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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 創立記念パーティーの後、校内では恭介と透子の噂話で大いに盛り上がっていた。
 同時に、振られることになった椿に対して向けられる同情めいた視線。
 中には面白がっている者やいい気味だと思っている者も居る。
 椿も散々、生徒達を利用してきたので、そう思われても仕方がないと思っていることもあり、そのような視線を彼女は黙って受け止めていた。

 そんな中、今年も水嶋家が主催するパーティーの日がやってきた。
 今年は招待客を取引先だけではなく交友のある家や親交を深めたいと思っている家の人達を広く招待している。
 これは、祖父が椿と恭介の婚約は最初からなかったことだと広く知らせるためと、恭介と一緒に居る透子を見てもらうためだ。
 何より一番重要なのは、秋月社長を招待して、水嶋家と秋月家の確執に終止符を打つという計画。
 ギャラリーは多い方が良い、とは伯父の言葉である。

 かくして、椿にとって重要ともいえるパーティーが始まった。
 伯父の挨拶が終わり、祖父の挨拶が始まる。
 椿と恭介は目立たぬように壇上へと近寄った。

「ここで、皆様に重大な発表がございます。恭介、椿。こちらへ」

 祖父に呼び出され、椿と恭介は共に壇上へと登った。
 招待客はほとんど全員が椿と恭介の婚約発表だと思っているのか、微笑ましい表情を浮かべて壇上の二人を見つめている。

「まずはこの場にいらっしゃる皆様にお詫びを申し上げます。……かねてより私が曖昧に答えておりました、我が孫二人の婚約の件でございますが、あれは二人を様々な思惑から守るために皆様に婚約していると思わせていただけでございました」

 突然の祖父の言葉に婚約発表だと思っていた招待客達はざわめき始める。

「孫達にも、婚約しているように振る舞いなさいと私の方からきつく伝えていたこともありまして、尚更、皆様は二人が婚約しているものだと思っていらっしゃったでしょう。孫達は私の言いつけを守っていただけです。全ては私が考えたこと。皆様を騙すようなことをして、誠に申し訳ございませんでした。この場でお詫び致します」

 あの水嶋総一郎が頭を下げたことで、ざわめいていた会場内は一斉に静まりかえった。

「皆様も御存じの通り、娘の件があり神経質になっていたこともありました。また、世間から離されて育った孫娘を可哀想に思う気持ちもありました。ですので、皆様から婚約しているのかとの問いに、そのようなものですと答えていたのです」

 招待客は椿の母親の件を思い出したのか、沈痛な面持ちになる。
 椿は、さすが水嶋グループの社長に就いていただけあって、人を引き込むのが上手いと全く関係のないことを考えていた。

「そうまでして皆様に思わせなければならなかったのは、全て私が……。いえ、私と妻・八重が過去に行ったことが原因です。私共のせいで、娘や孫にしなくてもよい苦労をさせてしまいました。ですが、私はそれを自覚するのが遅すぎました。あの当時に私と八重が終わらせておかなければならなかったのです。本当に言い訳のしようもありません」

 視線を落とし、祖父は申し訳なさそうに口にしている。

「遅くなりましたが、私はきちんとこの場で責任を取ろうと思っております。……秋月社長」

 祖父の呼びかけに、招待客の中から緊張した面持ちの秋月社長が前に出てきた。
 当事者ではないものの、秋月家の血縁者の登場に、他の招待客は驚いている。

「ご本人にお越しいただけなかったのは残念ですが、まずは私共がした秋月久乃あきづきひさの嬢に対する失礼な振る舞い、秋月家に対して義理を欠いた行い、全てのことに対して謝罪致します。申し訳ありませんでした」

 ゆっくりと祖父が頭を下げ、近くに居た伯父も秋月社長に対して頭を下げた。
 秋月社長は落ち着いた様子で祖父の謝罪を受け止めているように見える。

「……どうか、頭を上げて下さい。それに、叔母に対する秋月家のフォローも十分ではありませんでした。ですから、責任はこちらにもございます。謝罪ならば、こちらもしなければなりません。私の叔母やイトコが水嶋様のご家族に対して行ったことは、いくら被害を受けた者だとしても許されるものではないでしょう。こちらの方こそ、申し訳ありませんでした」

