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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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7月の七夕祭の劇では、予想通り織姫を千弦、彦星を恭介が演じた。
椿は彦星側のかささぎを演じ、恥ずかしいと思いながらも、セリフを間違える事も無く無難に役目を終えた。
配役決めの時点で椿は素早くかささぎ役に立候補していたので、大きな混乱も無くスムーズに織姫と彦星が決まり、他の配役も滞りなく決まった。
織姫が椿ではない事に陰口を言う生徒はそこそこいたが、椿が「たかが学校の劇の配役ごときでまで我を通すマネは致しません」と言った事で鳴りを潜めた。
七夕の劇は例年注目はされるのだが、今年は恭介が居ると言う事で、かなりの注目を集めていたようで、例年以上の盛り上がりを見せて無事に劇は終わった。
恭介の方は事前に椿がこれでもかと煽てていた為、終始上機嫌で彦星を演じていた。

そして夏休みになり、遠足の時に聞いた杏奈の言う通り、レオンがドイツからやって来た。
家庭の都合で2週間程の滞在になると残念そうに、日本に来る前に電話でレオンが話していた。
椿は、これ、1ヶ月以上滞在されてたら私のストレス半端なかったなと思い、2週間と言う程よい滞在期間に胸を撫で下ろしていた。

レオンが日本に来る前日、椿は父親からある事を聞かされていた。

「え?レオンは朝比奈の本家に滞在する予定なんですか?こっちじゃなく?」
「うん。レオは母親の方の親類だしね。今は両親しか住んでいないから賑やかになっていいんじゃない?それに僕は百合ちゃんに対して言った事を許してないし、椿ちゃんを渡すつもりなんて微塵もないからね」

アハハと笑っているが目は全く笑っていない父親に椿も渇いた笑いを返すしかなかった。
レオンが椿の母親の事を侮辱した件だが、彼を殴った事と謝罪を受け入れた事で椿はすでに水に流していた。
しかし、やはり父親は最愛の妻を侮辱された事が尾を引いているらしく、レオンに対して大人げない対応をする時があるのだ。
レオンから掛かってきた椿あての電話を取り次がないとか、レオンから椿の事をあれこれ聞かれても答えないとか、本当に大人げない事だ。

椿は両手で握りこぶしを作り、そんな父親に向かって口を開いた。

「お父さま、私、あと20年近くは嫁に行くつもりなんてありませんからご安心を!」
「それはそれで逆に心配になるよ!」

適齢期で結婚して!と父親に肩を掴まれた椿はいい笑顔のまま、ガクンガクンと揺さぶられた。

そして当日、椿は、レオンが日本に来る事は知っていたが、飛行機の到着時間までは覚えていなかった。
彼が時間を言っていたような気もするが、椿は右から左へ聞き流していたのだ。
なので、椿は自宅で夏休みの宿題に明け暮れていた。
どうせ、着いたら着いたでこっちに来るだろうと予測し、出来るだけレオンと接する時間を短くしようと無駄なあがきをしていた。

「もう飛行機が着いた頃ね」

母親の言葉で、到着時間を知り、若干憂鬱な気分になる。
一応、椿は恭介や杏奈にヘルプを要請しているので、終始レオンと2人きりになる事態にはならないだろう。
つくづくレオンも女を見る目が無いと椿は思う。
椿は、かなり性格がよろしくない自覚があった。その上リアリストで可愛げも無く、勝気で好戦的な性格である。
仮に自分が男であったとしたら絶対に選ばないと自信を持って言える。
そんな相手を好きだなんて言うのだから、レオンは物好きなのだろう。
蓼食う虫も好き好きとは良く言ったものであると、宿題の手が止まり、窓の外を眺めている椿がぼんやりと考えていた。

「今日はレオン君、来ないんじゃないかしら?さすがに時差の関係もあるでしょうし。お義母様が随分と張り切っていらっしゃったから」
「何でホテルに滞在しなかったんでしょうか」
「子供1人でホテルは無理ですもの。今回はホームステイの意味合いもあるのでしょう?あちらのお母様が随分と心配しておられましたからね。遠い異国の地に子供1人を送り出すなんて心配でしょうに」
「…それもそうですね。恭介さんも杏奈さんも都合がつく限りはご一緒してもらえそうですし、バカンスを満喫してもらえるのではないかと思っております」

