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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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早いもので椿達が水嶋の家に来て1年ちょっとが経過した。
ついに今年は小学校受験な訳なのだが、この受験を乗り切れば大学まではエスカレーターで受験地獄に巻き込まれずに済むはずと椿は密かに闘志を燃やしていた。
そんな椿と恭介が受験するのは予想通り鳳峰学園の初等部であった。
恭介を魔の手から守る為にも同じ学校の方が都合が良いと椿は考えていた。また、美緒が入学してくるのはゲーム通りであれば中等部からであるが、恐らくこれはゲーム通りになるのではないかと思われる。

そもそも倉橋との一件は水嶋と秋月の確執を知っていて、美緒の母親が幼少時より椿の母を目の敵にしていた事を知っていた人達の間では美緒の母親が仕掛けた事だと噂され、公然の秘密となっている。
それ以外の人達の間では、元凶は倉橋と言う意見で一致している。それに周囲はどちらかと言うと騙された母親の方に同情的だった。
さらに離婚して数年しか経っていない腹違いの姉妹を同じ学校に通わせるなんて学校側も避けたいだろう。絶対にトラブルにしかならないのは目に見えている。
椿と美緒が鳳峰を受けたとして、学校側は確実に水嶋の血縁者である椿の方を受からせるはずである。
ここら辺は水嶋の権力様々である。
これらは椿が鳳峰に受かればの話なのだが、小学校の受験は生活態度や簡単な一般常識テスト、運動テストなどだから、面接が重視されている時点で楽勝だと椿は思っていた。

そんなお受験ムードの中、伯父との距離が縮まり、ついに伯父と交換日記を始めた恭介の機嫌が最近すこぶる悪い。
理由は分かりきってるので誰も敢えて触れようとはしない。

その理由なのだが、実は明日、椿達は水嶋の家から出て行く事になっている。
婚約していた朝比奈と母親がつい先日、再婚したからだ。
朝比奈家が所有する家を貰い受け、そこで椿達の新生活が明日から始まる。

せっかく出来た同年代の友人である椿と、実母と雰囲気の似た椿の母親が居なくなる事が耐えられないのだろう。
だからと言って椿だけ残る訳にはいかないし、朝比奈に水嶋家に越して来て貰う訳にもいかない。
恭介には我慢してもらう他ないのだ。どうせ来年になったら同じ学校に行くのだし、それまで我慢してもらいたい。

そう言って、伯父や母親から説明されても口では分かったと言いつつ恭介の纏う不機嫌オーラは変わらない。
いつものようにサンルームで勉強していた椿は、おやつを食べていた恭介から遠慮がちな口調で問いかけられた。

「また、家に遊びに来るか?」
「うん。そのつもり。この家のサンルームでおやつ食べるの大好きなんだよね」
「そ、そうか」

どうやら恭介は椿が水嶋家から出て行ったら、もう来ないと思い込んでいたようだった。
実際、また家に来ると椿が答えると、恭介は途端に笑顔になり、嬉しそうに口元を緩めている。
相変わらず機嫌を取るのがちょろすぎて心配になるレベルである。
すっかり機嫌を直した恭介は最近覚えたばかりだというチェスを1人でやり始めた。
1人チェスとか淋し過ぎると、椿は手を止めチェスに没頭している恭介を見つめる。
椿はオセロだったら出来たのにと思ったが、残念ながら水嶋家にはオセロは無い。
それに、椿にはチェスを覚える気は無かった。覚えたところで恭介にボコボコに負かされるのは目に見えているからだ。
頭の出来が常人と違う人間は物覚えも早い。まして椿は前世でもチェスをやったことがないのでハンデも無い。
今、恭介が何をしているのかも、その駒に何の意味があるのかも椿にはさっぱり分からないのだ。
楽しそうに駒を動かしている恭介の手元を椿は眺めながら、水嶋で過ごした1年を思い返していた。
思えば、嵐の前の静けさのようにゆったりとした平和な時間だった。
恭介と伯父の関係修復が上手く行きそうで良かったと思うし、母親を救い出せて本当に良かったと思っている。
自分に出来る範囲で母親と恭介を幸せに出来る様に頑張ろうと椿は決意を新たにした。

翌日、約1年お世話になった水嶋家に別れを告げ、椿と母親は迎えに来た朝比奈と一緒に新居へと向かった。
朝比奈家は水嶋家から車で30分程の場所にあった。
水嶋家を見慣れているせいではあるが、朝比奈家も大きくはあるのだが、水嶋家のような華美さは無い。
椿はむしろこちらのデザインの方が落ち着くと感じ、これから過ごす家が快適そうだと嬉しくなる。
また使用人も人数が少なく、メイド2人、料理人、運転手兼護衛の計4人であった。
朝比奈家の使用人が並び椿達を出迎えている中、椿は屋敷を見渡し朝比奈に向かって話しかけた。

「洋館なんですね」
「あぁ、母がこだわって建てた家だからね。内装もアンティークが多くてぶつかって壊しやしないかとビクビクするんだよね」
「ふふっ。わたくしもぶつからないようにしないといけませんね」

などと話をしながら朝比奈が椿の部屋まで案内をしてくれた。
椿の部屋はピンクを基調とした可愛らしい部屋で、天蓋付ベットまであった。
前世の自分が子供の頃予想していたお姫様のような部屋だなと思い、使うのが勿体ないと感じた。
部屋の内装を堪能した椿は自室から階下のリビングに向かい、ソファに腰を下ろした。
側に控えていた使用人がすぐに紅茶を淹れてくれる。
そこに他の部屋の案内を終えた朝比奈と母親がやって来て向かいのソファに並んで腰を下ろした。

