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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 美緒と透子が和解してから、彼女は父親に事情を話し、立花総合病院で診察を受け、そのまま入院となった。
 高等部三年のこの時期なので卒業ができるのかと透子は心配していたが、色々と学校側が考慮してくれて、補習を受けたりテストで合格点を取れれば卒業は可能ということになったのだそうだ。
 学校では美緒の入院は病気ということになっているようで、彼女の取り巻き達も真実は知らされておらず、何があったのかと話している姿を椿は見掛けていた。
 そして、透子は自分も忙しい時期であるにも関わらず、毎日美緒の病室へと通っては、彼女と話したり、勉強を教えたりしているのだという。

 一方、琴枝であるが、学校内で美緒のことを話されると困るので、あの日以来、彼女は立花家の監視下に置かれ、卒業までは自宅謹慎ということになっている。
 琴枝のしてきたことは立花家の知るところとなり、あまりに悪質であるという判断から、彼女はこれから死ぬまで監視を付けられることになったと椿は伯父から聞いた。
 監視を付けられ、人間関係を引っかき回す前に阻止されるということを知った琴枝は泣き叫んで取り乱したりと大変だったらしい。
 人が揉める様子を見るのが好きな彼女にとって、平穏という名の地獄がこれから先に待ち受けているのだから、取り乱すのも無理はない。
 また、秘密裏に水嶋家と秋月家の和解プランが進行しているようで、伯父は忙しそうにしている。

 そんなこんなで、ほとんどの問題に片が付いた状態で、椿は高等部最後の創立記念パーティーを迎えることになる。
 今年は恭介が透子をパートナーに選んだので、椿はフリーになっていた。
 パートナーに悩んでいた椿であったが、不憫に思ったのか佐伯が誘ってくれたので、名前順で組まされることにならずに済んで、彼女はホッとしていた。


 そして、創立記念パーティー当日、椿は迎えにきた佐伯家の車に乗り、会場へと向かう。

 椿と佐伯が会場に到着し中に入ると、周囲の生徒の視線が一斉に椿へと向けられる。
 婚約者である恭介を透子に奪われた哀れな令嬢、というのが今の椿の評価だ。
 あの朝比奈椿がどういう顔でパーティーに出席するのか、誰をパートナーにして来るのか、生徒達は興味津々といった様子を窺っている。
 これまで生徒達に怖がってもらおうとしていた椿は、これは罰なのだと思い、向けられる視線に耐えていた。

 何でもないというような表情の椿であったが、このような視線に晒しておくのは可哀想だと思った佐伯は彼女の手を引いて移動を始める。

「佐伯君、どちらへ?」
「篠崎君と藤堂さんのところだよ。それなら、この視線から逃げられるでしょ?」
「別に耐えられますのに……」

 苦笑している佐伯に手を引かれて、椿は千弦と篠崎と合流した。
 彼女達は、生徒達の椿に対する視線に、表情を作ろうともせず、不快感を表していた。

「事情を存じているので、他の生徒の椿さんを見る目が不快でしかありませんわね」
「まあ、自業自得ですわね。これまで私が生徒達を利用していたのですから、これぐらいで済むのなら安いものです」
「本当に耐えられますのね? 大丈夫なのですね?」
「大丈夫ですわ。むしろ私は会場中の視線を奪うことになる恭介さんと夏目さんの心配をしております。それと、私とペアになったばかりに好奇の視線にさらされている佐伯君も」
「貴女は、いつも他人のことばかり……。もう少し、ご自分のことも大事になさったら?」
「しておりますわ」

 などと千弦と軽口をたたいていると、入り口の当たりが騒がしくなる。
 どうやら恭介と透子が会場に到着したようであった。

「さて、夏目さんが嫌がらせされないように見張っていないと」
「他の生徒は椿さんが水嶋様の好感度を上げようとしているように見えるでしょうね」
「その方が好都合ですわ」

