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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 帰国後、椿は修学旅行の出来事を家族に話し、お土産をばらまいて弟妹達を喜ばせた。

 そして、毎年恒例の水嶋家のパーティー……の前に、今年は別のパーティーへ出席しなければならない。 
 椿は期末テストと修学旅行が終わり、すっかり魂の抜けた状態であった。
 移動中の車の中でも、そんな調子なので、両親は大きなイベントが終わったのだものね、と顔を見合わせて笑い合っている。

「クリスマスもまだだっていうのに、すっかり魂が抜けてるのね。これからクリスマスやお正月、バレンタインもあるのだから、しっかりしなさい。それにお友達やレオン君も招待されているということだから、尚更そのような態度ではダメよ?」
「え!? レオも来るの! 僕、聞いてないよ!」
「だって、申し上げておりませんから」

 父親からの抗議を、母親はしれっとした顔で受け流した。
 秘密にされていたことで、父親は若干涙目になっている。

「なんで!? 百合ちゃん、なんで!」
「薫さんに教えたら椿ちゃんを連れて行かないでしょう? 折角お友達と会えるのに可哀想じゃありませんか」

 あっさりと母親に言われ、父親はすっかり元気をなくしてしまった。
 我に返った椿は両親の会話に慌てるが、母親はニッコリと笑みを浮かべるだけで父親のフォローをする様子はない。

「椿ちゃんは自分で大抵のことは選択できる年だし、間違えることはないと私は信じているわ。親の勝手で選択肢を狭めてしまうのはいけないと思うの。そろそろ薫さんにも子離れしてもらわないと」

 せめて高校を卒業するまでは! という父親の頼みは母親の笑顔の前では無駄であった。
 母親の方はとっくに子離れしていたんだな、と椿が考えている間に、車はパーティー会場へと到着する。

 会場内に入り、取引先の人達への挨拶を済ませると両親は顔見知りの人達との会話に行ってしまい、椿は挨拶中に見つけていた千弦の元へと向かった。

「ごきげんよう、千弦さん。冬休みのご予定はもう決まっておりますの?」
「ごきげんよう、椿さん。残念ながら冬休みは、生徒会の仕事がありますので、特に予定はございませんわ」

 残念ながら、と口にしているものの、千弦の表情は全く残念そうではない。
 一年の時から生徒会に入って忙しそうにしていた千弦であったが、二学期にあった選挙で中等部の時と同じく副会長になり、更に忙しくしていたのを椿は二学期中に何度も目にしていた。ちなみに、今年の生徒会長は篠崎だ。

「忙しそうにしているのに、テストでは全く成績を落とさないのだから、凄いですわね……。本当に」
「生徒会で忙しい、は成績を落とす理由にはなりませんわ。ただ、今回の期末テストでは夏目さんが三位で私が四位でしたので、三学期は頑張らなければと思っておりますの」
「まあ、夏目さんってそんなに上位におりましたのね」

 成績優秀だとは分かっていたが、透子の順位を知らなかった椿は純粋に驚いた。
 だが、透子は特待生として入学してるので、上位にいて当たり前である。

「これまでも何度か篠崎君が三位だったりして、一体誰が、と私達の間で話しておりましたの。それで、去年の秋頃でしたかしら? 保科君の勉強を見ていた時に順位の話になって、夏目さんが二位だったり三位だったりということが分かりましたの。それで私と篠崎君の謎が解けたということですわ」
「お二人の間で謎の人物として話題になっておりましたのね。あ、もしかして篠崎君がまた勝負だなんだと夏目さんに仰っているのではないでしょうね?」

 過去、恭介に勝負を挑んでいた篠崎を見ていた椿は、彼が透子にも勝負を挑んでいるのではないかと思ったのだ。
 けれど、椿のその考えは違っていたようで千弦は笑みを浮かべながらゆっくりと首を横に振る。

「篠崎君が勝負を挑む相手は水嶋様だけですわ。……ただ、夏目さんの順位を聞いて一喜一憂してはおりますけれど」
「篠崎君って見た目とは裏腹に熱い方ですわね。最初はもう少し冷静な方なのかと思っておりましたが」
「私も最初は取っつきにくい方なのかと思っておりましたが、中等部二年の時に副会長になってくれないかと頼まれたことでガラリとイメージが変わりましたから」
「あれは篠崎君が必死でしたものね」

