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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 文化祭の後、レオンが立ち入り禁止の校舎で、見知らぬ女子生徒を抱きしめていた、という噂が広まった。
 一途だと思われていたのに、女にだらしがない、女好きだと好き勝手に言われており、潔癖な女子からは避けられ、遊ばれてもいいという女子からは近寄られるという結果になっている。
 当の本人は噂など全く気にせずに過ごしていた訳であるが……。
 けれど、レオンが抱きしめていた、いや厳密に言えば抱きしめられてはいないのだが、ともかくその相手が椿だとはばれていない。
 あの時、レオンが眩しそうに目を細めたのは写真を撮られたからだと彼女は思っていた。
 けれど、流れたのは噂だけで、写真は出回ることはなかったのである。
 不思議に思った椿がレオンに訊ねると、彼はあの後に向かいの校舎に行き、写真を撮った相手を見つけて脅し、携帯で撮った写真を削除させたのだという。
 続けてレオンは、だから安心しろ、と言っていたが、椿は自分が居なくなった後にそんなことをしてたのか……! と安心よりも先に驚いてしまった。

 そして、十一月になると、レオンの噂話よりも創立記念パーティーで誰が誰とパートナーになったのかという話題の方で持ちきりになっていた。
 恭介の相手は椿と決まっているため、生徒達はさほど騒ぎはしなかったのだが、噂はどうであれ、今年はレオンがいるので彼が誰をパートナーに選ぶのか気にしているようであった。

「それで結局、レオンのパートナーは杏奈に決まったのね」
「一番、騒がれない相手だものね。私も親戚だから余計な詮索はされないし。良く知ってるレオンが相手だから楽だし。それよりも水嶋様と夏目さんだけど今年はどうするのよ」
「踊らないってさ」

 恭介と透子が出した答えを聞いた杏奈は口を開けたまま固まる。

「自ら目立つような真似はしないって決めたんだって。その代わりクリスマスに出掛けるとか言ってたわ」
「とか言ってるけど、それ立花さん対策なんじゃないの?」
「恭介からしたらそうでしょうね。付き合ってるとばれなければ、仲が良いと知られなければ夏目さんは安全だもの」

 透子は恭介に迷惑を掛けるし騒ぎになるから付き合っていることを公にしない方が良いと思っているが、彼は他の女子生徒や美緒からの攻撃から守りたいと思っているから隠しているのだ。

「健気よね、水嶋様。それで、夏目さんは白雪君とパートナーになったって訳ね」
「部活で聞いてたの?」
「他の部員と話してるのが聞こえてきたのよ。白雪君が側に居るんだったら去年みたいなことにはならないでしょうね」
「だと思う。今回は白雪君が送り迎えするって言ってたから」
「夏目さんは今年は安全そうだから良いとして、レオンのことなんだけどさ」
「え!?」

 不意にレオンの話を振られ、椿の声が裏返る。
 杏奈は不思議そうな顔で椿を見ていたが、彼女はすぐに表情を作りなんでもないという顔をした。

「なんか……文化祭の後から椿、おかしくない?」
「気のせいじゃない?」
「いや、レオの話題を急に出すと変な声を上げるじゃない。文化祭で何かあったの?」
「特に何もなかったけど?」
「あ、もしかしてレオが実習棟の教室で女子生徒を抱きしめてた、って噂を真に受けてるとか? あんなのレオに相手にされなかった女子が当て付けに言っただけよ。気にするだけ無駄よ無駄」

 きっぱりと言い放った杏奈だが、椿はぎこちない笑みを浮かべながら乾いた笑い声を漏らす。
 あの日の出来事があまりに恥ずかしいのと、ばれたらからかわれてしまうのが嫌で椿は何があったのかを杏奈には言ってないのだ。
 当人なので全てを知っている椿であったが、素知らぬふりをして言葉を返す。

「……気にはしてないけど、そんな噂を流されてレオンは何も言ってないの?」
「言いたい奴には言わせておけばいいってさ」

 椿のみならず、杏奈にも同じことを言っていたということは、彼は本当に自分が悪く言われるのを気にしていないようである。
 ということを知っても、椿のレオンに対する罪悪感が軽くなることはない。