レオンにしたら椿と2人きりを望んでいるのかもしれないが、椿と恭介が婚約者だと思われているのに、他の男と2人で出掛けているのが知られたら何を言われるか。
これが海外であったのなら特に何も思わないが、日本の東京である。
確実に誰かの目に留まるのは間違いない。
他人に付け入る隙を与えるべきではないと椿は頑なにレオンと2人きりになる事を避けようとしている。

朝比奈陶器の創立記念パーティーの時は、具合が悪いレオンを介抱していたと言っていたので大事にはならなかった。
読書をしていた母親が、本から顔を上げ、ある一点を見つめていた。
それを椿は不思議に思い、母親をジッと見ていた。
少しだけ首を傾げた母親が口を開く。

「なんだか外が騒がしいわ。どうしたのかしら?」

側に控えていた使用人に母親が訊ねる。

「少々お待ち下さい。見て参ります」

綺麗に一礼し、使用人は静かに部屋を出て行った。
確かに玄関の辺りが騒がしいと椿は気になり、立ち上がる。

「お母様、私も様子を見て来ます」
「何かトラブルがあったのかもしれないし、危ないわ」
「いえ、聞こえている声がお父様の声でしたから、それはないかと。階段の上から様子を見るだけですから」

そう言って、椿は部屋を出て行く。

部屋を出て、階段の上からこっそりと玄関の様子を覗き見た。
玄関の扉は閉まったままであったが、扉の前で仁王立ちしている父親の後ろ姿を確認し、さらにその向こうに人が居るのか、くぐもった声が聞こえてきた。

『だから!椿を出せと言っているんだ』

レオンだ。まぎれも無くレオンだ。残念なことにレオンだ、と自覚し椿はその場で膝をついた。

「椿ちゃんは今外出中です。帰りは何時になるか分からないから、朝比奈の本家にお帰りやがれ」

後ろ姿からでも分かるくらいに父親の不機嫌さが伝わって来る。
さらりと嘘を吐いた父親は相変わらず大人げない。
ふと、椿が横を見ると中々使用人が戻って来ない事に痺れを切らした母親が優雅に微笑みながら立っていた。
一瞬だけ椿と視線を合わせ微笑むと、母親は階段を下りて行った。
そのまま母親は玄関の鍵を開けると、控えていた使用人が扉を開け、扉の向こう側で立っていたレオンの姿が見えた。
レオンはいきなり開いた扉に驚いたものの、目の前に椿の母親が立っていた事からすぐに表情を作る。

「ご無沙汰しております」
「朝比奈陶器の創立記念パーティー以来ね。お元気?しばらく見ない間に随分と背が伸びて、すっかりお兄さんになりましたね」
「ありがとうございます。おば様の美しさは出会った頃と全く変わりませんね。母が美容の秘訣を教えて欲しいと言っていましたよ」

レオンの言葉に母親は少しだけ頬を染め、目を細めた。
それを面白くなさそうに見ていた父親はすぐにレオンに向かって口を開いた。

「百合ちゃんは年々美しくなって行ってるんです!変わらなくなんかないの!」
「…薫さん。2人きりでお話ししたい事がございますの。よろしくて?」

父親と目線を合わさず、言葉を発した母親は使用人にレオンを応接間兼リビングに連れて行く様に指示し、父親を引き連れて行ってしまった。
階段の上から見ていた椿は、父親に向かって心の中でご愁傷様と言う言葉を贈った。
さすがに家に招き入れたのに顔を出さないのはまずいと思い、椿は立ち上がり1階の応接間兼リビングに向かった。

