を伝えておこうと考え、椿は恭介にお願いをする。

「コッツウォルズでもロンドンでも、どこでも良いんだけど、イギリスでアフタヌーンティーしたいから予定組んでくれる?」
「すでに予定には組み込まれてるから、安心しろ」

既に予定されていた事を知った椿は、レオンに先読みされていた事実に恐怖を感じる。
そんなこんなで、椿は夏休みに恭介とイギリスへ行くことが決定したのだった。

恭介との勉強会が終わり、肩を落として自宅に帰った椿は、夏休みの予定を母親に伝えて、同行するかどうかを聞いてみる。

「イギリス?いいわね。でも、菫の受験もあるし、お母様は行けそうにないわ。ごめんなさいね」

本当に申し訳なさそうな顔をしている母親を見て、椿はすぐにフォローをいれる。

「それは大丈夫です。ですが、受験が終わったら皆でどこかに出掛けませんか?」
「そうね。じゃあ、冬休みにどこか旅行に行きましょうか」
「えぇ。行き先は菫達が楽しめるところでお願いしますね。受験を終えた菫へのご褒美なので」
「考えておくわ」

冬の事を考えて楽しみになったのか、母親が笑みを浮かべている。
母親の笑顔を見て、自然と椿も笑顔になった。

帰宅後に家でゴロゴロしていると、日が落ちて夜になり、父親が帰宅した。
使用人から聞いた椿は、急いで玄関ホールに行き、父親を出迎えると昼間母親に言った事と同じ事を伝える。

「えぇー。レオと一緒に旅行に行くの?」

恭介や伯父、の他レオンも来ることを伝えると、もの凄く不満げな声を上げられてしまった。
相変わらず、父親のレオンに対する印象は最悪なままらしい。

「まぁ、そう仰らずに。お母様と菫達は受験もあって無理なのですが、お父様はいかがです?水嶋の伯父様がいらっしゃるので、会話は弾むかと思うのですが」
「そりゃ、春生とは友達だから会話には困らないけどね。……えっと、ちょっと待ってね。今スケジュールを確認するから」

言いながら父親は、手帳を取り出し予定を確認し始める。

「……今の所は何も予定が入ってないから大丈夫そう。うん。保護者として僕が付いて行くよ」

続けて、「目を光らせておかないとね」と言っていた辺り、父親はレオンの監視もするようである。

「それよりも、もうすぐテストだったね。どう?」
「中間テストよりは出来るかと思います。恭介さんに勉強方法を教えてもらいましたから。ただ、何の参考にもなりはしませんでしたけど」
「本当にあそこの親子の頭の中身、どうなってるのか不思議でならないよ」

そう言って、椿と父親は顔を見合わせて乾いた笑い声を上げる。
どうやら、学生時代に父親が伯父に対して思っていた事と、椿が恭介に対して思っている事は同じのようである。

ひとしきり父親との会話が盛り上がったのだが、テスト勉強がある為、椿は会話を切り上げて自室へと戻った。
目指せ15位内を目標に掲げながら、椿は眠気と戦いながら机に向かったのであった。


翌週、椿は1学期の期末テストを無事に終える。

中間テストに引き続き、期末テストも恭介が1位であった。
サロン棟の部屋で、これ見よがしに結果が書かれた紙を椿に見せようとしてきたので、また1位だったのかとすぐに分かった訳である。
ほぼ満点ばかりの紙を見て椿は、なぜ同じ人間なのにこうも出来が違うのかと思わずにはいられなかった。

「で、椿は何位だったんだ?」

恭介からの問い掛けに椿は、結果が書かれた紙を無言で恭介に差し出した。
椿から差し出された紙を受け取った恭介は、それに目を通す。

「13位か。随分と順位が上がったな」
「私が本気を出せば、これくらい、ちょちょいのちょいよ」

と、鼻を高くしている椿を見て恭介は、冷めた目を向ける。

「お前って、本当に幸せそうだな。人生楽しそうで良かったな。全然全くこれっぽっちも羨ましくないけど」
「褒めるか、けなすか、どっちかにしてくれる?」

椿の言葉に恭介は一言「褒めてはない」とだけ言い放ち、結果が書かれた紙を椿に戻した。
言われた椿は額に青筋を浮かべながらも笑顔で紙を受け取り、鞄へとしまう。

こうして、期末テストが終了し、椿達は夏休みへと突入する。
+注意+
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