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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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21

椿は3年に進級し、ようやく初等部の理念である自然学習を体験する機会が増えて来た。
低学年の時は自然豊かな場所に出掛けたり、朝顔を育てたり、飼育小屋の掃除したりとあまり積極的な活動は無かった。
安全などの面から本格的な自然学習を行うのは3年生になってからと決められているのだ。

そして、鳳峰の初等部は郊外にあるので敷地も広い。
敷地内には学年ごとの田んぼと畑があり、春先には中学年はサツマイモ、高学年は田植えを行う。
中学年は秋の収穫の後はその場で焼き芋大会が催され、高学年は炊き立ての白いご飯が昼食に出るのだ。
鳳峰だもの、きっと良い品種の苗を使用するに違いないと椿は密かに期待していた。

と言う事で本日は、サツマイモの苗植え行事が校内の畑で行われている。
参加者は3年と4年の生徒達だ。
生徒達はサツマイモの苗を植える為、教師から1人1人苗を手渡され、ビニールに空いた穴に苗を水平に植えて行く。
椿も杏奈も比較的空いていた場所に早々に植え終わっていたのだが、恭介は未だに苗を持っている状態で突っ立っていた。

「何で苗を植える場所を取り合うかね」

そう呟いた椿の視線の先では、恭介の隣に誰が苗を植えるかで女子達が揉めているのが見えていた。
しかも、恭介が苗を植えようとすると女子の誰かしらがストップをかけては審議をし始める始末であった。
小学生ってこんなにガツガツしてたっけ?と椿は思わず呆れてしまう。

「収穫する時にはどうせどこに植えたか忘れちゃうのにね」

ぽつりと吐き捨てる様に杏奈が呟く。
椿も杏奈と全く同意見であった。
一応教師も止めに入ってはいるのだが、女子達の勢いがすさまじ過ぎて止め切れていない。
教師が助けを求める様に椿の方を見るが、既に椿が苗を植え終わっているのを見てあからさまに落胆していた。
いとこ兼婚約者である椿が隣に植える権利を獲得すれば丸く収まると教師は思ったのだろう。
と、そこへ既に苗を植え終わったのだろう藤堂がつかつかと恭介達の方へと歩み寄って行った。
藤堂が来た事で、女子達を諌めていた教師がホッとしたような顔をしている。

「皆さん。あまり水嶋様を困らせてはいけませんわ。水嶋様だって早く苗を植えたいでしょうし、いつまでも揉めていては他の方に迷惑ですわよ」

さすがは女子の最大グループのリーダーである。
藤堂の諭すような落ち着いた声色に、それまで騒いでいた女子達が一斉にシンと静まり返り、その隙に恭介は教師に促されようやく苗を植える事が出来たのだった。
藤堂様がそう言うならと、他の女子達も恭介の隣に植えるのは諦めたのか、先ほどの騒ぎが嘘のように空いている所にそれぞれ植えて行く。
その様子を離れた所から見ていた椿と、振り返った藤堂の視線が互いにぶつかった。
藤堂はキッと椿を睨みつけると、一言物申す勢いで椿の方へと歩み寄って来る。

「水嶋様の婚約者であると言うのであれば、あれくらいご自分で治めてごらんなさいな」
「あら、そこまで過保護にしなければならないのかしら。あれは恭介さんご自身が対処される場面だったのではなくて?」

椿と藤堂の間に見えない火花が飛び散っている。それを見た男子が小声で「女神と魔女のガチ対決…」と呟いたのを椿は聞き逃さなかった。
そのあだ名を聞いた椿は、どっちがどっちなんだと男子に問い詰めたかったが、自分がどちらかなんて簡単に予想がつくので、心の平穏を保つ為に聞こえないフリをした。
そんな男子生徒の声が聞こえていなかったのか、藤堂はさらに椿に話し掛けて来る。

「水嶋様の性格は貴女が良くご存知のはずでしょう?」
「だからと言って毎回口出しする事は恭介さんのためになりませんわ。今回は藤堂さんが場を治められた。それでよろしいではありませんか。私の方からも恭介さんにご自分で何とかなさるようにきちんと申しますから」
「貴女がそう言う態度だから他の女子生徒が増長するんですわ。水嶋様の婚約者で仲がよろしいからと言って他の女子生徒達を甘く見ていらっしゃると、いつか足元を救われますわよ」
「ご忠告、痛み入りますわ」

