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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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朝比奈のクリスマスパーティーから1か月後、椿の住む朝比奈邸に八雲親子が遊びに来ることになっていた。
朝比奈家に2人しか居ないメイドは昨日から屋敷内を駆けずり回り、客人を出迎える用意をしていた。
ただ、客人が朝比奈家の血縁者であり、人となりを良く知っている相手なので、好みを熟知している為に準備自体は楽なものであった。

椿は自室で寝間着から着替え、ドレッサーの椅子に座ってブラシで髪を梳いていた。
水嶋家に居た頃はメイドが1から10までしてくれていたが、朝比奈家は使用人の数が圧倒的に少ないので、自分で出来る事は自分でやる事と両親から言われているのだ。
勿論椿は1人で起きる事も着替える事も髪を梳く事も出来るので全く問題は無かった。
鏡の前で身なりを整えた椿は洗面所で顔を洗った後に朝食を食べる為、ダイニングへと向かった。
既に朝食を食べ終えたのか、両親は食後のコーヒーを飲み談笑していた。

「おはようございます」

椿は両親に朝の挨拶をした。
談笑していた両親は椿の声を聞いて、話を止め2人揃って椿の方に顔を向けおはようと挨拶を返した。

「今日は少しだけお寝坊さんね」
「昨日の夜は杏奈さんが来られるのが楽しみで中々寝付けなくて」
「椿ちゃんの初めてのお友達ですものね。お母様も恵美里さんにお会いするのが楽しみでしたのよ」
「ふふ。お揃いですね」

と母親と椿は顔を見合わせて笑い合った。

すぐに椿の朝食が使用人によって用意され、椿は焼きたてのバターロールを千切り、ジャムを乗せて口に入れた。
焼きたてのパンと程よい甘さのジャムが良く合っていて、何個でも食べられそうである。
さらに、ふわふわのスクランブルエッグとフルーツにかける自家製ヨーグルトも絶品であった。
相変わらずの料理人の腕の良さだと椿はその味を堪能するのだった。

食事も終わり、椿はダイニングでしばらく胃を落ち着かせた後、洗面所に行き歯磨きを済ませた。
八雲親子が朝比奈邸に来るのは昼過ぎだと聞いていた為、椿はそれまでの間、時間を持て余していたので、本でも読んで時間を潰そうと考えていた。
幸い、この家の書斎には絵本から洋書まで幅広く取り揃えられている。
暇を潰すには持って来いと言う訳だ。

書斎に行き、椿の手の届く範囲に子供用の本が収められているのを見て、父親か使用人かは分からないが、手の行き届いた気遣いに感謝した。
綺麗に五十音順に並べられていた絵本を片っ端から椿は読んでいく。
そして片っ端から棚に戻していくのだが、椿は五十音順の事など考えておらず、適当に棚に戻していた。
途中、これまで戻した本の背表紙のタイトルを見て、五十音順ではない事に気付いた椿は、己の大雑把さに少しだけ呆れてしまった。
気付いてしまったら直さないと使用人に対して悪いと思い、椿は五十音順になるように本を入れ替え始めた。
余程集中していたのだろう、椿は書斎の扉が開いた音にも気付かず、使用人から呼びかけられて初めて部屋に人が居た事に気が付いた。

「昼食の用意が出来ております」

用事だけを口にした使用人の後を椿はついて行き、数時間ぶりにダイニングへと戻って来た。
昼食は中華で点心のセットとスープと炒飯だった。
この間はフレンチ、その前はイタリアン、さらにその前はドイツ、地中海にハワイとジャンルがとんでもなく幅広い。
家の料理人って何者なんだと椿は思わずにはいられない。

昼食を食べ終わり1階のリビングで椿が休憩していると、使用人が慌ただしく動いていたので、あぁ、来たのだなと理解した。
すぐに椿は立ち上がり玄関ホールへと移動し、八雲親子が入って来るのを待っていた。
八雲親子が到着した事を使用人から聞いたのか、母親も玄関ホールへとやってきて椿と並んで待っていた。
使用人が玄関扉を開けると意志の強そうな派手目美人が入って来た。
後ろから杏奈の姿も見え、椿は杏奈に向かいニッコリと微笑むと彼女も椿に向かい笑みを返してくれた。

杏奈さんお久しぶりと言おうと椿が口を開きかけた瞬間、静かな空間に大きめの声が響いた。

「きゃー!ゆりりん久しぶりー!」
「え!?ゆりりん!?」
「待ってたわ、えみりん!」
「え!?えみりん!?」

初めて聞いた呼び名に驚き、椿は何度も恵美里と母親の顔を見比べる。
テンション高く、親友の2人はキャーキャー言いながら手を取り合い再会を喜んでいた。
いや、クリスマスに会ってましたがな、あれから1ヶ月しか経ってませんがなと椿は呆れたが、言う勇気は持ち合わせていなかった。
呆然と成り行きを見守っていた椿の肩を杏奈が軽く叩き、いつもの事だと呟いた。
そうかいつもの事なのかと、椿はあれを毎日目の当たりにしている杏奈に同情した。
使用人の1人が「ここでは何ですから」と、一行をリビングまで移動させた。
リビングにはもう1人の使用人が居り、すでにお茶の用意を終えていた。
椿達はリビングのソファに座り、母親達は先ほどの会話の続きをし始めた。

「でも、百合子が薫兄さんと結婚って聞いて本当に嬉しかったのよ?だって私の義理の姉になったんだもの。昔から百合子の事を薫兄さんに根掘り葉掘り聞かれていたから、くっ付いてくれて安心したわ」
「そんなに聞いていたの?」
「そりゃもう!好きな食べ物から好きな映画、好きな色に好きな花、自分で聞けばいいのに百合子と仲の良い妹の私に聞いて来るんだから呆れたわ」
「そ、そうなの」