 当時のことを思い出した椿が笑い声を上げると、千弦も同じく思い出したのかクスクスと笑い始めた。

「俺の名前が出てたみたいだけど」

 椿と千弦が笑い合っていると、自分のことを話している声が聞こえていたのか複雑そうな表情を浮かべている篠崎が声を掛けてきた。
 まさか本人に聞かれているとは思わず、椿と千弦は同時に表情を強張らせる。

「いや、怒ってる訳じゃないよ? ただ俺の名前を出して楽しそうに話をしていたから、何を話してるのか気になってね。話も終わったみたいだし声を掛けたってだけ」
「そうでしたのね。ですが、大した話はしておりませんのよ? テストの話から篠崎君と千弦さんが突如現れた謎の成績上位者を気にしていて、その方が夏目さんだったという話になりましたの。そこから篠崎君が」
「つつつ椿さん! それ以上はお止め下さいませ」

 最後まで話しそうな椿の口を慌てて千弦が手で塞ぐ。
 だが、塞がれたままの椿はもごもごしながらも最後まで話し続けたのだった。
 ちなみに篠崎には全く伝わっていない。

「何か良く分からないけど、悪口を言われていた訳じゃないというのは理解したよ。それよりも、今日は水嶋は来てないのか?」

 話が変わったことで千弦がようやく椿の口から手を離してくれた。

「恭介さんもいらっしゃるとは両親からは伺っておりませんわ」
「そうか。勉強の進み具合を聞きたかったのに、残念だな」
「メールで伺えばよろしいのに」
「文章だと相手の真意が読めないじゃないか。表情の変化が見えないからメールは苦手なんだ」
「それは一理ありますわね」

 と、それまで椿と話していた篠崎の目が千弦を捉え、ある物を見た瞬間に彼は目を細めた。
 篠崎の変化に椿も千弦を見るが、何ら変わった点は見当たらない。

「うん。やっぱり藤堂には青が良く似合うね。ルビーと悩んだんだけど、これなら両方買えば良かったかな」
「……ありがとうございます。今日は篠崎君も招待されていると伺っておりましたので。折角頂いたのですから、着けなければと思いまして」
「別に普段使いでも良かったのに。でも着けてきてくれて嬉しいよ」

 頬を染めた千弦がしきりに胸元のネックレスを触っており、そのネックレスは青色の、というかサファイアのネックレスであった。

「……篠崎君は、そちらのネックレスを千弦さんにプレゼントなさったのね」
「修学旅行のお土産でね。いつもお世話になってるし」
「そうでしたの」

 ほほほ、と椿は笑っているがお世話になっているからといってサファイアのネックレスは普通に考えて贈らないし、ただの友人関係であれば、贈られても頬を染めない。
 これはもしや! と思った椿は、好奇心を抑えきれずに篠崎の問い掛ける。

「ついに、お二人も付き合い始めたという訳ですか?」

 椿は目を爛々と輝かせているが、篠崎も千弦も特に表情を変えないことで、彼女はあれ? と思い首を傾げる。

「期待に添えず、申し訳ないけど、俺は藤堂と付き合ってはいないよ。って、死んだ魚のような目をして俺を見ないでくれるかな?」
「だって、サファイアのネックレスを贈ったのでしょう? 仲睦まじい様子を目の前で見ておりましたのよ? なのに、付き合ってないなんて信じられませんわ」

 鼻息を荒くしている椿を篠崎はまあまあと宥める。
 椿の対応を篠崎がしている訳だが、千弦はというと顔を真っ赤にして使い物にならなくなっていた。
 ということで、篠崎が千弦に代わり説明をする。

「俺も藤堂も生徒会役員。しかも生徒会長と副会長だ。そんな二人が付き合うことになったら、生徒の手前、示しがつかないだろうって話になってね。だから、生徒会役員を引退するまでは現状維持ってことになってるだけだよ」

 二人が話し合っているということは、両思いになっているのだと椿は知り、お節介な親戚のおばさんのように、あらあら、まあまあと笑みを浮かべてた。

「そうでしたのね。もう、千弦さんったら、どうして私に教えて下さらなかったの?」
「こうなると思っていたからですわ……! 全く、貴女という方は……。人の恋愛よりもご自分の恋愛を考えたらいかが? 人の恋を手助けするのも結構ですけれど」

 あ、これは長くなる、と瞬時に悟った椿は、わざとらしく「まあ、恭介さん」といないはずのイトコの名前を口に出して、慌ててその場から離れた。
 背後から「椿さん!」という千弦の声が聞こえたが、彼女は聞こえないふりをして人混みに紛れる。

