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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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51

6月に入り、鳳峰学園中等部ではこの日、体育祭が行われていた。
生徒達はグラウンドに入場後、ラジオ体操を行い、各々のチームの座席へと退場していく。
最初の競技は1年生の100m走なので、1年生はグラウンドに残ったままであった。
先に男子の100m走から始まるので、女子は男子の後ろに走る順番で並んでいる。

並んだ女子生徒達はキャーキャー言いながら男子の100m走を見学していた。目当ては勿論恭介だ。
中には列をはみ出して見ている女子生徒も多数おり、恭介の人気の高さを改めて見せつけられる。
そんな、はしゃいでいる女子生徒達を椿と杏奈は冷ややかな眼差しで見つめていた。

「水嶋様の人気はさすがとしか言い様がないわね」
「あの見た目に家柄の良さ、成績優秀でスポーツ万能ときたら騒がない方がおかしいですわ」

まぁねーと杏奈は苦笑し、男子の100m走に目を向ける。
ちょうど恭介が走る番になったらしく、女子生徒達は一際大きな声を上げてスタートをきる恭介を応援している。
恭介はスタートから他の走者を寄せ付けない走りで離していき、見事に1着でゴールテープを切った。恭介がゴールテープを切った瞬間、1年女子生徒達は割れんばかりの歓声を上げ興奮している。
恭介が1着になったと言うだけで、この騒ぎである。女子生徒達の声がうるさくて耳を塞いでいた椿はあきれ果てる。
ちなみに佐伯は別組であったが、2着であった。ゴール後、恭介に軽く肩を叩かれていたのを椿は見ていた。

男子の100m走が終わり、ついに女子の100m走が始まる。
すぐに椿の走る順番がきて、スタート位置につく。位置について、よーいと言う声の後、ピストルの音が鳴り響き椿は走り出した。
全力を出し切り、椿は何とか1着でゴールテープをきる事が出来たが、かなりギリギリの1着であった。
走り終わった生徒達が整列している場所へ行こうと椿が歩いていると、列に居た恭介が話しかけてきた。

「無様な姿を晒す結果にならなくて良かったな」
「これぐらいは当たり前ですわ」

お互いに視線を交わす事無く短い会話をし、椿は列の後ろに並び座った。
先ほどの恭介の言葉を訳すると『1着おめでとう』と言う意味で合っているだろう。
相変わらず分かり難い祝福方法だな、と思いながら椿は走っている女子達を見ていた。

1年生の100m走が終わり、結果として、杏奈が1着、千弦が4着、美緒は1着と言う結果であった。
退場する際も美緒は恭介にまとわりつき1着になれた事を自慢していた。だが、すぐに教師に注意され、琴枝に連れられて名残惜しそうに撤退していったのである。

「杏奈さん、次は何の競技に出られる予定ですの?」

体育祭での競技は色別であったりクラス別であったりするので、全員が参加する競技はほとんど無い。
椿は事前に杏奈からどの競技に出場するのかを聞いてはいたが、細かく覚えてはいなかった。

「次は棒引きね。その後は学年色別リレーに出て、パン食い競争で午前中は終わり。午後は玉入れと部活対抗リレーに出てお終いね」
「……多くありません?」

生徒は必ず1個以上の競技に出なければならないと決められているが、杏奈の出る競技は多すぎるのではないだろうか。
だが、杏奈はまるで当たり前のような口調で話し始める。

「少ないくらいだわ。それに、私の足が速いのと人数合わせってところもあるし。椿は?」
「私は障害物競走だけですわね」
「午前中で終わりじゃない」
「だから後は応援で頑張りますわ」

正直に言えば他にも出られる競技はあった。だが、そのどれもが団体競技だったのだ。
パン食い競争は椿のイメージ的に無いなと思ったので選択肢から外していた。
なので個人競技である障害物競走を選ぶしかなかった訳である。

椿と杏奈はテントが張られた青組の応援席へとやってきた。
テントによって日差しと紫外線がカットされた応援席は過ごしやすいと言えば過ごしやすい。
そして、グラウンドでは次の競技である綱引きが行われている。
団体競技を避けていた椿であったが、綱引きや玉入れと言った大人数でやる競技だったら大丈夫なんじゃ…と綱引きを見て気付き、来年は大人数の競技も視野に入れて選ぼうと考えた。

