挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

50/177

50

そして、体育祭集会も終わり、中等部最初の中間テストが間近に迫っていた。
学校が始まって2か月も経っていないので、テスト範囲自体は非常に狭い。
基本的に小学校の総まとめのような内容になるであろう事を予想していた。

鳳峰では赤点を取った場合、強制的に補習授業を受けて再テストとなる。
補習授業で放課後がつぶれてしまうので、赤点だけは避けようと普段頑張らない生徒達が試験期間中は頑張ってしまうのだ。
そう言う訳で、図書室は本日も盛況である。

毎週水曜日に図書当番をしている椿は、返却された本を書架に戻しながら図書室の机を使用している生徒達を横目で見ていた。

鳳峰学園中等部の図書室には座席が130席ほど設置されている。
1階に80席、2階に50席と言う内訳になっている。
カウンター自体も1階と2階にあり、どちらでも本の貸出と返却が可能だ。
図書室には本だけではなく、雑誌やDVDなども置かれている。
基本的に雑誌とDVDの貸出は行っておらず、DVDはAVブースでのみ見る事が出来る。
当たり前の事なのだが、雑誌類の中には漫画の月刊誌などは無い。
中学生が経済誌など読むのかとも思ったが、たまに棚から無いところを見ると需要はあるらしい。
また、図書委員の仕事も普通の学校の図書委員の仕事とそう大差は無い。
常駐の司書は数名居て、図書委員はそのサポートが主だ。

返却された本を棚に戻し終わった椿はカウンターに戻り、司書と一緒に新しく入った本の補強作業に取り掛かった。
透明のカバー用フィルムを本に貼り、本の内側にバーコードを貼り付けて行く。
皺や気泡が無く、綺麗に仕上がると非常に快感である。
それらの作業も終わってしまい、椿は手持ち無沙汰になっていた。
貸出業務をしようにも、椿の所には誰も来ないので手持ち無沙汰になるのは分かりきっている。
カウンターに座っている椿は座席に座って勉強している生徒達を眺めていた。
驚きのメガネ率である。
メガネをかけてる全ての人は勉強が出来るかと言えばそうではないが、それでもイメージは根強い。
図書室と言う静かな空間で集中して勉強がしたいと言う気持ちも分からなくはないが、椿は静かすぎると逆に落ち着かなくなってしまう。
自宅でかすかに聞こえる弟妹達の声を聞きながら勉強した方がよほど捗るのだ。
弟妹達が自慢できるような姉でいる為に頑張ろうと奮起しているとも言えなくもないが。

椿が図書室の時計に目をやると、時刻は16時半になったところであった。
図書室の閉館時間は17時なのでまだ30分程の時間がある。
この時間帯になるとチラホラと帰宅する生徒も出てくる。

椿は立ち上がり、徐々に人が少なくなって行く図書室の見回りをして、忘れ物がないかの確認をし始める。
たまに筆記用具の忘れ物があるので、念入りに確認を行う。
他の図書委員も片付けを始めたり、椿と同じく図書室の見回りをしたりしていた。

椿が図書委員になって1か月以上経過しているが、未だに他の図書委員から話しかけられる事が無い。
どちらかと言うと大人しい生徒が多いので無理はないと椿は思っているが、それでも連絡事項が伝わって来ない事に困っていた。
特に椿と同じクラスの図書委員である男子生徒は大人しい性格をしているせいか、椿に連絡事項を言うのがいつも直前なのだ。
休み時間などに椿は図書室に行ったりしているので話し掛けるタイミングが無いのかもと思い、教室で読書をするようにしたのだが、それでも彼が話しかけて来る事は無い。
そう言う訳で最近は椿の方から「委員会の連絡はございませんか?」と話し掛ける様にしている。
椿が話しかけるたびに彼は「ヒッ」と声を上げ怯えてしまうのだが、さすがに何もしてこない人間に椿は攻撃したりしない。

館内の見回りをしていると、図書室の放送が閉館5分前である事を知らせていた。
椿はカウンターへと戻り、机の上を片付け始める。
そして、17時になり、司書に挨拶をして当番が終了した。

