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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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七夕祭からしばらく経ったある日の放課後、椿は見知らぬ上級生の女子生徒に廊下で呼び止められていた。
気が強そうな目元が印象的な人だと言うのが椿が女子生徒に対して抱いた印象であった。
椿は上級生から呼び止められるような事をした覚えが無く、相手は自分を警戒しているが、嫌悪や憎悪はされておらず尚更呼び止められる目的が分からなかった。

「朝比奈椿さんですわね?私、6年の二階堂麻里香と申しますわ。お話があるのだけど、今お時間大丈夫かしら?」
「・・・はい。習い事もございませんので、大丈夫ですわ」

二階堂麻里香と名乗った少女に誘われ、椿は少々考え込んだ後、特に用事も無かった事から彼女の申し出を受けた。
では、こちらにと歩き出した二階堂の後を追い、椿は食堂にある個室の1部屋に案内された。
まさか中には複数の生徒が居て私ボコられるんじゃ…と椿は若干不安になるが、さすがに鳳峰でそれは無いなと思い直した。
先に中に入った二階堂に続いて椿が個室へ入ると、中には椅子に座った女子生徒が1人居るだけで他に人は見当たらなかった。とりあえず凹られる線はなさそうで椿は安心する。
ふと椿は、椅子に座っている女子生徒をどこかで見たような気がすると思い、不躾ながら女子生徒をマジマジと見つめてしまう。
椿は自分の曖昧な記憶を辿り、そういえば七夕祭の時に貧血で倒れた人がこんな顔じゃなかったか?と言う事に思い至った。
あの時はじっくりと顔を見ていなかったので、思い出すのに時間が掛かったが、この女子生徒はかなりの美少女である。姫カットが良く似合っており、本当に可愛いらしい容姿をしていた。

「さ、お座りになって」

いつまでも入り口付近に立っていた椿は二階堂に促され、下座の椅子に腰を下ろした。

「失礼致します。改めまして、4年の朝比奈椿と申します。6年生でいらしたんですね」
「6年の久世小夜子です。直接伺わなくてごめんなさいね。麻里がどうしても自分が行くと言って聞かなくて」
「いいえ。あの後ずっと気になっておりましたから、お元気そうな姿を拝見して安心致しましたわ」
「ほらね。麻里が心配する事は何も無かったでしょう?」

二階堂に向かいふんわりと微笑み話しかけた言葉を聞き、当の二階堂はバツの悪そうな顔を浮かべている。
椿の評判が悪いので、二階堂は久世が椿と2人で会うのを心配していたのだろう。

「それで、久世様がどうして私を呼び出されたのでしょうか?」
「私、あの時のお礼を言ってなかったでしょう?貧血から回復して会場内に戻った時には、人が沢山居て貴女を見つけられなかったから。改めて、あの時はありがとうね」
「当たり前の事をしたまでですわ。あそこで知らんふりして出て行ける程、私は性格悪くありませんもの」

椿の言葉を聞いた久世は何が面白いのかクスクスと楽しげに微笑んでいた。

「人の噂とは当てにならないわね。そう思わない?」
「…それにしたって噂と違い過ぎますわよ」

椿に助けられた事で噂の信憑性の低さに気付いた久世と違い、二階堂は噂でしか椿の事を知らないので戸惑いの方が大きいようである。

「私はこの容姿と口数の少なさから、良く人に誤解を与えてしまうので仕方ありませんわ」

そう口にし、悲しげに微笑むと、2人は同情的な眼差しを椿に向けて来る。

「確かに、貴女ってどこか得体が知れない風貌をしてますものね。常にすまし顔で冷たい印象を与えてますし、損してますわね」
「お蔭で学年の女子からは嫌われておりますわ」
「しかもそれを気にしてる様子もないと」
「私にとってさして重要な事でもございませんので」

