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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 裏庭で二人と別れた椿は、校舎へと戻っている途中で白雪に呼び止められる。
 話を聞くと、彼は透子に協力して恭介を近くまで連れて行ったのだそうだ。

「二人が居た方から来たってことは、椿も透子に協力してたの?」
「違うよ。押し花の材料採集してたら、二人が来たから隠れたの。だから見てたのは仕方なくよ」
「そうだったのね。いきなり二人が来たからびっくりしたでしょう?」
「びっくりなんてもんじゃなかったよ。採集してたの全部抱えて隠れたんだから」
「それは大変だったわね」
「居心地は悪かったけど、大事な話をしてたから、音を立てて私が居るってばれるのも避けたかったし。まあ、私が居たことで結果として上手くいったから良かったんだけど。それに、夏目さんと恭介さんの件が解決して安心したわ。白雪君、協力ありがとう!」

 笑顔で椿はそう述べると、白雪は少し顔を曇らせる。

「白雪君?」
「……あの二人が付き合うことになったけど、本当に良いのね?」

 椿を気遣うような白雪の態度を見て、透子と恭介のために身を引いたのだと彼が思っていることに気付く。
 以前に否定したことだが、恭介の見た目や家柄、中身、そして椿との仲の良さもあって白雪は信じてはいなかったようだ。

「それでいいも何も、前にも言ったけど私は恭介さんに恋愛感情なんてないもの。あるのは親族としての情だけよ」
「……本当に? 水嶋様の幸せのために自分の気持ちを偽っている訳じゃないのね?」
「誓って本当よ」

 ここまで言っても白雪はまだ椿を疑っているように見えた。

「疑り深いのね」
「あたしの身近に自分のことは疎かにして、他人のことばっか考えて動いている人が居るからよ。辛くても辛くないふりをして、こっちに心配掛けないように気丈に振る舞って……。限界になるまで誰にも言わないの。そういう人を子供の頃から見てるから、その人と椿がかぶって見えてただけよ。しつこくしてごめんなさいね」
「そういうことなら仕方ないよね。それに、恭介さんは乙女の夢を詰め込んだ王子様ばりのスペックだもの。白雪君が疑うのも無理はないよ。でも、私から見たら、恭介さんは王子様なんてもんじゃないわ。あの男は本当に、ものすっごい手がかかるんだから」

 嫌そうに椿が口にすると、ようやく白雪は彼女が言っていることが本当であると納得したようで「分かったわ」とだけ呟いた。

「でも、他のことで我慢できなくなったら、ちゃんと言うのよ? いい?」

 心配性だなぁと思いながらも椿は、彼の目を見ながら何度も頷いた。


 そうして恭介と透子が付き合うことになった数日後。
 サロン棟の個室にて椿を初めとするメンバーと篠崎、透子が集まり、恭介と彼女が付き合うことになったという報告会をしていた。
 篠崎と透子がいるので、いつもの個室ではなかったが、給仕は真人にお願いしてある。

「では、水嶋様とお付き合いすることになりましたのね」
「はい。藤堂様にも色々と心配を掛けてすみませんでした」
「夏目さんが気になさる必要はございませんわ。それに水嶋様と上手くいったと伺って安心致しました」
「全て丸く収まって良かったじゃない」
「藤堂様も八雲さんも、ありがとうございます」

 照れ臭そうにしながらも、透子は本当に嬉しそうである。

「それで、水嶋はいつ夏目さんを好きだと気付いたんだ?」
「……この間、透子が階段から落ちかけた時だよ」
「はあ!?」

 それ以前に兆候はあったはずであるし、散々恭介に透子が好きなんじゃないのかと聞いていたのに無自覚だったことに椿は驚いた。

「え? ちょっと待って。私、去年の四月の時点から夏目さんのことが好きなんじゃないの? って聞いてたよね。なんで自覚するのがそんなに後なのよ」
「お前な……。僕の近くに居る恋してる男の言葉と態度を思い出せよ。あれを見てたら僕の抱いている感情はただの好意でしかないって普通は思うだろ?」
「あいつは外国人だから感情表現がストレートなだけよ! あと何をもって相手を好きだと思うかとか、好きになった時の行動は個人差があるもんなの! 他の男と話している時に相手の男を睨み付けてる時点で好きってことだったんだよ! 鈍感な男め」
「自覚してなかっただけだし、自分の気持ちと向き合うのを避けてたんだ。だから、きっと椿が言うように四月の時点で好きだったのかもしれない。いや、かもしれないじゃないな。僕はその頃から透子が好きだったんだ」

