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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

番外編

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ツンデ令嬢と朴念仁紳士(前編)

お久しぶりでございます。
この話は椿の祖父母である朝比奈修とナターリエの馴れ初め話です。
前中後編と3話ぐらいで終わるかと思います。
祖父母の話は、すでに書き終わってはいるので、来週中には更新できると思います。
見直し頑張ります。
 別に思い上がっていたわけではない、とナターリエ・グロスクロイツは己の腕を掴む馬鹿な男の手を振りほどこうとしながら考えていた。

「いい加減にしなさいよ! お父様に言い付けるわよ!」
「言えばいい! これから君は俺の物になるんだからな! 何を言おうと、既成事実がある以上は、俺の妻になる道しか君には残されていないよ」
「冗談じゃないわ! あんたみたいな男なんてこっちから願い下げよ! 本気で私と釣り合うと思ってるなんて馬鹿じゃないの!」
「怒っている顔も素敵だけど、いい加減大人しくしてくれないかな?」

 強く腕を掴まれたナターリエは、痛みにうめき声を上げる。

 そもそも、このような状況になったのは、全てナターリエの父親が呼んでいると彼女をここへ連れてきた使用人のせいだ。
 部屋には父親が居ると思っていたのに、居たのは前からナターリエに強引に迫ってきた取引先の馬鹿御曹司。
 瞬時に彼女は仕組まれたと察したが、逃げるよりも先に腕を掴まれてしまった。

 そして冒頭の会話である。

 腕を強く掴まれ、壁に押さえつけられたナターリエは顔を近づけてくる男に対して嫌悪感が涌いてくる。
 どうして、こんな男に……という気持ちになり、涙が浮かぶ。
 顎を掴まれ、顔を逸らすこともできない。
 男女の力の差もあり、相手は押してもびくともしない。
 誰か助けて……! と思うナターリエの耳に間の抜けた声が聞こえてきた。

「あの~。申し訳ないんだけど、トイレに行ったはいいものの、迷ってしまって……。応接間はどちらかな?」

 決して上手いとは言えない英語を話す声に、男は動きを止めた。

「……見て分からないのか? 取り込み中なんだが」
「それは分かっているよ。あまり他所の家をうろつくのも行儀が悪いし、応接間まで案内してくれると助かるんだけど」

 突然のことに馬鹿な御曹司はナターリエを掴んでいた手の力を緩めたのを彼女は見逃さず、腕を振りほどいて急いで迷子になっている男の元へと向かう。

「だったら、私が案内してあげる。こっちよ」

 さっさと部屋から出て行ったナターリエは応接間まで向かって歩いていた。
 背後からは馬鹿な御曹司の声が聞こえたが彼女は無視して歩き続けている。

「助かるよ」

 そう言って、男はナターリエの前を歩き始めた。

「ちょっと。案内するなら、私が先を歩いた方がいいでしょう?」
「よく知りもしない男が背後に居るのは落ち着かないでしょう? 後ろから右か左か指示を出してくれれば大丈夫だよ」

 振り向きもせずに言われた言葉。
 それだけで、この男がナターリエが先ほど何をされていたのか知って気を使っていることに気が付いた。

「……何よ、それ」

 小声で呟かれた言葉は、前を歩く男に届いておらず、また、彼女の赤く染まった顔も見られずに済んだ。
 そのまま、ナターリエは前を歩く男の後頭部を凝視している。

(最初に顔を合わせたときは、いけすかないというか、笑顔が胡散臭いと思ってたのに)

 男は、ナターリエの父親が気に入っている陶器を作っている陶器会社の御曹司で朝比奈修という日本人であった。
 初めて父親から紹介されたときは、得体の知れない東洋人ということで警戒し、碌に話もしなかったのである。

(私を好きなわけでもないのに、どうして助けたのよ)

 先ほどの修の行動が理解できず、ナターリエは少しだけ混乱していた。

「それと、ナターリエ嬢。あまり異性を下に見るような発言はしないほうがいいよ」

 という言葉を頂戴し、彼女は分かってるわよ! と憤る。
 あの馬鹿御曹司に腕を掴まれたときに、嫌と言うほど後悔したのだ。
 改めて言われると腹が立ってしまうのは仕方ない、とナターリエは修の背中を睨み付けた。

 以降は無言のまま、修を応接間へと案内して終わりとなった。
 その日以来、ナターリエの前に、あの馬鹿御曹司が現れることが二度となかったことを考えると、修はあの部屋であったことをナターリエの父親に話したとみえる。
 得体が知れないと思っていたけれど、意外と良い男だったわね、と彼女は修の顔を思い浮かべるが、すぐに何を考えているの! と頭を振る。

(あんなの、お父様の心証を良くするためにやったに決まってるわ! 絶対にいつかボロが出るんだから!) 


