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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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あれから椿は佐伯と何度か密会してはお菓子を横流しして貰っている。
佐伯が持って来てくれるのは主にスナック菓子だが、たまにチョコレート菓子も入荷している。

しかしながら学校生活で椿と佐伯が喋る機会はまず無い。そもそも佐伯は椿と目を合わさないようにしているし、喋りかけてくれるなオーラをこれでもかと醸し出しているからだ。
ただ、お菓子がある時は割と頻繁に佐伯と視線が合うので、これはこれで分かりやすくはある。
どうやって合図するのか椿は疑問に思っていたので、正直助かっている。
そしてこの日も、いつもの穴場で椿は佐伯とお菓子を食べていた。

「ちなみに佐伯君はこのお菓子を美味しいと思われます?」
「すごくって訳じゃないけど、美味しいとは思うよ。朝比奈さんは」
「無難な味ですわね。可も無く不可も無くと言った所でしょうか。あぁ、でもこれは香りが口に残りますわね」
「それ、今期の自信作って言ってた」
「そうなんですの?佐伯君の所には優秀な社員がおりますのね」

いいなー売れるアイデアを出せる社員がいるのはと椿は羨ましく思ってしまう。
最初の頃とは変わり、佐伯は椿に怯える事もなくなり、普通に会話のキャッチボールが成立するぐらいになっていた。

「でも朝比奈さんがこんなに良く喋る人だとは思わなかったな」
「そう?まぁ私は水嶋と朝比奈の看板背負ってますからね。看板に泥を塗る訳にはまいりませんもの。さすが水嶋様の姪、朝比奈のお嬢様と言われなければなりませんから」
「それを実行出来るのがすごいと思うよ。僕なんてとてもじゃないけどそんな事考えられないもの」
「ありがとうございます。でも佐伯君はもう少し自信を持っても良いと思いますけど」
「うちの学年の男子は水嶋様が基準だから。自信なんて持てないよ」

恭介は全てにおいて何でも器用にこなせる人間なので、同学年の男子は気後れするだろうしプライドもズタボロにされてしまう。
だからこそ、恭介に対して媚びへつらう人間しか周りに寄って来ない。それが透けて見えるからこそ、恭介は他の生徒と個人的に親しくしようとは思えないのだ。
特に自分に対して害をなさないのであれば、媚びへつらおうが何だろうが恭介は気にしない。
佐伯のように自分に対して自信が無い人間からすると恭介のようなタイプは畏怖の対象にしかならないのかもしれない。

「水嶋君もそうだけど、朝比奈さんも気軽に話しかけられるような雰囲気してないからね。そう言う風にしてるからだろうけど」
「私はそうですけれど、恭介さんは素でアレですからね。もう少しクラスメイトと交流を持てと言っているんですけれど中々」
「でもこの間、落とした消しゴム拾ってくれたりしてくれるし、優しい所もあると思うよ」

気難しい部分もあるが、恭介は根っこは基本的に真面目で紳士的である。
突然の事には思わず素が出てしまうが、意識してしまうと虚勢を張ってしまう損な性格をしている。
恭介自身が他人に対してまず警戒心を持ってしまうので、友達を作るのは難しいのではないかと椿は思っていた。
レオンに関して言えば、椿が普通に話していて杏奈の親類でもあり、更に恭介が水嶋の後継者だと知っても全く態度が変わらなかったと言う点と、何より気が合ったからと言うのが仲良くなった理由であった。
恭介が欲しいのは対等な友人であって、下僕ではないので今の同級生達の態度を見てると難しいものがある。

「やっぱり廊下とかで佐伯君に話しかけてはダメですの?」
「だって朝比奈さんと仲が良いと水嶋君に知れたらどうなるか。婚約者なんでしょ?」
「祖父の言葉を周囲が勘違いしただけですわ。他にご縁があった場合、婚約したとは言ってないと言えばいいだけですし。いとこ同士ですからお互い痛手にはなりませんもの」
「そうなんだね。でも…水嶋君とちゃんと喋れるように自信を付けてからじゃないと無理かなぁ」

自信なさげに恭介と話すのは勇気がいると言い放った佐伯に思わず椿はシャキッとしろっ!と背中を叩いてやりたい気持ちになった。
恭介を怒らせた所で水嶋家が出て来る事はないだろうし、せいぜい女子グループからお小言を言われる程度である。
つい佐伯と話し込んでしまい、そろそろ帰宅時間だと気付き、椿は立ち上がりスカートを手で叩き汚れを落とした。

「そう言う事でしたら、現状維持で。私は特に問題ありませんから。お菓子ご馳走さまでした。美味しかったですわ。では、ごきげんよう」
「お粗末さまでした。校内の事はごめんね。じゃあ、また」

周囲に人が居ないか確認し、椿は近くの飼育小屋の影からあたかも飼育小屋で動物を見てました風を装って校舎に戻った。
あの場所を他人に知られてしまうと、せっかく1人になれる貴重な空間を失ってしまうし、お菓子の定期便にもありつけなくなってしまう。
なので、椿は周囲に人が居ないかしつこいくらいに慎重に警戒して穴場に出入りしているのだ。

