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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

番外編

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クリスマスの告白

 あれから、相当の覚悟を決めた椿はクリスマスまでの間にレオンに対して色々とアプローチを試みていた。
 彼女から電話を掛けるようにしたり、プレゼントされたカメオをブローチにして身につけてパーティーに出席してみたり、言い寄ってきた男性には、好きな人がいるので、と断って、彼の耳に入るようにしてみたり。
 けれど、レオンの椿に対する態度になんら変化は見られない。
 電話は、いつものように世間話で終わる。

「まるで進展している気がしない」

 クリスマスまでもうすぐという時期になり、椿は部屋で頭を抱えていた。
 誰かに相談してみることも考えたが、散々、白雪や透子に愚痴を聞いてもらっている手前、これ以上は頼れない。
 プライドが邪魔をして恭介にも聞けない。

「頼みの綱は杏奈だけだけど……。絶対に、さっさと告白しろって背中を押されるだけのような気がする」

 絶対にそうに違いない、と椿は途方に暮れる。

「……告白するだけなのに、どうしてこんなに悩まないといけないのよ! 両思いなのよ! 勝利が約束されているのに!」

 卒業してすぐのときは、さすがに早すぎる気がして好きになったとか言い出せなかったが、半年以上経った今なら違う。
 告白さえすれば、レオンと付き合える。
 だから、さり気なく、あ、こいつ俺のことを好きなのかも、と思われるように椿は行動しているというのに、彼が気付いた様子は全くない。

「本番、一発勝負になるけど、やるしかないわ。大丈夫! きっと上手く行く。脳内シミュレーションではバッチリだったもの! 私はやれる! そのために願掛けと称してお菓子断ちしていたんだもの。告白が上手くいったら、今までの分を食べるんだから」

 椿はそう息巻いていたが、それを人は死亡フラグと呼ぶことに気付いていなかった。


 そんなこんなで、クリスマス。
 椿は日本にやってくるレオンと一緒に夕食を食べることになっていた。
 空港まで迎えに行った彼女は、彼が出てくるゲートを必死の形相で見つめている。

「椿様、そのようにご覧にならずとも、私が探しますが」
「いいの。私が最初に見つけたいの」

 志信に断りを入れた椿は、レオンの登場を今か今かと待ち侘びている。
 すると、長身で目立つ金髪の男性が彼女の目に映った。

「あれだわ。行くわよ、志信さん」
「畏まりました。晃、車を回してこい」
「へーい」

 椿は一目散に金髪の男性へと近寄って行く。早足だが、それはそれは優雅な足取りであった。

「いらっしゃい、レオン」
「迎えにきてくれたのか? 店で会う予定じゃ?」
「いいのよ。私が来たかったから来たの。それにレオンを驚かせたかったし」

 椿の言葉にレオンは、目を見開いていた。
 だが、すぐに笑顔になり、嬉しそうにしている。
 彼は椿の顔を見つめた後で、彼女の胸元に飾られているブローチに視線を移し、表情を綻ばせた。

「ああ、前に贈ったカメオを付けてくれたのか」
「ええ。折角レオンに会うのだから、付けようと思って」

 本当は、別の物を身につけたかったのだが、残念ながらレオンから贈られてきたのはこれしかない。
 過去の自分の発言のせいで、ある時期から食べ物のみのプレゼントとなっていたからだ。
 さすがに、これは自業自得であると彼女は分かっていたが、それでもどうしてそんな発言をしたのかと過去の自分を責めた。

「パーティーでも身につけてくれていると聞いている。俺としては嬉しいよ」
「素敵なカメオだもの。宝石箱の中にいれておくのは勿体ないでしょう? それに私が身につけたかったし」

 自分の意志なのよ! と椿はさり気なく主張する。

「気に入ってもらえて何よりだ。ナターリエさんも喜ぶと思う。というか喜んでいたよ」

(反応が薄い! もうちょっと、こう、なんかテンション上がるものなんじゃないの?)

 スルーされてしまった椿は、頬が引きつっていた。
 彼女の様子に気付かないレオンは、じゃあ、店に行こうかと歩き出す。

(まあ、まだ始まったばかりだし。勝負はこれからよ!)

 気持ちを切り替えた椿は、レオンの後を追いかけた。

「今日はフランス料理なのでしょう?」
「ああ、デザートが有名だと恭介から聞いていてな。椿が喜ぶだろうと思って、そこにしたんだ。楽しみにしていてくれ」
「へえ、それは楽しみね」

 告白が上手くいったら、成功したお祝いにたらふく食べようと彼女は決めた。
 そうして、店まで移動し、二人は個室へ案内される。
 向かい合って座り、出される料理に舌鼓を打つ二人。
 互いの大学の話などをしながら時間は過ぎ、最後にデザートが運ばれてきた。
 美味しそうなブラマンジェを前に、椿は視線が釘付けになりながらも、今しかないと自分の手を握る。

「レオン。聞いて欲しい話があるの」
「その前に、俺の話を聞いて欲しい」

 よし、言うぞ! と覚悟を決めていた椿は、レオンに出鼻を挫かれてしまう。

「……何かしら」
「椿のことは、割と俺の耳に入ってきているんだが、その中に本当かどうか疑わしいものがあって、確かめたいと思ったんだ」
「疑わしいもの? 大体真実なんじゃないの?」
「いや、疑わしいというか、本当かどうかを確かめたいというか、そうだった場合、俺はここから泣いて飛び出さないといけなくなるから」

