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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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4月某日。鳳峰学園中等部の春の遠足として、1年生はこの日、都内の山に登る事になっている。
天候にも恵まれ、絶好の遠足日和だ。

学校に登校した生徒達は教室へと向かい、クラス毎に駐車場まで移動しバスに乗り点呼を取って出発となる。
椿の隣には周防が座っている。

椿が美緒に初めて注意をしたあの日以来、椿は他の生徒から遠巻きにされるようになっていた。
初等部1年の時と同じように、大人しくて気が弱そうな見た目の椿が、実は気が強く他者を見下す傲慢な性格をしていると外部生からも思われるようになった。
一時期は周防も同じように見られていたが、毎日休み時間に千弦が周防を訪ねてきていた為、彼女が椿の友人ではなく、千弦の友人であると認識され、誤解は解けている。
また、初等部時代に椿と千弦の間で起こった事を、ある内部生が外部生の友人に話した事で噂は一気に広がり、椿の性格と周防の性格から、周防が怖がって椿に逆らえない状態であると勘違いされるようになってしまう。
同情された周防は同じクラスの生徒から話しかけられる機会が増え、それがきっかけとなり、クラス内で一緒に過ごす友人も出来たようである。
それでも、人身御供で椿の隣の席を周防に押し付ける辺り酷い生徒達だ。

また、図書委員の仕事でも同じような事が起こっている。
椿が懸念していた通り、椿の座っているカウンターには誰も本を借りにも返しにも来なくなったのだ。
上級生もかよ!と思ったが、そもそも図書室を利用するのは大人しい生徒達が多い為、椿に関わりたくないのだろう。
その現状を見た司書が椿にカウンター業務ではなく、返却された本を棚に戻したり、バーコードを貼り付ける作業や本の補強作業を頼むようになった。
座っていても仕事が無いのだから当然である。
それに、毎日休み時間に図書室に来ていたので、司書から顔と名前を覚えられていたのだ。

「朝比奈様」
「何かしら?」

窓の外を眺めていた椿は、小声で周防から話しかけられ、彼女の方に顔を向けた。

「もし八雲さんと約束なさっていないのであれば、一緒に登りませんか?あの、千弦様が心配で」

確かに、周防が同じクラスの生徒と登るとなると、千弦の様子を見に行く事は出来ない。
特に千弦は最後尾の常連と言う事もあり、尚更周防は心配なのだろう。

「構いませんわ。杏奈さんは私と違って社交的な方ですから、一緒に登る方くらい居りますでしょう」

友人が杏奈と千弦、佐伯しかいない椿には、杏奈が他の生徒と約束をしていたら1人で登らなければいけなくなってしまう。
杏奈は、派手な見た目をしているが、性格がキツイと言う訳でもなく、誰とでも分け隔て無く接することが出来る人である。
その為、男女ともに人気があり、友人も多いので、一緒に行こうと誘う人も多数いるだろう。
それらを考えれば、むしろ周防の申し出は願ってもいない事であったので、椿は快く了承する。

「ありがとうございます」

安心した表情を浮かべた周防にお礼を言われ、椿も笑顔を向ける。
と、なると周防を他の生徒に取られる前に確保しておかなければならない。
バスから降りる時にでも周囲に見せつけるように約束を取り付けようと椿は考えた。

登山口にバスが到着し、生徒達が続々とバスから降りて行く。
椿はバスから降りた周防の腕を緩く掴んだ。
何事かと周防が振り向いたので、椿は予定していた言葉を彼女に告げる。

「周防さん、私と一緒に登って頂けますわよね?」

有無を言わせぬ物言いと態度に、周囲が息をのんだのが椿にも分かる。
周防はすぐに椿の真意に気付き、申し訳なさそうな顔をし始めた。
今の状況ではまるで周防が困っているように周囲には見えている事だろう。

「……はい。一緒に登りましょう」

あーあ、と言う声が周囲から聞こえてきそうであった。
途端に周防に対して同情の眼差しが向けられる。
周囲から注目を浴びた事で、大人しい周防は縮こまってしまう。

椿は周囲の視線を物ともせず、澄ました顔をして集合場所に向かって歩き始めた。
その後ろを周防が慌てて追いかける。
計算では無く、素で周防はこうなのだから、椿にとっては大助かりである。