扉を開け、軽くレオンに挨拶した椿は彼の正面のソファに腰を下ろした。

「さっき到着したんでしょう?随分早いのね」
「あぁ、1時間前の飛行機で来たからな」

だからあんなに早く家に来たのか、と椿は納得した。

「時差ボケは大丈夫なの?」
「飛行機の移動は慣れてるからな。…そうだ、これ」

そう言って、レオンは手のひらサイズの箱を椿に差し出してきた。
嫌な予感がしつつ、椿は箱を開ける。

「…ネックレス」

ただのネックレスではない。ダイヤで椿の花を模しているのだ。
値段を考えるとあまりに恐ろし過ぎて、椿は物凄い勢いで箱を閉じた。

「…これなに」
「創立記念パーティの時の詫びだ」
「それはもう貰いました」
「俺の気が済まない」
「済めよ!誰のお金だと思ってんの!?いくらお金があるからって、こんなにホイホイと物を買ったらいけないんだからね!貯蓄しろ!」
「さすが椿。しっかりしてるな」

レオンに意図が全く伝わらなかった事で、椿はソファの肘掛の側面をグーで殴った。

「気に入らなかったか?なら今度は別の物を贈ろう」
「問題はそこじゃない事に気付いてくれ。頼むから」
「じゃあ、何なら良いんだ」
「3000円以内の常識的なセンスの物」
「…何も買えないじゃないか!?」

買えるよ!駄菓子詰め合わせとか和菓子詰め合わせと洋菓子類とか買えるだろうが!しかもお釣りまで出るんだぞ!

「とにかく、今後、高価なプレゼントは受け取らないから」

そう椿が宣言すると、レオンがあからさまに落ち込み始めた。

「…高価じゃないプレゼントなら受け取るんだな」

下を向いたままレオンがボソッと口にした。
椿もレオンからの贈り物は何でもかんでも拒否するつもりは無かった。

「誕生日とクリスマスの時だったら有難く頂戴するわ」
「年2回しか受け付けないのかよ!」
「理由が無いのに受け取れないでしょう」

当然と言わんばかりの椿の言い方に、レオンはガックリと肩を落とした。

夕方になり、朝比奈の本家での食事会があるとの事で、レオンは迎えに来た本家の使用人に連れられて行った。
明日は朝からレオンに付き合わされる事になってしまい、椿は急いで恭介と杏奈に連絡を取った。

そして翌日、恭介と杏奈が朝比奈家に到着し、少し遅れてレオンも到着した。
この日は水族館に行く予定になっており、水族館まで距離があるので車2台で向かう事になっていた。
誰と乗るかで若干揉めたが、椿は杏奈と、レオンは恭介とに分かれて出発する事になった。

車内で杏奈にレオンの事を根掘り葉掘り聞かれたので、昨日の出来事を説明すると、杏奈は腹を抱えて笑い出した。

「あ、あのレオンが女に媚びるなんて、ウケル!」
「おい、はとこが可哀想だから止めてやれ」
「ごめんごめん。で、レオンどう?かなり良いと思うんだけど。性格アレだけど」
「何度も言ってるでしょ。私は恭介の問題が解決しない限り、自分の事は後回しなの。レオンの気持ちに応える事は出来ない」

杏奈の目を真っ直ぐに見て椿は口にする。

「それは別にいいんだけど、グロスクロイツの人間は諦めるって言葉を知らないから覚悟しときなさいよ」

血筋であるあんたの父親で良く分かってるでしょ?と杏奈が続けて口にした。
つまりはしつこくて執着心が強いと言う事かと理解し、椿は頭を抱えた。

と言う会話をしながら、車は水族館へと到着した。
護衛が数人居て落ち着かないが、安全の為だ仕方ないと言い聞かせ、チケットを受け取り中に入った。

館内に入って1番最初に椿の目に飛び込んできたのは、イワシの大群だった。

「1匹くらい居なくなっても分からないよね」
「水族館でその発言は止せ」

思わず椿がポツリと言うと、恭介からツッコミが入った。

「レオン様は何かご覧になりたい物はございますか?」
「椿」
「申し訳ございませんが、展示物でお願いできますか?」

口角をピクピクさせた椿が素っ気なく答える。

「ペンギンはどこだ」

空気を読んだのか読んでいないのか、恭介が声を出した。

「ペンギンは2階ですわね…って、順路守ってくださいな!順番に見て行きましょう」

椿が答えると、恭介は1人ずんずん先に進んで行こうとして、護衛に止められていた。
レオンはレオンでクラゲに夢中になっており、男共の自分勝手な行動に椿は切れかかっていた。

