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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

番外編

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ロミジュリ未満①

菫と倖一のお話となります。
『なぁ、おじさん。ずっと見てたけど、そいつ迷子だろ? なんで外に連れてくんだよ』

 少年に声を掛けられ、男性は慌てて掴んでいた少女の手を振りほどき、走り去っていく。
 逃げた理由を察した少年は、男性に対して怒りを感じながらも泣いている少女へと近寄った。

『俺は倉橋倖一。お前は?』
『……あさっ、ひな、すみれ』
『一人ってことは、親とはぐれたんだろ? 放送してもらうから、行こうぜ』

 菫の手をギュッと握り、倖一は迷子センターへと彼女を連れて行く。
 泣いている菫を気遣って、学校の話や友達の話をずっとしてくれていた倖一。
 彼のお蔭で、いつしか菫の涙は止まっていた。

 この出来事により、菫にとって倖一はただ一人のヒーローとなったのである。

 それから、十一年。
 鳳峰学園の高等部へと入学した菫は、休日に弟の樹に頼みごとをしていた。

「樹ったら、お願いだから一緒に葦原学園の文化祭に行きましょうよ」
「やだよ。面倒。外に出たくない。混んでいるところにわざわざ出掛ける必要性を感じない」
「樹……!」
「そんなに言うなら、椿姉さんに頼めば? 喜んでついていくんじゃない?」

 どうでもいいように吐かれた言葉に菫は押し黙ってしまう。
 確かに椿であれば喜んでついていくだろう。だが、向かう先は倖一が通っている葦原学園だ。
 菫は椿が倖一に対してあまり良い感情を持っていないことを察していたので、なるべくなら彼女には黙ったまま出掛けたかったのである。

「一人で行って、倖一さんに案内してもらえば?」
「だめよ! それでは倖一様のご迷惑になってしまうもの。陰からこっそり、学園生活を送る倖一様を拝見したいのよ」
「……じゃあ、友達にでも頼めば?」

 興味が無さそうな樹の言葉であったが、菫はその手があったか、と微笑みを浮かべる。
 家族と一緒に、という意識が先にあったので、菫は友人と行くという選択肢が頭からスッポリと抜け落ちてしまっていた。
 ならば早速、と友人に連絡をして約束を取り付けた菫は、護衛を連れて葦原学園高等部の文化祭へと出掛けたのである。

「へぇ。菫ちゃんの好きな人が葦原学園に通ってるんだ?」
「はい。そうなのです」

 友人である牧島花音まきしまかのんの言葉に菫は頬を染める。
 花音はそんな初々しい反応をする菫を微笑ましそうに眺めていた。

「鳳峰学園も広いけど、葦原学園も広いね。その人に会えたらいいんだけど」
「倖一様のご迷惑になってしまうでしょうから、コッソリと様子を窺えればそれで構わないのです。生徒会長を務めていらっしゃるので、お忙しいでしょうし、手を煩わせてしまうのは申し訳ありませんもの」
「え~? 一緒に見て回ればいいのに」

 とんでもない、と菫は勢いよく首を横に振る。
 数年前から、なぜか倖一は菫を避けるようになってしまったので、案内をして貰うなど、彼の負担にしかならない、むしろ嫌われるかもしれないと彼女は思っていた。
 けれど、倖一の顔を見たい、という気持ちを抑えきれず、それなら顔だけ見てバレない内に帰ろうと考えたのである。

「そのような贅沢は申しません。それに今の時間帯、倖一様がどちらにいらっしゃるのかは、ある方に伺っておりますので、倖一様にバレることなく隠密行動が取れるはずです……!」

 という会話をした後、葦原学園高等部へと潜入した菫達だったのだが、彼女達は男子生徒に行く手を阻まれてしまい、倖一の居る場所へとたどり着けない状態に陥っていた。

「君達どこの学校の子?」
「俺らと一緒に見て回ろうよ」
「女子二人だけよりも俺らと回った方が楽しいって」

 まあ、男子校に女子二人で行けばこうなる。
 それでなくとも菫は深窓の令嬢風の美少女だし、同行している花音も美形の部類に入る。
 お近づきになりたいと思う男子は多いので、話し掛けられては護衛が割って入る、ということをしているため、全く前に進めない。
 倖一様のお姿を拝見できるのは何時頃になるかしら? と菫が途方に暮れていると、廊下の人混みが左右に割れていくのに彼女は気が付いた。
 その左右に割れた真ん中から、黒いオーラを身に纏った倉橋倖一が現れる。