「朝比奈さん」
「あら、護谷先生も引率ですか?」

集合場所に移動する最中に養護教諭の護谷が椿に話し掛けてきた。

「そうなんだよねぇ。生徒は大変だね。俺はロープウェイで頂上まで行けるけど」
「羨ましい限りです。ですが、怪我人が出ないといいですね」
「無駄にハメ外す生徒が出るのが遠足だから、どうだろ?まぁ捻挫程度だったら応急処置で何とかなるから大丈夫だけど。あんまり仕事増やして欲しくないなぁ」

本当に養護教諭らしからぬ言動だと椿は呆れてしまう。

「朝比奈さん、怪我しないように気を付けてね」
「不慮の事故でない限り怪我など致しません」
「それならいいけどね」

どうやら護谷は椿の様子を見に来ただけだったようで、会話が終わるとすぐに他の教師たちが集まっている場所へと移動して行った。

そして、広場に学年の生徒全員が集まり教師からの説明を受ける。
初等部の時と同じく、途中のチェックポイントで名簿にチェックを入れる事を口うるさく言われた。
生徒数が多いので教師もかなりしつこく説明をしている。

ようやく説明が終わり、クラス毎に出発となる。
2組である椿は周防と目配せをして出発した。
足取りは2人とも遅く、3組と4組の生徒達にどんどん追い抜かれて行く。
途中で友人と一緒に居る杏奈を見掛けたが、お互いに軽く会釈をする程度で別れる。
5組の生徒達の姿がチラホラと見え始める。そして5組は恭介のクラスであった。

「相変わらず足が遅いな」
「ゆっくりと景色を眺めながら歩くのが好きなのです」

恭介が椿の横を通り過ぎる瞬間に声を掛けて来た。
いつも通り烏丸を始めとする女子生徒達が周囲にまとわりついている。
だが、恭介が椿と話しているからか、彼女達は一定の距離を開けていた。

「佐伯君は一緒ではないのですか?」

既に恭介と佐伯がワンセットであると認識している椿は、恭介が1人で居た事を不思議に思い、聞いてみた。

「後で合流する予定だ。貴臣は8組だからな。それに、取りあえず組ごとに出発しろと言われてただろうが」

そう言えばそんな事を言われていたかもしれない、と椿は教師の言葉を思い返していた。
スタート地点に生徒が溜まっていると渋滞になるので、取りあえず出発して歩きながら合流しろとか言われていたような気がする。

「でしたら恭介さんも、もう少しゆっくり歩けばよろしいのに」

いくら椿の足が遅いとは言え、2組の生徒に追いつくなど早足でなければ無理である。
椿の言葉に恭介の眉根が寄るのを見て、そう言えば7組には美緒が居るのだったなと椿は思い出した。

「貴臣には急いで来いと伝えてあるから大丈夫だ」
「佐伯君、お可哀想に」

恐らく走って恭介の元まで来るだろう佐伯に椿は同情する。
椿と恭介が会話していると、後ろから恭介を呼ぶ声が聞こえてくる。

「あ、恭介様!」

その声を聞き、恭介が額に手を置き目を瞑る。
椿も思わず遠くを眺めてしまう。
声の主である美緒は恭介の腕に思い切り飛びつき腕を絡ませた。
が、即座に烏丸によって力ずくで剥がされる。

「ちょっと!何すんのよ!」

烏丸に持たれた腕をさすりながら、美緒は彼女を睨み付ける。

「いきなり水嶋様に触れるだなんて、無礼もいいところだわ!」

美緒の睨みなど気にしていない様子の烏丸も応戦し始める。

「私は恭介様から許されてるんだもん」
「水嶋様がそんな許可を出されるはずないでしょう!」

烏丸と美緒は他の生徒の視線も気にせずに、いつも通り言い合いを始めた。
既に2人は相手の事しか目に入っていないのか、周りの声など全く耳に入ってこないのだろう。

「恭介さん、貴方が原因でしょう?お止めしたら?」
「絶対に嫌だ」

ヒートアップしている女子生徒2人を椿が止める事は不可能である。
最悪、矛先が椿の方へ向いてしまう。
ここで恭介がビシッと言いさえすれば大人しくなるのだが、恭介は面倒臭いとでも思っているのか、即答で拒否をする。