当番の生徒達はそれぞれ話しをしながら玄関まで歩いて行くが、椿はその後ろを間を開けて付いて行く形で1人歩いていた。
玄関で靴を履き替え、校門前に停まっている朝比奈の送迎車に乗り込む。

車が走り出して少しした後、椿は前のめりになり不破に話し掛けた。

「ねぇ、ちょっと疑問に思ってたんだけど、来年から菫が小学校に入学するじゃない?朝の送迎ってどうなるの?」

菫は鳳峰学園初等部を受験する事になっている。合格すれば、郊外にある初等部の校舎まで送迎しなければならず、都内にある中等部と郊外にある初等部では距離がある為、登校時間に間に合わないと椿は危惧していたのだ。
椿に聞かれた不破は視線を前に向けたまま、その問いに答える。

「帰りはお2人共、私が担当する事になると思いますが、行きは姉の佳純が椿様の担当になるかと思われます」

やはりそうなるか、と椿はシートに背中を預けた。
帰りはこれまで通りで習い事の送迎もこれまで通りであるなら寄り道するのに何も問題はないだろう。
不破としては椿がどういった意図で質問をしてきたのか分からなかったが、このお嬢様を理解しようとするのはとっくに諦めている為、特に気にする事も無かった。

それ以降、車内での会話は無くなり、車は朝比奈家へと到着した。
部屋に入った椿は鞄を机に置き、洋服に着替えた。
洗面台で手を洗い、ダイニングへと向かう。そこには既に両親と弟妹達が揃っており、椿の帰宅を待っていた状態であった。

「ただいま戻りました」

帰宅の挨拶をし、椿は椅子に座るとそれが合図となり夕食が始まった。
食事が始まりしばらくして、母親がナプキンで口を拭いた後で椿に向かって口を開く。

「椿ちゃん学校はどう?図書委員になったのよね?」
「校舎が広くて慣れるまでは大変ですね。それと図書委員の仕事も楽しいですよ。誰も来なければ本を読んでいても構わないので」

椿の言葉に母親は自分の中学時代を思い出したのか、楽しそうに思い出し笑いをしていた。
母親の楽しそうな笑い声を聞き、父親が母親に訊ねる。

「何か面白い事を思い出したのかい?」
「恵美里さんの事ですわ。あの方、教科書の偉人に落書きして良く私に見せてきましたのよ。ザビエルさんがふさふさに増毛されていたのを見た時は過呼吸になるかと思うくらい笑いましたわ」

母親の言葉を聞いた父親は己の妹の行動に呆れてしまい、椿は神を信じたら髪が生えてきたって事かと1人納得していた。

「……未だに百合ちゃんが何でうちの妹と仲良くなったのかが不思議でならないよ」

男勝りで勝気で気が強く竹を割ったような性格の叔母と温厚で大人しくあまり自己主張をしない母親。
字面で見ればなぜ仲良くなれたのか不思議なのも無理はない。

「恵美里さんは私が男子生徒にからかわれていたところを助けてくださったのよ。それ以来『百合子は私が守るんだ』って言って側に居てくれるようになったのです」
「あぁ、姫を守る騎士役をやりたかったんだね」

と、父親はなるほどそれでかと納得した。

両親の話を聞いている内に食事の手が止まった菫は姉に質問をしたくてうずうずしていた。
その様子に気付いた椿は菫にどうしたのかと訊ねる。

「姉さま。としょいいんとはどういうおしごとをなさるのですか?」
「本を貸す時や返す時にバーコードをピッとする作業をしたり、返って来た本を棚に戻したり、生徒からこう言う本を入れて下さいって言うアンケートを集計したりしてるわね。後、図書便りって言う新聞みたいなものを発行するのだけど、それの記事を書いたりとか色々ね」

菫は椿の説明を目を輝かせながら聞いていた。
自分が経験した事の無い学校生活の事を聞くのが菫は楽しくて嬉しいのだ。

「わたくしもとしょいいんになります」
「ぼくもー」

椿の話を聞き、面白そうだと思ったのか菫と菫の真似をした樹が口にした。

「それは良いわね。面白い本があったら姉様にも教えてくれる?」
「「はい!」」

元気よく2人が返事をし、その可愛らしい姿に椿は笑顔を浮かべた。
そして母親との会話を終えた父親が椿に話し掛けて来る。

「そう言えば、もうすぐ中間テストでしょ?勉強の進み具合はどう?椿ちゃん家庭教師をつけてないからさ」
「1年の最初のテストですから、そう難しくは無いと思っています。今のところは授業にも付いていけてますので問題はありません」