「部屋は気に入ってくれたかな?」
「はい。使うのがもったいないくらいです」
「良かった。足りないものがあったら言ってね」
「はい」

最初に会った時と今も朝比奈に対する椿の印象は変わらない。
人懐こく頼りなさげな人だとそう思っている。
だが、母親を大事にし幸せにしてくれる最良の人だとも思っている。

朝比奈は初婚だが、母親は2度目なので結婚式も披露宴もしなかった。
その代わりウェディングドレス姿で写真撮影をし、親族で食事会をした。
朝比奈はハーフなので、当然だが母親、椿にとっては義理の祖母にあたる人は外国人である。
キリっとした美人の朝比奈夫人はドイツ人なのだと事前に朝比奈が椿に教えてくれた。
朝比奈の祖母は連れ子の椿にも優しく接してくれた。
見事な金髪碧眼の美人な淑女に椿は終始うっとりとした視線を送っていた。

当日の母親のそれは見事なウェディングドレス姿を思い出し、1人回想していると自分の話題が出た事で椿は我に返り朝比奈の言葉に耳を傾けた。

「それでね。妹が久しぶりに百合子さんに会いたいって言ってきてるんだけど、椿ちゃんの受験もあるでしょう?12月には朝比奈のクリスマスパーティもあるから、そこでもいいんだけど、恵美里が2人で話したいって言って聞かなくてね。だから1月くらいにどうかなって思って」
「まぁ、恵美里さんが?この間はお仕事でしたものね。私も久しぶりにお会いしたいわ。電話ではお話しする機会がありましたけれど。高等部以来ですわね。お元気かしら?」
「元気だよ。この間も六法全書両手に持ってスクワットしてたし」
「相変わらずのようで安心しましたわ」

六法全書を両手に持ってスクワットと聞いて椿は驚いたが、母親はまるで当たり前の事のように笑って流しているので、朝比奈の妹である恵美里は変わり者であると椿の頭にインプットされてしまった。
そもそも朝比奈の妹の恵美里は弁護士なので六法全書を持っていても不思議ではないと椿は一瞬納得しかけたが、そう言う事ではないよねと我に返った。

「それと、妹の子供が椿ちゃんと同い年なんだよ。杏奈って言うんだけどね。仲良くしてくれると嬉しいな」
「そうなのですか?どんな子なんですか?」
「年の割に大人びてる子だね。明るくて利発な子だよ。きっと椿ちゃんと気が合うと思うな」
「それはお会いするのが楽しみです」

割と個性的な朝比奈家だから、きっとその子も面白い子に違いないと椿は期待に胸を膨らませた。
だが、まずは目の前の受験である。

その日から椿は受験勉強に追い込みをかけた。
と言っても大抵の事は難なく出来てしまっていたので人生2周目様々であった。

話は変わるが、この1年での変化は椿だけでなく、美緒の方にもあった。
母親が再婚した少し後、美緒の母親も再婚したのだ。
相手は医者で都内で総合病院を営んでいる院長の長男だと言う。
相手の性格までは分からないが、美緒の母親が扱いやすい相手なんだろうなと椿は簡単に推測出来た。
この再婚によって、美緒は私生児と言う立場から総合病院の時期院長令嬢と言う立場になった。
恐らく彼女はヒロイン補正だから当然とでも思っているのかもしれない。
美緒を助長させるのは良くないとは思うけれど、椿が関われない以上美緒を矯正するのは不可能である。
再び会う時までに美緒がどんな人間に育っているか、考えるだけで椿は胃が痛くなってくる。
美緒が恭介を狙っているのが明らかである以上、いずれ椿と美緒は衝突する事になる。
その時に少しは椿の言葉に耳を傾けてくれるような人間になっていて欲しいとは思うが、美緒の性格や環境を考えると無理だろう。
そもそも現状がゲームとはかけ離れた結果になっているのだから、どこかでおかしいと思うべきなのだが、あれ以来美緒と会う事もないので彼女に心境の変化があったのかすら椿には分からない。

椿が朝比奈家に引っ越してから数日後、水嶋家を出て行ってから、頻繁にとまでは行かないまでも椿は水嶋家に顔を出すようにしている。
恭介の方も受験対策で忙しいのか、椿がいつ行ってもテキストとにらめっこ状態だ。

「恭ちゃん。はいチョコ。疲れた時には甘いものが一番だよ」
「ありがとう」

水嶋家に来る前にデパートで買って来たチョコを一粒恭介に差し出すと、彼は椿に礼を言い、チョコを受け取り口に入れた。
恭介が椿に向かって礼を言った事で、椿はこれ以上ないくらいに驚き、一瞬固まってしまっていた。

「…恭ちゃんがありがとうって言った」
「僕だってありがとうぐらい言える!僕を何だと思ってるんだ」
「俺様恭介様」

即答で答えると、恭介は唖然とした顔で椿を凝視していた。
椿は恭介が俺様な性格をしている事を自覚して無かった事に驚いてしまった。

「椿の方こそ大丈夫なのか?」
「私は平気だよ。先生からもお墨付き貰ってるし。一応復習はしたりしてるけどね」
「え!?お前が!?」
「そこまで驚く事?私を何だと思ってるのさ」
「山猿」

山猿と言うのは椿の前世の子供時代のあだ名であった。
今回は野山を駆けずり回ってないのだからその名前は不適切だ!と言う意味を込めて椿は恭介を睨み付けた。
椿の怒りに満ちた表情を見て、恭介が慌てて椿から視線を外し再びテキストを解き始める。

確かにターザンごっこをしたり泥団子を作ったりしたのは椿の落ち度かもしれないが、それだけで山猿呼ばわりとは心外だと椿は不満であった。
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