「自分のことを言われるのは苦手だわ」
「何が?」

 ブツブツと呟きながら椿が移動していると、横から急に話し掛けられ椿は驚いてそちらの方に視線を向ける。
 そこには満面の笑みを浮かべる白雪が居り、椿に向かって小さく手を振っていた。

「あら、白雪君も招待されておりましたのね。白雪家の方は滅多にこういったパーティーに出席なさいませんから珍しいですわね」
「動揺しつつも完璧な受け答えねぇ。さすがだわ」
「それはどうも」
「あと、別に白雪家の人はパーティーに出席しない訳じゃないわよ? 気が乗らない、気が進まないっていう人が多いだけ」
「人付き合い能力としては致命的ではございませんか」

 だが、そういう人が多いのであれば、椿が白雪家の人達をパーティーで見掛けなかったのも納得できる。
 椿の言葉を聞いた白雪は、だってねぇと言いながら笑みを浮かべていた。

「白雪家は職人気質の人が多いのよぉ。あとは奥様に尻を叩かれて渋々出席するって感じね」
「なら、今回はどうして白雪君が?」
「ちょっと話をしたい人が居てね」

 それまで笑顔を浮かべていた白雪が急に真面目な顔になったものだから、椿はドキッとしてしまう。

「そ、そうでしたのね。それでその方とはお会いできました?」
「いいえ、まだよ。目立つ人だからすぐに見つかると思ったんだけど、見当たらなくてね。それから、話は変わるけど独り言を言う時は気を付けた方がいいわよ? 聞こえたのが私だったから良かったものの、こういった場所で素を晒すのはまずいんじゃないの?」
「……そちらは白雪君から話し掛けられた瞬間に反省致しました」
「自覚があるのなら大丈夫ね。あまり長話して色々と言われるのも困るだろうから、あたしはそろそろ行くわ。目的の人を探さないといけないし」

 周囲の視線が集まり始めたことで白雪は気を使い、椿から離れていった。
 再び一人となった椿は、誰か話し相手はいないかと会場内を歩いてまわる。
 招待されている杏奈の姿を探していたが、人が多くて中々見つからない。
 あまり人の顔を凝視するのも行儀が悪いので、視線だけを動かして杏奈を探していた椿は、誰かと談笑中のレオンの姿を見つける。
 彼はすぐに椿に気が付くと相手に断りを入れて椿の元へとやってきた。

「杏奈とはもう会ったか?」

 開口一番にそう言われ、椿はどうして杏奈を探しているのを知っているのかと不思議に思った。

「いえ、まだですわ。会場が広いと探すのが大変ですわね。携帯を触ることもできませんし。というか、よく私が杏奈さんを探していると分かりましたね」
「さっきまで杏奈と話しててね。まだ椿と会ってないって言ってたし、椿も誰かを探しているように見えたから、そうかなと思っただけだよ。……杏奈と別れたのは本当についさっきだから、そう遠くには行ってないはずなんだがな」

 椿は、なるほど、だからすぐに分かったのか、と納得した。
 だが。

「私と杏奈さんが同じ方向に動いていたら絶対に会えませんわね」
「確かにそうだな。ちなみに杏奈はあっちに行ったから反対から向かうといい」

 あっちと言われた方を椿は見たが、横からレオンの視線を感じた彼女は「何か?」と言いながら視線を戻した。

「いや、横顔が綺麗だなと思って見てただけ……済まない。あまりこういうことは言わないように気を付けていたんだけど」
「あまりに自然に口にされていたので、思わず流してしまうところでした」
「相変わらず椿は手厳しいな。どんな口説き文句も椿の前では何の意味もない」
「涼しい顔をして仰るからでしょう。ですので現実味がございませんのよ」
「つまり必死さが見えないということか」

 ふむ、とレオンが考え込み、椿は余計なことを言ってしまったことに気付いた。

「それは、この先の未来の時に取っておくよ」
「未来ですか」
「"今"はどうあっても椿の気持ちを動かすことはできないだろう? 全部終わってからが勝負だと俺は思ってるからな。覚悟しておけ」

 そう言ってレオンが椿の後方に視線を向け、視線を鋭くさせた。
 レオンの嫌いな人でも居たのかと椿が振り向こうとしたが、彼に止められる。

「あの、レオン様?」
「済まない椿。ちょっと話をしなければならない相手を見つけたんだ。話の途中だけど失礼する」

 椿の返事も聞かずにレオンがどこかへと行ってしまい、椿はまたもや会場内をさまよい歩く破目になってしまった。
次回、話し合いです。
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