「恭介さん、レオンさん。ちょっとこちらにおいでください」

椿は手首を上から下に動かして2人を呼ぶ。

首を傾げるな。さっさと来い。

「館内は貸し切りではございませんのよ?護衛の目の届く範囲に居て貰わないと困ります。自分勝手な行動は慎んでください。よろしくて?」
「「分かった」」

渋々だが、了承を得て椿は溜飲が下がった。
それから男共はきちんと椿の後ろを着いてきて、展示物を観賞していた。

イルカショーを見て、ペンギンとアザラシを見て、ふれあいスポットで魚を直に触って盛り上がった。

「中々、見所があって面白かった。日本の水族館も捨てた物じゃないな」
「満足いただけた様で何よりですわ」

思っていたよりも楽しかったのか、レオンは満足そうにしていた。

「ところでもうすぐ夕食の時間だが、予定はどうなってる」

時計を見て、夕食の時間が近づいている事に気付いた恭介が椿に聞いて来る。

「それでしたら、お寿司屋さんを予約しておりますわ」
「お前には人としての情は無いのか!」

鬼畜!鬼!悪魔!と恭介が口にしている。

「恭介さん。それはそれ、これはこれですわ。食物連鎖です。美味しく頂くのが人間に出来る最大の供養ですわ」
「上手い事言ってるつもりだろうが、ただ単に食べたいだけだろうが」
「悪いですか?」
「開き直るな!」

まるでコントの様な2人のやり取りにレオンは目を丸くしている。

「あの2人はいつもあんな感じよ」
「…そうか」
「妬かないの。椿は水嶋様の事は何とも思っていないんだから」
「そうか!」

途端にレオンは笑みを浮かべる。

「そろそろ、予約の時間が迫っておりますし、移動しますわ」

恭介とのやり取りを終え、椿は杏奈とレオンの所にやって来た。
笑みを浮かべているレオンを怪訝に思いながらも、急いでいた為にスルーした。
寿司屋までは、再び車に乗っての移動となった。
店の個室に案内され、出された寿司を前に4人は合掌したのだった。

外国人に生魚はどうかと思ったが、レオンの大伯母であり、椿の義理の祖母が日本人に嫁いだ為、グロスクロイツ家では日本食を良く食べていたらしく、生魚も平気だと聞き胸を撫で下ろした。

そうして2日目は終わりを告げた。

椿はその後、事前にリサーチしていたレオンによって、東京の観光名所や某アミューズメントパークに連れて行かれる事になる。
最初の1週間はあちこちに連れまわされていたが、椿も行く先々で楽しんではいた。
けれど、家に居た弟妹達に自分達も行きたいと駄々を捏ねられたのである。
実は、夏休み中に菫がデパートで誘拐されそうになったのだ。
未遂に終わったので何とも無かったが、事件が起こって間もないこともあり、母親も自分の目の届く範囲に置いておきたいだろうと椿は弟妹達を連れ出すことはしなかった。

拗ねる弟妹達に心を痛めた椿は、2週間目は家に引きこもりになった。
上記の理由をレオンに言うと、彼は納得したのか、椿の家に毎日訪ねて来るようになった。
夏休みの宿題をする椿に話し掛けては煩いと言われ、宿題が終われば弟妹達に構う椿に放ったらかしにされるレオン。
しかし、彼は同じ空間に居られるだけで満足と思っていたので、別段気にしていなかった。