 突如始まった恭介の告白に、透子は真っ赤になった顔を両手で覆い隠している。

「藤堂様……これはさすがに恥ずかしいです。ここから今すぐ逃げ出したいです」
「あら、愛されている証拠ですわ。喜ぶべきでは?」
「そうなんですけど、こうもハッキリ言われると嬉しいやら恥ずかしいやらで」
「水嶋はそういう意図がなさそうだけどね」
「今は朝比奈さんと言い合うことに集中してるから。冷静になったら真っ赤になるか真っ青になるんじゃない?」
「有り得るな」

 男子二人は面白いものを見たとでもいうように笑いながら口にしている。
 しばらくしてから椿との言い合いも終わり、顔を真っ赤にしている透子を見た恭介は、ようやく自分がこれでもかと彼女のことを好きだなんだと言っていたことに気付いて頭を抱えてしまう。

「あ、頭抱えるタイプだったみたいだね」
「察しが良いタイプは相手の顔を見てすぐに状況が分かってしまうのが面倒なところだよな」

 勝手な言い分に、恭介はギロリと二人を睨み付けるが佐伯も篠崎も他人事のような顔をしている。

「篠崎はともかくとして、貴臣は本当に神経が図太くなったな」
「味方がいるから気が大きくなってるだけだよ」
「よく言うよ。……まあ、毎回ビクビクオドオドされるのは困るから、構わないけど」
「さすがにもう怖がらないよ。恭介君がどういう人かっていうのは分かってるからね。それよりも、もうすぐ夏目さんの誕生日でしょ? プレゼントは決めたの?」
「……まだ決めてない。ということで、透子。何か欲しい物はあるか?」

 いきなり話を振られた透子は、ちょうどケーキを食べようと口を大きく開けたところだったが、慌ててフォークを皿の上に戻した。

「え? た、誕生日プレゼントですか? 特に欲しい物はないので、恭介君から貰えるならなんでも」
「そんなこと言ってると月の土地あたりをプレゼントされるわよ」
「月の土地!? 貰って困るプレゼント五位以内に入るやつですよ、それ」
「だったら、ちゃんと欲しい物をリクエストするのね。青山のチーズケーキなんかお勧めよ。あと自由が丘のタルトも有名ね。それとも和菓子の方が好み? なら千弦さんに聞くといいわ。彼女の方が詳しいから」
「透子とお前を一緒にするなよ。あと自由が丘のタルトは僕も初耳だ。どこの店だ」
「ちゃっかりお店の場所を聞いてんじゃないわよ。あんたも私と大して変わらないじゃない!」
「今度、透子と食べに行くから聞いただけだ、食いしん坊め」
「何よ! 郵便局の近くよ! 地図で調べるがいいわ!」

 なるほど郵便局の近くか、と呟いた恭介は携帯電話でお店の場所を調べ始める。
 言い合いが終わり、落ち着いた椿は紅茶を飲みながら真正面に居る透子の様子を窺う。
 ショートケーキを頬張りながら、小声で何度も美味しい美味しいと呟いている透子を見ると、本当に普通の女の子であると実感させられる。
 ジッと見ていた椿は顔を上げた透子とバッチリと目が合うと、彼女は嬉しそうにニッコリと微笑みを向けてきた。