 それからしばらくして、創立記念パーティー本番がやってきた。
 去年と同じように恭介と会場入りした椿は、来賓の挨拶後に清香や周防達と話をしつつ会場内へと目を向けると、白雪にエスコートされている透子を見つける。
 今年は何も嫌がらせをされずに無事に会場内へと来られたことに椿は安心した。

 透子の元に行く清香と別れ、椿が千弦や篠崎、佐伯等と挨拶をしている間にダンスの時間となり、恭介に手を引かれながら中心へと誘われ、一曲目が始まった。

「お前、この後どうするんだ?」
「去年と同じよ。佐伯君や篠崎君とダンスをする予定。見つけられたらね」
「レオとは踊らないのか」
「……向こうから話し掛けられたこともないのに、ここで踊るのはおかしくない?」
「前から思ってたが、あいつは椿に気を使いすぎだ」

 椿も恭介の言葉に同意である。レオンは彼女の損得を考えて行動している。
 椿は申し訳なく思っているのだが、レオン本人はまったく気にしていない。

「多分、恭介が夏目さんに対して気を使ってるのと同じなんじゃない?」
「なるほどな。だが、レオは本当に物好きだと思うよ」
「安心して、私もよ」
「お前がそんな態度だから、レオが不憫になるんだ。お前どんな魔法を使ったんだよ」
「知らないわよ!」

 という会話を小声でしながら一曲目が終わり、椿が恭介と離れた途端に彼は女子生徒達に囲まれてしまう。
 心の中で椿は合掌しつつ、彼女は飲み物を受け取り壁際へと向かった。
 佐伯も篠崎も見つけられず大人しく壁の花となり、踊る生徒達を眺めていると椿に杏奈が近寄って行く。

「あ、椿さん。ちょうど良かった」
「杏奈さん? どうなさったの?」

 一曲目を終えてずっと椿を探していたのか、杏奈は少し息が上がっていた。
 杏奈の後ろにはレオンが居り、彼は椿を見て口元を引き締めていたものの目尻が下がっていた。

「私、これから友達と踊らなくちゃいけないから、"これ"頼むわね」
「え?」
「おい、杏奈!」

 "これ"と言われたレオンは杏奈を引き留めようとしたが、彼女は構わずにさっさとどこかへと行ってしまう。
 残されたレオンは一瞬だけ椿に視線を向けると、仕方ないと思ったのか大人しく彼女の横に行き壁にもたれ掛かった。
 腕組みして踊っている生徒達を凝視しているレオンに、椿は話し掛けることができず、しばらく無言の状態が続く。
 周囲の遊ばれてもいいから記念に、と思っている女子生徒達はレオンをダンスへと誘いたそうにしていたが、隣に椿が居るため近寄ることもできずにチラチラと様子を窺っている。
 杏奈から任された以上は、レオンを放ってどこかに行くこともできない。

「……レオン様は、このようなダンスパーティーに出席されることはございますの?」
「たまにだが出席することはある」

 二人が会話を始めたことで、様子を窺っていた生徒達はレオンをダンスに誘うのは無理だと判断し、その場から離れていった。

「文化祭のこと、杏奈さんにもお話ししてないのね」
「わざわざ言いふらすことでもないし、言ったら椿が困ると思ったんだ」
「……ありがとう」
「といっても、我に返った俺が恥ずかしかったという理由もあるから、感謝されることでもない」

 レオンは無表情ではあったものの、非常に声が穏やかで優しいものであった。
 聞く人が聞けばレオンが椿を好きだとばれてしまうと気付き、ちょうど彼女の目の前で恭介が美緒と踊っていたこともあり、その話題を口にする。

「恭介さんはあのように順番に皆さんと踊っていらっしゃいますが、レオン様は?」
「杏奈とは踊った」
「折角、日本にいらしているのですから他の方と交流なさればよろしいのに」
「じゃあ、椿が踊ってくれるっていうのか?」

