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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 創立記念パーティーの後、再びレオンは椿と目も合わさないようになり、以前通りに戻っていたが、なぜあそこまで彼は白雪を気にしていたのかと椿は不思議に思っていた。
 だが、自宅に掛かってくる電話でもレオンは白雪の話題を口にせず、彼女が切り出そうとしても言葉を濁すか別の話題を話し始めてしまう。
 これはよほど聞かれたくないのだな、と椿は判断し、白雪の件は口にしないことに決めた。

 そんなこんなで椿が白雪とのことを気にしている間に、高等部の修学旅行が始まる。
 この修学旅行であるが、留守番すると思っていたレオンも同行するというが、ただの里帰りになるんじゃないの? と脳内で突っ込みをいれた椿であった。

 だが、レオンのことよりも大事なものが椿にはある。
 旅先ということで気が緩みがちになりやすいので、恭介と透子が付き合っていると周囲にばれないようにしなければならない。
 美緒や他の生徒達の目から透子を隠すという意味でも、悪目立ちする椿は彼女と同じ班にはなれなかった。
 なので、透子のことは清香に任せることにした。

「ということで、清香さん。アリバイ工作よろしくお願いします」
「お任せ下さい、椿様。あたかもそこに透子が居るかのごとく行動しますから」

 事前に清香との密約を交わして、いざ修学旅行へと出発である。


「それにしても椿は一人部屋か。羨ましいわね」

 船内にある椿の部屋に来ていた杏奈は、広々とした部屋を見て羨ましそうな声を上げた。

「だって、清香さんが夏目さんと同じ部屋になったんだから、私と同じ部屋になりたがる人が居る訳ないじゃない。全然決まらないから、こうして一人部屋になったんだし」
「私が同じクラスだったら良かったんだけどね。それにしても上の階だから景色が綺麗ね。バルコニーまであるなんて羨ましいわ」
「杏奈の部屋にはなかったの?」
「あるけど、やっぱり見える景色は違うからね」

 杏奈は、あー羨ましいと言いつつ、全く部屋から動こうとはしない。

「自分の部屋に戻らないの?」
「同室の子が別の部屋に行ってて暇だから」
「私、杏奈の暇つぶし相手にされたの!?」
「っていうのは冗談。明日はウィーン市内で自由行動もあるし、夜はクリスマスマーケットに行くでしょう? 行き先の確認とか、明日のことの最終確認に来たのよ」

 ということで、行きたい所、買いたい物を時間内に全てこなすため、椿と杏奈は地図と観光本を見ながら、色々と話し合いしつつ、透子と恭介を二人にするための最終確認を行ったのだった。


 翌日、椿と杏奈は清香から透子を託され、美術館へと向かう。
 透子の友人達は、彼女が恭介と付き合っているとは知らなくても、二人が両思いだと思っているらしく、清香のアリバイ工作の提案にのってくれたのだ。
 透子の友人達も協力者が椿だとは思ってもいない。

 そして美術館であるが、恭介とレオンも行く予定になっており、彼らは教師に観光客の迷惑になるからと言って他の生徒達には漏らさないでくれと頼んでいた。
 よって、恭介が美術館に観光に行くとは椿達以外には誰にも知られていないし、杏奈からもこの美術館に行く予定の生徒は彼女達以外居ないと聞かされていたのである。
 椿の予想通り、その美術館には椿達以外に鳳峰学園の生徒は居らず、安心して恭介達と合流することができた。

 美術館へと入り、恭介と透子が先導する形になる。
 徐々に二人から距離を置き、離れたところで椿は、もうそろそろいいかなと口を開く。

「あーいつの間にか恭介達とはぐれてしまったわー」
「分かりやすい棒読みね」
「これは仕方ないわねー。別行動を取らなければならないわー」

 と言って、恭介と透子の姿が見えなくなった瞬間に、椿は杏奈とレオンの腕を掴んで美術館から出ることに成功した。
 椿は恭介に『はぐれたから後は自由行動で。出口で落ち合いましょう』と書いたメールを送る。

