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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

番外編

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恭介の暗躍

 そうして、しばらくしてレオンが椿に会いに日本へと来ると、恭介は早速彼をレストランへと呼び出した。
 すぐにでも椿に会いたい、という雰囲気を漂わせているレオンを宥めつつ、恭介は本題を口にする。

「椿と何かあったのか?」

 恭介の言葉にレオンの動きが一瞬だけ止まる。
 すぐに平常通りに戻ったが、目敏い彼は見逃さなかった。

「ここ最近、椿の様子がおかしいんだ。話しかけてもボーッとしているし」
「椿が? それは本当なのか?」

 神妙な顔をして恭介は頷いてみせる。
 全くの嘘であるが、嘘も方便だ。
 レオンから本音を引き出すには椿をネタにするのが一番だと彼は知っている。
 まさにその通りだったようで、レオンは目に見えるように狼狽え始めた。

「だ、大丈夫なのか? まさか、食事も喉を通らないくらいになっているんじゃ」
「……言いにくいが、あまり食欲はないみたいだな」
「そんな……」

 青ざめ、椿を心配しているレオン。
 当の彼女は今日は透子とホテルのスイーツバイキングに出掛けている真っ最中である。
 その後は、ファミレスで夕食を食べるのだと力強く恭介に言っていた。
 彼女の食欲は留まるところを知らない。
 だが、嘘も方便である。

「胃に優しい食べ物を差し入れるべきだろうか? それとも栄養剤の方がいいか?」
「心配なのは分かるが、今は差し入れの話をしている場合じゃない。椿がそうなった原因に心当たりはないか?」

 心当たりと聞かれ、レオンは考え込む。
 ここで、己が彼女の告白を流したことが原因だと気付いてくれれば話は早い、と恭介が期待していると、思い当たることがあったのかレオンが口を開く。

「もしかしたら……椿に好きな男ができたんじゃないのか?」

 聞いた瞬間、恭介は脱力した。
 なぜそうなるのかと胸ぐらを掴んで揺さぶりたい衝動に駆られる。

「……そういう話は聞かないが」
「だが、普段からボーッとして食欲もなくなって、恭介ですら理由が分からないなんて、恋をしているからとしか考えられない。椿は自分のことを誰かに相談するような人間じゃないだろ?」

 レオンの言う通り、椿は自分のことを誰かに相談するタイプではない。
 恭介ですら事後報告だったのだから。
 だが、そこまで理解できていて、なぜ空振るのか彼は理解できない。

「最近、椿の側にいる男に心当たりはないか? 白雪と親しくしていると聞いているし、奴だったり……。いや、あの男は喜ぶか……。だが、伝えるつもりはないとか言っていたしそれはないか。ハッ! まさか、それで悩んで」

 後半は声が小さくて恭介には聞こえなかったが、これだけは言える。

「あのな、椿の好きな奴は白雪じゃないことだけは確かだ」

 今、自分の目の前にいる男だと恭介は声を大にして主張したいが、ここで椿の気持ちを伝えるのはルール違反ではないかと思い、留まった。
 対して、レオンは白雪ではないと知って難しい顔をしている。
 本当に気付いていないのかと呆れながらも恭介は口を開く。

「……椿の側にいる男に心当たりはないかと聞かれたが、一人いる」
「誰だ!」

 レオンは、物凄い形相で恭介を見ている。
 けれど、彼は涼しい顔をしながら、ジッとレオンを見た。

「お前だよ。レオン」

 俺? と言って呆然としているレオンは力なく背もたれに寄りかかる。
 小声でブツブツと何かを言っているが、小声すぎて恭介には聞こえない。

「とにかく、今、椿と一番一緒にいるのはレオンだ。何かおかしな点はなかったのか?」
「おかしな点なんて何も……。あ、もしかしたら」
「……気付いたか」

 ようやく分かってくれそうな雰囲気になり、恭介はホッとする。
 だが、レオンは斜め上のことを言ってのける。

「俺が頻繁に日本に来ることが嫌だったのかもしれない」
「何でだよ!」

 さすがにこれは堪えきれず、恭介はナプキンをレオンに投げつけた。
 が、彼のところに行くこともなく、ナプキンは中間地点にポトリと落ちる。

「あのな。高等部を卒業してから二人で出掛けたりしているんだろ? レオンに会うのが嫌だったら、椿はハッキリ嫌だと言う奴だから、それがないってことは違うと思うぞ。ほら、前向きに考えるって椿が言っていたと聞いているし」
「その言葉に固執している可能性もある」

 困ったように笑うレオンに恭介は引っかかるものを感じた。
 ずっと椿に片思いをしていたのに、彼女から前向きに考えてもらえていることの何が不満なのか。
 椿が積極的になっているんだから、良いじゃないかと彼は思った。

「僕にはレオンの考えがまったく分からない。前向きに考えるって言っているんだから、喜べばいいのに」
「勿論、それで俺を好きになってくれたら嬉しい。だけど、逆に俺を好きにならなければという強迫観念に囚われている可能性もあるだろ? 俺は、そんな風に好きになって欲しいわけじゃない」

 そういうことか、と恭介はようやく理解したが、レオンは椿のことを少し誤解している。

「あいつは、そんなことは気にしていないと思うけどな」
「どうだろう。椿は優しいから、ずっと片思いしていた俺に同情している部分もあると思う」
「全く……。固定観念に囚われていると、幸せを逃すぞ」

