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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

番外編

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122話後、走り去った透子を追いかける恭介のお話

以前、活動報告に書いた小話を移動しました。
恭介の前から去った透子は、しばらく走った後にその場にしゃがみ込んだ。

(どうしよう! どうしよう! どさくさに紛れて告白まがいのことを言っちゃったよ! おまけに頭に血が上ったからって、偉そうなこと言っちゃったし。……嫌われた。あれ、絶対に嫌われた)

 透子は先ほどのやり取りを思い出し、これ以上ないくらいに後悔している。

(全部ぶつけて粉々になっても、とは言ったけど、こういう方向は予想してなかったよ……)

 人気のないところで恭介の腕を掴み、強引に連れ出した時にはやる気に満ちあふれていた透子であったが、現在は随分と肩を落としている。

(でも、凪君や朝比奈様が言ってたことって当たってたんだ。私に原因があれば直せるかと思ってたんだけど、さすがに未来のことは分からないし)

 彼女は、口先だけで絶対に大丈夫だと恭介に言うことはできなかった。
 恭介の目が、声が、怖いと見たくないと切実に訴えており、彼がこれまでに傷ついてきたということを彼女は知って、その場限りの嘘なんて口にできなかったのである。

(これで水嶋君と終わりなんて……)

 話し合いは平行線のままケンカ別れになったことから、透子は恭介との繋がりを全て切ってしまったと考えていた。

(色んな人に迷惑かけちゃったな。結果がこれだから、いっぱい心配されるよね。でも今慰められたら泣いちゃうよ。……学校休む? いやいや、病気でもないのに休めないよ。こんな個人的な理由で休めない。でも、水嶋君の顔を見るのは辛いし。あ、もう水嶋君って呼んじゃだめだよね)

 これまでの恭介とのやりとりを思い出してしまい、透子の目に涙が浮かぶ。
 こぼれ落ちそうになり、彼女は慌てて目をきつく瞑ってハンカチで目元を押さえた。

(泣いちゃだめ……!)

 泣くな、泣くなと透子は思っているが、それに反してどんどん涙が溢れてくる。
 泣いたままでは帰れない彼女はしばらくの間、しゃがみ込んだままジッとしていた。


(やっと落ち着いた……。途中でトイレに寄って顔を洗ってから帰ろう)

「……夏目!」

 立ち上がりかけた透子は背後から聞こえた声を聞いて体を硬直させる。
 振り向かなくても彼女はその人物が誰なのかを分かっていた。彼の声を透子が聞き間違えるはずがない。

(水嶋君……)

 恭介の声を聞いたことで落ち着きかけた彼女の涙腺が緩んでいく。

 はぁはぁと息を切らせている恭介は、息を整えて後ろ姿の透子へと話し始める。

「……ごめん。夏目の言う通り、僕は君と関わりをもたないことが最善だと勝手に考えて、夏目の気持ちを無視してた。独りよがりだったと今なら分かる。ちゃんと理由を話すべきだったし、避けて無視するなんて最低の行為だった。本当にごめん」

 恭介が話し掛けても透子は一向に振り向く気配もなかったことから、彼女が会話を拒否しているのかと焦り始める。
 だが、透子は泣き顔を恭介に見られたくないという気持ちと、声も涙声になっていて上手く喋れないことから話すことができなかっただけだ。

(こんな顔を見られたら水嶋君は自分が泣かせちゃったって思って傷ついちゃうだろうし、罪悪感から泣いてる私の言うことを聞いちゃうかもしれない。それは卑怯だと思うしやりたくない)

「あんなことを言っておいて、許してくれなんて言っても無理だよな。夏目が怒るのも無理はないし、嫌われても仕方がないと思う。でも、僕は……夏目を諦めるのは、やっぱりできない」

(怒ってない! 怒ってないですから! そりゃあ、こっちの話を聞こうともしない水嶋君に苛立って大声出しましたけど、今は怒ってないです!)

「僕は夏目が幸せなら、それでいいと思ってた。隣に僕の知らない男が居ても我慢できると思ってたけど……椿に言われて僕の考えの甘さを指摘されたんだ」

 椿の名前が出たことで透子は驚きのあまり振り返り、恭介に対して泣き腫らした顔を晒してしまう。

(え!? 朝比奈様? どうして朝比奈様が? …………まさか、あの場に居たの!?)

 などと透子が考えているとは思わず、恭介は明らかに泣いていた形跡のある彼女の目を見て申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「……僕のせいだな。泣くような仕打ちをして本当にごめん」
「そんなことよりも、あの場に朝比奈様が居たんですか!?」

 そんなことと言われた恭介は、え? と思い透子を凝視する。

「あ、ああ。茂みから椿が飛び出してきて説教されたんだ」

(あの場面を朝比奈様に見られるなんて! 告白まがいのことを見られてたなんて! 恥ずかし過ぎる……!)

