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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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結局遠足で、椿達は最後尾辺りをうろつく事になり、頂上に着いた頃には生徒のほとんどは昼食を食べ終わっていた。
椿達も教師からお弁当を受け取り、レジャーシートを広げ優雅に、とはいかなかったがあまり時間をかける事無く昼食を済ませる。
帰りは下りなので、行きよりは時間がかからずに椿達は他の生徒からそれほど遅れる事も無く広場へと戻る事が出来た。

そして、遠足が終わり、中等部ではこの日体育祭集会が行われている。
鳳峰学園中等部の体育祭は学年毎に8クラスあるので、8色に分けられる……と言う事はない。
色が書かれたクジを体育祭実行委員が引き、各学年2クラス毎の4組にまとめられる。
1~3年の同じ色同士が同じチームになり、合計点で優勝を争うのが中等部の体育際である。
今日はその色分けをする為の集会が行われているのだ。

壇上では各学年各クラスの体育祭実行委員が並び、学年の数字が入った箱から色の書かれた紙を引いていく。
生徒会の役員が、後ろにある各クラスが書かれた大きな表に引いた色のリボンを貼っていく。
1年生は個人の実力などがまだまだ分からない状態なので、多少の盛り上がりに欠けていたが、2年3年はあいつが居るクラスと色が同じ、色が分かれた、だとかで大いに盛り上がりを見せている。
色分けの結果、椿のクラスは青組となり、同じく青組となった杏奈と同じチームになる事が出来た。
佐伯と千弦が黄色で同じチーム、恭介は赤で1組と同じ、美緒は黒で3組と同じチームと言う分かれ方となった。

こうして体育祭での色分けが終わり、チーム毎に体育祭の準備へと取り掛かっていく。
体育祭が開催される前に中等部では中間テストがあるので、勉学に支障が無い程度に留めなければならない。
体育祭までにパネルの制作や競技決めなど、やる事は沢山ある。
だが、基本的に指揮をとるのは最高学年である3年生だ。1、2年生は3年生の指示を待って行動しなければならない。
余計な事をして上級生に睨まれるのはご免である。

体育祭集会が終わり、椿は教室へと戻る為に廊下を歩いていた。
それぞれの教室へと戻る為に廊下は生徒達でごった返しており、そこかしこで色分けの事について話されている。

「椿さん」

ふいに背後から聞き慣れた声が聞こえ、椿は歩く速度を少しだけ落としながら視線を後ろに向ける。
すると、そこには片手を上げてニコニコと微笑んでいる杏奈の姿があった。
杏奈は椿の隣に並び、先ほどの色分けの事について話し掛けてくる。

「同じ色だったわね。競技は何に出るか決めた?」
「杏奈さんと同じ色で助かりました。競技は何にするか決めておりません。中間テストの後のHRで決めるのでしょう?あまり体を動かさない個人競技を選ぼうかと思っておりますけれど……」
「本当に面倒くさがり屋ね」

体育祭をどこか他人事のように語る椿に、杏奈はため息交じりに口を開いた。

「そんなこと言われましても、団体競技ですと、他の方が緊張して失敗してしまうという悪循環に陥りやすいではありませんか?ですので、個人競技の方が気が楽なのです」

ムカデ競走や棒引き、大玉転がしと言ったチームプレイを必要とする競技だと、椿が入る事で他の生徒が畏縮してしまう。その結果、失敗する、と言う事態になるのは分かりきっていた。
それなら個人競技に出た方が良いと椿は考えているのだ。

「そう言えば、杏奈さんは美術部でしたわね。パネルの制作に声が掛かるのでは?」
「多分そうなるでしょうね。何を描くのかとかは3年生が全部決めてくれるから、下級生は従うだけで楽なもんよ。それに青組の3年生に美術部の部長と副部長が居るから大船に乗ったようなものだわ」
「青組、恵まれてますわね」

