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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 レオンが留学してからしばらく経過し、文化祭が近づいてきたこの日。
 椿は千弦、杏奈、透子、清香、蓮見の女子六人で集まりサロン棟の個室で談笑していた。
 文化祭の話をしつつ、話題は次第に留学してきたレオンの話へと移る。

「この間のカフェテリアでの一件以降は、皆さんも落ち着きを取り戻したようで静かになりましたから、ようやくグロスクロイツ様もゆっくりできるのではないかしら。それにしても水嶋様といい、グロスクロイツ様といい、目立つ方はどこにいっても周りに女子生徒がいらっしゃるので大変ですわね」
「あいつは、最初から近寄る女子を目に入れてなかったから、さほど気にしてなかったみたいですけどね」

 レオンから話し掛けられる機会の多い杏奈は、彼から話を聞いていたようでそう答えると、千弦は意外そうな顔をした。

「そうでしたの? グロスクロイツ様の女子生徒達に対する態度が態度でしたので、嫌なのではないかと思っておりましたのに」
「自分にまとわりつかれるよりも、それをある人に見られることの方が嫌だったってだけですから」

 意味深な視線を杏奈から向けられた椿は平静を装いながら紅茶を口に含む。
 レオンが椿を好きだという情報を知っている千弦と透子は微笑みながら椿を見てくる。

「私、あの場で見てましたけど、愛されっぷりに口元がにやけるのを押さえられませんでした」
「あら、夏目さんも御存じでしたのね? 私も自分のことではないのに、顔が熱くなってしまいましたわ。あのように長年想いを寄せているとハッキリと仰って、かつ他の女性は目に入らないだなんて……。一度言われてみたい台詞ではありますわね」
「まるでマンガやドラマのワンシーンを見てるみたいでした」

 興奮気味に話している二人を蓮見と清香が不思議そうに眺めていた。

「千弦様も夏目さんもグロスクロイツ様の想い人を御存じなのですか?」
「噂ではグロスクロイツ様の同級生でどこぞの令嬢だとか言われてますよね。お淑やかで清楚で思わず守ってあげたくなるような儚さのある笑顔の素敵な美人だとか。病弱でか弱い方だから心配をかけたくないとか色々と言われてますけど」
「そのような方に敵うはずがないと思ったから、女子生徒達はグロスクロイツ様に近寄らなくなったのでしょう? 勝負にもならないと諦めたと」

 蓮見と清香の言葉に杏奈は笑い出した。
 目の前のレオンの想い人と噂で言われている人物とのあまりのギャップに堪えきれなかったのである。
 それは千弦も同じだったようで、彼女も口を手で覆って肩を小刻みに震わせていた。

「お淑やかで、せっ、清楚とか。びょうっ、じゃく。っあり得ない」
「八雲さん。さすがに本人を目の前にして失礼ですわよ」
「そういう藤堂さんだって笑ってるじゃないですか」
「ここまで言われて、すました顔をしていらっしゃるのを見ましたら笑いたくもなりますわ」
「それもそうですよね。で、お淑やかで清楚で思わず守ってあげたくなるような儚さのある笑顔の素敵な美人、と評されたレオの想い人である椿。何か言いたいことはある?」

 レオンの好きな人が椿だとバラしたことで蓮見も清香も目を丸くしている。
 彼は一切椿に話し掛けることもなく、視線を向けてもいなかったことから二人は相手が彼女だとは思いもしなかったのだ。
 バラされた椿は不機嫌そうに杏奈を睨み付ける。

 一方、清香はようやく合点がいったようで「あ」と声を出した。

「だから中等部三年の花火の時に椿様の隣にグロスクロイツ様が座ったんですね! 全然気付きませんでした。でも透子はどこで知ったの?」
「あのね、夏休みに恭介君と朝比奈様とグロスクロイツ君とお祭りに行った時に本人から聞いたの」

 言うタイミングを逃し続けてしまい、レオンのことを清香に秘密にしていたことになり、椿は彼女が仲間はずれにされたとか嫌な気持ちになったのではないかと思い焦り始める。

「あの、清香さん。わざと黙っていた訳ではありませんのよ? ただ、レオン様は私のことを好きですの、なんて口にしてもただの自慢になってしまいますし、どのタイミングで話題に出せばいいのかで悩んでしまって口に出せなかっただけなのです」
「いえ、知らなかったことにショックを受けている訳じゃありませんから。知らなかったとはいえ、これまで失礼なことを椿様に仰ってなかったか、と心配にはなりましたけど。それに椿様の立場を考えれば、簡単に口にできることでもありませんもの」

 嫌な気持ちになっていないと知り、椿がホッと息を吐いたと同時くらいに清香が目を輝かせて身を乗り出してきた。
 いつになく積極的な清香の姿に椿は驚き、体を後ろに反らしてしまう。