綱引きの後に2,3年の競技が続き、1年の棒引きが行われた。
色別の4チームが総当たりで戦い、奪った棒の合計数で順位が決まる。
椿は青組の応援席に座りながら棒引きを見守っていた。
中には転ぶ者や棒を持ったまま引き摺られる者もおり、中々白熱した戦いを繰り広げている。
結果として、椿達の青組は2位であった。1位は赤組で恭介がチームにいた事から、負けもやむなしと納得する。
そして、棒引きの後は2、3年の競技が続き、その後に椿の出場する障害物競走が行われる。

棒引きから帰って来た杏奈は悔しそうな表情を浮かべていた。赤組に1本差で負けたのがよほど悔しかったらしい。

「端の棒狙いなのあっさり水嶋様にばれてたのがムカつくわ」
「パワー系の男子を平等に配置しておりましたもの。あちらの作戦勝ちですわね」

椿のフォローを聞いても杏奈の表情は晴れない。

「でも、上級生の皆さんが頑張っておられますから、今のところ青組は1位ですわよ」

椿は電光掲示板に表示されているチーム毎の点数表を指さした。
杏奈は椿の指さした方向を見て納得したのか「それもそうね」と呟いた。
その後、棒引きの事で忘れていた事を思い出したのか、杏奈が椿に対し話し掛けてきた。

「そう言えば、椿さん。久世先輩が椿さんの事チラチラ見てたの気付いてた?」
「そうでしたの?」

人から見られる事に慣れてしまっていた椿は久世の視線に気付いていなかった。

「何か話したい事があるんじゃないの?タイミングを見計らってたみたいだし」
「まぁ、予想はつきますけどね」

どう考えても久世の親族である美緒の事で椿に話しがあるのだろう。
しかし、椿は安易に久世と接触するのは良くないのではないかと考えていた。中等部に美緒が居る以上、その親族の久世と仲良く話している姿を見られでもしたら、久世が美緒の怒りを買ってしまう結果になりかねない。
プライドの高そうな美緒の事だ。久世を椿の仲間だと認識してしまうと面倒な事になる。そう考えたからこそ、椿は中等部に入学しても久世と接触を持たない様にしていた。
その為、杏奈から話を聞いた椿は自ら久世の元に行くのを避けたいと思い、杏奈にお願いしようと口を開く。

「杏奈さん代わりに聞いてきてくれないかしら?」
「椿さんも大変ね。後で見かけたら声を掛けてみるわ」

椿からのお願いは予想済みだったのか、杏奈は快く承諾してくれた。
返事を聞き、椿は胸をなで下ろし、感謝の言葉を口にする。
それだけ言うと椿は杏奈から視線を外し、グラウンドで行われている競技に目を向けた。
グラウンドでは2年女子の大玉運びが行われており、指示を出す声や笑い声が漏れ聞こえてくる。

そして3年の競技が始まると、障害物競走に出場する生徒を呼び出すアナウンスがされた。
椿は椅子から立ち上がり集合場所へと急ぐ。
集合場所には半数の生徒がすでに集まっていた。教師に朝比奈椿が来た事を伝え、名簿にチェックをいれてもらう。
教師に案内され、走る順番に並べさせられた椿達は3年生の競技が終わるのを待っていた。

3年の競技が終わり、障害物競走用の障害物の設置も済んだところで全学年の障害物競走が始まる。
最初は1年からのスタートなので、椿は大人しく自分の順番を待っていた。
椿の順番になり、椿を含めた8人が横一列に並び、スタートの合図を待つ。
ピストルの音が鳴り、一斉に全員がスタートする。
最初は平均台、網くぐりの後に麻袋に入りジャンプしながら所定の位置まで移動する。
その後に縄跳びで二重跳びを5回し、5段の跳び箱を跳び、一番高いところで固定されたハードルをくぐり、最後の直線で全力疾走をした。
椿は全く無駄のない動きを披露し、見事に1着でゴールする。

1着になって誇らしげになった椿が応援席に戻ると、隣に座っていた杏奈が居なくなっていた。
杏奈が出場する次の競技まで時間がある事から、恐らく久世と話に行ったのだろうと椿は判断して席に座り杏奈の帰りを待つ。
待っている間に全学年男子の棒倒しが始まり、椿は恭介と佐伯を目で探す。
怪我をしないようにと不安に思いながら椿は棒倒しを見ている。
すると、その途中で杏奈が戻ってきて椿の隣に腰を下ろす。