 秋月社長も頭を下げたことで、周囲は水嶋家と秋月家の長きに渡る確執が消えたのだと判断し、どこかホッとしたような空気が流れている。

「全てが元通りになることは難しいでしょうが、これから秋月家と新たな関係を築いていければ、と私共は思っています」
「私もです」

 どこからともなく拍手が聞こえ、つられた招待客が続いたことで会場内はあたたかな拍手の音が鳴り響いた。

「こうして、お集まりの皆様の前で秋月家との関係を修復できたことは本当に嬉しく思っています。また、恭介と椿の婚約は私が勝手に言い出したことだと発表したのには理由があります。この度、孫の恭介が良縁に恵まれまして、それで椿との関係をハッキリとさせておかなければならなかったのです」

 恭介にすでに相手が居ると知り、自分達の娘や孫を紹介しようと考えていた人達は目を見開いて驚いている。

「これが本当に素晴らしい女性で。恭介も良い人を見つけたものだと嬉しくなりました。願わくば将来、彼女が恭介と水嶋家を支えてくれることを願っています」

 ここで祖父の話は終わり、椿と恭介は招待客に向かって一礼して壇上から降りた。
 すぐに恭介が透子の近くに行ったことで、彼女が祖父の話していた相手なのだと周囲は認識する。
 一体、どこの令嬢なのかと探るような視線を向ける者も居たが、恭介を幼い頃から見てきている人達は感慨深げに彼らを見つめていた。

「椿さんにはいい人は居ないのかい?」
「え? ……そうですわねぇ。ホホホ」

 その内の一人からとんでもない流れ弾が飛んできたことで椿は冷や汗が出てくる。

「ご安心を。椿にも良い縁がございましてな」
「おや、そうでしたか。ほんの少し、うちの孫などどうかと思っていたのですが、残念ですな」

 あはは、と二人は笑い合って椿の話題は終わり、男性は立ち去って行った。

「で、椿。グロスクロイツの小倅とはどうなっておる?」

 こ、このジジイ。さんざん人に釘を刺しておいて……!

「……どうもなっておりません。誰かさんが前から色々と仰っておりましたからね」
「あの時は恭介が好きだと思うておったからこそだ」
「よく言いますよ。……とにかく、レオン様に関しては、お祖父様にお伝えするようなことは何もございません。それに、私のことを考えている場合ですか? お祖父様にはまだ、秋月久乃さんへの謝罪が残っているんですからね」

 遠慮せずに椿が言うと、祖父は気まずそうな表情を浮かべた。

「分かっておる。……なあ、椿」
「お祖父様、まさか付いて来いなんで仰いませんよね? ご自分の尻ぬぐいはご自分でなさって下さいませ」
「気の強いことだ、本当に……」

 大人しくか弱い孫娘だと思っていたら、ああ言えばこう言うタイプだったという事実を祖父はまだ飲み込めていないようで、見るからに凹んでいる。

「これくらいでへこたれてどうなさるのです? お相手の方は半世紀ほどの恨み辛みをお祖父様にぶつけてきますよ? 反論もせずに受け止めるのですからね? 分かってます?」
「分かっている。それは春生にも嫌というほど言われた。けじめはきちんとつけてくるつもりだ」
「そうですか。なら良かった。……あら、透子さんが呼んでおりますので、失礼致します」

 祖父に挨拶をした椿は、そそくさとその場を後にした。

「夏目さ……じゃなかった。透子さん」
「朝比奈様! じゃなくて、椿さん。……中々慣れませんね」
「呼び始めてすぐですもの。その内、自然に呼び合えますわ」

 決して恭介を取られた訳ではないということを示すため、椿と透子はパーティー前に話し合い、二人は仲がいいんだよ~と思われるようにお互いに下の名前で呼び合おうと決めたのである。

「それで、立花さんの様子はどうなのですか?」
「前よりは落ち着いてますよ。ニュースとか新聞とか見て現実を受け入れている最中なんでしょうね。毎日暇だから読書するしかないって言ってました」