 千弦にしか見えないように椿はニッと笑うと彼女は呆れたような目を向けてきた。
 少しして、生徒のざわめきが大きくなり、椿達のところへ恭介と透子がやってくる。

「ごきげんよう、恭介さん、夏目さん」
「ああ」
「ごきげんよう、朝比奈様」

 周囲の生徒は椿達の会話が気になるようで、こちらを気にしている。

「夏目さんのドレスは去年と比べて大人っぽくなっておりますわね。カタログの中にもそのようなドレスがございましたのね」
「透子が今着ているドレスはお祖母様が持っていたドレスを今風に手直ししたんだよ。お祖父様が着せろとうるさくてな」
「あら、そうでしたの。てっきり恭介さんが買ってプレゼントしたとか仰ったら、夏目さんが申し訳なく思うだろうから馬鹿なことしてって、お尻を蹴ってやろうかと思っておりましたのに」
「……僕はお前のイトコなんだよな? 大事だとか言ってなかったか? 大事なんだよな?」
「優先順位は夏目さんが上ですが、何か?」

 会話を聞いていた周囲の生徒達は、この二人は婚約者同士で椿は透子を嫌っているのではないのか? と目を丸くして驚いていた。

「……透子を優先してくれるのなら、別に構わない。それよりも、本当に大丈夫か? あまり好意的な視線を向けられていないじゃないか」
「そうですわね。まあ、大丈夫ですわ。それに私などよりも恭介さんや夏目さんの方が大変そうですから」

 あっさりと言ってのけた椿を透子は心配そうに見つめている。

「朝比奈様。私達が目立って朝比奈様を嫌な目から守りますからね!」
「ちょっと、夏目さん。なぜそうなりますの?」
「大丈夫です。私は恭介君が居ますから」
「そういうことなら任せておけ」

 じゃあな! と言って恭介と透子は去って行った。

「私、目立つなって言おうとしたのに……」

 という椿の呟きに答えてくれる人は居なかった。

 その後、会場では理事長の挨拶が終わり、ダンスの時間となる。
 椿は佐伯と一曲踊った後で、彼に断りを入れてそっと会場の外へと出た。
 さすがにずっと、あの視線に晒されて椿は気疲れしたのである。

 椿は庭に降りて、近くの椅子に腰を下ろす。
 パーティーは始まったばかりだったので、外に出ている生徒はほとんどいない。
 気を張っていた椿は息を吐いて目を閉じた。
 かすかに聞こえる音楽が心地よく、人の喧騒から離れた場所ということで彼女は穏やかな気持ちになる。
 けれど、目を閉じている間に複数人の足音が聞こえていたことから、カップルが外に出てイチャイチャし始めるのだろうと察した椿は、邪魔にならないようにどこかへ行こうと思い目を開けた。

「え?」

 椿は思わず二度瞬きをして、目の前の人物を凝視する。

「なっ、なんでレオンが」

 紛れもなく、椿の目の前に立っていたのはドイツに居るはずのレオンであった。
 彼は椿を見つめて、微笑み掛けている。
 それはそれは嬉しそうで、また、これ以上ないくらいに椿を好きだというオーラを出していた。

「恭介と佐伯に頼まれたんだ。椿が馬鹿にされて笑われているから、それを吹き飛ばしに来いってな」
「え? 佐伯君? 佐伯君もグルだったの!?」

 驚いている椿を尻目に、レオンは彼女の隣へと腰を下ろした。

「他の生徒から女癖が悪いと思われている俺が、椿と踊っていいのかと思ったんだが、やっぱり、俺は椿が笑われるのは我慢できない。何も知らない馬鹿共に椿の何が分かるのかと腹立たしい気持ちになる」
「そ、れは、どうも……。ていうか、レオンは会場内に入れるの? 今は部外者でしょう?」
「心配するな。ちゃんと学校側から許可は貰っている」

 すでに事前準備は終わっていたと知り、椿は体から力が抜ける。
 恭介も佐伯も気を回しすぎだと思いつつも、椿は嬉しくも感じていた。

「それで、今からダンスホールに入って生徒達を驚かせようっていうの?」
「どちらかというと、俺が好きなのは椿なんだと周知させたい」
「なによ、それ」
「これ以上椿を好きになる男が出てこないようにしたいんだよ」
「あのね、私を好きになるような物好きな男はレオン以外に居ないと思うんだけど」
「……そうだといいんだがな」