「大方の予想通りね。迷惑かけてないかって心配してたわ」
「で、何て答えましたの?」
「水嶋様には迷惑をかけてますねって答えたわ」

正直すぎる杏奈の言葉に椿は若干口元を引きつらせた。

「久世先輩が謝ってた。後、椿によろしくって言ってたわ」
「あの方が謝罪なさる必要はないのだけれどね」
「一応でしょうね。身内の不始末とでも思ってるんでしょう」

他の生徒は恭介に夢中で椿と杏奈の会話を気にも留めていなかった。
椿は静かにため息を吐き、どうしたもんかと考える。

椿にとって最大の誤算は烏丸蘭子と言う存在が現れた事である。
初等部では千弦と椿と言う2大グループの陰に隠れて目立つ人物が出てくる事はなかった。
だが、外部生である烏丸は椿と千弦に対して明確な線引きをしているものの、虎視眈々と恭介と己の地位向上を狙っている。
今のところは美緒の邪魔しかしていない烏丸を利用している状態ではあるが、それもいつまで持つか。
千弦や杏奈は烏丸に任せて静観していようという考えであったが、椿はどうも何かが引っかかっていた。
何か大事なものを見落としているように感じていた。それが何であるのかは考えても分からない。ただの取り越し苦労で終わればいいけれど、と考えていたところで棒倒しが終了となる。
次のムカデ競走が終わった後はパン食い競争があり、その次が学年色別リレーである。パン食い競争に出場する杏奈は集合場所へと向かっていく。そのまま学年色別リレーにも出場するのでしばらくは戻ってこないだろう。
そして、3年の学年色別リレーが終われば昼食である。

「八雲さん大活躍ですね」

不意に声を掛けられ椿が声のした方を向くと、空席であった椿の隣の席に周防が腰を下ろしていた。
周防は合間合間に千弦のところへ行っていた様で、応援席ではあまり彼女の姿を見かけてはいなかった。
このタイミングで周防が青組の応援席に戻ってきたと言う事は、千弦が1人でいるだろう椿に対して気を使ってくれたのかもしれない。
周防から杏奈の話を振られ、椿は彼女が初等部の頃から大体の競技で1位になっていた事を思い出したのである。

「杏奈さんは、初等部の頃から活躍しておりましたもの」

椿の言葉に周防は「それもそうですね」と笑いながら返事をする。
そこで会話は終わり、しばらく無言が続いてしまう。話題に困ったのか周防が100m走の事を持ち出してくる。

「あ、朝比奈様も1着おめでとうございます」
「ありがとう。そう言う周防さんは棒引きに出ておられましたわね」

棒引きに出ていた事を椿が口にすると周防は罰の悪い顔をする。

「私が足を引っ張っちゃったせいで2位でしたから」
「相手が恭介さんのチームですから仕方ありませんわ。それに総合点ではまだ勝っておりますもの」

椿の言葉に周防は少しだけ表情を和らげる。

椿と周防が話していると、グラウンドではパン食い競争が始まっており、出場している生徒達はぶら下がったパンの袋をジャンプしながら咥えようと頑張っていた。
ちなみにパンはあんパンで中身の餡は最高級の丹波の大納言小豆で作られたこしあんである。
椿は事前に杏奈へと頼み込み、一口だけ頂戴する事を許されていた。
そう言う事で椿の応援には熱が入っている訳である。杏奈には何が何でもパンを取ってもらわなければならない。
そして、杏奈の番がやってくる。
杏奈はスタートと同時に全速力で走り出し、その勢いのままジャンプし、袋の上部の端を歯で噛んで紐から取ると止まることも無くそのままゴールへと向かう。
その見事な一連の動作に見ていた生徒達から感嘆の声が漏れる。
見ていた椿は杏奈に対して、もう少しなり振り構えよ!と言う思いを抱いていた。

杏奈の番が終わったところで、椿は応援席からパン食い競争に出ていた生徒達の退場口まで移動し始める。
杏奈はそのまま学年色別リレーに出るので、椿がパンを受け取る事になっているからだ。
退場してきた生徒達の中に杏奈の姿を見つけた椿は近寄って、彼女からパンを受け取る。

「流れるような素晴らしい動きでしたわ。さすが杏奈さん」
「思いっきり目が馬鹿にしてるけど?」

一瞬の間の後、2人同時にうふふと笑い合う。
杏奈はすぐにリレーの集合場所に行かなければならないので、それ以上言及される事はなかった。
去り際に杏奈が「そのパンはあげたんじゃ無いからね!ちゃんと残しておくのよ」と言い残して去って行った。
さすがに、他人の戦利品を本人よりも先に食べるはずがない。はずは無いが、出来るだけ早く杏奈には帰ってきてもらいたいものである。
非常に味が気になる。