百合子は顔を真っ赤にして嬉しそうに微笑んでいる。
それを見て椿は、はいはいご馳走さまですと生暖かい目を母親に向けた。
恵美里は何を言っても百合子を喜ばせるだけだと思ったのか、矛先を椿に変えて来た。

「それにしても、目元がおば様に似てるわ。椿ちゃん、水嶋の血が濃くて良かったわね。将来を約束された美女になれるのは間違いないわよ」

恵美里は椿に向かいサムズアップをし、ウインクした。
椿は乾いた笑いしか返すことが出来ない。

「そうそう、パーティの時にレオンの鼻っ柱をへし折ってやったんだって?やるじゃない!」
「恵美里さん!人に対して手をあげた事を褒めないで頂戴」
「向こうの親は気にしてないわよ。理由なく暴力はいけないけど、今回のは子供のケンカでレオンに非があるのは明らかだったんだから」
「それでもよ」

女の子が暴力を振るうのは母親の中では許せない事らしく、頑なであった。
恵美里も最後には諦め、やれやれという表情を浮かべていた。

「でも、あちらの両親は椿ちゃんに感謝してるみたいだけどね」
「え?」
「レオンの母親は働いているからあまり家に居ないのよ。それで、両家の祖父母が存分に甘やかしていたみたいでね。気付いた時には人を見下す傲慢な性格になってたみたい。それが椿ちゃんから一発もらった事で目が覚めたと言うか、学んだと言うか。とにかく相手の気持ちをちゃんと考えられるようになったみたいで、安心したって言ってたわ」

そう言う事情があったのかと椿は恵美里の話を聞いて、やはりいきなり殴ったのは悪かったなと反省した。
少しばかり気落ちした椿親子に気を使ったのか、恵美里は話題を変えた。

「ところで、この家はどう?使い勝手が悪いとか、調度品が気に食わないとか無い?」
「とんでもないわ。どれもこれもセンスの良い物ばかりだし、とても気に入っているのよ」
「母が聞いたら喜びそうだわ。使用人も問題ない?ほら朝比奈は基本的に使用人の数が少ないから手が届かない所があるんじゃないかと心配してるのよ」
「それも大丈夫よ。むしろ使用人1人が執事と家令の仕事もして、全て取り仕切っているのだから大したものだわ。朝比奈の使用人の仕事ぶりは有名だけれど、噂以上ね」

母親は日頃の使用人の仕事ぶりを褒め称えた。
この家には執事は居ない。料理と運転以外の全ての仕事をメイドの2人がこなしているからだ。
さすがに来客がある時など、人手が必要な時は本家の方から応援が来るが、基本は2人だけである。

「でも、水嶋は一芸に秀でている使用人が多いのだけれど、朝比奈の使用人は多芸に秀でている印象が強いわ」
「元々、朝比奈家は江戸時代の陶芸家だったのよね。今の朝比奈家に仕えているのは江戸時代の陶芸家だった時のお弟子さんの一族なのよね。何代目からの兄弟が朝比奈陶器の前身に当たる陶器会社を興して、今日まで来た訳だけど、戦争で大打撃受けて会社が傾いて使用人に払うお給金すら出せなくなって、それで泣く泣く解雇したりしたんだけど、朝比奈家の人間って無駄に人望が厚い人が多いじゃない?それで残った使用人が何とか主人の力になろうとして1人1人が出来る仕事を増やして行った結果がこれ」
「信頼関係があったのね」
「まぁ、先代の祖父がかなり仕事の出来る人で人格者だったから尚更かもね。解雇された元使用人も警備会社興したり、朝比奈陶器に入社して力を貸してくれたりしてくれてね」

解雇されて恨むどころか朝比奈家の為に力になろうとするとは、朝比奈陶器の先代はかなり人間が出来た人だったのだろう。
そんな人なら1度くらいは会って見たかったなと椿はしんみりとしてしまう。

「その祖父だけど、この間ドバイでラクダに乗った写真を送りつけて来てさ、写真を見たら相変わらず元気そうだったわ」

恵美里の言葉を聞き、椿は綺麗にずっこけた。
しんみりした語り口調であったから、てっきりもう亡き人なのかと思っていたらとんだ勘違いであった。

「椿、朝比奈家には2通りの人間しか居ないの。ヘタレか変人かって言う2通りしかね」
「何その究極の2択!?」

間は存在しないの!?と続けて椿はツッコミを入れるが、八雲親子は同時に首を振るだけであった。
その時、控えめにリビングの扉をノックする音が鳴り、使用人が扉を開けると廊下からヘタレ代表の父親が顔を覗かせて来た。

「女子会はもう終わった?」
「あら、薫兄さん居たの?」
「居たよ!ずっとアトリエで絵を描いていたよ!」

朝比奈は集中して描いていた為、八雲親子が来た事にすら気づいていなかった。
ようやく一段落して、時計を見ると既に八雲親子が来訪する時間になっていた為、こうして挨拶に来たと言う訳であった。

「百合子。薫兄さんはこの通り頼りない人だけれど、15年近くたった1人の女性を想い続けるしつこ…執着心の強い人である事は保証するわ」
「言い直す前の方がオブラートに包まれてる!?」
「もう、兄さんうるさい」

朝比奈兄妹の会話を聞いて、この兄妹の力関係をこれでもかと理解した椿だった。
朝比奈家の使用人は家族で、料理人とメイド1が夫婦でメイド2が長女(姉)、運転手兼護衛が長男(弟)の不破一家と言う設定です。本家の方にも不破家の人間ともう一つの家の人間が使用人として働いています。
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