そう言って椿は藤堂の目をしっかりと見つめながら口元に笑みを浮かべると、それを見た藤堂は再びキッと椿を一睨みし、取り巻きの子達の元へと戻って行った。
藤堂の言う通り、椿は恭介が女子達に囲まれている時は彼から助けを求められない限り見ないふりをするようにしていた。
それが藤堂には他の女子生徒を見下していると見えているのだろうが、恭介には自分で戦う術を身に付けてもらわないと困るのだと椿は考えていた。
5回に1回くらいは女子生徒達を注意してるんだからいいじゃないかと思わず口を尖らせたくなった椿だが、他の生徒から注目されている事を思い出し、平静を装いツンと澄ました顔をして遠くを眺めるふりをした。
そこへ、藤堂が近寄って来る気配を察知し、いち早くその場を離れた杏奈がちゃっかりと戻って来た。

「薄情者」
「2対1だとあんたまた裏で色々言われるでしょう」
「まぁね」

椿達の学年は椿と藤堂のグループが二大勢力となり、互いに均衡を保っている状態であった。
尤も、椿は杏奈と恭介くらいしか付き合いがある人が居ないので、数や人徳で言えば藤堂に軍配が上がる。
対して椿は恭介の威を借りた状態であり、コネでなんとかなっている。椿は人徳も無く周りからの評判も良くない。
そう言う理由から、他の生徒の中では椿が悪で藤堂が正義と言う図式が成り立っていた。
そんな状況に椿はまさに計画通りと高笑いしたい気持ちになる。
それ故に周囲の評価を維持する為、椿は杏奈と恭介としか喋らず、誰も私に喋りかけるなオーラを振りまいている訳だ。
それが周囲からは傲慢だとかお高くとまってるとか言われる原因にもなっている。
椿の背後が怖いのかイジメられる事はないが、基本的に誰も彼もが椿に対してよそよそしい態度であった。
さらに藤堂が椿に苦言を呈するのは大体いつも恭介絡みの事なので、余計に椿が悪だと捉えられてしまう。主に女子にだが。

「前は割と八方美人な感じだったからね。疑似悪役体験は楽しいよ」
「本当に神経図太いわよね」

こうして2人して小声で喋っているから、さらに椿は周囲から悪役疑惑を持たれるはめになるのだが、こればかりは止める気は無かった。
なぜなら椿が思わずツッコミを入れたくなる時が頻繁にあるからだ。椿は根が庶民であり、公立出身なので、割と頻繁にこれだから金持ちは…と言いたくなるのだ。

さらにその話題を続けようとした杏奈だったが、椿達の近くに他の生徒が来た為、白々しく話題を変えた。

「おば様最近どう?」
「3人目だから慣れたものですわ」
「予定日は夏でしたっけ?」
「えぇ。随分とお腹も大きくなりましたのよ。菫の時と違って良く動く活発な子ですわ」
「伯父様、また色々買い込んでるんでしょう?」

椿と杏奈の会話の通り、椿の母親は現在第3子を妊娠中だ。
父親は2人目と言う事もあり、前よりは買い込む頻度は落ち着いている。
それでも普通の家庭よりかは随分と物を買い込んでいるのだが。
夫婦2人で子供の名前をあーでもないこーでもないと楽しそうに相談している姿を椿は毎日微笑ましく見ていた。
妊娠中と言う事もあり、菫は前より母親に構ってもらえる時間が減ったのが不満なのか、些細な事で癇癪を起すことが多くなった。
下が産まれれば、構ってくれる時間は今よりも減るので、母親の代わりに椿が目一杯菫を甘やかしている。
姉の権利ですから!姉の!私の!と屋敷内で誰に突っ込まれた訳でも無いのに、椿は高らかに宣言していた。

「妹がこんなに可愛いものだなんて知りませんでしたわ」
「私は1人っ子だから、そう言ったものは良く分からないわね。今回も性別は産まれて来るまでお預けかしら?」
「えぇ。私は無事に産まれて来てくれるならどちらでも構いませんわ」
「朝比奈もすでに上の伯父の所に息子が2人居るもの。その点は気楽で良かったわよね」

杏奈の言う通り、父親には兄が2人おり、上の伯父の所は男児が2名、下の伯父の所には男児が1名既に居るのだ。
三男で経営陣にも入らず、現場で仕事をしている父親に今更男の子が生まれた所で後継者にはなれない。
そう言う意味では母親に変なプレッシャーがかかる事もないので、つくづく母親は良い結婚をしたものだと椿は安心している。
自社ビル持ちで社長令息、しかも三男で後継ぎ問題も関係ない。野心がある女には物足りないかもしれないが、母親のように世間知らずの箱入り令嬢の相手としては最良なのではないだろうか。
実際、椿から見た母親はとても幸せそうである。

「ねぇ、今思ったんだけど。お母様って割と最強の勝ち組じゃない?」
「今更気付いたの!?と言うか生まれからして最強の勝ち組でしょうよ」
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