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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 透子が祖父を説得した数日後。
 美緒は隣に椿を引き連れている透子を見て唇をかみしめていた。

「美緒様?」

 ジッと一点を見つめている美緒に気づいた琴枝は彼女の視線の先を辿る。
 そこには先日、恭介と交際宣言をした透子と彼女を監視している朝比奈椿の姿。
 彼女達を見て琴枝は密かにニヤリと嗤った。

「行かないのですか?」
「……見て分かるでしょ! 隣に朝比奈が居るから行けないの! あいつが夏目の側にいる間は近寄れないんだから。早くどっか行けばいいのに」
「朝比奈様は自ら望んででしょうけど、藤堂さんは朝比奈様を止めようとなさっているようですし、もしかしたら水嶋様から夏目さんの側に居るようにとお願いされているのかもしれませんね」

 恭介の名前を出した途端に美緒は表情を曇らせる。
 文化祭の日に美緒は恭介と透子が付き合っているという話を耳にして、怒り狂い周囲の物や人に当たりまくった。
 怒りが収まらない美緒は椿が透子の側に居ない時を見計らって、彼女に文句を言いに行くこともあった。
 といっても、毎回美緒がギャーギャー文句を言うだけで、すぐに取り巻き達に引きずられて離されているのだが。
 本当はもっと色々とやりたい美緒であったが、椿が透子から手を引くまでは動くことができない。

「朝比奈様も嫌がらせしているんでしょうけど、夏目さんが強いのか、彼女の態度は変わりませんからね。まあ、朝比奈様が藤堂様に止められているのもあるんでしょうけれど……。でも、美緒様はこれで良いのですか?」
「良い訳ないでしょ! 私だって夏目をどうにかしてやりたいと思ってるわよ! でも、朝比奈の邪魔をしたら、私が学園から追い出されるんだもの。……私が我慢してやってるのに、あの女は何をグズグズしてるのよ。このままじゃ、創立記念パーティーで夏目が恭介様とパートナーになっちゃうじゃない」

 美緒はイライラして自分の爪を噛み始めたが、そんな彼女を見て琴枝がわざとらしく首を傾げながら口を開いた。

「あれ? 美緒様、御存じないんですか? お昼休みに水嶋様がパートナー申請を行ったみたいで、相手が夏目さんだってことで、先生方が驚いてたんですよ」
「なんですって!?」

 突然、美緒が大声を出したことで周囲の生徒の注目が美緒達に集まる。

「落ち着いて下さい。たかが創立記念パーティーのパートナーじゃないですか」
「たかがですって! 創立記念パーティで恭介様とパートナーになっちゃったら、もう取り返しがつかないじゃない! ……なんで、なんでよ! どうして私じゃないのよ! あんなにイベントを起こしたのに! 私が選ばれるはずだったのに! ゲーム通りに進めたのに!」

 いつものように美緒はヒステリックに叫んでいるが、琴枝は狼狽えることもなく、彼女に気付かれぬようにため息を吐く。
 彼女は何かにつけて"ゲーム"もしくは"恋花"という言葉を良く使っていた。
 これまでは美緒の言葉を半分以上聞き流していた琴枝であったが、取り返しがつかない、という言葉に興味が湧いた。

「……取り返しがつかないとは? それに前から美緒様は仰ってましたけど、ゲームってどういうことなんですか?」
「だから前から言ってるじゃない! ここは『恋は花の如く咲き誇る』っていう乙女ゲームの世界だって! 私と夏目がヒロインで、恭介様は攻略キャラなのよ。恭介様ルートだと私と夏目、どっちでも朝比奈椿が邪魔をしてくるのが決まってるから、今の状況は良くない。全然良くないのよ」
「は、はあ」
「夏目でも私でもゲームの流れだと、創立記念パーティーで攻略キャラとパートナーになって出席することで、そのキャラとのルートが確定しちゃうの! だから恭介様が夏目とパートナーになっちゃったら困るのよ!」

 正直、琴枝は美緒の話の半分も理解できていない。
 彼女は美緒のことを頭のおかしい人間だとずっと思っていたが、相当頭のおかしい人間であると再確認した。
 だが、この頭のおかしさが琴枝に楽しみをもたらしてくれる。
 そして琴枝は、先ほどの美緒のある言葉に引っかかりを覚えていた。
 もしかしたら、面白いことが聞けるかもしれないと思い、そこを突いてみることにした。

「美緒様。先ほど、創立記念パーティーで攻略キャラとパートナーになって"出席"することで、ルートが確定すると言ってましたが、パートナーになった時点で確定ではないのですか?」
「違うわよ! 誘われても必須イベントをひとつでも取りこぼしていたら、パーティーには…………そうよ。パーティーには出られないのよ」

 と言いながら、美緒は『恋花』内で自分と透子が創立記念パーティーに行かなかった、いや、行けなかったのだということを思い出す。
 同時に、エンディングの分岐が存在していたことも。