思えば椿は、怒りに任せて声を張り上げる恭介の姿など見たことが無い事に気付いた。
恭介の育ちの良さと水嶋の人間は常に冷静沈着に務め、相手よりも優位に立たなければならないと教えられている事から、怒りに任せて怒鳴るなど、彼は考えた事も無いのだろう。

恭介に明確な拒絶をさせるのは諦めた方がいいのかもしれない。
恭介に対する態度だけではなく、美緒は鳳峰の生徒として相応しくない行為を多々しているので、そこを注意していけば彼女の意識を椿に向けさせる事は可能である。

そんな事を考えていると、後方から佐伯が走って恭介に追いついていた。

「はぁ、はぁ。ごめ…おまたせ」

全力で走って来たのか佐伯の息は乱れている。

「そこまで待ってない。焦らせて悪かった」
「だ、大丈夫…だ、よ。でも、お、茶を…飲んでも、いいかな?」

恭介が頷き、佐伯はリュックから水筒を出してカップにお茶を入れ一気に飲み干した。
相当喉が渇いていたのかお茶を2杯飲み、再び水筒をリュックにしまう。
幾分落ち着いた佐伯に椿は千弦を途中で見なかったかと問いかけた。

「藤堂さん?見たのは見たけど、7組の生徒に随分と追い抜かれてたね。まだまだ後ろの方にいるんじゃないかな」

佐伯の返答は椿の予想通りであった。
このままゆっくりと歩くよりは、一旦止まって千弦が来るのを待っていた方が良いかもしれないと椿は周防を見る。
椿の視線に気付いた周防は椿と同じことを考えていたのか、ゆっくりと頷いた。

「恭介さん。私達はここで千弦さんが来られるのを待ちますわ」

椿は恭介と佐伯にそう告げて足を止めた。
恭介と佐伯も足を止め、椿の方に視線を向ける。

「ゆっくり歩いて合流するよりは確実だな」
「朝比奈さんも周防さんも気を付けてね」

2人から言葉を頂戴し、椿と周防は道の端に寄った。
美緒と烏丸はまだ言い合いをしている様で、恭介と佐伯がさっさと行ってしまった事にも気付いていない様子である。
しかし、美緒と烏丸が椿の前を通った時に、椿の横に恭介が居ない事にようやく気付き、2人は椿に噛みついてきた。

「ちょっと!恭介様はどこよ!」
「なぜ朝比奈様しかいらっしゃらないのですか!?」

言葉遣いが丁寧な分、烏丸の方がまだ冷静さを失っていないと思い、椿は美緒を無視して烏丸に話し掛ける。

「恭介さんは佐伯君と合流して出発なさいました。まさか、友人と一緒に居る恭介さんの邪魔をなさるような真似は致しませんわよね?」

ジロリと椿は烏丸を軽く睨み付ける。
睨まれた烏丸は椿から視線を逸らして口を噤んだ。
やはり烏丸も水嶋総一郎の孫であり朝比奈家令嬢でもある椿を怒らせる真似はしたくないようである。

一方、椿に無視された美緒は地団駄を踏む勢いで憤慨している。

「ちょっと!私を無視するんじゃないわよ!」

一歩前に踏み出した美緒が椿に向かい大声を出していた。
椿は少しだけ眉を寄せて不快感を露わにする。

「よく吠える犬がいるかと思ったら、立花さんでしたのね?何かご用でしたかしら?」

椿は素っ気ない声を出して横目でチラリと美緒を見た。
犬に例えられた美緒は、顔を歪ませ歯を食いしばり屈辱に打ち震えている。

「……あんたなんて、私の引き立て役でしかないくせに!」

美緒の言葉を周囲は悔し紛れの一言だと認識しているが、椿は正しく意味を理解していた。
あくまでもゲームの世界であり、主人公である自分が正義であると固執している美緒の考えが椿には理解できない。
少なくとも、自分が主人公だと思うのは別に良い。だが、それに胡坐をかいて相手の気持ちを無視し、押し付けるのは良くない。
そもそも、人間関係の基本が美緒は全くなっていないのだ。

椿は美緒の言葉を聞き、呆れたような表情をしてため息を吐いた。
隣に周防が居るのでこれ以上何かを言えば、攻撃対象が周防に向きかねない。
それを恐れた椿は、恭介と佐伯が随分と離れた場所まで行ける分の時間を稼いだと判断し、話を終わらせようと口を開いた。