 苦笑したレオンは肩を竦める。
 まるで、椿が自分を好きになるわけがないといわんばかりだ。

「俺は、子供の頃から見た目や家柄に絶対的な自信を持っていた。ちょっと微笑めば女はすぐに頬を染めていたしな。だから、甘い言葉を囁いても靡かない椿は人を見た目ではなく、中身で見ているんだろうな」
「つまり?」
「自分に自信がないんだよ。椿に愛されるような人間になれているのか自信がない。持っている武器が何も通用しないんだ。全力で口説くと宣言したが、こうして頻繁に会いにきて二人で過ごすくらいしかできない。良いところを見せたいのに、椿といると舞い上がってそれすらできないんだ」

 情けない、とレオンが項垂れる。
 初恋を拗らせた男は本当に面倒臭いと自分を棚に上げて恭介は心から思った。

「……そんな気持ちで、椿から好きとか言われたらどうするんだよ」
「それなら、クリスマスに椿から好きだと言われたな。あれは、嬉しかった。人として好きという意味だと思うが、俺は舞い上がりそうなほど嬉しかった」
「それ、恋愛感情としての好きだったら、盛大にフラグを折っているぞ」
「ない。それはない。絶対にない。椿は優しいから、長い片思いをしている俺を喜ばせようとしていただけだ。大体、椿が俺に恋をしているという予兆は何もなかったしな」

 ハッキリと言い切ったレオンを見て、恭介は、ここにいない椿に向かって、ほら見ろ! と心の中で毒づいた。
 それとなく示す程度で彼が気付くわけがない。早すぎたのだ。
 明らかに準備不足である。

「取りあえず、友人としては見られているみたいだから、これからの俺の頑張り次第ってところだろうな。これからが正念場だと思う」

(だから、お前らはもう両思いなんだって! 何で、面倒臭い方に考えるんだよ!)

 椿には協力すると恭介は言ったが、レオンの意識が変わらない限り、二人の仲は進展しない。
 本当に一、二年寝かせておけと言った自分を褒めたい気持ちで恭介は一杯だった。

「そんな悠長なことを言っていると、他の男に取られるぞ? 知っているか? 大学で椿は結構人気があるんだ。見た目が深窓の令嬢だからな。朝比奈家の使用人や俺らが側にいるから話しかけたりはしないけど、知り合いになれるチャンスを奴らは狙っている」

 男子生徒が狙っていると聞いたレオンは鼻で笑った。

「見た目だけで群がる男に椿が靡くはずがない。彼女は賢い。相手の心の内を見抜く目を持っているからな。だから、そこは心配していない。が、一般の生徒も多数いると聞くし、そうすると強引に言い寄る男がいるかもしれないから、そこだけが心配だな。俺も椿と同じ大学に行けば良かったかもしれない」
「おば様が泣きそうなことを言うな。高等部の留学だって反対されていたんだろう? というか、そっちは椿がグロスクロイツ家に嫁ぐことに反対はないのか? もしも、あいつが辛い目に遭うようなら全力で日本に連れ帰るぞ」

 グロスクロイツ家と縁深い朝比奈家の令嬢とはいえ、彼女は血縁関係にはない。
 水嶋家という心強い味方がいるが、日本人の彼女が嫁ぐことにグロスクロイツ家はどう思っているのか。
 それが恭介は心配だった。
 というのも、外国の名家に一人、日本人として嫁ぐ椿と一般人で水嶋グループの御曹司である恭介に嫁ぐだろう透子。
 生まれ育った背景は違えど、椿と透子は同じ道を歩むかもしれないからだ。
 今ですら、透子の陰口を言っている上流階級の人間は存在する。
 これが結婚するとなったら、どんな嫌がらせを透子が受けるのかを考えるだけで恭介は心配で仕方がない。
 同じように弱音は吐かない、本心を隠す二人。透子の方は恭介がフォローできるが、椿はそうもいかない。
 ドイツに行ってしまえば、会える頻度は減るし相談を聞くことも容易ではない。
 幼い頃から母のように、姉のように、妹のように接してくれた椿が幸せになって笑っていて欲しいと思っているのだ。
 恭介の真剣な思いが伝わったのか、レオンもまた真剣な表情を浮かべている。

「両親にとって、椿は傲慢だった俺をまともな人間に変えてくれた恩人だと思われている。勿論、両親は経営者だから、得にならなければ切り捨てるだろう。だが、朝比奈家の令嬢で水嶋グループの血縁者ということで、得られる恩恵は大きいと両親は判断している。だからこそ、俺にくる婚約話をこれまで断ってくれているんだ。それに、ドイツにはナターリエさんがいる。その弟である祖父もいる。彼女を傷つける者から守れる土台はあるんだ。そこは安心して欲しい」
「……それを聞いて少しホッとした」
「少しだけか?」

 問われた恭介はフッと笑みを零した。
 割と無茶をするのが椿だからこそ、心から安心することはできない。
 馬鹿にされている人を庇って、攻撃してきた相手に高圧的に接してしまうことが簡単に予想される。
 それで、味方が増えればいいが、容易ではない。

「こっちの想像の上を行くのが椿だからな」
「違いない」

 そう言って、恭介とレオンは笑い合う。
 最終的に話は逸れてしまったが、きちんとレオンの気持ちを知ることができたので収穫はあった。
 後は、これを聞いた椿がどう行動するか。恭介達がどうフォローしていくかだけである。

 その後、恭介は自分が言った嘘、つまり椿の様子がおかしい点についてレオンから質問攻めにされたが、適当に話を作ってなんとか乗り切った。
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