少なくとも美術部員が3人、しかも部長と副部長が居るのだから今年のパネル制作は楽そうである。
それに、体育祭の主な準備は体育委員と体育祭実行委員の仕事なので、椿達のような一般の生徒が出来る事は少ない。
そして、体育祭の事について話をしていた椿と杏奈は分かれ道に差し掛かった事もあり、互いに挨拶を交わして各自の教室へと戻っていった。

その日の授業が終わって、放課後となった。
椿は図書委員の当番もなく、また習い事もなかった事からサロン棟へ寄って帰ろうかとも思ったが、何だか気乗りしなかった為に大人しく帰宅する事にした。
自宅に帰ると、いつも2人揃って出迎えてくれる使用人が玄関ホールに1人しか居らず、椿はその場で首を傾げる。

「純子さんはお出かけ?」

朝比奈家の年配の使用人であり、佳純の母に当たる純子の行方を椿は彼女に訊ねた。

「いえ、敷地内には居りますが、手が離せないとの事です。申し訳ございません」
「そうなの」

いつも2人揃っていたので、珍しい事もあるものだ。まぁ、こんな日もあるさと思い、椿は2階の自室へと向かう。
部屋で制服から着替えた椿は、帰宅しているはずであろう弟妹達と遊ぼうとして2階のリビングの扉を開けて中を覗き込んだが、使用人はおろか家族の姿も見えない。
ならば1階かと思い、椿は階下へと向かいリビングの扉を開ける。
リビングの中には、ソファに座った母親と菫が居り、椿の方に顔を向けている母親は困ったような表情を浮かべて菫を見ている。
傍らには純子がおり、どうやら母親と菫が揉めていた為に椿の出迎えに出てこられなかったようであった。

椿は静かにリビングへと入り、音を立てないように慎重に扉を閉めた。
母親達へと視線を向けながら、椿は純子へと近寄って小声で何があったのかを訊ねる。

「これどう言う状況?」
「……それが、菫様が鳳峰学園の初等部を受験なさらない、と言い始めたのです」
「は?」

純子の言葉に椿は驚き、目を見開いたままその場で固まってしまう。
固まった後、本当にそうなのか聞くために母親へと視線を向けると、困り顔のままであった母親と視線がぶつかった。

「あ、姉さま!姉さまもお母さまをせっとくしてください!わたくしはたかみね学園をじゅけんしたくありません!」

椿が来た事で自分の味方が来たと思ったのか、菫がソファから降りて椿の側へと駆け寄ってくる。
いったい何がどうしてそうなったのか、椿には理解できない。

「……菫、どうして鳳峰を受験したくないなんて言い出したの?」

普段、我を通すような行動を全くしない菫の変化に椿は戸惑っていた。
だが、何の理由もなく周囲を困らせるような事を言うはずが無いと思い、椿はその場でしゃがみ込んで菫と同じ目線になり優しく語りかけた。
幾分、興奮していた菫は椿の落ち着いた声を聞いて冷静になったのか、少しばかり声を落として理由を語り始める。

「わたくしは、あしはら小学校に行きたいのです」

葦原あしはら小学校と聞き、椿はあぁ、なるほどと納得する。
確か、倉橋倖一の通っている学校が葦原小学校だったはずだ。
都内有数の私立進学校で、朝比奈の伯父2人の母校であり、高校の方ではあるが椿の義理のいとこ達も通っている学校である。

好きな人と同じ学校に通いたいと言う気持ちは理解できる。
少しでも側に居たいと言う気持ちも分からなくもない。だが、葦原小学校だけは駄目だ。

言葉に詰まった椿を見て、菫は姉も味方にはなってくれない事を察知し、泣きそうになっていた。
椿としても菫を泣かすような真似をしたくはなかったが、こればかりは許可できない。

「姉さまもはんたいなさるのですね」
「反対も何も葦原小学校は男子校よ。菫は女の子だから性別の時点で受験出来ないの」

そう、葦原小学校は男子校なのである。なので、菫がどれだけ受験で高得点を取ろうと入学は許可されないのだ。

「姉さまもお母さまと同じことをおっしゃるのですね」
「菫、葦原小学校は男の子しか入学出来ないの。これもお母様から聞いているはずよ。菫だって本当は無理な事くらい分かっているのでしょう?」
「……でも、でも!わたくしは倖一さまとおなじ学校にかよいたいのです」