「そうお思いになるのは個人の自由ですが、もう少し周りを見て行動なさった方がよろしくてよ?」
「何それ、負け惜しみ?」

椿の忠告も美緒は聞く耳を持つ気は無いらしく半笑いである。
すると後ろに控えていた美緒の取り巻きの1人が美緒の耳元で囁いた。

「美緒様、早く行かないと水嶋様が」
「それもそうね。こんな奴らに構ってる場合じゃなかったわ」

美緒は椿の事などもうどうでもいいのか、取り巻きを引き連れて恭介の後を追いかけて行った。
残された椿は後方に視線を向け、千弦の姿を探している。
居場所を無くした烏丸も取り巻きを連れて慌ててその場を後にした。

それまでのやり取りを見ていた周防は口をポカンと開けて突っ立っていた。

「……す、すごかったですね」

ようやく発した言葉から、いかに周防が呆気に取られていたかが分かる。

「あのバイタリティだけは凄いと思いますわ。真似したいとは思いませんけれど」

1人の男性に対してあそこまで執着できるのは純粋に凄いとしか言いようがない。

しばらく無言で千弦を待っていた椿と周防の所に、ようやく千弦達が姿を見せる。
まだ登山道の序盤だと言うのに千弦の息は上がっていた。

「あら、結香さん、椿さん。先に向かわれてるとばかり思っておりましたのに」

まさか、椿と周防が待っているとは思ってもいなかったのか、千弦は驚いている。
その千弦の姿を見て、周防は駆け寄って行った。
その姿はまるで子犬が母犬に駆け寄って行く姿そのものである。

「千弦様、お待ちしておりました」
「先に向かって下さればよろしかったのに。相変わらず律儀な方ですわね」
「そんな…!千弦様を置いてなど行けません!」

部下に慕われる上司とはこう言う事かと椿は千弦を見て羨ましく思った。
残念ながら椿は蚊帳の外である。

尻尾をブンブン振っている周防を宥めた後で、千弦がようやく椿に向き直った。

「結香さんに付き合わせてしまいまして、申し訳ありません」
「私が好んでやった事ですので、お気になさらないで下さい」

澄ました顔で椿は口にしているが、周防が居なければ1人で登山しなければならなかったのである。
感謝の言葉を言いたいのは椿の方だ。

いつまでも立ち止まって話をしている訳にはいかないと、千弦達は歩き始める。

初等部と違い、千弦のグループも人が増えた事で、椿の知らない生徒もチラホラと居た。
顔なじみである初等部からの生徒達は椿に対しても千弦と同じような態度で接してくれているが、あくまでもボスの友人として敬意を払っているだけに過ぎない。
トップは千弦、椿はそのおまけ。椿が千弦に攻撃を加えれば、千弦の友人達は椿に対して反旗を翻すだろう。
彼女達は千弦の友人であるが、椿の友人ではないし、なり得ない。
ボスである千弦を尊敬して心酔している。彼女達にとってボスはただ1人だけだ。
誰も成り代わる事なんて出来やしない。

千弦のグループの強みは、この結束力だと椿は思っている。

外部生でもある千弦の友人達は、椿の噂を鵜呑みにしているのか、ぎこちない態度を取っている。
椿としては慣れたものなので全く気にしていないし、千弦の友人に対して攻撃する真似もしたくなかった。

椿は、歩き始めた千弦達よりも少し後方から付いて行く。
彼女達は委員会や部活動の話で盛り上がっている。
生憎と、この中には図書委員が居なかったので、椿は会話に混ざる事が出来ず残念な気持ちになってしまう。
そして格好いい教師や先輩達の話になり、恭介の話題へと変化した。
椿が恭介の婚約者であると言う話は既に全校生徒に知れ渡っていた為、外部生達は恐る恐る椿の顔を見てくる。
椿は、その話題は私興味ありませんから勝手にどうぞ、と言う顔をしながら脇にある木々を眺めていた。
その様子を見た生徒達は恭介の話題をしても大丈夫だと判断し、盛り上がり始める。
そして、間もなく美緒と烏丸の話が出た。

2人の話題が出た事で雰囲気が一気に暗くなる。
すると生徒の1人が千弦に詰め寄って行った。

「千弦様!どうして立花さんに何も仰らないのですか?」

それを皮切りに他の生徒も千弦に詰め寄る。

「そうですよ!水嶋様に対してのあの態度は何なんですか!」
「それに水嶋様を下の名前で呼んだりして」
「烏丸さんだって外部生の癖にいつも水嶋様の側に居るんですよ!」