「出てきたところで何だけど、杏奈は絵画とか見なくて良かったの? って居ない!?」

 腕を掴んでいたはずの杏奈の姿が見えず、椿は彼女の姿を探す。
 椿が周囲を見渡していると、渋い顔をしたレオンが自分の携帯を彼女に見えるように差し出した。
 そこには『はぐれちゃった。テヘッ』というふざけた文面が映し出されていた。
 やられた…! と椿は額に手を置く。
 恭介と透子を二人っきりにしようと計画していたら、逆に杏奈に嵌められたという訳である。

 創立記念パーティーでは話をしたけれど、こうして二人っきりになるとどうやってレオンと時間を過ごせばいいのかと椿は思ってしまう。
 そんな椿の気持ちなど知りもしないレオンは、彼女が困ることになると判断し、まだ近くに居る杏奈を探そうと提案してきた。

「杏奈が黒髪だったら目立って分かりやすいかもしれないけど、茶髪だからね。さすがにこの人数から探すのは無理よ。それに杏奈のことだから、もうこの場所から離れてると思うわ」
「……言われてみればそうだな。仕方ないし、ここで恭介達を待とうか」
「あと一時間くらいは出てこないと思う。さっき、恭介にメールを送っちゃったし。ここぞとばかりにゆっくり見てると思うよ」

 さすがに一時間もこの場所で待つのは大変だ。
 レオンもどうしようかと考え込んでいる。

「……ここら辺は学園の生徒が来ると思うか?」
「割と外れの方だし、物好き以外は来ないんじゃない?」

 前と同じような態度で、文化祭のことなどまるで気にもしていないレオンの態度に、椿も徐々にいつもの調子を取り戻していく。
 レオンは少し考え込んだあとで、じゃあ、と口にする。

「近くにコーヒーとスイーツの美味しいカフェがあるんだ。ここで待つよりは座って美味しいものを食べながらの方がいいだろう?」
「行きましょう」

 即答した椿はレオンの腕を掴んで、どっち、どっちへ進めばいいの? と喜びを抑えきれずに笑みを浮かべていた。
 いつも通りな椿の様子に、レオンは思わず吹き出してしまう。

「ちょっとレオン!」
「悪い。ちゃんと案内するから、機嫌を直してくれ」
「美味しいものが食べられるのなら、機嫌くらいすぐに直るわよ」
「そうだな。椿はそうだよな」

 まるで自分に言い聞かせるようにレオンは何度も繰り返した後、椿を目的のカフェへと連れて行く。
 店内へと入り、席につくと椿が何もせずともレオンが彼女の希望を聞いて全て注文してくれた。
 しばらくして注文したものがテーブルに置かれるが、椿は前に置かれたリンゴのフィリングが生地でグルグル巻きにされているスイーツを見て、美味しそうだと思うと同時に、何ていうスイーツなのかが気になった。

「これは?」
「アプフェルシュトゥルーデルだ。ここは甘さが控え目で俺のお気に入りでね。ウィーンに来る度に足を運んでる」
「へぇ、美味しそう」

 フォークで切り分け、ホイップクリームを少し付けて口に入れるとリンゴの酸味と甘さが非常にいいバランスで、いくらでも食べられそうである。
 もう一個いけるかな? と考えていた椿にレオンが声を掛けてきた。

「それで、初めてのウィーンの感想は?」
「外国だなーと思ったわ」
「随分とアバウトだな」
「だって、団体行動ばっかりだったから、あんまり外国に居る実感がないのよね。でもこうして自由行動をしてると、聞こえてくる声は全部外国語だから、ああ外国に来てるんだなって思って。そうだ。この後に杏奈と合流すると思うんだけど、ウィーンでこれは見ておけっていうのある?」
「建築だけを見るなら国立図書館がおすすめだな。日本の図書館しか見たことが無いのならきっと驚くと思う。後はシェーンブルン宮殿とか王宮宝物館、シュテファン大聖堂も人は多いが素晴らしいものが見られる。どこに行くかは椿達の好きにすればいいが、外れはない」

 有名な観光場所なだけに人は多いだろうけれど、豪華な内装を見てみたいという欲求は高まる。

「集合時間は確か十六時だったな。お土産を買う時間はあるのか?」
「そこら辺は杏奈と相談かな。ザッハトルテは絶対に買いたいし、チョコもジャムも気になってる。モーツァルト関連、エリーザベト皇妃のお土産とか折角だから買いたいわね。あとスーパーで売ってるようなお菓子も。家族へのお土産でオーストリアのブランドの手袋とかマフラーとか膝掛けとかも欲しいわ」