椿はパンを片手に持ち、青組の応援席に戻り席についた。
隣にはまだ周防が座っており、椿の姿を見て「お帰りなさい」と口にしている。
椿は周防に笑顔を向け、持っていたパンを手提げ袋の中に入れて椅子の下に置いてあるカゴの中へと入れた。
それと同時にピストルの音が鳴り響き、アナウンスで色別リレーが始まった事が知らされる。

「あ、色別リレー始まりましたわね。最初は男子からですのね」
「男子のアンカー、赤組は水嶋様ですね」
「恭介さんも割と引っ張りだこですわね」

ゲーム内では面倒くさいと言って校舎裏でサボっていた恭介が、こうして積極的に競技に出ているとはなんとも不思議なものである。
初等部の頃から何だかんだ文句を言ってはキッチリと結果を出してきているので、恭介のスペックの高さが本当に羨ましい。

色別リレーはすでにアンカーにバトンが渡り、3番目でバトンを受け取った恭介が見る見るうちに前を走る青組の生徒を追い抜かし、先頭を走っている黒組の生徒との距離をどんどん縮めていた。
そして、コーナーをまわった直後の事。足がもつれた黒組の生徒が転び、バトンから手を離してしまったのである。
同時に、黒組の応援席から悲痛な叫び声が上がる。
地面に落ちたバトンはコロコロと転がっていき、黒組の生徒が急いで立ち上がり、バトンを拾い上げて再び走り始めたが、その隙をついた恭介が颯爽と生徒を追い抜かしていた。
結局、恭介がそのまま独走して赤組が1着でゴールする結果となる。
黒組の生徒は青組の生徒にも抜かれ、3着でのゴールとなった。

黒組の生徒はゴール後にその場で泣き崩れ、走り終わっていた黒組の生徒達に抱きかかえられながら列に戻っていく。
一部始終を見ていた椿は彼に同情したが、転んでしまったものは仕方ない。
彼に非難の声が集中しなければ良いけれどと考えていたが、先ほどの他の生徒達の対応を見るとその可能性は低そうである。

そうこうしている内に女子のリレーが始まった。
青組はバトンの受け渡しも上手くいき、序盤から2番目をキープしていた。
先頭を走る赤組との差は徐々に縮まっていたが、中々追い抜くことが出来ない。
追い抜けないまま、バトンはアンカーである杏奈に渡される。

バトンを受け取った杏奈は先頭を走る生徒を追いかける。
明らかに先頭との距離が縮まっていき、第3コーナーをまわった辺りで順位が入れ替わり、杏奈が先頭となった。
第4コーナーをまわり最後の直線に入ると更に距離が広がり、そのまま杏奈が1着でテープを切ったのである。
杏奈が1着になった瞬間、青組の応援席では歓喜の声が上がった。
椿も立ち上がり、隣の周防と手を取って喜びを分かち合う。

リレーが終わり、しばらくして杏奈が応援席に戻ってきた。
杏奈は上級生や同級生から英雄のように讃えられている。

その後、2、3年の色別リレーも終了し、昼休憩へと入った。
椿は杏奈と昼食をとる為にカフェテリアへと移動する。
移動途中で飾られているパネルの前を通過した。
他の色と並べると青組だけクオリティが違いすぎているのが良く分かった。

「体育祭のパネルで葛飾北斎の神奈川沖浪裏が見られるなんて思ってもおりませんでしたわ」
「制作中の合言葉は『青だから問題ない』だったわ」
「問題はそこじゃ無いと思うのだけれど……」

とは言っても、他の色のパネルは朱雀であったりモノクロのライオンであったりと、やはり普通の学校のパネルとは違っていた。
アニメやマンガのイラストを用いた物は一つも無い。そもそもマンガやアニメなどを見る生徒がほとんどいないのだから無くて当たり前ではある。

パネル前で杏奈と少しだけ話をして椿達はカフェテリアへと向かった。

昼食時、椿の近くに居る生徒達は学年色別リレーの話題で盛り上がっている。

「でも1年の黒組の子惜しかったね。転んじゃってさ。やっぱり、ジンクスってあるんだね」
「あー、それ先輩から聞いたことある。黒組の生徒はリレーで転ぶってやつでしょ?」
「そうそう。当たるよね」

