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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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入学式や、諸々の行事が終わって、通常授業が始まり半月が経った。

椿は週1の図書委員の当番をこなしながら、学園生活を過ごしている。
カウンター業務で椿が不安に思っていたのは、座っているカウンターに椿を怖がって誰も来ない事であったが、予想に反してそんな事は無かった。
内部生は椿を避けてはいるが、外部生は普通に椿の座っているカウンターに本を持ってくる。

それと言うのも、椿が目立った事を何もしていないからであった。
そして、生徒達の間では立花美緒の話題で持ち切りだからだ。
美緒は恭介を名前で呼んだ事で生徒達の注目を一気に浴びてしまっていた。

さらに、椿の誤算と言うか、予想していなかった事が起きていた。今現在、恭介の周りを固めている女子生徒達の中心人物である外部生の烏丸蘭子からすま らんこと言う女子生徒の存在である。
初等部の女子生徒達は椿や千弦と言った存在の陰に隠れてしまい、目立つ人物がいなかった。
また、初等部時代は、暗黙の了解で特定の誰かがずっと恭介の隣を陣取る事は無く、顔ぶれは日々変わっていたのだ。

しかし、大学病院の医学部長を祖父に持ち、両親共に医者である烏丸は、勝ち気で気が強く、物怖じしない性格をしていた事で、中等部へ入学後第3勢力として一気に台頭してくる。
元々、初等部に友人や親類縁者がいた事もあり、恭介を取り巻く環境を良く知っていたのだ。
だから、恭介に近づいても椿が何も言ってこない事を分かっていたので、堂々と恭介に近づいている訳である。
更に、烏丸のグループは本人の性格と似たような女子生徒が集まっている為、初等部時代に恭介の周りにいた大人しめの女子生徒達はこれまでと同じように近寄れなくなってしまっていた。

そこに現れたのが立花美緒である。
美緒は烏丸が居ても居なくても恭介に近寄って行く。烏丸に押し出されても押し出されても恭介の側に行こうとする。
その姿を見て、大人しめの女子生徒達は美緒に付けば自分達も再び美味しい思いが出来るのではないかと考えた。
言ってしまえば、大人しめの女子生徒達は美緒を利用しようと考えたのだ。
美緒のグループに入る事で今まで以上に恭介に近づける状況になり、美緒の取り巻きは自然と増えていった。
美緒も美緒で来るものは拒まずな精神なのか、いつの間にか人数だけで言えば学年で1、2の規模を誇るのグループのリーダーになっていた。
ただし、結束力はまるで無い。

以上から、烏丸と似たような性格の女子生徒は烏丸側、比較的大人しく引っ込み思案な女子生徒は美緒側に付いた。
そのどちらでもない女子生徒は個々のグループを作るか、千弦のグループに入るかのどちらかであった。
椿も千弦も様子見の状態であるのだが、他の生徒達にはそんな事は分かるはずも無い。

ある日の昼休み、椿は杏奈のクラスに寄って彼女と共にカフェテリアへと向かっていた。
すると、カフェテリアの入り口付近で何やら揉めているような声が聞こえてきた。
大きな声を出している女子生徒の声に聞き覚えがあり、椿と杏奈は互いに嫌そうに顔を見合わせた後、そちらへと向かう。

騒ぎの真ん中に居たのは予想通り美緒と烏丸、そして恭介であった。
先ほどから2人が話している内容から察するに、美緒は恭介とお昼ご飯を食べようとしているようだ。
しかし、恭介を囲んでいた他の女子生徒達、主に烏丸が美緒に反論し、言い合いに発展している状態であると椿と杏奈は理解した。
当の本人である恭介は面倒臭そうな顔をしてカフェテリアのメニューを見ている。
無関心を装う恭介に椿は頭が痛くなってくる。

しかし、これはチャンスなのではないだろうか、と椿は考えた。
現状の椿は、美緒と烏丸の陰に隠れてしまっている状態であり、ほぼ過去の人扱いになっている。
このままでは、外部生から恐れられる事も、美緒のストッパーになる事も出来ない。
これだけ人の目がある場所で行動を起こすのがベターだと思い、椿は入口から少し離れた場所に移動し、美緒達に話し掛ける事にした。