頭では納得出来ても心が追いついていないのだろう。だから母親も困り果てていたのか。

菫が椿と話している事で、母親も落ち着いて考える事が出来たのか菫に対して質問を投げかけてくる。

「そうして、我を通すような真似をする子を倖一君は好いてくれるかしら?」

菫は母親の言った言葉の意味を理解し、言葉に詰まる。
そして、しばらく黙り込んだ後で菫がポツリと話し始めた。

「……そんな子を、倖一さまは好きになってはくれません」
「そうね。お母様達は何も倖一君に会いに行ってはいけないと言ってる訳ではないのよ?頻繁すぎるとご家族に迷惑が掛かるし、何より倖一君の自由を奪う事になるもの」

母親は最初に、菫が倖一に会いに行く頻度が高すぎると注意をしたのだ。しかし、菫は母親の注意を聞いてならば同じ学校に行くと言い出した、と言うのが騒ぎの原因であった。

「菫ちゃん。急いては事を仕損じると言う言葉があるの。焦って行動しても何も良い結果を生まないわ。それはお母様が一番良く分かっているもの。私は菫ちゃんにもそうなって欲しくないの」

椿は母親の言葉の重さにピシリとその場で固まった。
自分で自分の傷を抉るような真似をしないでくださいお母様!、と椿は心の中で叫んでいた。

「……分かりました。わがままを言ってごめんなさい。わたくしは、たかみね学園をじゅけんします」

ションボリと肩を落とした菫が弱々しい声で呟いた。
菫には可哀想な結果となってしまったが、こればかりはどうしようもない。

「よし!それじゃおやつにしようか」

ようやく一段落したところで、椿は出来る限りの明るい声を出した。
すぐにご用意致しますと純子がリビングから出て行き、キッチンからおやつであるイチゴのタルトと茶葉の入ったポットをサービスワゴンに乗せてリビングへと戻ってくる。
そこに、ちょうどお昼寝から目覚めた樹が、佳純の手に引かれながら部屋へと入ってきた。
樹は一目散に母親の元に駆け寄り、膝の上に乗せてもらっている。

「樹はお母様が大好きなのね」
「はい!」

その後に姉様の事も大好きです、と続かないあたり、実に子供らしい。
椿は微笑みを浮かべたまま普通にショックを受けていた。

そんな椿の様子を知ってか知らずか、佳純が椿の前にイチゴのタルトと紅茶を置いた。
美味しそうなスイーツに椿は一瞬でショックを受けた事を忘れ去り、イチゴのタルトに夢中になる。
イチゴのタルトを口に入れた椿はイチゴの若干の酸っぱさとカスタードクリームの控えめな甘さのコラボを堪能していた。
ひとしきりイチゴのタルトを堪能した椿は、本日の出来事を母親へ報告し始める。

「そう言えば、今日学校で体育祭の色分けがあったんですよ。私は杏奈さんのクラスと同じ色になりました」
「あら良かったわね。恭介君はどうだったの?」
「恭介は赤色でした。1組と同じだったので、知り合いは居ないんじゃないでしょうか?」
「佐伯君とは同じにならなかったのね。人見知りする子だから不安ね」

そう母親は話しているが、恭介の周囲には恭介の世話をしたくて仕方がない生徒がわんさか居るのだから心配など無用である。

「恭介は恭介でなんとかなるんじゃないでしょうか?周囲がなんとかしますよ」
「もぅ、冷たい子ね」

いとこである恭介に対して関心の無さそうな椿の言葉に母親は頬を膨らませている。
だが、すぐに何かを思い出したのか膨らませていた頬をへこませて口を開く。

「そうだわ、黒組はリレーの時に絶対転ぶって言うジンクスがあるのよ。知ってた?」
「それは初めて聞きました。本当なんですか?」
「本当よ。私の時も黒組の生徒がリレーの時に転んでおりましたもの。まぁ、心理的な要因もあるのでしょうけど」