 あれもこれも欲しいと口にする椿の話をレオンは目を細めて聞いていた。
 彼女は日頃、滅多に食べ物以外で欲しい物を口にすることがないので、レオンからすれば新鮮なのだ。

「だったら、杏奈が全部知ってるから大丈夫だな」
「あの子、割と何でも知ってるのよ。それを考えると意外と杏奈もハイスペックよね」
「何でもそつなくこなすという意味ではそうだな。さて、そろそろ一時間だな。美術館に戻ろうか。着く頃には恭介と夏目が出てきてるだろう」

 二人はカフェを出て美術館へと向かうと、すでに出入り口の近くで恭介、透子、杏奈の三人が待っていた。
 レオンと二人になる原因を作った杏奈を椿はジロリと睨み付ける。

「杏奈、勝手に居なくならないでよ。ビックリするでしょう? 今までどこに居たのよ」
「どこって、美術館だけど」
「一人で?」
「いや、水嶋様達と一緒だったわ」

 ここまで言われてようやく椿は、恭介と透子を二人にしたと思っていたが、実はレオンと彼女が二人きりにされていたということに気が付いた。

「やられたわね」
「杏奈、勝手なことをするな」

 二人きりになれて嬉しい気持ちもあるが、椿の気持ちを尊重すると決めているレオンは杏奈に対して文句を口にする。
 けれど、杏奈は涼しい顔をして、レオンの言葉を受け流した。

「誰の目も届かない場所でゆっくりしたら良いと思ったのよ。ゆっくりできたでしょう?」
「杏奈は誰の味方なのよ、全く」
「私は椿が嫌がらない限りはレオンの味方よ。二人きりは嫌だったの?」

 嫌だったかどうか聞かれれば、椿は別に嫌ではない。
 誰かに見られる心配もなかったし、美味しいものも食べられて幸せであったのは確かだ。

「……スイーツが美味しかったから良し!」
「判断基準がおかしくない!?」

 まだまだ続きそうな二人の会話を、時間が限られているから、そろそろ移動しましょうと透子が止める。
 椿は観光の時間が押したら買い物の時間が減ると思い、彼女の提案に素直に頷いた。

「で、この後、恭介達はどうするの?」
「僕達はデパートに買い物に行く予定をしている。その後は篠崎や貴臣と合流予定だ」
「そう、じゃあまた船でね」

 そう言って恭介達と別れた椿達は、清香のところへ透子を連れて行き、シェーンブルン宮殿の見学をした後に昼食を食べて国立図書館へと向かった。
 日本の図書館とは違う配置に驚きつつ、まるで美術館のような図書館に目を奪われる。

 存分に図書館を見た後で杏奈と共に買い物へと出掛け、目的の物を沢山買い込んだのだった。
 船へと戻り、夕食を食べた後にクリスマスマーケットへと向かい、そこでも椿は旅行のテンションで財布の紐が緩み、色々と買い込んでしまい杏奈に冷めた目を向けられてしまったのである。

 その後も修学旅行は続き、寄港先でクラス別の市内観光やクリスマスマーケットを巡っていた。
 船内では、美緒が恭介につきまとうということはなかったが、ドイツでの自由行動でずっと側に居たのだと疲れ切った顔をした彼が夕食時に呟いていた。
 疲れ切った恭介とは反対に、美緒はこれ以上ないくらいの上機嫌であったことから彼女は今回もイベントを起こしたと満足していると見える。
 勘違いしている内は椿も透子も平和なので良いのだが、彼女に恭介と透子が付き合っているとばれた時が恐ろしくもある。
 透子のことだから美緒と話し合いをして解決しようとするのは分かりきっている。
 椿や千弦の言うことに耳を貸さない彼女が、透子の言うことに耳を貸すはずはない。

「夏目さんに嫌われるのを覚悟で引きはがすか、私が盾になるしかないのよね」

 修学旅行の最終日、椿は部屋で一人その日が来た時を考えて人知れず決意を固めた。
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