「入口で何の騒ぎですの?」

恭介を囲っていた烏丸のグループは一様にバツの悪い顔をして、椿から顔を逸らす。
しかし、美緒は邪魔者が来たとでも言うような顔をして椿を睨んできた。

「あんたに関係ないでしょう」
「入口を塞いでいると他の方が通れませんのよ。言い合いでしたら券売機の向こう側でなさって頂戴」

邪魔だ退けをオブラートに包んで椿は美緒に対して口を開いた。
美緒の方も話の内容の方で何か言われると思っていたのか、椿の言葉に戸惑っている。

「それと人目のある所で大声で喚くだなんて、はしたないマネはお止しなさい。みっともない」
「何よそれ。私が恭介様に近づくのがそんなに嫌なの?そりゃそうよね。私はあんたの地位を脅かす存在だものね」

自信満々な美緒の言葉に椿は思わず鼻で笑ってしまった。

「貴女が?私の地位を脅かす?貴女ごときが?笑わせないで頂戴。もう少し常識と品を身に着けてから仰ってくださいませ」
「何ですって!」

椿の言葉に逆上した美緒が近寄って来る。後ろから美緒の取り巻きが彼女を止めようとして腕を掴むが、美緒はお構いなしに突進してこようとしてくる。
恭介を囲んでいた烏丸を始めとする女子生徒達は、椿が口を出してきた時点でさっさと居なくなっていた。
彼女達は椿までも敵に回すつもりはないようである。
そして、美緒が退いた事で入口にスペースができ、他の生徒達がスムーズにカフェテリアへと入って行く。
それを見た椿はこれで幕引きにしようと最後に口を開いた。

「言葉通りの意味ですわ。……あら、もうこんな時間。誰かさんのせいでお昼休みの時間が減ってしまいましたわ」

突進してくる美緒を無視し、椿は待たせていた杏奈と共にカフェテリアへと入る。
背後では取り巻きに抑えられた美緒がずっと椿の後ろ姿を睨んでいた。

トレイを持った椿は置かれているメインや副菜などの皿をトレイに置いていく。
会計を済ませ、さっさとあの場から立ち去った恭介が陣取っているテーブルへと向かった。

「あれぐらいご自分で何とかしていただかないと」
「どんな事を言っても意味が通じずにポジティブに変換する人間が周りに居なかったから対応出来ない」
「お疲れ様です」

杏奈は美緒の様子を初めて自分の目で見て、椿の言ってた事が事実であったと理解し、恭介に対して労わりの言葉をかけた。
恭介の話を聞いた椿は幼少時の自分も似たようなものだと感じていた。
だが、恭介にとっては相手に意味が通じてポジティブに変換するのと、何も意味が通じずポジティブに変換するのとでは天と地ほどの差があった。

「それにしても、椿さん中等部でもこれまで通り怖がられるのは間違いなしなんじゃない?」
「本望ですわよ、えぇ」

先ほどの椿と美緒のやり取りを見ていた生徒達に与えたインパクトはそれほどまでに大きい。
大人しそうな見た目の椿が見下し感満載の言葉と態度を取ったのだから当然と言えば当然である。
いずれにしても、椿は他の生徒達から恐れられる存在にならなければいけない。
それを考えれば、人目があった今のタイミングで見せる事は非常に効果がある。
これで明日から図書室のカウンターには誰も来ないな、と椿はブリの照り焼きを食べながら考えていた。

昼食を食べ終えた椿がカフェテリアから教室まで移動していると、千弦のクラスの前を通っていたところで、廊下に出ていた彼女から話しかけられた。

「券売機の前」

たった一言であったが、それだけで千弦があの騒動を見ていた事を知り椿はため息を吐く。

「あれはまぁ」
「見せつける、と言う意味で起こした事でしょう?あのまま続いていれば先生を呼ばれていましたから、妥当な判断だとは思いましたわ。……それと、相変わらず相手をおちょくるのがお上手ですこと」

美緒に注意をするだけであれば良かったのだが、椿の言った余計な一言を千弦はお気に召さなかったらしく、椿を見る視線が冷たかった。
だが、千弦の冷たい視線に今更動じる椿では無い。

「千弦さんの冷たい視線も久しぶりですわね。ゾクゾクしますわ」
「貴女と言う人は……。中身もあのような方であれば私もここまで悩みませんのに」

口調はそのままなのに言っている内容が素の椿であった為、千弦は戦意を削がれてしまう。
分かりやすいくらいに椿が裏表なく悪であったのならば、千弦の良心も痛むことは無い。
だが、千弦はすでに椿の真意を知ってしまった。
お互いにもうすでに身内であると認識してしまっている以上、前の様にキツイ忠告を言う事は出来なかった。