やや挑戦的に椿は微笑むと、二階堂は何か面白いものを見つけた時の様な笑みを口元に浮かべた。

「見た所、貴女は全く違うみたいですわね」
「だから言ったでしょう」

二階堂の言う『違う』が椿は気になったが、それにしてもこの2人仲の良さも気になるところであった。

「お2人は仲がよろしいのですね」
「幼稚園からの付き合いですもの。それに母親同士が鳳峰の同級生で親友なので」
「私が病弱なせいで麻里には心配を掛けてばかりなのよ。だから私に対しては過保護なの」
「そうなのですか」

確かに久世は見た目からして病弱そうではある。二階堂が久世に対して過保護になるのも無理はないのかもしれない。
そう椿が1人納得していると、何やら2人は目配せし合い、互いに頷いたかと思うと椿の方を見て重々しく口を開き始めた。

「朝比奈さん。貴女がどこまで知っているのか分からないので、私達が今から言う事にもしかしたら衝撃を受けるかもしれないわ。だけど、貴女には知っていてもらいたい事なの」
「それを聞く勇気はあって?」
「えぇ。どうぞお話しになってください」

真剣な眼差しになっているところ非常に申し訳ないと思うが、椿は回りくどいのが好きではないのだ。
用件があるのなら早く言ってもらいたいので、椿は間髪入れずに先を促すと、2人はこの反応を予測していなかったのか少々狼狽えていた。

「度胸があるのか、怖いもの知らずなだけなのか判断に困りますわね」
「麻里、私から話すから」

はいはい分かりましたよ、と言う態度を二階堂は取り、その口を閉じた。
二階堂はどうやら本当に口を挟む気はないらしく窓の外を眺め始める。
それを見た久世は1度深呼吸をし心を落ち着かせた後、ゆっくりと口に開いた。

「実は私の母方の実家の家系は都内で病院を経営している医者の家系なのだけど、そこの本家の長男である母の従兄が5年前に結婚されたのよ。お相手は婚外子の女の子を持つ女性で、その、何て言っていいか」
「倉橋の前社長の愛人でいらした方ですわね。婚外子の女の子は私の腹違いの妹の美緒さんでしょう」

何と言って説明すればいいのか悩んでいる久世に椿はさっさと答えを提示してしまう。
椿本人に向かって言うのは憚られる関係なので言い淀んでしまうのは仕方がない。
それにあの親子の動向は水嶋が定期的に調べているし、誰と付き合いがあるのかも把握している。
一応、椿にも伯父と父親の方から簡単に説明されていたので、美緒親子の現在も分かっているのだ。

「ご存知だったのね」
「あの方の動きを水嶋は徹底的に調べておりますから。勿論そのご親族の事も。最も調べるだけでそれをどうこうしようだなんて思っておりません。水嶋の敵に回らない限りは」
「もちろん、水嶋家が何の理由も無く手出しするとは思ってないわ。それでね、その美緒さんなのだけど、朝比奈さんは美緒さんと面識はあるのかしら?」
「…4歳の頃に1度言葉を交わした事がありますが、それきりですわ。」

そう椿が口にすれば久世は眉根を寄せて呆れたようなため息を1つ吐いてしまう。
二階堂も頭に手を置いてヤレヤレと首を振っている状態だ。

「そんな事だろうとは思っていたけれど、そりゃそうよね。貴女達親子は公の場に出て来る事など無かったもの。完璧に隔離された状態で貴女が美緒さんに何かをするなんて事が出来るはずないのに」
「と、言う事は美緒さんが何か言っていたと言う事ですね。久世様の口振りから察するに、私が美緒さんに対して嫌がらせをしているとかそんな所でしょうか?」

視線を下に向けてしまった久世を見れば、おそらくはそうなのだろう。
全員が全員、倉橋家で起きた事の真実を知っている訳では無い。
美緒の母親のやった事を知らない人間からすれば、全ての元凶であり悪いのは倉橋だと思われている事だろう。
そして、本妻の子が愛人の子を虐めるのはいつだってどこの時代でだってよくある事だ。
信憑性の高い低いに関わらず、人は他人のスキャンダルを好むものであるし、言ってしまえば面白ければ真実は別にどちらであっても構わないのだ。
だから美緒が無い事無い事を周囲に吹聴したとしても、聞き手が面白いと感じてしまえばそれに乗っかってしまう。
そして、こちらが反論しないから尚更エスカレートする。