後ろの席で繰り広げられている会話が耳に入ってきた椿は、何とも言えない顔で昼食を食べている。
よもや父親と伯父の遊びから広がった噂だとは誰も思うまい。

昼食を食べ終えた椿と杏奈は食器を片付けて応援席へと向かう。
椿は既に出場する競技もないので、後は応援席に居るだけだ。対して杏奈は玉入れと部活対抗リレーが残っている。
午後の最初の競技は玉入れなので、杏奈は集合場所へと移動していった。
チャイムが鳴り、午後の競技が開始を知らせるアナウンスが放送される。
グラウンドには4色のカゴと玉が置かれ、生徒達はそれぞれのカゴの下に集まり、玉を手に持ち開始を待っていた。
教師が開始を知らせるピストルを鳴らし、生徒達は一斉にカゴに向かって玉を投げ始める。
遠目から見ていてもどこが一番多く入れているのかを判断することが出来ず、椿は青組が優勢なのかどうかが分からない。
生徒達は思い思いにわーきゃー言いながら玉を投げ入れている。
なんだかとても楽しそうな様子を見て、椿は来年は玉入れに出ようと心に決めたのであった。

何とかして1つでも多くカゴに入れようと頑張っている生徒達に無情にも玉入れの終了を知らせるピストルの音が鳴り響く。
一斉に動きを止めた生徒達はその場に座りこみ、係の生徒が玉を数えていくのを静かに見ていた。

結果として、青組は3位であった。総合点を伸ばすことが出来ず、応援席では生徒が肩を落としている。

その後、大玉転がしと借り物競走が行われ、借り物競走では公開告白などがされて大いに盛り上がった。
そして、1、2年生が出る競技としては次で最後となる。
とは言っても部活動に入っていない生徒は全く関係の無い競技、部活対抗リレーだ。
それぞれの部活で使う物をバトンにしなければならず、運動部が有利な競技である。
グラウンドには出場する生徒が部活動毎に並んで入場を始めている。
運動部はサッカーボールやバスケットボール、ラケットなど、ありきたりなものであった。
だが、美術部が入場してきた時に、全ての色の応援席は爆笑の渦に飲み込まれる。
先頭の生徒がバトンの代わりに持っていたものが紐で括られたイーゼルであったからだ。
椿は心の中で、大丈夫か美術部と突っ込みを入れる。
部活対抗リレーは学年も色も関係ないので、得点にはならない。だからこうしてネタに走る部活もあるのだと、応援席に居た他の学年の生徒が喋っているのを椿はこっそりと聞いていた。

そして、出場する部活が全て入場し、第1走者がスタートラインに並ぶ。
美術部員は横にしたイーゼルを肩に担ぎ、スタートラインに並んでいる。
なんともシュールな光景であった。
そしてピストルが鳴り、第1走者が一斉に走り出す。
美術部員はイーゼルを横にして空間に腕を通し、肩に担いで走り始めたが、意外と足が速い部員に応援席がざわついた。
そのまま3番目で杏奈にイーゼルを渡すが、大きすぎてかなりタイムロスになっている。
杏奈は第1走者の部員と同じく、イーゼルを横にして空間に腕を通し、肩に担いで走っている。
さすが、足の速い杏奈である。スピードは落ちるが、普通に早かった。結果、1人追い抜いて、2番目で次の走者にイーゼルを渡した。
第3走者の部員もまた足の速い生徒であった事から次第に周囲がざわめきだす。

「美術部どうした?」「美術部が本気出してきた」「下克上?」

などなど、言いたい放題である。
そして、ついにアンカーで先頭になり、どよめきの中で部員はゴールテープを切ったのだった。

こうして、前代未聞の出来事…後に『美術部の乱』と呼ばれる部活対抗リレーが終了する。

応援席へと帰ってきた杏奈に椿は事の詳細を訊ねた。

「あー、あれ?『文化部の意地見せて運動部のプライドをぶっ潰そうぜ大作戦』」

作戦名が無駄に長い!

「更に、陸上部の3年に彼女取られた部長の復讐も兼ねてる」

ただの個人的な恨みかよ!

「無事に1着になれて良かったわー」

軽い感じで言ってのけた杏奈を見た椿は、鳳峰の美術部は謎すぎると感じていた。

こうして、部活対抗リレーが終わり、体育祭は3年生のフォークダンスで最後となる。
その後、閉会式が行われて体育祭は幕を閉じたのであった。
ちなみに優勝したのは千弦や佐伯の居た黄組である。
椿の居た青組はパネル賞を受けたが、総合点では黄組には及ばず2位と言う結果となった。
+注意+
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