「朝比奈様。この間、恭介君と話してたんですけど、夏休みに家の近所の神社と商店街でお祭りがあるんです。それで朝比奈様も一緒にどうかなって思ったんですけど、どうですか?」
「デートでしょ? 二人で行けばいいじゃない」
「二人じゃないですよ? 恭介君のお友達が外国から来るらしくて、日本文化の体験とかでお祭りに連れて行くって言ってたので、今のところ三人ですね」
「……それってドイツ人の男?」
「はい、ドイツ出身の男の子だって聞きましたよ?」
「恭介?」

 椿が恭介の方を見て説明を求めると彼はわざとらしく視線を逸らした。
 逸らしたということは、ドイツから来る恭介の友達がレオンであるということだ。

「この間の電話じゃそんな話してなかったわよ」
「……昨日決まったばかりだからな。次の時に言うつもりなんじゃないのか? で、来るのか?」
「さすがに三人でいってらっしゃい、は夏目さんが気まずいだけでしょうね。行くわ」
「良かった! 朝比奈様とお出掛けするのは久しぶりなので楽しみです!」

 本当に嬉しそうな様子の透子を見て、椿も笑みを零す。
 思えば最初から透子は椿に対して好感度が高かった。それをずっと不思議に思っていた椿であったが、今なら理由を聞けるそうである

「ねぇ、夏目さん。ずっと不思議に思ってたんだけど、どうして貴女は入学式の時から私に対して好意的だったの? あの時、私は貴女に割と素っ気なく接していたと思うんだけど」
「え、えーとですね。それはですね」

 と言ったっきり、透子は落ち着かない様子であちこちに視線を動かしている。
 どうやら言おうかどうしようかと悩んでいるようだ。

「どんな理由でも別に怒ったりしないわよ」
「……本当ですか? 絶対に怒りません? 呆れません? 見捨てたりしませんか?」
「見捨てるって……むしろどんな理由なのかが物凄く気になるんだけど!?」
「えっとですね。……朝比奈様も覚えていると思うんですけど、中学二年の時に初めて私と朝比奈様は出会って話をしましたよね。その時の朝比奈様の凜とした態度や立ち居振る舞いの美しさ、それと発言に私は物凄く感動したんです。……私の目の前にマンガでしか見たことない理想のお嬢様が居るって」
「え?」

 途中までは椿を物凄く褒めていた筈なのに、最後の言葉が予想外すぎた。
 なんだか雲行きが怪しくなってきそうな雰囲気に、椿は心配になる。

「多分、エリカ様が実在したら、こんな感じなんだろうなって思ったのが最初でした。その時は私と住む世界が違う人なので、二度と会うことはないと思ってたんです。たとえ鳳峰学園に入学できたとしても、関わり合いになることはないだろうなって」
「ねぇ、夏目さん。ちょっと中断させてもらっていい? "エリカ様"って誰?」
「あ、エリカ様というのはですね。『猫とショコラ』っていうマンガに出てくる早乙女エリカ様のことです」
「マンガ……」
「そうなんです。それで、エリカ様は非常に向上心のある女性で頭が良くてスポーツ万能でなんでもできちゃうすごい人なんです。おまけに美人でスタイルも良いんですよ」
「へ、へぇ」

 そんなすごい人物に似ているなんて、と椿はすっかり上機嫌になっていた。

「それで、早乙女エリカという人物が主人公なのは分かったけど、どういうマンガなの?」
「エリカ様は主人公じゃないです」
「は?」
「お金持ち学校が舞台のラブコメで、主人公は一応社長令嬢なんですけど、親の会社がつぶれかけてて資金援助を求めて、お金持ちの男の子をゲットするために入学してきた女の子です。エリカ様は主人公と恋に落ちるヒーロー、もといお金持ちの男の子の非公式ファンクラブの会長です」
「一気に小物キャラ臭しかしなくなったんだけど!? あと主人公、ものすごいアグレッシブね!」
「それで、エリカ様は主人公とヒーローの仲を邪魔する役割なんですよ」
「噛ませキャラじゃない! なんでそんな高スペックのキャラを作者は噛ませにしようと思ったのよ!」
「落ち着いて下さい。エリカ様はそんじょそこらの悪役とは違いますよ。体育祭では全ての競技で主人公に勝ち、テストでも一位の座は譲りません。料理が得意だという主人公に対抗して独学で料理を勉強して、フレンチのフルコース料理を作れるほどの腕前になったり、主人公が木彫りが得意と聞けば独学で勉強して木彫りのミロのヴィーナスを作ったりできる人なんです! そしてエリカ様の決め台詞は『貴女に私と同じことができて?』なんです。格好良いですよね!」
「ごめん、全然分かんない!」