一瞬、お互いに無言になった事でこの会話は終了となる。
椿は千弦に会ったら話そうと思っていた事を思い出し、彼女に話し掛けた。

「そうですわ。千弦さん、放課後お暇ですか?サロン棟にご一緒しません?」
「サロン棟へですか?今日は習い事もありませんから時間はありますが」
「では決まりですわね。待合室でお待ちになっていてくださいな。説明したい事がございますの」

椿からそう言われ、特に用事の無かった千弦は了解の返事をする。
説明したい事が何なのか千弦は見当もつかなかったが、椿が何を考えているのかを理解する事はとっくに諦めていたので、深く考えもしなかった。

そして放課後、椿は千弦よりも先にサロン棟へ向かい、受付で手続きをする。
既に先日、佐伯の手続きも済ませ、4人揃って個室でお茶をしたところである。
その時は千弦に用事があり説明をする事が出来なかったので、タイミングが合って良かった、と椿は記入した用紙を受付の女性に手渡した。
千弦の学生証が無ければ手続きは完了しないので、待合室で彼女が来るのを待っていた。
ほどなくして、千弦が姿を見せ、受付での手続きも完了し3階一番奥の部屋までスタッフと共に移動する。
部屋の前まで来た所で椿が千弦に部屋の説明し始めた。

「こちらの部屋は水嶋の伯父が3年間借りているのです。基本的に私か杏奈さんか恭介さんが一緒でないと利用する事は出来ませんけれど」
「さすが水嶋様ね」

感心した様に千弦は口にする。
スタッフがノックをすると鍵が開く音がして、扉が開く。

「ようこそお出で下さいました。杏奈様は既にいらしております」

中へと誘われ、椿と千弦は部屋へと足を踏み入れた。
ソファには杏奈がすでに居り、スコーンを頬張っていた。

「あ、いらっしゃい」
「来ましたよ。今日はスコーンにしたのね」
「プレーンと抹茶、紅茶、メープルがあるわよ」
「私、抹茶いただき。ホイップクリームはある?」

そそくさと椿はソファに座り、抹茶のスコーンに手を伸ばす。
相変わらず食べ物、特に甘い物には反応が素早いと千弦は呆れ顔だ。

「藤堂様、どうぞお座りください。紅茶をご用意致します」
「ありがとう」

給仕の真人に言われ、千弦もソファへと腰を下ろした。

「そうそう、椿は部活、どこにするか決めた?」
「杏奈は?」
「私は美術部。藤堂さんは?」
「私は弓道部ですわ」

弓道部とは千弦のイメージにぴったりであった事から、椿と杏奈が同時に「あぁ」と納得する声を出した。
千弦は2人の言葉を聞き、不満そうな顔を浮かべている。

「皆さん、椿さん達と同じ反応ですのよ」
「ごめん。千弦さんのイメージにピッタリだったからさ。流鏑馬とか似合いそう」
「流鏑馬は兄2人が過去に射手をされた事がありますわ」

千弦の話を聞いた椿は、やはり藤堂家は日本の伝統を重んじる家なのだな、と言った感想を抱いた。

「それで、椿さんはどちらの部活動に入部なさったの?」
「帰宅部」
「それは部活動ではございませんわ」
「だって、早く家に帰りたいんだもん」

そして弟妹達と遊びたいんだもん。と続けた椿を見て千弦は何とも言えない顔をしていた。
鳳峰学園中等部では部活動は強制ではないので、帰宅部でも問題は無い。
問題は無いはずなのに、杏奈と千弦の無言に圧力に椿は、居心地が悪くなり話題を変えようと口を開いた。

「そう言えば、千弦さんは委員会は何になったの?」
「私は風紀委員になりました。椿さんと八雲さんは?」
「保健委員です」
「私は図書委員。毎週水曜日が当番の日だから遊びに来てね。それにしても風紀委員とか千弦さんのイメージぴったりだね」

ホイップクリームを乗せ、椿は抹茶スコーンを口に入れた。
幸せそうな顔をして咀嚼している椿を見て、千弦は昼休みに見た人物と目の前の彼女は本当に同じ人かと信じられない気持ちになる。

「図書室は読書、または勉強する為の場所でしょう?当番の方と話をしに伺う場所ではありませんわよ」
「いや、千弦さんが来てくれないと、カウンターに座ってる私の所には、もう誰も来てくれないだろうからさ」