実は、椿の制服のポケットには先ほど佐伯から貰ったお菓子がいくつか入っていた。
佐伯から貰った横流し品をさらに杏奈に横流しする為だ。

教室で待っていた杏奈と共に八雲家に行き、杏奈の部屋に通され、誰も居なくなった途端に椿はブツを彼女に差し出した。

「今月の上納分でごぜぇやす、お代官様」
「うむ。苦しゅうない。あ、これ新商品じゃん」
「中々美味しかったよそれ。意外と香りが口に残ってさ。杏奈は好きそう」
「本当だ。しかし懐かしいわね、この味」

と、杏奈はムシャムシャと椿が差し出したお菓子を食べ始めた。
佐伯からお菓子を貰う様になった直後に杏奈には事の詳細を伝えていた。
下手に嘘を付いたり、後で発覚したりしたら杏奈に不信感を与えてしまう結果になりかねない。
それに杏奈に言った所で、それを教師や親に言う様な子でもないと信用しているからだ。
と、言う予想通り杏奈は毎回、椿からの横流し品を楽しみに待っていてくれるようになった。
実は杏奈は佐伯が攻略キャラの中で一番好きだったらしく、椿からの佐伯情報を楽しみにしている。
やはり、あの母性本能をくすぐる性格と容姿に弱いらしい。

「攻略キャラで好きって言ってもさ、恋愛には発展しないものね」

本日の佐伯情報を聞き終えた杏奈がしみじみと呟く。

「そりゃそうでしょうよ。自分の子供だって言ってもおかしくない年齢の子を恋愛対象に見れる訳ないじゃない」
「なるほど、それでレオンに対してつれない訳ね」
「あれはまだ恋愛感情って訳じゃないでしょ。好意はあるだろうけどさ」

好意がその内恋愛感情になるか否かは分からないが、現時点ではそうではない。
少なくとも今は椿に対しては杏奈の友人で自分を殴った興味深い女程度の認識しかないと思われる。
椿の方から交流を持とうとしてないのでいつまで経っても2人の関係は平行線のままである。

すると、ふと杏奈が何かを思い出し、ある話題を口にした。

「そう言えば、今年は七夕祭あるでしょ。行くの?」
「あれ低学年はのけ者だったからね。行くよ」

鳳峰の学校行事の1つである七夕祭はその名の通り七夕のイベントだ。
4・5・6年の生徒がホテルの大広間を借り切って行うイベントである。
短冊書くスペースがあったり、七夕スイーツが出たりする。主に学年関係なく交流しようぜ!なイベントなので参加は自由なのだ。
任意参加にも関わらず、毎年生徒の9割は参加しているのだから出ないと色々面倒な事になる。
特に最高学年は七夕の劇をやるので気合の入り方が違うのだ。

それで先週、父親と恭介とでドレスを買いに贔屓にしているブティックまで出掛けたのである。
恭介が一緒なのは、伯父が今海外に行っている為だ。
同い年なんだからよろしく頼むと言われ、父親同士が友人なので恭介も一緒にスーツを買いに同行した訳である。
恭介のスーツはオーダーメイドなので採寸のみで、後は細々とした小物を購入して終わりだ。
椿の方はと言うと、母親が来てない分スムーズに決まると思っていたのだが、予想外に恭介が口を出して来た為に長引いてしまった。

「緑は去年の水嶋のパーティーでも着ただろうが」
「デザインが全く違いますわ」
「色が同じなら同じだ」
「男の人って本当に何も見てませんのね」

色が同じだからどれも同じだと言い放った恭介に対して椿は思わず呆れてしまった。
終わりが見えない椿と恭介の言い合いに、ついに父親がしびれを切らしたのか口を挟んできた。

「椿ちゃんは身内以外のパーティーに出るの今回が初めてだからね。恭介君は心配して椿ちゃんが1番綺麗に見えるようなドレスを選んであげたいんだよ」
「お前がヘマしたら僕まで同じに見られるんだからな。会場内で1番になってもらわないと困るんだよ」
「ヘマなんてしませんわ。大体七夕祭は6年生メインのイベントでしょう。下級生が目立ってどうしますの?」

同級生から嫌われ怖がられるのは構わないが、年上から睨まれるのは出来れば避けたいと椿は思っていた。
同級生相手であれば椿のハッタリが効くが、上級生相手には恐らく通用しないだろう。
椿は短冊を書いて、美味しい物が食べられればそれで良いとしか思っていないので、壁の花でも構わないのだ。

以前まで椿はパーティーがある毎にドレスを新調する事を、勿体ないと思っていた。
正直、椿は家にあるドレス使い回せばいいんじゃないの?と思ったのだが、それを口に出した時に母親が目を丸くしていたので、すぐに自分の発言を撤回した事があった。
両親は割とリベラルな考えの持ち主なのだが、根っこは金持ちなんだと言う事を思い知った出来事だった。
それ以来、椿は大人しくドレスを新調する事にしていたのだが、手持ちのドレスとデザインが似ていない物を選ぶのは中々に骨が折れる作業なのである。
さらに前回と色が被らないようにしなければならないのも面倒なものがある。