「それで、切っ掛けは何ですか?」
「あら、鳴海さんも気になりまして?」
「当たり前です。私は花火の時からお似合いだと思っておりましたから」
「あ、私も切っ掛けは気になります。私の話もほぼ全て知ってるんですから、朝比奈様のお話も聞いてみたいです」
「では、最初から知ってる私が説明するわ」
「きゃー、ワクワクしますね。ドキドキですね」
「どんな物語があるのか胸が高鳴ります」
「ほ、本人の、本人の了承を得ないといけないんじゃないかしら!」

 待て待て待て! と椿が今にも話し出しそうな杏奈を止めた。
 彼女はしれっとした様子で特に悪びれもせずに椿と視線を合わせた。 

「レオからは信頼している相手にならば言ってもいいと言われてるけど」
「レオン様じゃなくて私の方ですわ!」
「どうせ身内しか居ないんだから大丈夫よ。ペラペラ喋る人達でもないし」
「そうじゃなくて! 私の居ない場所で話して下さいな」

 さすがに恥ずかしすぎる、と思って椿は言ったのだが、杏奈は聞き入れてはくれなかった。

「だって、気まずそうにしている椿を見たいんだもん。あと、私が狙ってた最後の抹茶のマドレーヌ食べたし」
「……絶対に後者が本当の理由ですわね」

 鼻で笑った杏奈は椿の制止も聞かずに六歳の頃からの思い出話を披露し始める。
 時折、透子と清香のきゃーという声をBGMにしながら、椿は居たたまれない時間を過ごしたのだった。


 その週の土曜日。
 椿は父親に同行し、あるパーティーに出席していた。
 大規模なパーティーの為、会場は広く招待客も幅広い。
 これまで出席したパーティーで会った人もチラホラ見掛けたが、ほとんどは初対面であった。
 いくら椿が身内以外のパーティーに出席するようになったとはいえ、まだまだ数自体は少ない。
 背が高く見た目が整っている父親は広い会場内でもかなり目立つため、自然と隣に居る椿にも招待客の視線が集まる。
 父親も多方面に友人知人が多い人なので、会場内にも彼を知っている招待客は多い。
 つまり、隣に居る十代後半の少女が水嶋総一郎の孫娘の椿であるということはすぐに分かる訳だ。
 周囲には椿の婚約者は恭介だと思われているため、父親と出席したパーティーであからさまにアプローチしてくる男性は居なかったのだが、さすがにこれだけ規模が大きいと様々な思惑の人達も居る。
 父親と挨拶を交わしながらも、ちゃっかり椿に自分の息子を紹介する人物。
 椿をこれでもかと褒めて自分を売り込んでくる人物。
 いずれも椿の父親によって軽くあしらわれているのだが、惚れさせてしまえば問題はないと思っている彼らも諦めない。

 その内、父親がどうしても椿の側を離れなければならない場面がやってきてしまい、彼女を同じ会場に居た音羽真知子に託して席を外してしまった。
 立ち去っていく父親の後ろ姿を眺めていると、椿は真知子から話し掛けられる。

「そういえば、もうすぐ修学旅行でしょう? 相変わらず、高等部はリバークルーズなの?」
「そうなんです。ウィーン市内で自由行動の予定があって、今から計画を立てております」
「有名なところは鳳峰の生徒でいっぱいになるから、海外って気がしないのよね」
「ですので、鳳峰の生徒が選ばないような場所を頑張って探しておりますの」

 でなければ、恭介と透子を二人にさせられないからな! と椿は心の中で呟いた。
 真知子は海外で暮らしていた経験もあり、ウィーンにも頻繁に旅行に行っていたようで、椿は彼女から色々な情報を教えてもらったのである。
 その最中、椿は二十代くらいの男性三人に声を掛けられた。

「これはこれは。朝比奈様が他人の目に触れさせぬよう、大事に守ってこられたご令嬢にお目にかかれるなんて光栄です」
「どうも」
「椿さんは鳳峰学園の高等部に通われているとか。成績優秀であると伺っていますよ」
「普通ですわ。学年トップという訳でもございませんから」
「椿さんのような可憐な女性が居ると場が華やぎますね」
「ありがとうございます」