「あ、倖一様……」

 見つからない内に帰ろうと思っていた菫は、見つかってしまったことで倖一が嫌がってしまうかもしれないと思い、表情を曇らせる。
 花音は現れた倖一を見て、へぇ、あれが菫の好きな人、と思っていたが、今まで彼女達に話しかけていた男子達は顔面蒼白になっていた。
 菫達の近くまできた倖一は鋭い視線を男子達へと向ける。

「悪いが、彼女達は俺の客で案内を任されている。もういいか?」

 途端に男子生徒達は無言でコクコクと頷き、その場から立ち去って行く。
 冷めた目で彼らを見ていた倖一は、視線を菫へと向けた。

「……来るなら来るって連絡してくれ。男子校に女子が来るとこうなるんだから」
「お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」

 コッソリと顔を見て帰ろうという作戦は大失敗に終わり、肩を落とした菫はか細い声で呟いた。 

「別に責めてないから、落ち込むな。そっちは朝比奈の友達?」
「あ、はい。同じクラスの牧島花音さんです」

 紹介された花音は倖一に向かって頭を下げた。
 倖一も軽く頭を下げ、どうもと口にする。

「男子校は基本こんな感じだけど、全員が全員そういうわけじゃないから勘違いしないで欲しい。さ、行こうか」

 菫の肩をポンッと軽く叩き、倖一は歩き出す。
 黙って来たことで彼を怒らせたわけではないと知り、菫は息を吐いた。
 一連の流れを見ていた周囲の生徒達は、女っ気のまったくない倖一に親しくしている女子、それもとんでもない美少女が居ると知り、驚いている。
 その内の一人が倖一に声を掛けた。

「か、会長。そちらの方は、会長の友達ですか?」
「……どうなんだろうな」

 倖一としては、友ではなく、自分を慕ってくれている子、という認識だったので、そう答えたのだが、周囲の生徒達は菫が友達ではなく彼女であると勘違いをしてしまう。
 あの会長に彼女が! ということで生徒達は雄叫びを上げた。

「か、会長に彼女がいるぞ! しかもすげぇ可愛い彼女!」
「他の奴らにも伝えろ! 祝え!」
「いや~。先輩、硬派だと思ってましたけど、やることはやってたんですね」

 口々にそう言って、はけていった生徒達を見て、倖一は頭を抱える。

「待て待て待て! 違う! どうしてそういう考えになったんだ! 止まれ、馬鹿!」

 いくら大声で訂正しても、解き放たれた生徒達を止めることなど生徒会長の倖一にもできない。
 どうしてこうなったと呟いている倖一を菫は心配そうに見ていた。

「あの、倖一様。私が来たせいで申し訳ございません」
「いや、朝比奈のせいじゃない。勝手に盛り上がったあいつらが悪いだけだ。気にすんな。それよりも、他校の文化祭に来るのは初めてだろ? 鳳峰とは違うと思うから、驚くかもしれないけど。……ああ、そうだ。これ、パンフレット。気になったところがあったら教えてくれ。連れて行くから」

 パンフレットを手渡された菫は驚いたように目を瞠る。

「倖一様が案内して下さるのですか? 生徒会のお仕事で忙しいのでしょう?」
「一気に噂が出回るだろうから絡んでくる奴らは居ないと思うけど、絶対じゃないからな。それに、生徒会の仕事は見回りと雑用くらいで、見回りついでに案内すればいいだけだし、雑用を押しつけられたら、俺が対処できるならやるし、できなきゃ生徒会室にいる奴らに連絡して対処してもらうから問題ないだろ」
「……申し訳、」
「ありがとうございます、だろ?」

 下を向いていた菫は、倖一の言葉に顔を上げる。
 困ったように笑う倖一の本心は分からなかったが、それでも菫は彼の言葉が嬉しかった。
 柔らかな笑みを浮かべた菫は口を開く。

「ありがとう、ございます」

 軽く頷いた倖一は、しばし菫と見つめ合うが、花音に気まずそうに咳払いをされたことで、二人は我に返った。

「菫ちゃん。行きたいところはあるの?」
「え? あ、そうですね。え~と……」

 焦ったままの状態でパンフレットを見ていた菫は、出し物の多さに頭が混乱してしまう。

「花音さんは気になるクラスなどありますか?」
「私は菫ちゃんの付き添いだもの。菫ちゃんに従います。ほら、どこに行きたいの?」

 そうは言われても、菫は中々決めることができなかった。
 悩んだ結果、彼女は自分で決めるよりは葦原学園の生徒である倖一に聞いた方が早いのではないかと考えた。

「……あの、倖一様のおすすめなどございますか?」
「俺の? そうだな……お土産があれば思い出になるだろうから、ボウリングとかダーツ、ビリヤードあたりがおすすめだな。ポイントで景品が出るし」
「それらは素人でも大丈夫でしょうか?」
「分かんなかったら俺が説明するけど、そう難しいものでもないから誰でもできるだろ」