「私もそうだと思っていたわ。朝比奈さんには申し訳ない事だと思うけれど。でも七夕祭で、貴女に助けられたと知って、もしかしたら自分の認識が間違っていたのでは?と思ったのよ」
「まぁ、朝比奈さんの日頃の態度がさらに信憑性の高さを物語っておりましたから仕方ありませんわ」

2人の言葉に椿はアハハと渇いた笑いを返すしかなかった。
椿自身が美緒の嘘を裏付けるような言動や行動を取っていたのだから反論の余地も無い。
しかしながら、美緒が椿の悪口を言っていた事が本題だとはとても思えず、本題に入る前の軽いジャブなのではないかと椿は感じていた。

「ところで、それが久世様が私にお聞きしたかった事なのでしょうか?」
「簡潔に言うけれど、貴女が美緒さんの言う様な人であったのなら2人で勝手に潰しあいでもなんでもしてれば良いと思ってたのよ。でも、どうも貴女は噂で聞いていた人とは違う様ですし、そうなると黙っているのは私の良心が痛むと言うか」
「私、てっきり美緒さんとの関係を聞かれて確認して終わりかと思っておりました」

久世は首を振って違うと椿に意思表示をした後、真剣な表情で再び喋り始めた。

「朝比奈さん。美緒さんに気を付けてちょうだいね。あの方は、貴女を蹴落とす事で頭がいっぱいのようなの」

そりゃそうでしょうねと椿は至って冷静な頭で理解していた。
恐らく、椿と恭介が婚約者同士だと言う話はとっくに美緒の耳に入っているだろう。
さぞや美緒は悔しさで歯ぎしりでもしている事だろう。自分の思い通りにならない現状に苛立っているのではないだろうか。
そもそも嘘の婚約者だと言うのは身内しか知らない事だから、それ以外の人達にとって椿は恭介の婚約者だと認知されている訳である。

「それでわざわざ私に忠告してくれましたのね。ありがとうございます。ですがご心配には及びませんわ。私、自分を悪く見せるのは得意なんですの」
「それは常日頃の貴女を見ていれば分かるわ。それでも最近の美緒さんは常軌を逸しているとしか言えない。それを諌めないおじ様もおじ様よ。最近じゃ他の親戚もギスギスしてるし」
「あのおじ様が諌められる訳ありませんわ。美緒さんの母親の言いなりですもの」
「麻里、その言い方はダメよ」
「本当の事ですわ」

やんわりと久世が二階堂を窘めるが、久世の本心は二階堂の言葉通りなのだろう。
あれが欲しいこれが欲しいとか美緒親子が無理を通しているのが椿は簡単に予想する事が出来た。
親戚関係がギスギスするのも納得である。

美緒の母親である奈緒子にとって一番大事なのは、椿の母親に勝つ事だけだ。
倉橋の件では、母親を蹴落とす事が出来たけれど、結果は不完全燃焼。
母親が朝比奈薫と再婚し、自分がそれ以上の相手と結婚しても満足する事が出来ない。
恐らく、母親が同じ土俵に上がらない限り、奈緒子の思いが満たされる事は無いのだろう。
無視されるから意固地になっている。ある意味では母親の勝ちとも言える。
金持ちケンカせずとは良く言ったものだ。

「先輩方、先ほども申しました通り、水嶋も朝比奈も私達親子に被害が来て初めて動きます。ですので、現状どうこうは出来ませんし、するつもりもございません。中等部に上がってからはどうか分かりませんけれど、そこまで美緒さんの頭が残念で無いと祈ってますわ」

久世と二階堂は互いに目を見合わせ、無言で『え?無理でしょ』『あれ矯正無理っしょ』と言う会話をしているのが2人の表情から読み取れた。
そんな2人の様子を見て、やはり変わる事は無かったかと椿は頭を抱えたくなった。
あと2年で出来る事はやっておかないと中等部で地獄見るハメになると椿は気持ちを引き締めた。
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