「……出席してない今なら、エンディングの分岐がまだだから、それをやれば恭介様は夏目のものにならない。それならできる」
「ちなみに、どのような?」

 促されるまま、琴枝の真意に気付けない美緒は、ニヤリと笑う。

「その場合、恭介様から誘われても当日、朝比奈の命令で水嶋家の人間に攫われるのよ。そうなれば私も夏目も会場に行けなくなるの。私や夏目に裏切られたと思った恭介様が怒って関係が修復不可能になることで、私も夏目も恭介様ルートに入れなくなって誰ともエンディングを迎えずに終わる」
「そういう流れになるんですね。それで、えーと……、確認なんですけど、美緒様は……その、水嶋様を攻略するためのイベント? を起こしているんですよね?」
「そうよ」

 美緒の話を聞いた琴枝はどうすれば面白くなるかを考え始める。
 だが、下手に細工をするよりは、そのままの流れにした方が失敗する可能性は低いと思い、そちらの方に美緒を誘導することにした。

「その……私は乙女ゲームというものにあまり詳しくはないのですが、二人の主人公が居る場合、片方を操作している時ってもう一人の主人公はどうなってるんですか? 同時に存在しているものなんですか?」
「…………私の時は居なかった。夏目の時は、恭介様のイトコの異母妹っていう名称で出てたけど、直接の関わりなんてなかったと思う」
「じゃあ、二人同時に存在している今の状況だったらどうなるんですか? 美緒様は水嶋様を攻略するためのイベントを起こしているんですよね? 美緒様と夏目さん、二人が同じ状況にあったとするなら、水嶋様はたまたま側に居た夏目さんを選んだだけなんじゃないんですか?」

 琴枝が首を傾げながら告げた言葉を聞き、美緒は考え込む。

「それって、夏目が居なかったら、恭介様は私を選んでくれるということ?」
「確証はありませんけど。でも、美緒様と夏目さんが同じ状況だとしたら、そうなるんじゃないんですか? だって、ここはゲームなんですよね?」

 現実じゃないんだから、どんな無理だって通るでしょ? と琴枝は暗に仄めかす。
 自分に都合の良いように世界ができていると思い込んでいる美緒は、琴枝の言葉に、確かにそうかも、と思い始める。

「そう……そうよね。どうして考えつかなかったんだろう。夏目が会場に居なければ、恭介様はきっと私を選んでくれる。恭介様だって、夏目よりも私の方が良いに決まってるもん」
「そりゃあ、そうですよ。夏目さんよりも美緒様の方が全てにおいて優れていますからね」
「当たり前よ。私は選ばれた人間なんだもの。あいつらとは違うんだから。選ばれなきゃいけないのよ、絶対に。私が恭介様と結ばれるのは初めから決まってることだもの。大丈夫。間違ってない。私は絶対に間違ってない」

 最後の方は小声になっていて琴枝には聞こえなかったが、美緒がやる気になってくれたのだから十分である。

「朝比奈と同じことをやればいいのよ。ゲーム通りに夏目を攫えば」
「お待ち下さい! それは」
「大丈夫よ。絶対に成功する。成功が約束されてるんだから。ちょっとどこかで大人しくしていてもらうだけよ。危険なことは何もないもん」

 美緒の言葉に焦る振りをして見せた琴枝であるが、思った通りの展開に心の中でほくそ笑む。
 彼女は全く仕方がないですね、というような表情を浮かべて、ため息を吐いた。

「立花家の使用人は使えないから、秋月家の使用人を使うわ。今の社長は母のイトコで、性格はよく分からないけど、私が恭介様の妻になるんだから、秋月家にとってもメリットはあるはず。断るわけない」
「そうですね。……今の秋月家は業績はそんなに良くないって聞いてますから、水嶋家と縁続きになれたら喜びそうですね」
「それは好都合ね。援助をちらつかせれば協力してくれるはず。どこに夏目を閉じ込めようかな。ああ、やることがいっぱいだけど、私が恭介様と結ばれるためだもん。楽しみだわ」

 上機嫌で教室へと向かって行った美緒の後ろ姿を琴枝は馬鹿にした目で見つめる。

「成功しようが失敗しようが、もうどうでもいいけどね。バカじゃないの、あいつ」

 中等部での一件以降、美緒は学校の外で鬱憤を晴らすようになっていたのだが、琴枝は側でそれらを見るのにすっかり飽きてしまっていた。
 新たなおもちゃは見つかってはいないが、大学に行けば人が多くなる分、田舎で育った純粋な子で遊べると踏んだ彼女は美緒から手を引こうと考えていたのである。
 それに、千弦のせいで椿が派手に動くこともなく、琴枝が思っていたような騒動にはならず、不満もあった。
 最後に大きな花火を打ち上げて、観賞して終わろうと琴枝は率先して美緒に夏目を攫うよう誘導したのである。
 初めは夏目を攻撃して椿や千弦が出てきて揉めれば面白いと思っていたが、美緒がゲームだなんだと馬鹿なことを言い出したので、そちらを利用させてもらうことにしたのだ。

 琴枝にとって成功しても失敗しても、どちらでも楽しめる。
 創立記念パーティーを心待ちにしながら琴枝も教室へと戻っていった。
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