 話を聞けば聞くほど、椿は早乙女エリカという人物が全く分からなくなる。

「いや、前半は分かるわよ? 問題は後半よ、後半。努力の方向性が間違ってると思うんだけど。それマスターして将来、役に立つの? 主人公カップルの邪魔をするんだったら主人公を無視するとか、なんかこう色々あるでしょ? 何で勝負を挑む方向性にいくの」
「最初はエリカ様もちゃんと悪役をしてたんですけど、途中からなぜかそういうキャラになったんです。でも、エリカ様が変わってから本誌の後ろの方で掲載されてたのが前の方になって巻頭カラーになり、表紙を飾り、ドラマCDにまでなっちゃったんですよ。今はアニメ化するんじゃないかって噂されてます」
「途中で作者に何があったのよ……」
「それは分からないんですけど。でもエリカ様の人気は凄いですよ。この間の人気投票で主人公カップルをぶっちぎって堂々の一位でしたから」
「主人公が既に食われてるじゃない!」

 興奮している透子とは反対に、椿はそのようなマンガが流行っているということに驚いた。

「仕方ないですよ。主人公に張り合って勝っても毎回勝負に勝って試合に負けるという流れで、エリカ様の空回りっぷりがコミカルに描かれていて、格好良いけど可愛いって周知されているので憎めないキャラとして人気があるんです」
「……そのキャラと私が似てるって」

 最初は物凄く上機嫌になっていた椿であったが、話を聞き終えた後だと気が抜けてしまう。

「おい、椿。エリカと似ていると言われて調子に乗るなよ。お前はエリカの足下にも及ばない」
「え? 何? あんた読んでるの!?」
「はい。私が貸しました」
「マンガだと馬鹿にしていたが、エリカが孵化したウミガメの子供を海へと無事に誘導した時は不覚にも感動してしまった」
「どういう流れでそうなるのよ」
「お前にはエリカの優しさが分からないのか!」
「いや、そこに行くまでの流れが分からないから何とも言えないんだけど!」

 それから、恭介は早乙女エリカの魅力を嫌というほど椿に語ってきたが、途中で杏奈が話を止めてくれたお蔭で話題を終えることができた。

「あの、憧れた切っ掛けはマンガだったんですけど。高等部に入学してから実際に朝比奈様と話してみたら何でも優しく教えてくれるし、フォローしてくれるし、庇ってくれるし、啖呵が格好いいしで、朝比奈様自身を尊敬するようになったんです! エリカ様だと思ってる訳じゃありませんから!」
「分かってるわよ。別に悪い意味じゃないんだし、そこは気にしてないわ。私はただ、どうして夏目さんが私に対して好意的だったのかっていう理由を知りたかっただけだもの」

 透子は椿が気にしていないと口にしたことで、安堵の表情を浮かべていた。
 最初こそ理由に驚きはしたが、何故透子が椿に対して好意的だったのかという理由を知れて良かったと彼女は思っている。
 マンガのキャラクター云々は、前世で芸能人を見てあのキャラを演じて欲しい! とか彼女は思っていたこともあるので、特に抵抗はない。
 透子は、それが切っ掛けなだけで、その後にちゃんと椿自身を見てくれているのだから、彼女に対して何か思ったりすることもない。

 そして、椿達はテストの話や夏休みの話をしつつ、サロン棟の個室での報告会が終わった。
 ということで、ついにレオンが日本へとやってくることになる。
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