始まりはいつか分からないが、そう言うジンクスがあるのだそうだ。
だが、それは単純に、そう言うジンクスがあると知っている黒組の生徒が転ばないようにと気負いすぎてしまい、結果転んでしまうだけではないのだろうか。
今もそのジンクスが受け継がれているのかは知らないが、少しだけ自分が黒組でなくてホッとする。

それまで、母親と椿の会話を聞いていた菫が、会話が終わったのを見計らい、目を輝かせながら質問をしてくる。

「姉さま、たいいくさいは、すみれも見に行っていいんですか?」

純粋な菫の質問に、母親と椿は固まってしまう。
美緒が同じ場所に居る以上、弟妹達を近寄らせる事は出来ない。
その事実を幼い子供には話せない。
だが、それとは別の説明出来る理由があった事を椿は思い出し口にする。

「……鳳峰の体育祭は一般には公開されてないのよ。だから菫は見ることが出来ないの。ごめんね」
「そうなのですか。ざんねんです」

本当に残念そうに菫が口にしている。
鳳峰学園の行事では、卒業アルバム用に写真は撮るのだが、生徒達には出回らないので菫に見せる事も出来ない。

体育祭を見ることが出来ないと落ち込んでいる菫の関心を逸らす為、椿は話題を変える。

「お母様、菫の受験対策はどうですか?」

先ほどの騒動を思い返し、椿は母親にそれとなく話題を振ってみた。

「どこを受験しても問題ないと言われているわ。ありがたい事にね。椿ちゃんも菫ちゃんもジッとするのに抵抗がない子だから大丈夫だとは思うのだけれど」

そう言って母親はイチゴのタルトを頬張っている樹をチラリと見る。
椿としては前世でも弟が居たので、その弟に比べれば全然大人しくお利口さんなのだが、女の子しか育てた事のない母親にとって男の子である樹は未知数なのだ。
椿や菫に比べれば、そりゃ樹は活発な方である。だが、世間一般で言うところの男の子からしたら樹は十分に大人しい。
さらに、母親は大人しい恭介を見てきたと言う事もあり、そう思うのも仕方ない部分があるかもしれない。

「大丈夫ですよ。樹はまだ4歳にもなっておりませんもの。こうしてジッと座っていられるのですから、問題はないです」
「そうよね。今から気に病んでも仕方ないものね」

実際、樹は言って聞かない子ではないので、小学校の受験程度であれば問題なく受かるだろうと、鳳峰の受験を経験した椿は感じていた。

そして、その日の夕飯時に、食事が終わりかけであった父親が椿に話し掛けてきた。

「そう言えば、中間テストの後って体育祭でしょ?椿ちゃんは何色になったの?」
「私は青組で杏奈と同じチームになりました」
「杏奈と同じ青組か。黒じゃなくて良かったね。リレーで転んじゃうからね」
「お父様もそのジンクス信じてるんですか?」

母親のみならず父親まで知っているとは始まりはどこなのだろうか、と椿は疑問に思う。
しかし、父親は顔の前で手を横に振り、違う違うと意思表示をしている。
椿がそれを見て小首を傾げると、父親が理由を説明し始めた。

「黒組は毎年リレーの時に転ぶってジンクス。それ作ったの僕と春生なんだよね」

あっさりととんでもないことを言い放った父親を見て、椿は思わず口をポカンと開けてしまう。
そんな椿を気にもとめず、父親は尚も続ける。

「春生がさ、人の噂はどこまで広がるのかって気になって、それで実験しようかって話になったんだよね。黒組だったら何となくイメージでそう言う不吉なことが起こりそうな気がするじゃない?それで噂を外部生の生徒に話したら一気に広がってね。気付いたら収集つかなくなってたんだよね」

あははと父親は笑っているが、そんな裏話を椿は聞きたくなかったと思うと同時に、父親と伯父は何をしてんだよ…と思わず呆れてしまった。
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