 全くの初心者で運動が苦手な菫は難しいものじゃないと聞き、安心する。

「でしたら、ボウリングをやってみたいです。花音さんはそれで大丈夫ですか?」
「いいよ。ルールなら私も知ってるし安心して」
「なら行こうか」

 倖一が先導する形となり、三人は移動を始めた。
 他校の文化祭に来るのが初めてだった菫は、興味深そうにクラスの出し物に視線を向ける。
 鳳峰学園の文化祭にもあった出し物もあり、学校は違えど大きくは変わらないのだな、などと思っていたが、やはり男子校だからかお祭りの雰囲気が鳳峰学園よりも強い。
 お祭りの熱気にあてられた彼女は、興奮気味に倖一へと声を掛ける。

「倖一様のクラスは近いのですか?」
「俺のクラスはあっち」

 倖一が指差したのは、向かいの校舎。
 ここは一年生のクラスなのだと説明され、菫は彼の過ごす教室を見てみたかったな、と残念に思った。

「うちは展示だから、見ても何も面白くないと思う。それに見られたらうるさい奴がちょうど当番に当たってるはずだから、あんまり向こうに行きたくないんだよな」

 これは展示を見たいとは言い出せない雰囲気だと菫は口を閉ざした。
 すると、倖一がちょっと待って、と言って足を止める。

「倖一様?」

 立ち止まった倖一は、その場でパンフレットを広げていた。

「悪い、女子向けの景品があったかなと思って。パンフレットに書いてないかと確認したかったんだ」
「どのような景品があっても大丈夫です。自分の頑張りで貰えた物なら何でも嬉しいですから」
「そりゃ良かった」

 笑顔を見せた倖一はパンフレットを閉じて、再び歩き始める。
 こうして菫達は、ボウリングの他、クレープやポップコーン、迷路などを倖一に案内してもらう。
 菫は、ゲームに参加した倖一がもらった景品をプレゼントされたり、ポップコーンを一緒に食べたりしながら、とてつもなく幸せな時間を過ごすことができた。
 彼は連れの花音にもさりげなく声を掛けたりして気遣いながら、学校の説明などを交えて案内役の任務を全うしたのである。
 行く先々で生徒達から声を掛けられ、冷やかされたりする度に倖一は生徒達を文句を言ったり、肩を叩いたりと年相応の振る舞いをしていた。
 そんな倖一の姿を見て、いつも見ている大人びた姿とは違うと菫は頬を染める。


 そして、倖一と別れ、花音と車に乗っていた菫は顔がにやけるのを押さえきれず、文化祭での出来事を思い出しては、ふふっと声を漏らしていた。

「ねぇねぇ、菫ちゃん。あの人が菫ちゃんの好きな人でしょ? すっごく格好良い人だね。それに良い人そうだし。ずっと一緒にいてくれて、私達を他の男子生徒から守ってくれてたみたいだし」

 倖一を褒める花音の言葉に、菫はでしょう! と言いながら満面の笑みを浮かべた。

「そうなのです! 倖一様は昔から本当にお優しくてしっかりしていて頼りになる方なのです! 生徒会長の他に剣道部の主将もしておりますし、全国大会で優勝したこともあるのですよ? 少しぶっきらぼうな面もありますが、なんだかんだで面倒を見て下さるし」
「うん。うん。分かった。ごめん、話を振った私が悪かったわ」

 怒濤の勢いで倖一に対する想いを言われ、普段の菫とは違う様子に花音は狼狽え、すぐに話題を変えようと口を開く。

「そういえば、途中で朝比奈先生を見掛けた気がしたんだけど、今日、行くって聞いてた?」
「え? お姉様が? いいえ。伺っておりません。今日はレオン様とお出掛けの予定だと伺っておりますもの」
「あ~じゃあ、見間違いかな?」
「だと思います。いくらお姉様でも、ここまではついて来ないと思いますから」

 昔から心配性だった椿は、大学を卒業後、鳳峰学園の高等部の教師として採用されていた。
 理由が菫を見守るため、だったので、彼女の妹に対する過保護さは周知のものとなっている。
 菫も姉の愛を理解していたが、さすがにそこまではしないだろうと思っていたわけである。
 まあ、実際は男子校に女子二人(護衛付)で行くなんて危険すぎる! と心配になり、レオンに理由を告げて志信を連れて見守っていたというわけだ。
 菫に対する彼女のシスコン度は減るどころか年々増すばかりである。
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