鳳峰の偏差値はそう高くは無いが低い訳でも無い。
素行に問題がなければ退学になる事はないが、それでも赤点を取るのは勘弁したいと言うのが椿の本音である。
それに分からない所は恭介にでも聞けば解決すると椿は思っていた。

「それならいいんだ。でも、家庭教師が必要になったらちゃんと言ってね?」

椿の事を信頼している父親は問題ないと言うその言葉を信じた。
だが、椿が本音を隠してしまう事も知っていたので、きちんと勉強についていけなくなったら言うように、とも付け加えた。

食事が終わり、椿は自分の部屋へと引き上げる。
弟妹達にはリビングでお話ししようと誘われたのだが、母親に「椿ちゃんはテストが近いのだから無理を言わないの」と言われた事で、2人は渋々と引き下がった。

部屋に戻り、椿は初等部時代の教科書と問題集を取り出し、解いて行く。
ようやくテスト範囲内の問題達を解き終え、椿が時計に目をやると1時間近くが経過していた。そんなに集中していたのかと椿は驚いた。
問題集を閉じた椿はその場で伸びをして、こり固まった体を解放する。
首を回して肩を揉み、椿はそう言えば図書便りがあったんだったなと思い出した。

実は来月、椿は図書便りのお薦め図書のコーナーを任されていたのだ。
どの本を選ぶか、どう言うレビューにしようかを考えていた。

翻訳されているものよりは原書の方が好まれるかもしれないと思い、椿は部屋の本棚の前に移動する。
洋書スペースに置いてある本を見て、あーでもないこーでもないと首を捻る。
洋書の数が少ない自分の部屋よりは書斎に行った方が見つかりやすいだろうと思い、椿は1階の書斎に足を向ける。

椿が書斎に足を踏み入れると、そこには父親が居り、書斎机に向かって何かを書いていた。
椿は邪魔にならぬように洋書ゾーンへと向かい、脚立を使って上から本を1冊ずつ見ていく。
脚立に座り本を読み始めた椿を見て、父親は危ないと思ったのか作業の手を止めて椿の側にやってくる。

「椿ちゃん、本を読むならソファに座ってから」
「……あ、すみません」

開いていた本を閉じ、椿は脚立から降りる。
何をそんなに熱心に見ていたのかと父親は思い、椿が手に持っている本の背表紙を見た。

「椿ちゃんがこう言う本を読むなんて珍しいね」
「えぇ。来月、図書便りのお薦め図書のコーナーを任されているんです。それでどの本を紹介しようかと思って」
「なるほどね。確かにこれは良いよね」
「「猫が可愛いから」」

同時に口に出した事で椿と父親は笑い合う。

「紹介する本だったらカフカとかヘミングウェイとかの方がいいんじゃない?」
「そんな誰でも知ってる本を紹介しても目新しさはありませんし、流し読みされるだけです。むしろSFとか鳳峰の生徒が普段は読まないような本を紹介した方が興味を引くのではないかと思いまして」
「確かに一理あるね。あ、発行されたらちゃんと持って帰ってくるんだよ?玄関ホールに掲示するから」
「恥ずかしいから止めて下さい!」

この父親だったら本気でやりかねないと思い椿は拒否の言葉を口にした。


―――――――――――――


そして2日間のテスト期間が終わり、結果が担任から渡された。
鳳峰では順位表を貼り出す事はせず、個人に点数と順位が書かれた紙を配布して終わりである。

担任から配られた紙を見て、椿は合計点と順位を見る。
順位は25位と言う事でまずまずのスタートを切ったと見て良いだろう。
椿は紙を鞄にしまいこみ、サロン棟へと向かった。

