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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 残りの夏休みは杏奈を引き連れてレオンと観光に出掛けたりしていたが、彼も新学期の準備諸々で忙しいらしく片手で数えるくらいにしか会うことはなく、椿は新学期を迎える。

 始業式で留学生の紹介としてレオンが壇上で挨拶をしたのだが、そこかしこで女子の興奮した声が聞こえてきた。
 お祭りの時に椿が心配した通り、レオンは鳳峰学園の女子生徒達のアイドルとなってしまったようである。
 また、彼は恭介と同じクラスとなったことで、一緒に居ることが多くなり、尚更女子生徒達が寄ってきて大変なことになるだろう、と椿は心の中でレオンに同情した。

 放課後になり帰ろうとしていた椿は、女子生徒達がレオンの姿を一目見ようと彼のクラスに押しかけている場面に遭遇する。
 動物園のパンダじゃあるまいしと思ったが、彼女達からすれば物珍しいことに変わりはない。
 少し遠回りになるが反対側から玄関まで行こうかと椿が考えていると、ちょうど教室から出てきたレオンと目が合う。
 夏祭りの時はああ言っていたが果たして彼はどうでるのか、と椿が警戒していると、レオンはそのまま顔を背けて彼女が居る方向とは逆の方向へさっさと歩いて行ってしまう。
 あっさりした対応に椿は安心すると同時に無駄に警戒していた己を恥じた。

 レオンが移動を始めると女子生徒達は彼の側に行き、どうにか気を引こうとあれこれ話し掛けている。

「グロスクロイツ様! 私が校内の案内をします」
「あ、ずるい! 私がやります」
「私もやります。ちょっとした穴場を知ってるんですよ?」

 という女子生徒達の声をレオンは一切無視して、真っ直ぐに杏奈のクラスへと向かって行く。
 レオンが移動すれば女子生徒達もそれにくっついていってくれるので、椿も帰るためにゆっくりとその後を付いていく形になった。
 椿がついていったのは、ほんの少しだけであるが、いつでも助け船を出せるようにと思ったからである。

 大丈夫かな? と椿が様子を窺っていると、杏奈のクラスに着いたレオンは教室内をのぞき込み、中に居る彼女に向かって声を掛ける。

『おい、杏奈。校内を案内してくれ』
『……その子達に頼めば?』

 声を掛けられ、面倒臭そうに廊下へと出てきた杏奈は、巻き込まれたことが嫌なのか、かなりなげやりな態度である。
 一方、声を掛けたレオンの機嫌もすこぶる悪い。

『冗談じゃない。あちこちに連れ回されて目的の場所に行けなくなるのは目に見えてる。それに無駄な会話はしたくないんだよ。疲れるだけだ』
『本当に顔に似合わず辛辣ね。巻き込まれる私が可哀想だわ』
『……今度、おごるから』
『あら、本当に? なら了解。行きましょうか』

 レオンが動かないことには椿も動けないので、杏奈との会話が漏れ聞こえてきた訳なのだが、椿は何となくだがどういった会話をしていたのか分かってしまった。
 ドイツ語を理解できなかったらしい女子生徒達は、二人の様子から杏奈が構内を案内するということに気付いたようで、途端に文句を言い始める。

「ちょっと八雲さん! 横取りするなんてずるい」
「そうよ。私達が先に声を掛けたのに」

 抜け駆けするなんて許さないという女子生徒達を一瞥し、杏奈は大きなため息を吐いた。

「あのね、私はレオの両親から日本に居る間の世話を頼まれているのよ。私達が親戚だってことは貴女達も知ってるわよね? 私が親戚の面倒を見ることの何が問題なの?」

 珍しく杏奈が女子生徒達にキツイ口調で話し掛けると、女子生徒達は気まずそうに口を閉ざした。

「じゃあ、行きましょうか。良く利用することになるカフェテリアと特別棟、実習棟とかの案内をすればいい? 他の場所は水嶋様かクラス委員長に聞くのね」
「それで構わない。大体の場所は頭に入っているから軽く案内してくれるだけでいい」
「ああ、実際の場所を確認したいのね。ならさっさと終わらせて帰りましょう」

 他の生徒が入り込む余地などないのだ、と言わんばかりに二人はテンポ良く会話をしながら遠ざかっていった。
 さすがに女子生徒達は二人を追いかけることはせず、悔しそうにしながらもその場から立ち去って行ったのである。
 椿は杏奈が上手くフォローしてくれて良かったと安心し、その日は帰宅した。

 それからというもの、レオンの周囲には女子生徒達が文化交流と称して常に居る状態が続いていた。
 今やレオンは恭介と並んで二大アイドルとして女子生徒達に大人気である。
 二人は同じクラスなので人口密度も物凄いことになっていた。
 一応は女子生徒達に返事をしている恭介と違い、レオンは返答はするもののどこか棘のある突き放した言い方をしていた。
 業務連絡の場合は普通に会話をしているのだが、これまでの椿に対するレオンの対応を知っている彼女はあまりの冷たい対応に驚いてしまう。

 また、夏祭りの時に言っていたようにレオンは全く椿に接触してこない。
 前のことを思えば椿としては助かるのは助かるのだが、どこか心が落ち着かない自分がいることに彼女は気付く。



 後日、昼休みのカフェテリアで恭介とレオンが佐伯、篠崎と四人で昼食を食べているのを椿は見掛けたのだが、彼らの周囲にはいつも通り女子生徒達が集まっていた。
 レオンの冷たい対応に心が折れた女子生徒もおり、最初の頃よりは人数が減ってはいたがそれでも多い状態である。