 一体、何の話なのかと椿は首を傾げる。

「その、椿はパーティーで言い寄ってきた男に好きな人がいるから、と答えていたそうだが、それは本当なのか?」
「ああ、それ? 本当よ」

 椿が答えると、レオンの顔色が一気に悪くなった。

「でも、それは」
「誰だ」

 底冷えするような冷たい声に椿はヒッと小さく悲鳴を上げた。
 レオンの目は据わっていて、綺麗な顔ゆえに余計に怖くなっている。

「白雪か? それとも恭介か? 志信や晃じゃないだろうな? まさか……大学で知り合った男」
「ち、違う! 違う、違う!」

 慌てて椿は全力で否定すると、レオンはようやく表情を戻した。

「なんだ。やっぱり断る口実として使っただけか」
「まあ、その一面もあるんだけど」

 断る口実だけではないと聞いたレオンの目つきが鋭くなる。

「落ち着いて! まずは私の話を聞いて欲しいの」
「……分かった」

 肩の力を抜いたレオンを見て、椿は息を吐いた。

(これは、このまま告白した方がいいよね。誤解されたままじゃ、前に進めないだろうし)

 テーブルの下で、気合いを入れるために椿は己の膝を叩いた。
 真っ直ぐにレオンの目を見て、彼女は自分の気持ちを告げようと口を開く。

「私に好きな人がいるのは事実よ」
「なっ」

 席を立ちかけたレオンは、途中で冷静になったようで椅子に座り直した。

「……そ、そいつはどういう男なんだ」
「そうね。いつも私のことを考えてくれて私の意志を尊重してくれて、自分の気持ちを押しつけるようなことはせずに私を守ってくれてる人よ。まあ、レオンのことなんだけど」
「……そうか。そこまで椿を愛してくれている男がいるんだな。俺の椿への想いは誰にも負けないという自信があったが、そいつになら椿を任せられる。正直、そいつを破滅させてやりたい気持ちもあるが、それは椿が悲しむからな」
「ちょっと待て」

 タイム、タイムと椿は手でTの文字を作って会話を止める。

「どうした?」
「こっちがどうしただよ! 私の話をちゃんと聞いてた!?」
「聞いてた。椿のことを愛してくれている男がいるんだろう? そいつに惚れたんだろう?」
「うん、合ってる! そこまでは合ってる!」
「そいつと付き合うつもりなんだろう? どこの誰かは知らないが、妬ましい限りだ」
「はい、違う! 不正解! 大間違いよ! 何を聞いていたのよ!?」

 思わず立ち上がった椿は、バンッと机を叩いた。
 彼女の行動にレオンは驚きつつも、彼は勘違いを続けている。

「椿は魅力的だし、他の男が椿を好きになってもおかしくはない。前にも言ったじゃないか。椿が誰を選んでも良いと」
「他の男なんか好きになるわけないでしょう! 私はレオンが好きなんだってば!」
「は? 俺?」
「そうよ! 私の好きな人はレオン! 貴方なの!」

 力強くそう宣言すると、レオンは口をポカンと開けて絶句していた。
 ようやく勘違いを正せたか、と椿は椅子に腰を下ろす。

「…………クリスマスだからって、そんな贈り物をする必要はないのに」
「はい?」

 黙っていたレオンがようやく口にした言葉に椿は、何言ってんだコイツはという視線を向けた。
 だが、彼は至極真面目に言っているようである。

「俺を喜ばせるために嘘を言わなくてもいい。俺は椿の気持ちは分かっているから」
「いや、全然分かってないじゃない」
「八年、八年も椿を見続けてきたんだぞ。椿の考えは手に取るように分かるさ。今も、目の前にあるブラマンジェを食べたいと思っているだろう?」
「確かに、食べたいと思っているけど……!」

 それは合っているが、椿の気持ちは全くレオンには届いていない。
 信じてもらえないことに彼女は悲しくなる……よりも前に腹が立ってきた。

「私が好きなのはレオンなの!」
「無理しなくてもいい。だが、嘘でも好きだと言ってくれて、嬉しいよ。ありがとう。最高のクリスマスプレゼントだ」
「これが私のクリスマスプレゼントなわけないじゃない! ほら、これ! ネクタイピン! 受け取りなさい!」

 密かに持っていた小さな箱を椿はレオンに押しつけると、彼は目を閉じて愛おしそうにそれを両手で包み込んだ。

「気を使わせてしまってすまない。ありがたく使わせてもらう。今日は、二つもプレゼントを貰うなんて俺は幸せ者だ。最高のクリスマスになった」

 菩薩のような笑みを浮かべ、落ち着いた口調で話すレオンに椿はもう何も言えなくなる。
 そのまま彼は、もうこれでこの話題は終わりだとでもいうようにブラマンジェを食べ始める。

「うん、美味しい。やっぱり恭介の言うことは間違っていなかったな。椿も食べたらどうだ? 美味しいぞ」

 屈託なく笑うレオンを見た椿は、すっかり戦意を失ってしまう。

(こうなりゃ、やけ食いしてやる!)

 願掛けでお菓子断ちしていた彼女は、もうどうにでもなれという心境でブラマンジェを完食した。
 ついでに、ブッシュ・ド・ノエルとミルフィーユ、モンブランを追加で注文したのである。

 甘い物を食べすぎて胸焼けする中、食事を終えた椿はレオンからタルトを受け取り、夜景を二人で見た後で自宅へと帰った。
 両親への挨拶もそこそこに自分の部屋へと帰った彼女は、手に持っていたマフラーを床に思いっきり投げつける。

「あんのおとこぉーーー!!!! 人が! 折角! 勇気を出したのに! 流すとは何事よ! 素直に受け取りなさいよ! 馬鹿! 阿呆! でも好き!」

 ベッドに身を投げた椿は、ゴロゴロと転がり、鬱憤を晴らした。

 こうして、レオンへの告白は大失敗に終わったのである。
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