詰め寄られた千弦は、焦ることも無く、平然と詰め寄ってきた生徒達を眺めている。
さすがに千弦は、椿と協定を結んでいるからです、だなんて簡単に口にする事は出来ない。
そして、見かねた蓮見が生徒と千弦の間に割って入っていく。

「皆さん落ち着いて下さい。千弦様は皆さんの目安箱ではありませんよ」

蓮見の一言に生徒達が静まり返る。
落ち着きを取り戻した生徒達を見て、千弦も口を開いた。

「皆さんが言われている事も分かります。ですが、水嶋様が明確に拒否をなさらない以上、こちらから口は出せません。それに、私は皆さんの不満の代弁者ではありませんわ。ご自分が出来ない事を私にさせようとするのはお止めなさい」

千弦がピシャリと言ってのけると生徒達はバツの悪い顔をして俯いてしまう。
千弦も生徒達の言いたい事は嫌と言うほど良く分かっている。
この1か月の間、美緒を観察した千弦は、彼女が人の言う事に耳を傾ける性格をしていない事を理解していた。
今の時点で千弦が美緒に何かを言ったところで改善される事は無い。
奇しくも、6年の時のあの日、個室で椿に言われた通りになってしまっていた。

「ですが、あまりにも目に余るようであれば風紀委員として注意は致します」

生徒達の溜飲を下げる為、千弦は最後にそう付け加える。
千弦がいずれ美緒と烏丸に注意をすると言う言葉を聞いて、生徒達は落ち着きを取り戻した。

その後ろで騒動を見ていた椿は、千弦と蓮見のコンビはやはり強いなと感心していた。


――――――――――――

一方、随分と先に進んでいた美緒は苛立ちを抑えきれない。
烏丸蘭子に邪魔をされ、朝比奈椿には嫌味を言われ、水嶋恭介を見失い、美緒は苛立っている。

どいつもこいつも引き立て役の癖に調子に乗って!

爪を齧りながら歩いている美緒は前方の黒髪集団の中に色素の薄い髪色の少女を見つける。
すぐに椿と常に一緒に居る八雲杏奈だと理解した美緒は杏奈の方へと向かって行った。
そうして、声の届く範囲に入ったところで美緒は杏奈に声を掛ける。

「貴女、八雲さんでしょう?」

美緒に話し掛けられた事で杏奈は足を止めて振り返る。
美緒よりも大分背が高く派手な見た目の杏奈に圧倒されるが、美緒は踏みとどまって口を開いた。

「聞いてるわよ?貴女、朝比奈さんに虐げられているんですってね。可哀想だから私のグループに入れてあげてもいいわよ?私が朝比奈さんから守ってあげる」

あの女の側にある物は何一つ残らず奪い取ってやると美緒は意気込んでいた。
杏奈だって脅迫されて椿の側にいるのだから美緒の申し出を了承するはずである。
だが、杏奈から返ってきた言葉は美緒の期待を裏切る事になる。

「その必要はないわ」

美緒は自分の耳を疑った。
杏奈は椿に嫌々従っているだけだと聞いていた。だから美緒の提案に乗ってくるはずである。
なのに、杏奈は美緒の提案を拒否した。
混乱している美緒に杏奈はさらに言葉を続ける。

「私は私の意志で椿さんと一緒にいるのよ。それに誰かに守ってもらう必要もない。自分の身は自分で守れるわ」

杏奈はキッパリと言い放ち、美緒から視線を外してさっさと友人達と一緒に歩いて行ってしまう。
ようやく、美緒は自分が杏奈にすげなく断られた事を理解し、怒りで打ち震えていた。
そこに、取り巻きの1人である琴枝美波がやってきて美緒に耳打ちをしてくる。

「水嶋様に一番近い朝比奈様の隣を放棄するなんて、馬鹿な事をするはずがないのですから、仕方ありませんよ」

それを聞いて美緒は納得し、怒りを静める。
確かに、美緒の近くにいるよりも椿の近くにいた方が恭介と接する機会は多い。

杏奈も恭介を狙っているのだと思い、美緒は密かに八雲杏奈を敵と認識した。
+注意+
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