「あれではゆっくり昼食を頂けないのでは?」
「落ち着かないことは確かね。でもドイツでも似たようなものだって言ってたから慣れてるんじゃない? そんなに心配しなくても大丈夫よ」
「それなら、近寄ってくる女子生徒達への対応が冷たいのも納得ですわ」

 見目麗しい御曹司の宿命とはいえ、椿は同情してしまう。
 けれど、杏奈はレオンに同情などしていないようで、興味なさそうに頬杖をついている。

「レオの場合はそれだけじゃないと思うけどね」
「え?」
「目の前の人間に脇目もふらずにいるから、他所の女に全く興味がないんでしょ」

 目の前の人間=椿だとすぐに分かり、彼女は苦笑した。

「……そうなるのは想定外だったのですが」
「私は想定内だったけどね。他に良い人を見つけてなんて言ったって、あのレオには無理だって。そもそも本人に見つける気がないんだから」
「も、もしかしたらという希望を持っておりましたのよ。それに他の女性に対してあのような態度をとっているとは思ってもみませんでしたから。パーティーで見掛けた時は、他の女性には普通に対応していらしたでありませんか」
「そりゃ、社交の場だし話は普通にするでしょうよ。あと、今のレオンの態度だけど、心に決めた相手が居るんだから、他の女に対しての対応は素っ気なくなって当たり前だと思うけど?」

 そういうもの? と首を傾げた椿の向こうでは女子生徒がレオンに対していくつか質問を投げかけている最中であった。

「レオン様は休日はどのように過ごされているのですか?」
「寝てる」

「……乗馬が趣味だと伺いましたが、私もなんです。一緒に遠乗りしませんか?」
「大して親しくもない他人と行って、何が楽しいんだ」

「あの、十一月に創立記念パーティーがあるのですが、私とパートナーになってくれませんか?」
「断る。俺にも選ぶ権利があるんでね」
「で、でしたらレオン様に選ばれたい身としましては、どのような女性がタイプなのか伺いたいですわ」
「四六時中つきまとわない女」

 一瞬でその場の空気が凍ったのが椿の居る場所からでも分かった。
 質問をした女子生徒など笑顔のまま固まってしまっている。
 それらを全く気にする様子もなく、レオンは一方的に話し始める。

「言っておくが、俺には五年以上想いを寄せている相手が居る。正直、その女性以外は全く目に入っていないから、君達の行動は迷惑でしかない。君達が俺の近くにずっと居るということを彼女が知って、俺が喜んでいるだとか好意的に受け取っているとかいう誤解をされることにはならないと思うが、そういった情報が彼女の耳に入ること自体が不愉快だ」

 だから自分に近寄るな、とレオンは女子生徒達を睨み付けている。
 彼女達は蛇に睨まれたカエルのように固まっていたが、そこへ篠崎に用事があったのか千弦か近づいていく。

「お話中に申し訳ございません。篠崎君に用事があるのですが」

 すぐに篠崎が立ち上がり、千弦の側まで近寄っていく。

「構わないよ。用事って生徒会の件?」
「はい。今日の会議の時間ですが、十六時半に変更になっておりますので遅れないように、とのことです」
「そう。ありがとう」
「では、私はこれで。……それと、昼休みももうじき終わりますが、皆様も程ほどに」

 と言って千弦は未だに固まっている女子生徒達を見渡す。
 女子生徒達は互いに顔を見合わせた後に移動を始め、千弦も彼女達の姿を見送ると友人と合流してカフェテリアから出て行った。
 椿も五時限目の授業が移動教室であったことから、杏奈と共にカフェテリアを後にしたのである。

 こうして二学期が始まってからというもの、椿はレオンが学校生活に馴染んでいるのかを気にしていたが、気にしているのは彼のことだけではない。
 ようやく付き合い始めた恭介と透子のことも彼女は心配していた。
 ひょんなことからばれやしないかとか、恭介が余計なことをしないかとか、そっち方面の心配である。
 けれど、椿の心配は無用であった。

 というのも、恭介と透子が付き合い始めて何が変わったかというと何も変わってはいないのだ。
 むしろ、付き合う前と同じ。同じというか恭介が透子を避けていた頃と何も変わってないのである。
 二年生になり、委員会も別々で接点もない二人が人前で話をすることはまずなかった。
 付き合い始めのカップルがこんなんでいいのか? と椿は一度、恭介に聞いたのだが、彼に「委員会やクラスが同じだとかの接点もないのに話し掛けたりしたら目立つし、折角僕の目が透子から離れたと思われてるのなら、それでいい」と言われてしまった。
 隣に居た透子も神妙な顔をして頷いていたことから、二人の間できちんとした話し合いをした結果だと椿は知り、口を出すのを止めたのである。
 止めたのだが、やはり椿は付き合い始めのカップルなのにこれはどうなのだ? ていうか付き合ってるんだよね? と言いたい場面が出てくる時があった。
 事情を知っている椿がこうなのだから、他の生徒は恭介と透子が付き合っているとは露程も思っていない。
 むしろ、庶民に愛想を尽かした水嶋様、と思っている。
 透子に無駄に注目がいかなくなり嫌がらせも大分減ったとはいえ、椿は彼女が馬鹿にされていることを腹立たしいと思っていた。
 けれどここで椿が口を出してしまうと再び透子が注目を集めてしまう。
 良くも悪くも影響を与える立場の椿は、派手に動くことができない。

 願わくば、大きな問題は何も起きずに平穏無事に一年を終えればいいな、と椿は思っていた。
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