受付を済ませ、椿が部屋へ入ると既に全員が揃っていた。
椿は4人に挨拶をし、空いている席に座る。

「結果はどうだった?」

座って一息ついた椿に向かって恭介が話しかけてきた。
恭介の方から成績の事を聞いてくると言う事は自分の順位を聞いて欲しいのだなと椿は察する。

「まぁまぁでした。恭介さんは?」
「見たいか?」
「わー見たい見たい」

椿が感情のこもっていない声で答えると恭介は結果が書かれた紙を椿へと手渡した。
紙に書かれた結果を見ると、紙にはほぼ500点満点で1位と言う結果が書かれている。

「やっぱり1位か、期待を裏切らない奴め」
「水嶋の後継者として当然だ。お前も水嶋と朝比奈の名に恥じない結果なんだろうな」
「25位だった」
「中途半端だな」

今手元にあるお前の結果の紙を引き裂いてやろうか。

「藤堂さんはどうでしたか?」

一触即発な雰囲気の恭介と椿を尻目に杏奈は藤堂に結果を聞く。

「私は3位でした。数学で計算間違いをしてしまいまして、あとは社会で漢字の間違いも」
「ケアレスミスで3位だなんて惜しかったですね」
「えぇ。期末テストはケアレスミスが無いように頑張りますわ。八雲さんはいかがでした?」
「私は18位」
「えぇ!?」

杏奈の順位を聞き、椿は驚いて声を上げてしまう。

「何、その反応」

椿の声を聞いて杏奈が軽く睨みながら口にした。

「いや、なんか意外で。勉強してる姿見た事無かったし」
「家で勉強してるんだから見た事無いのは当たり前でしょう?」
「だよねー。期末はもうちょい頑張ろ」
「点数はどうだったのよ」

椿は自分の結果が書かれた紙を杏奈に見せる。
杏奈が結果が書かれた紙を見ると、国語、数学、英語のところに88点と言う数字が並んでいた。
他の2教科も88に近い数字であった事から杏奈はもしやこいつ……と言う疑いを持つ。

「ねぇ、これ狙ったの?」
「え?あぁ、88点の事?今回は様子見しようかなって思って88点を目指してた」

その椿の言葉を聞いて、杏奈の疑惑は確信になる。

「あんたテストくらい真面目に受けなさいよ!」
「だってスタートダッシュで上位から始まって徐々に落ちて行ったら笑われるじゃん!だったら最初から50位以内をうろちょろしてた方がいいじゃん!」

椿の言い分に杏奈は頭を抱えた。
言い分を聞いた恭介と千弦も冷めた目で椿を見ていたのだった。

「そ、そうだ!佐伯君は何位だったの?」

3人の冷めた目に耐えられず、椿はまだ順位を聞いていない佐伯に話を振った。
いきなり話を振られた佐伯は「えぇ!?」と驚いていたが、遠慮がちに「6位だよ」と呟いた。

「どいつもこいつも高スペックすぎるよ」
「だったら期末テストを頑張れ」

恭介に尤もな意見を言われ、さらに椿は落ち込んだ。
実際のところ、椿は千弦よりも順位が上にならないようにしただけである。
千弦の実力が分からなかったので様子見の意味もあった。
それも含めて、25位と言う順位はまずまずの結果だったと言う訳だ。

椿は千弦を学年の女王にしたいと思っているので、その千弦よりも順位が上になっては計画に支障をきたすと考えたのである。
だが、その椿の考えは杞憂で終わった。

サロン棟でボロクソに言われ、落ち込んだ気分のまま帰宅した椿は夕飯後に結果が書かれた紙を両親に見せた。
両親は椿から手渡された紙を見て笑顔を浮かべている。

「まぁ、25位なんてすごいじゃない」
「頑張ったね」
「あれ?ガッカリしないんですか?」

恭介達の反応から椿はきっと両親は結果を知ってがっかりするんじゃないだろうかと思っていたので、この反応は予想していなかった。

「何でガッカリしなくちゃいけないの?椿ちゃんが頑張った結果でしょ?」
「そうよ。全教科平均点以上じゃない。もっと自信もって大丈夫よ」

両親からの優しい言葉に椿は己のチンケなプライドを恥じた。
同時に、期末テストをちゃんと頑張ろうと決意する。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