「そうだ、これ」

そう言って、レオンが差し出したのはクーラーボックスだった。
椿は受け取ると、クーラーボックスの蓋を開けた。

「…ジェラート」

そこには東京の有名イタリアンのお店の名物ジェラートが入っていた。

レオンはこの1週間、椿を良く観察していた。
その結果、導き出した答えがこれだ。

椿は食べ物に弱い、と言う事だ。

アクセサリーや服、靴、等を贈っても良い顔をしない椿であったが、食べ物に関してだけは許容範囲が広くなる事に気付いたのだ。
それに気付いた後、レオンはスイーツや有名店の食べ物等を椿にプレゼントしている。

「ありがとう。皆で美味しく頂くわ」

全種類の味が全て入ったクーラーボックスの中を見て、椿は最初に何を食べようかと考えていた。

「バニラが美味しかった。あと、抹茶は不思議な味だったな。日本人は何でもかんでも改良しようとする」
「商魂たくましいだけよ」

なるほど、バニラが美味しかったのか、と椿は思ったが、小さい子供はバニラを好むと何故か信じ込んでいたので、違う味を選ぶことにした。

「レオンも飽きないのね。毎日毎日、家に来て」
「椿に会えるからな」
「…その事なんだけどね」

椿は正直、10年以上後にならないと恋愛をする気にはならなかった。その間、レオンを待たせておくなんて事は出来ないし、無駄な時間を彼に過ごさせる訳にもいかなかった。
こんな面倒な女ではなく、もっと別の女性の方がレオンに相応しいと思っているのだ。

「正直に言えば私は、10年以上経たないと恋愛をする気にはなれないのよ。その間、待っててなんて言えないし、だからレオンには他に目を向けて欲しいの」

好きだと直接言われた訳ではないが、椿に対する態度からレオンが恋をしていると確信していた。
椿から言われたレオンは少しばかり考え込んでいたが、彼の中で答えが出たのか口を開いた。

「10年だろうが20年だろうが俺は待てる」

その言葉に椿は面食らった。
どちらかと言うと、レオンは来るもの拒まず去る者追わずなタイプのはずだ。
その彼が待つと言った事に椿は驚いた。

「だから」
「現時点で恋愛をする気にはなれないんだろ?だったら未来に希望を持っても構わないじゃないか。待つのは嫌いだし、すぐにでも手に入れて手元に置いておきたいと思うが、椿に関しては待てる。自分でも不思議なんだが、確信がある」

真剣な眼差しで言われ、椿は固まってしまう。
よもやここまでレオンの意志が固いとは思っていなかったのだ。

「俺は諦めるつもりは微塵も無い。どれだけ先になろうが絶対に椿を手に入れる」

レオンの意志の固さに椿は手を上げるしかない。
残る策は、どうやって彼に幻滅してもらうかだ。
その場では、えぇ、分かりました。と言って収めた。

そしてレオンがドイツに帰国する日。
椿は恭介と杏奈と一緒に空港までレオンの見送りに来ていた。

「冬はドイツに来るんだろ?今度は俺が案内してやるよ」
「水嶋のパーティが終わったら、行く事になるけどな」

恭介とレオンは男同士で先の約束を交わしていた。
搭乗時間が近づき、名残惜しそうに恭介と別れを告げ、杏奈に挨拶をし、椿の前にレオンがやって来た。
レオンは椿に手を伸ばすと、髪を一房手に取り、自分の口元に持っていき口付けた。
顔が良い分、まるでゲームのスチルのようであった。

『俺はお前の物だ』

「今、何と仰られたの?」

唐突なドイツ語に椿は何を言ったのか理解できず聞き返した。

「次に会う時を楽しみにしている、と言ったんだ」
「そうですか」

全く違う事をレオンは言っていたが、この場で本当に言った事を理解出来たのは恭介と杏奈だけであった。

椿に別れを告げ、レオンは晴れ晴れとした顔で搭乗口へと向かって行った。

「嵐が去りましたわね」
「そうね。ところでさ」
「うん?」

杏奈から何を言われるのか予測出来ず、椿は首を傾げた。

「椿、水嶋様と婚約してる事になってるって言った?」
「「あ」」

椿と恭介は同時に声に出した。
お互いにすっかり忘れていたのだ。

そんなこんなで、争いの火種を残したまま、レオン帰国。
+注意+
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