 突然のことに椿は言葉に詰まってしまった。
 どう答えようかと悩んでいる椿を見たレオンが表情を緩める。
 だが、それは一瞬のことで、すぐに彼は表情を引き締めた。

「冗談だ。あまり目立つ真似はできないだろう?」
「残念ながら、レオン様が鳳峰学園にいらしてから私と会話したことは、この場以外ではございませんでしたからね。目立つのは目立ちますわね」
「……残念だと思ってくれているのか?」
「まあ、多少は」

 と椿が言った瞬間、レオンが勢いよくもたれ掛かっていた壁から離れて驚いた表情を浮かべながら彼女を見下ろした。
 レオンの行動に驚いた椿は体を硬直させる。

「あ、いや。済まない。驚かせるつもりじゃなかったんだ。ただ、予想外の答えが返ってきたから」
「単純にレオン様はどのようなリードをなさるのかと興味があっただけですわ。動揺させる意図はなかったのですが、申し訳ありません」
「……そういうことか」

 心臓に悪い、とレオンが小声で呟いた。
 実際には無意識に椿の口から出ただけであるが、言った本人が一番驚いている。
 何となく気まずくなり、無言になった二人のところへ白雪が笑顔を振りまきながらやってきた。

「目立つ人が壁の花なんて似合わないわよ? まだパーティーは始まったばかりじゃない」
「声を掛けやすい佐伯君が見当たりませんでしたの。顔見知りも居りませんでしたし、杏奈さんからレオン様を頼むとお願いされましたので」
「ふぅん。ねぇ、グロスクロイツ様。ちょっと椿をお借りしても良いかしら?」

 白雪が"椿"と呼んだことでレオンは嫉妬から軽く彼を睨み付けてしまう。
 睨まれた白雪はまったく動じずにニコニコと笑みを浮かべていた。

「……別に。彼女は俺のパートナーでもないし勝手にしろ」
「どうも。じゃあ、椿」

 そう言って白雪が椿に向かって手を差し伸べる。

「あの、白雪君?」
「やぁねぇ。ダンスに誘ってるのよ。男の子に恥をかかせないで頂戴?」

 ハッキリと言われてようやく椿は白雪からダンスに誘われていることに気が付いた。
 自分の評価が白雪に悪い影響を与えるのではないかと椿が余計なことをグルグルと考えていると、彼は椿の手首を持って差し出している己の手に重ねる。

「白雪君。本当によろしいの? あまり目立つような真似は」
「あたしがあなたを椿と呼んでいる時点で、他の生徒はあたし達が親しいって分かってるわよ。それにあたしは変人で有名だし、今更評判が悪くなってもどうってことないわ。ほら、行くわよ」

 椿の手を握り、白雪は踊る生徒達の方へと進んでいく。
 レオンは面白くなさそうな目を向けながら、椿の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
 他の生徒達は椿と白雪という意外な組み合わせを見て目を丸くしている。
 けれど、ちょうど曲が始まるタイミングだったようで、椿は外野の声をじっくりと聞く間もなく白雪とのダンスに集中することができた。

「あ、流れで踊ってるけど、夏目さんは?」
「ダンスよりも透子の心配?」
「去年のことがあったから。一人にしてきた訳じゃないんでしょ」
「当たり前じゃない。ちゃんと美術部の子に託してきたわ」
「なら良かった」

 自分のことよりも他人の事情を優先させる椿に、白雪は知らずに口元が緩んでいく。

「それよりも、グロスクロイツ様よ。椿って彼と仲が良いの? これまで学校で話してるところを見たことなかったんだけど」
「一応、義理のはとこにあたるからね。会話くらいは普通にするけど」
「ああ、そうよね。そうだったわね。すっかり忘れてたわ。それを踏まえてだけど、あたし、もしかして椿をダンスに誘おうとしてたところを邪魔しちゃったのかしら」
「そんな気配はなかったから、大丈夫よ」