 含みを持たせるようなレオンの言葉が引っ掛かったが、椿が理由を聞くよりも早く、彼が先に話し始めてしまう。

「あと、椿。会場中の視線をさらうって意味では俺と会場に入るのはメリットがあると思わないか? 恭介と夏目を守りたいんだろう?」
「まあ、それはレオンの言う通りよね」

 と、椿は差し出されたレオンの手を素直に取った。
 彼女はレオンにエスコートされる形でダンスホール内へと再び足を踏み入れる。

「え? レオン様。っていうか隣に居るの朝比奈様!? なんで!」
「どういうことだ? グロスクロイツ様は朝比奈さんのことを嫌いなはずじゃ」
「どうして朝比奈様をエスコートしていらっしゃるのよ!」
「それに、あんな穏やかに笑ってるレオン様、見たことないんだけど」
「あっ! 手の甲にキスしたわよ!」

 ダンスホール内に入った瞬間に、椿とレオンは生徒達の注目の的になってしまった。
 調子に乗ったレオンが手の甲にキスをしてきたので、椿は彼の足を周囲から見えないように踏んづける。

「やりすぎよ」
「でも、一発で理解してくれただろう? ほら、踊るぞ」

 曲が始まり、レオンは椿とホールの中心へと移動する。
 短時間だが恭介と透子から彼らの視線を奪う事に彼女達は成功した。

「俺の噂のことを考えると、椿が遊ばれて終わるとか思われるだろうな」
「私が真実を知ってるんだから、気にすることないわよ」
「分かっているが、椿が自分と関わることで相手の評価が下がるとか心配していた理由が分かっただけだ。これは嫌な気持ちになるな」
「でしょう? 他人は好き勝手に色々と言うからね。でもそれも数ヶ月の辛抱よ」

 パーティーが終われば期末テストになり、すぐに冬休みへと入る。
 三学期も一月のテストが終われば自由登校となり、ほとんど学校に行く必要はない。
 これらを凌げば、生徒達の好奇の視線に晒されることもなくなるのだ。

「そうだったな。それと、大学進学おめでとう」
「ありがとう」
「高等部を卒業したら、一度ドイツに旅行に来たらどうだ? 色々と案内するし、ナターリエさん達も喜ぶ」
「……そうね。全部終わったら考えてみようかしら」

 前向きな椿の答えにレオンの目尻が下がりまくっている。
 上機嫌な彼の様子を見て、照れ臭くなった椿は視線を逸らした。

 それにしても、恭介が透子と付き合い始めて、美緒の件も解決したので、レオンは分かりやすいように口説いてくるかと思っていた椿は、いつもと変わらない彼の態度に拍子抜けしてしまう。
 けれど、ここで口にして公衆の面前で口説かれても椿は困ると思い、顔を背けたままレオンとのダンスを終えた。
 ダンス中に親しげに話していた様子を見た生徒達は、レオンと椿がそういう仲だと思ったようだ。
 生徒達はヒソヒソと彼女は遊ばれて終わるだとか、どうしてレオンに選ばれたのが椿なのかとか好き勝手に噂している。

「本当に好き勝手に仰ってますわね」
「だが、これで椿が婚約者を奪われた令嬢という評価が消えたな」

 ニヤッと笑ったレオンは椿の背中に手を置いて、彼女を端の方へと連れて行く。

「……それにしても、私に触れたら心臓発作で死ぬとか言ってた割に、平気そうだったじゃない」

 先ほどの手の甲へのキスを思い出した椿が、からかうようにレオンに告げると、彼の顔がみるみるうちに赤くなっていく。

「……それを今、言うなよ!」
「うわ~。耳まで真っ赤ね。ってことは、無意識でやってたんだ」
「椿の悪印象を吹き飛ばしたかったから、深く考えてなかったんだ!」

 顔を真っ赤にさせて椿から目を逸らしているレオン。
 傍から見れば、完全にいちゃついている風に見えてしまう。
 レオンにとっては、椿に無様な姿を晒してしまったと後悔していることだろうが、今のやり取りを見ていた生徒にとっては、彼の本命が椿だとこれ以上ないくらいに分かりやすく示した結果となった。
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