椿は再び店内に飾られているドレスを見渡し、前回着たドレスとは違う色とデザインの物を選んだ。

「…ではこれにしますわ」

椿が選んだのは、ミディアム丈の青系のワンショルダードレスだ。
肩の部分にヒラヒラが付いていて可愛らしさがあり、変に子供っぽくも無いので妥当だろう。
あのドレスならば、家にある靴とアクセサリー類に合うはずである。
前世で培った着回し術と貧乏性が憎い。
ようやくドレスを選んだ椿に父親はホッとし、さらにアクセサリーと靴を見繕おうとしている。
確かに父親が見繕ったものは椿が選んだドレスに合う物だが、家にある物でも十分に間に合うのだから無駄使いは良くないのではないかと椿は父親を止めようとした。
だが、出先でしかも他にお客さんも居る場でそう言った発言をするのは椿には出来ず、嬉しそうにアクセサリーと靴を選んでいる父親をただ見ている事しか出来なかった。

すると店員が父親が見繕ったネックレスの入った箱を椿の前に差し出してきた。
最終決定権は椿に委ねたと言う事なのだろう。

「椿ちゃん、ネックレスはどっちが好み?」
「僕は右だな」
「では左で」

恭介が勢いよくこちらを向いたが、右のは椿の好みではないのだ。
そもそも、恭介には聞いていないのになぜ選ぼうとしてくるのだと椿は言いたくなった。

さらに今度は靴を指さした父親が椿に訊ねてくる。

「椿ちゃん、靴はどれにする?」
「僕は左だな」
「では右で」

左は椿の好みではないのだ。自分の意見が拒否されたからと言ってこちらを見ないで欲しい。
全て自分と違う選択をした椿を恭介が信じられないものを見るような目で凝視していた。

「わざとか?お前わざとか」
「わざとじゃありませんわ。私の趣味と恭介さんの趣味が違うだけでしょう?」
「…趣味悪いなお前」

恭介の物言いに思わず出先だと言う事を忘れて椿は怒りそうになってしまうが、すぐに冷静になり、家に帰ってからやり返そうと思い直した。

いつの間にか会計を終えた父親が椿達の所へと戻って来る。
荷物は後日持って来てくれるので父親は手ぶらであった。

「もうこんな時間だね。どこかでお茶でもしようか。何か食べたいものはある?」
「美味しい紅茶とケーキが食べたいです。日本橋のホテルのアフタヌーンティーセットが美味しいって評判なんですって。ね?お父様行きましょう」
「お前食べ物に関しては遠慮ってもんが無くなるよな」

普段は物欲があまり無い椿が食べ物に関してはここぞとばかりに主張するのを見て、恭介は白けた眼差しを椿に向けていた。
目に見える形で残っている場合、これ○○円だったんだよなって言う謎の罪悪感が椿の中に残るけれど、食べ物は胃に入ったらすぐ忘れるから良いのだと椿は自分を納得させている為、食べ物に関しては遠慮なくねだるようにしている。

運転手の不破がホテルのラウンジまで電話で確認し、運良く個室が空いていたと言う事で椿達はホテルへ向かいアフタヌーンティーを楽しんだ。
運よく空いていたって言うよりは、空けたと言う方が正しいのかもしれない。


「て、事が先週あったのよ。本当に腹立たしい」

まるで椿にセンスが無いと言う恭介の言い方に未だ怒りは収まらず、こうして椿は杏奈に愚痴を聞いて貰っている。

「ゲーム内での水嶋様とは真逆ね」
「身内以外にはゲーム内の性格まんまよ。多少角は取れてるけどさ」
「早い時期に父親と和解出来たのが功を奏したのかしらね」
「だと思うけど。上辺だけの言葉を聞き慣れてるからか人間不信って言うか人間嫌いって言うか」
「心を許せる人が身内以外に居ないって訳ね」

周囲が恭介の前では母親を亡くした可哀想な子扱いをしておいて、裏では恭介を産んだせいで母親が死んだ。あの子は人殺しだとか言っているのを聞けばそうなるのも仕方がない。
それも1人や2人でなく、複数の人が言っていたのだから尚更だ。
父親からも避けられている状態で誰にも言えず耐えて来た恭介を思うと、椿は胸が締め付けられる思いになる。
だから椿がふざける事で、少しでも恭介の気を紛らわせる事が出来れば良いなと思っているのだ。

「なんかさー最近子育てしてるみたいな心境になってきてる」
「精神年齢的にあり得ない話じゃないから止めて。独身にはキツイ話題だわ」
「私だって独身だったよ。死んだからもう関係ないけどね」
「まぁね」

2人して乾いた笑いしか出てこない辺り、お互いに似たり寄ったりな人生を歩んで来たのだろう。
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