 良い方向に向かっていると聞き、美緒を追い詰めた自覚のある椿はホッとした。
 椿は秋月家との関係の改善がまだされていなかったことや祖父が美緒の祖母である秋月久乃に謝罪していないこともあり、保護者に止められて美緒の入院する病院へお見舞いに行けない状態なのである。

「会いに行くには、まだ少し時間がかかりそうだわ」
「あさ……椿さんも美緒ちゃんに会いに行く予定なんですか?」
「ええ。保護者からの許可が出れば、ですけれど。一度、彼女とは話をしなければならないと思いまして。それよりも、立花さんを下の名前で呼んでいらっしゃるのね。随分と仲良くなっておりますこと」
「仲良く、っていうか私がグイグイ押してる状態なだけなんですけどね。美緒ちゃんは怒る気力もないのか、途中でため息を吐いて諦めるんですよ? 失礼ですよね」

 透子はわざとらしく頬を膨らませている。
 彼女は美緒に対しては受け身でいるよりも積極的に話し掛けた方が良いと分かっているのだ。

「大事なところを透子さんに任せてしまっていますわね」
「いいんですよ。私が好きでやってることですから。……あと、どうでもいいんですけど、美少女から上目遣いで『もう帰るの?』って言われると、ちょっとドキドキしますね」

 そんな趣味はないんですけど、と透子は笑いながら言っているが、椿は美緒の変わりように開いた口が塞がらなかった。

「でも、三学期もずっとお休みだって聞いてますし、卒業式も出られるか分からないって言ってたので、残念ですね」
「周囲から嫌な目で見られる覚悟がないと、難しいでしょうね」

 美緒がこれまでしてきたことを考えれば、椿はそんな目に遭う彼女を可哀想だとは思わない。
 思わないが、今の彼女に耐えられるとも思っていない。
 今はちゃんと現実と向き合って、自分のやったことを自覚して前に進んで欲しいという気持ちである。

「では、私は千弦さんのところへ参りますので。透子さんは恭介さんの側から離れないように」
「分かってます。それじゃあ」

 透子と別れた椿は、千弦のところへと向かうと、彼女はどこかホッとした表情を浮かべていた。

「お疲れ様でした。これで、椿さんは晴れて水嶋様のイトコ、というポジションに戻りましたのね」
「やっと肩の荷がおりましたわ。お祖父様の説明と私の行動のお蔭で、私が一方的に振られたと思われてはいないと思いますので、後は皆様のスピーカー力に期待ですわね」
「来週にでも夏目さんが水嶋家の皆様に認められている、という話を広めたいのですね?」

 その通りであったことから椿はニッコリと笑みを浮かべると、千弦は呆れたように彼女に視線を向ける。

「まあ、私のことはよろしいのよ。私が伺いたいのは千弦さんと篠崎君のことですわ。生徒会も引退して受験も終わったのですから、進展があったのでしょう?」

 次の瞬間、千弦の顔が真っ赤になり目を忙しなくあちこちへと移動させている。

「……一応、お付き合いすることになりました」
「まあ、それはおめでとうございます! お似合いの二人ですから、私も嬉しいですわ」
「え? それだけですの?」

 今までからかわれてきたことで、千弦は今回も椿から何か言われると思っていたこともあり、素直に喜んでいる彼女に拍子抜けしてしまう。

「好きな人と両思いとなり、お付き合いをするのはおめでたいことではございませんか。さすがに、この状況で余計なことは申し上げませんわ。一人の友人として、千弦さんにおめでとう、と申し上げるだけです」
「あ、ありがとうございます」

 椿はその後、杏奈や佐伯達とも合流し、無事に秋月家との関係が改善されたことを喜び合った。

 水嶋家のパーティーの後、椿と恭介の婚約が最初から嘘だったという話は瞬く間に広がることになる。
 同時に夏目透子という女性が恭介と交際しているという話も伝えられ、休み明けには鳳峰学園の生徒で話を知らない者はいない、という状態になっていた。
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