昼休みの騒ぎを見た生徒は椿を敬遠するだろう事は千弦も容易に想像がつく。

「見た目に騙された方々が一掃されるのですから、よろしいのでは?」
「返す言葉が何もない」

ガックリと椿が肩を落としているが、それでもスコーンを食べる手は止まらない。

「しばらくは烏丸さんに任せておけば?あの人だって、水嶋様に近寄る権利を放棄するなんて事はしないだろうし」
「それでも限界はあるでしょうね。立花さんのグループが人数で言えば学年最大ですもの」

スプーンで紅茶をかき回しながら千弦が口を開いた。

「正直、あのグループは寄せ集めの烏合の衆としか思えないんだけど」
「結束力だとか団結力は皆無よね」

だからこそ、椿は美緒を舐めていた。
この時点ではまだ、美緒が勘違いをした痛い子だと言う認識をしていたからだ。
椿自身の精神年齢が大人である分、美緒はそれほど脅威では無いと甘く見てしまっていたのだ。

「だけど、なんか嫌な予感がするんだよね」

それほどの脅威では無いと認識していても、椿はどこか不安を感じていた。
理由なんてない。ただ漠然とそう思っただけだ。

「何にせよ。水嶋様がハッキリと拒絶なさらない限りは、私達が何を言っても無駄でしょうね」

千弦の言う通りであった。
美緒を見るまでは予測でしかなかった事が次々に確定していく。
相手の話を聞かず、無駄にポジティブ変換。
これでは椿や千弦が物申しても無視されるのが落ちである。

恭介の考えが分からない分、椿も迂闊に動く事は出来ない。
果たして彼は迷惑だと思っているのか、まとわりつかれる事さえ嫌だと思っているのか。
どちらかと言えば、今の時点では困惑していると言った方が正しいのかもしれない。

「そう言えば椿さん、結香さんと同じクラスでしたわね。あの方は引っ込み思案と言うか大人しくて自己主張をなさらないので、心配しておりますの。椿さん以外に同じクラスになった方も居りませんし」
「その事なんだけどね。千弦さんの方から周防さんへ私に話し掛けるなって言ってくれないかな?」
「なぜ?」
「私と仲が良いってのは周防さんにとってマイナスにしか働かないと思うんだよね。内部生には理解出来ても外部生は私と周防さんを同一視するだろうし。そうなると周防さんが他の人に避けられる状況になるでしょう?」

椿の言葉を聞いた千弦は少しの間考え込む。
確かに椿の言う事も理解できる。だからと言って千弦は周防に椿と話すなと言う事も出来ない。
しばらく考え込んだ後、千弦は案が浮かんだのか口を開いた。

「しばらくの間、休み時間は椿さんのクラスで過ごす事にしますわ。結香さんと一緒に過ごしていれば椿さんのグループではなく、私のグループに属している方だと認識して頂けますでしょうし」
「それが良いね。よろしく」
「それで、貴女は相変わらずお1人ですの?」

千弦に痛い所を突かれ椿は沈黙した。
休み時間に毎回、杏奈の所に行く訳にもいかない。
杏奈にも交友関係があり、それを邪魔する権利は椿にはないのだから。
そのため、休み時間は大体席で本を読んでいるか、図書室に行っているかのどちらかであった。
さすがに机に突っ伏して寝るような真似は鳳峰でする事は出来ない。
そして、休み時間の10分は短いようで意外と長い。
教室は1階で図書室は1階と2階にまたがっているが、出入り口は1階と2階にそれぞれある為、往復3分で済むのも有難い。
つまり、7分は図書室で過ごす計算になる。
さすがにトイレに10分間篭っている訳にも行かない。
本の返却業務も委員会の仕事にあるので、どこに何の種類の本があるのかを覚えるのにもちょうど良いのだ。

「図書室、楽しいし」
「声、震えてんぞ」
「う、うるさい!別に友達とかいなくても困らないしぃ?」
「八雲さん、それ以上はさすがに」

椿の強がりを見て憐れに思ったのか千弦が杏奈を止める。
止められた杏奈も素直に千弦に従い口を噤んだ。
これ以上の会話は墓穴を掘ると思い、椿は話を締めにかかった。

「では、周防さんの事はよろしくお願いします」
「えぇ」

その後、スコーンが無くなったのを合図に解散となった。

翌日から千弦が椿のクラスに休み時間の度に来る様になり、周防と時間を過ごしていた。
それを見た同じクラスの生徒達は、周防が千弦のグループに属しているのだと理解したのだった。
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