 数日後、ナターリエは弟のラルフにある頼み事をしていた。

「だから! あの東洋人に私をどう思ってるのか聞けばいいのよ!」
「そんなの自分で聞けばいいだろ! 何で俺が!」
「弟なんだから、言うことを聞きなさいよ!」
「横暴過ぎ!」
「いいから聞いてきて! ほら、行きなさい!」

 ラルフの背中を強く押し、ナターリエは彼を修の元へと送り出した。
 すぐに彼女は近くの壁に隠れて、弟達の様子を眺め始める。

「サム」

 サム、と呼ばれ、修が振り向き、どうした? と言いながらフッと笑みを零す。

「あのさ。この間、うちの姉さんを助けただろ?」
「あれは偶然通りがかっただけだよ」
「まあ、それはいいから。で、だ。姉さんをどう思った?」
「どう?」

 と、言いながら修は考え込む。
 彼がどう答えるのか気になって、ナターリエの心臓は早くなる。
(早く、早く言いなさいよ!)
 壁に爪を食い込ませながら、ナターリエは修を凝視していた。

「……あの目の色を出すには、どうすればいいのか」
「は?」
「透き通るような青。色の見本として近いのは……サファイア、いやサファイヤは濃すぎるな。ブルーダイヤモンドかアクアマリンが一番近いかも……。見本はあるから挑戦はできるけど、難しそうだ」
「サ、サム? 何の話をしてるのさ」
「何って、ナターリエ嬢の印象。あんな透き通るような青い瞳を見たことはなかったから、それが印象に残ってて、あの色の陶器を作りたいと思ったんだよ」

 だったら最初から瞳の色が印象に残っていると言えばいいのに、とラルフは心の中で呆れ返ったが、話をこっそり聞いていたナターリエは顔を赤面させていた。

(ブルーダイヤ……私の目がブルーダイヤのようだなんて。それに透き通るような青い目が綺麗だって!)

 都合の良いところを抜き出して、言っていないことを模造し、彼女は悦に浸っていた。
 己の美貌に絶対の自信を持つ彼女だからこその考え方である。
 うふふふふ、とニヤニヤ笑っていたナターリエであったが、いつの間にかラルフも修も居なくなっていたことに気付いたのは一時間も後のことであった。

 以来、ナターリエは家に来た修を捕まえて、一方的に話しかけるということを繰り返していた。
 毎回律義に応対し、ナターリエのキツイ物言いにも嫌な顔をすることもない修に、彼女はますますのめり込んでいく。
 たとえ修から返ってくる言葉がほぼ陶芸に関する話であったとしても、だ。

 そんなある日、話の流れで修が英語以外喋れないということをナターリエは知る。

「貴方、ドイツ語が喋れないの?」
「勉強しているけど、中々上達しなくてね。今度、語学学校に通おうかと考えているんだ。英語でも問題はないけど、工房の設計とかで細かいニュアンスが伝わらないことがあって」
「ふ~ん」

 と、言いながらナターリエは、もし教師が女性だったら、という考えが思い浮かび、途端に焦り始める。

(もし女だったら、修は性格が良いし、顔もそこそこ……結構、いや、かなり良いし…………ライバルが増えるじゃない! そんなのダメよ!)

 すっかり修に心を奪われていたナターリエは、彼を語学学校に行かせてなるものかと考えた。
 そして、その解決策を彼に提示する。

「じゃ、じゃあ、私が教えて差し上げてもよろしくてよ?」

 これなら修と会う口実もできるし、一石二鳥だと彼女は考えたのである。
 だが、修はナターリエの言葉を聞いて口をポカンと開けていた。
 もしや、迷惑だった? とナターリエは不安になる。

「……ちょっと、なんとか言ったらどうなのよ」

 無言に耐えられず、ナターリエはフイッと顔を逸らしながら、キツイ物言いをしてしまった。
 もっと素直になりたいし、可愛らしいことを言いたいのに、修の前だとどうしてもこの口調になってしまう。
 嫌な女だと思われたかもしれない、とナターリエは自己嫌悪に陥っていたが、修は急に彼女の手を取って両手で握りしめる。
 修の行動に、ナターリエは顔を真っ赤にさせて口をパクパクと動かしていた。

「ありがとう! 本当に助かるよ!」
「な、なによ。そんなに喜ぶことなの?」
「当たり前だよ。知らない人よりは、知っている人に教わった方が良いに決まっているだろ」

 そんなに喜ぶなんて、と満更でもないナターリエであったが、修は単純に語学学校代を払わなくて済むことを喜んでいただけであった。
※近況報告
12月12日にアリアンローズ様より、お前みたいなヒロインがいてたまるか!の3巻が発売されます。
今回も加筆修正や番外編など、たくさん書き下ろしましたので、よろしくお願い致します。

それから、今後の番外編の更新についてなのですが、今現在更新している、私と公爵殿下と契約書のストック分として書いている二章を書き終わってから、こちらの番外編に取り掛かるので、少々お時間を頂きたく思います。
新たに始めた新連載の方も、興味があればご覧頂けると幸いです。
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