 真知子と話しているにも拘わらず、それを無視して話し掛けてきた時点で、椿はまともに男性達と相手をする気はなくなった。
 男性達と目を合わさずに時折、テーブルに並べられた料理を眺めながら椿は右から左へと聞き流して適当に返事をしていた。
 隣に居た真知子がさりげなく会話を誘導してくれていたが、彼らは椿しか目に入っていないのか彼女の存在を無視している。
 どうしようもないと思ったのか真知子はさりげなく椿を別の場所へと連れていってくれたが、ここまでされても男性達は拒絶されているとは思っていないのか彼女の後を追いかけてきて自慢にもならない自慢話を聞かせてくる。
 いっそ高飛車な態度で相手を小馬鹿にした応対をしてやりたかったが、世間体がストッパーをかけてくる。
 いい加減ウンザリしてきた椿が視線を別の方向へと向けると、女性に囲まれたレオンが彼女の目に入った。
 彼も招待されていたのかとか、相変わらず女性に囲まれて大変そうだとか色々と思うことはあったが、見知った人物の姿を見つけてホッとしたのは事実である。
 レオンは椿の視線に気付いたのか、はたまた偶然こちらを見たのか定かではないが、ともかく視線をこちらに向けたことで互いの視線が交わった。
 まさか椿が居るとは思っていなかったようで、レオンは二度まばたきをして彼女の方へと体を向けてゆっくりと歩いてきたが、彼女が男性に囲まれている様子を見て眉をひそめて早足で向かってくる。
 不機嫌さ全開のレオンを見て、椿はどうしたのかと戸惑っているが彼の視線が自分を通り越していることに彼女は気付く。
 視線の先を辿ろうとした椿であったが、先にレオンから話し掛けられてしまい見ることは叶わなかった。

「昨日ぶりだな、椿」
「ごきげんよう、レオン様。レオン様も招待されておりましたのね」
「日本に留学しているのだから、交流を大事にしろと父から言われてね。ところで、薫さんはどうした」
「重要なお話があるとのことで席を外しております」
「……そうか。ところで、そちらの皆様は?」

 レオンが椿の後ろを見たので、そういえば男性達に話し掛けられている最中であったことを彼女は思い出した。
 椿が振り向くと、男性達はなんとも居心地が悪そうに突っ立っている。

「椿さん。グロスクロイツ様。飲み物はいかが?」

 真知子がさりげなくレオンの名字を口にすると、男性達はまさか目の前の男がグロスクロイツ家の人間だとは思っていなかったのか、何やら言い訳を口にしながら離れていった。
 レオンの顔を知らなかったあたり、あまり名の知れた家の人間ではなかったようである。

 彼らを見送った後で、レオンは助け船を出してくれた真知子へと向き直った。

「貴女は……確か音羽一族の音羽真知子さんですね。……俺の名字を出したのはわざとですか?」
「あら、迷惑だったかしら?」
「とんでもない。それで彼らが椿の側から離れたのだから問題はありませんよ」

 レオンの言う通りであったことから、とにかく助けてくれたお礼を言わなければ、と椿は彼に声を掛ける。

「レオン様。話し掛けて下さって助かりました。ありがとうございます」
「ただの醜い嫉妬からの行動だ。感謝されることじゃない」
「それでも結果としては助かりましたから」
「そうか」

 そう言ったっきりレオンは無言になり、通りがかったボーイから飲み物を受け取る。
 椿は真知子にも礼を言うと、彼女は軽く手を振って笑みを浮かべながら「騎士が来たのなら大丈夫ね」と口にした後で口を閉ざした。
 どうやら真知子は椿とレオンの会話に混ざる気はないようである。
 けれど、真知子は先ほどのことでレオンの気持ちに気付いたようでニヤニヤ顔のまま椿を見ている。
 彼女は落ち着かない気持ちのまま、レオンへとの会話を再開した。

「……レオン様。学校には慣れましたか?」
「え? あ、あぁ。ドイツの学校とは違っているから大変だけど、慣れたな。日本の授業も興味深いし色々と勉強になる。それと、学校での椿に対する態度はああいう感じで良かったか?」
「気を使わせてしまい、申し訳ありません。そう頻繁で無ければ別に世間話くらいは致しますのに」
「そうは言っても、俺は椿を困らせたいとは思ってない。現状では杏奈以外と親しくしている女性は居ないし、その杏奈もはとこという関係があってこそだ。それに前にも言ったが、椿と話している内に嬉しいだとかいう感情が表情にでないとも限らない。身内しか居ないサロン棟でだって話せるんだから大丈夫だ。椿が気にすることじゃない」

 これはレオンに大分我慢をさせているのではないかと椿は思い、罪悪感を持つ。
 けれど、そうまでして椿のために我慢してくれるとは。

「つくづつレオン様って私に甘いですわね」
「嫌われたくない男の無駄なあがきだよ。……さて、保護者が戻ってきたようだし、俺はこれで失礼させてもらう。また学校で」

 レオンが去って行ったと同時に離れていた父親が戻ってきて、帰っても問題ないという時間になったことで椿達は真知子に別れを告げて会場を後にした。
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