 椿の言葉に、白雪は苦笑している。

「他人をよく見てる割に、意外と男心は分かってないのね」
「何が?」

 何のこと? と椿が問い掛けるが、白雪は笑顔のまま曖昧に誤魔化すだけで話してはくれなかった。

 ダンスが終わり、別れ際に白雪はボソッと「どういうつもりかしらねぇ」と呟いたので椿はどういう意味なのかを聞こうとしたが、既に彼は生徒達の波にのまれてしまっていた。
 疑問に思いつつも、本人が居ないのでは仕方ないと思い、椿は端の方へと移動する。
 彼女は周囲を窺ってみるが友人の姿は見えず、また人が多かったこともあって一旦会場の外へと出ることにした。
 外にはカップルやダンスに興味のない生徒達がちらほら居り、椿はなるべく生徒達に視線を向けないようにしながら歩いていると、ベンチに座っている恭介とレオンを見つける。
 人気者の二人がこんなところで何をしているのかと、彼女は声を掛ける。

「女子生徒の皆さんが探しているのではなくて?」
「!? って、なんだ、椿か。驚かせるなよ」
「休憩中ですの?」
「ノルマは果たしたからな。お前はどうした」
「人が多くて移動が難しそうだと思いましたので、一旦外に出ましたのよ。それでちょっと散歩でもしながら会場内へと戻ろうかと」
「そうか。僕はもうしばらく休憩してるから、レオを連れて行ってくれ。五月蠅くてたまらない」

 ため息交じりの恭介の言葉に、レオンはジロリと彼を睨み付ける。

「お話ししていらしたのでは?」
「話はもう終わったし、椿に託した方が楽だ」
「杏奈さんといい、恭介さんといい、なぜ私にレオン様をすぐに託すのですか」
「ちょうどいい所にお前が来るからだ。じゃあ、よろしく」

 恭介から押し出されたレオンは渋々会場の方へと移動を始める。
 本当に良いのかと椿が恭介を見るが、彼は素知らぬ顔で遠くを見つめていた。
 ため息を吐いた椿は、やや遅れる形でレオンの後を追う。

「外にいらしたということはパーティーがつまらなかったとか?」
「……あの男とは仲が良いのか?」
「は?」

 質問に質問で返されてしまい、椿はマジマジとレオンの顔を見てしまう。

「あの男って?」
「さっき椿をダンスに誘ってた男だ」
「ああ、白雪君のことですか。仲は良い方だと思いますが、彼は夏目さんのお友達ですのよ。特別私と親しいという訳ではございませんわ。どちらかといえば、夏目さん側の方です」
「じゃあ、どうして」

 言いかけてレオンは慌てて口を手で塞いだ。

「どうなさったの?」
「いや、なんでもない。それで、その男は信用できるのか? 利用されるだけされて椿が不利な状況になりはしないのか?」
「心配なさらなくても白雪君には私の素の姿がばれておりますのよ。ですが、それを他の生徒にばらすでもなく、秘密にしてくれております。少なくとも私は彼を信用に値する人物だと思っておりますわ」

 途端にレオンは片手で顔を覆い「まいったな」と口にする。

「私だって、ばれたくてばれた訳ではございませんわよ」
「違う。違わないけど違う」
「じゃあ、どういうことですの?」
「どうって……。椿をダンスに誘ったんだぞ」
「仲がよろしいのですから、ダンスくらい誘うのでは?」
「だから、そうじゃなくって」

 言いたいことが椿に全く伝わっていないことにレオンは頭を抱えている。

「もう! レオン様は何が仰りたいの?」
「いや、いい。俺が勝手に心配しているだけだから、気にするな。むしろしないでくれ」
「確かに、レオン様は白雪君のことをよく存じ上げている訳ではございませんから、私が利用されているのではないかと心配になる気持ちも分かりますが」

 という椿の声をBGMにしながら、会場内に戻るまでレオンは頭を抱えたままであった。
 椿も椿で彼が何を言いたいのかがさっぱり分からず、その後のパーティー中もそのことばかり考えてしまい、モヤモヤが残るまま創立記念パーティーを終えたのである。
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