 椿に見られたことの衝撃が強くて、透子は泣き腫らした目を恭介に見られたことなど頭の隅っこに追いやっていた。

「って、朝比奈様に説教されたんですか?」
「ああ。ついでに蹴られた」
「蹴られた!? 朝比奈様にですか!?」

 神妙な顔で恭介は頷くと透子は信じられないとばかりに口を開けていた。

「ここで僕が夏目を避けていても、未来で夏目が苦しんでいたら僕は絶対に手を差し出す。たとえ僕が結婚していたとしても。それは夏目も僕の結婚相手も不幸にすることだと椿に気付かされたんだ」
「水嶋君……」
「だから僕はちゃんと夏目と向き合いたい。誰かに夏目を幸せにしてもらうんじゃなくて、僕が君を幸せにしたいんだ。今はそう思ってる」

(こ、この台詞って……。まさか水嶋君は私のことを? いや、それはフェイントで友達としてという可能性も残されてる。浮かれちゃダメよ! 期待して突き落とされる破目になるわ。落ち着くのよ、透子。深呼吸して)

 もしかして恭介も、という予想に嬉しくて笑ってしまいそうになり、透子は咄嗟に下を向く。

「……その、ここに向かう途中に改めてさっきのことを思い返してひとつの可能性が思い浮かんだんだけど……。僕がそう思いたいからってだけかもしれないし、夏目にそんなつもりはなかっただけかもしれないけど。その、もしかして夏目も僕と同じ気持ちなんじゃないかと思ったんだ」

 同じ、と聞いた透子は口元を手で覆い、色々と動揺していた。
 反応のない透子を見た恭介は、まだ彼女が怒っていると判断する。
 それだけのことをしたのだから、どんなことを言われても仕方がないと思っていたし、透子にはそうする権利があると彼は思っていた。
 けれど、心優しい透子のことだから怒っていても相手を口汚く罵るような真似はしない。
 どうすれば彼女の気が晴れるのかと恭介は考え込み、あることを思い付く。

「夏目。僕はもう逃げない。君とちゃんと向き合う。怒っていてもいいから、僕と話をして欲しいんだ。もしも、こんな僕を夏目が許してくれるというんだったら、僕は何でもする」

 透子は現在、恭介に対して怒ってはいないので、それを伝えようと口を開きかけたが、何でもするという彼の言葉にある乙女の夢が思い浮かぶ。

「……本当に、何でもですか?」
「あ、ああ。勿論だ! 約束するよ」

 必死な表情の恭介に、ならばと透子は緊張しつつ話し始める。

「な、なら……あの、水嶋君の方から、ちゃんと言ってもらいたい……です」
「言う?」
「そうです。水嶋君が私をどう思ってるのか。……あの……子供の頃から、そういうことを言われるのが夢だったんです」

 顔を赤くさせた透子を見て、彼女が何を言わんとしているのかを悟った恭介は、同様に顔を真っ赤にさせた。

「そ、それを言ったら、僕を許してくれるのか?」
「いえ、許すも何も怒ってないので……! 本当ですよ?」
「夏目は優しすぎだ」
「そんなことないです。今だってちゃんと交換条件を出したじゃないですか」
「僕にとってはメリットしかないだろ」
「いいんですよ。それにメリットだって言うなら、早く聞かせて下さい」

 答えが分かっている為か、透子はすっかり以前のような感じに戻っていた。
 早く早くと急かす透子に恭介はなんともいえない表情を浮かべながらも、彼女の望む言葉を口にする。

「僕は透子のことが好きだ。他の誰にも渡したくないくらい好きなんだ。明るくて誰にでも分け隔てなく接することのできる透子を僕は尊敬しているし、自分の考えをしっかりと持ってて噂だけで人を判断しないところも僕は好きだ。時々お人好しすぎて心配になるけど」

 好きだと言われ、更にこれ以上ないくらいに褒められたことで透子は嬉しくて、でもどこか恥ずかしいという気持ちになっていた。

「僕を見捨てないでくれてありがとう。ちゃんと話をしようとしてくれてありがとう。きっと僕はこれからも言葉が足らなくて透子を知らずに傷つけてしまうかもしれないけど、その時はちゃんと教えて欲しい。僕はもう逃げないから。だから、僕と、付き合って下さい」

 真剣な顔の恭介に向かって、透子は何度も何度も力強く頷く。

「私も、私も水嶋君が好きです」

 それだけ言った透子の目から涙がこぼれ落ちる。
 泣いてしまった彼女を見た恭介が慌て始めた。

「あの、これは、嬉しくて泣いて、るんです。幸せ、で。うれしくて」
「透子に泣かれるとどうしていいか分からなくなるから、動揺するんだよ」
「すみません。すぐに泣き止みますから」

 涙を止めようとする透子の目元を恭介は持っていたハンカチで拭う。

「ありがとうございます。でも、好きな人に好きだって言われるとこんなに嬉しいんですね」

 えへへと言いながら透子は満面の笑みを浮かべ、恭介もつられて笑顔になる。

「あの、それともうひとつお願いというか許可が欲しいんですけど」
「なんだ?」
「その……恭介君って呼んでもいいですか?」

 ささやかな透子の願いに恭介は「もちろん」と答えると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 その後、気が済むまでイチャイチャした後で二人は待っているだろう椿の元へと手を繋いで向かったのであった。
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